アイドル 佐城雪美。彼女には普通の人とは違う秘密があった――。
これは、もしも佐城雪美がふらいんぐうぃっちの魔女だったら、と言うお話。
pixivにも投稿してます。

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佐城雪美の秘密

 夏も終わり、少し肌寒くなってきた初秋。

 それでも今日は暖かい日差しが、ベンチに座る一人の少女と、その(かたわ)らにいる一匹の黒猫を照らしていた。

「良い天気……だね……ペロ……」

「にゃー」

「……お仕事……終わったら……日向ぼっこ……しよう……」

「にゃ」

 少女の眼前に広がる横浜の港。海は日の光でキラキラと輝いている。

「……綺麗……」

 そう言って微笑む少女。

 そこに、スーツ姿の男が近付いてきた。

「雪美、まだ撮影の準備に時間が掛かるみたいでな。悪いが、もう少しここで待っててくれないか?」

 少女――雪美はその男の言葉に、コクリと頷く。

「……プロデューサー……ここ……座って……」

 彼女は自分の隣に指をさす。しかし、プロデューサーと呼ばれた男は首を横に振った。

「そうしたいんだが、打ち合わせもまだ終わらなくて――」

「すみません、少し宜しいでしょうか」

 スタッフの一人が、プロデューサーに声を掛ける。

「あ、はい、すぐに。……すまん雪美、ゆっくり出来るのは仕事が終わってからだ」

 プロデューサーは雪美にそう告げると、再び打ち合わせへと戻ってしまった。

「にゃー」

「……プロデューサー……お仕事……忙しい……」

 雪美はそんな彼を見送ると、僅かに寂しそうな表情を見せながらそう口にした。

 

      ◇

 

 暫くして、雪美が座っているベンチに、今度は一人の少女が近付いてきた。

「あの、ここ座ってもいいですか?」

 少女は雪美に問いかける。

「…………いい」

「ありがとうございます♪」

 雪美の返答を聞いた少女は、礼を言って雪美の隣に腰を下ろす。すると、彼女の膝に、雪美と一緒にいた黒猫――ペロとは別の黒猫が飛び乗った。

「ニャァ」

「にゃ」

 その二匹は会話をしているようだ。

 普通、猫が――いや、人以外の動物同士で会話をしていても、人間とは会話は出来ない。その言葉を理解する事も。

 しかし、ここに居る二人には、この猫達がしている会話が分かった。

「あれ、もしかして?」

「私と……同じ……?」

 二匹の会話を聞いていた二人は、互いが“普通の人ではない”と気付く。

「あなたも魔女なんですか?」

 

 魔女。

 普通の人とは違い、魔術を扱える女性。お伽噺などに度々登場し、魔法使いとも呼ばれる存在だ。

 そして、ここにいる二人の少女は共に魔女であり、連れている黒猫達はその使い魔である。

 一般人に自身が魔女であるとバレても特に罰則はないが、関係者以外には秘密にしていると言う。

 また、基本的に血族が代々受け継いでいくのだが、現代において魔女は不安定な職業であり、最近は普通の人生を送る者も多い。故に、魔女はその数を徐々に減らしている。

 ――しかし、ここに雪美と同じ事務所のアイドルである神崎蘭子や二宮飛鳥がいれば、この言葉が聞こえた瞬間(主に蘭子が)嬉々として会話に加わっていただろう。

 

「……そう……」

 彼女の問いに、雪美が答える。

「あぁやっぱり! 私は木幡 真琴(こわた まこと)です。こちらはチトさんです」

「ニャ」

 真琴がチトさんと呼んだ黒猫は、雪美を見ると挨拶にと一鳴き。

「…………佐城……雪美……こっちは……ペロ……」

「にゃー」

 それに雪美も自身とペロの紹介をして応えた。

「雪美さんとペロさんですね、宜しくお願いします」

「……うん」

「それで、雪美さんはここで何をなさってたんですか?」

「……待ってる……」

「待ってる? 何をですか?」

「…………撮影」

「撮影、ですか?」

 雪美はコクリと頷く。

「私……アイドル……」

 アイドル。その言葉に、真琴が一瞬固まった。

「アイドル……って、あのアイドルですか!?」

「うん…………今日は……雑誌の……お仕事……」

「え、えぇ!? 雪美さんって有名なアイドルだったんですか!?」

「…………まだ……そんなに……有名じゃない……」

 僅かに雪美の表情が曇る。それを見た真琴は、慌てて謝罪した。

「あぁっ、ごめんなさい! 私、アイドルとかそういうのに疎くて……」

「大丈夫……私……有名に……なる……」

 先程の曇った表情と打って変わり、今度は瞳の奥に静かな炎を燃やす雪美。

 それに気付いた真琴は、魔女として一つの質問をする。

「それじゃあ雪美さんは、15歳になってもアイドルを?」

 魔女は15歳になると立派な大人とされ、15歳になった魔女は自立の為に家を出るという仕来りがある。

 雪美は、少ないながらもアイドルとして活躍している。今はまだ10歳だが、五年もすれば魔女としては大人だ。だからアイドルとして有名になると言う彼女に、真琴は聞いてみた。

「…………分からない…………けど……私は……そうしたい……」

 10年しか生きていない彼女に、五年先の未来の事はまだ分からない。

 しかしそれでも、今の雪美にはアイドルとして一人前になり、彼――プロデューサーの隣に並んで歩くという確かな目標があった。

「そうなんですね……じゃあ私、応援します!」

 真琴はそう言って、ガッツポーズをする。

「……ありがとう……」

「いえいえ♪ ……まぁ、遠くからですけどね」

「……遠く……?」

 雪美が疑問を口にすると、真琴は空を見上げながら答える。

「私はもう15歳なので、家を出るんですよ。この横浜から、青森にある親戚の家でお世話になります」

「……青森……私がのる本……出る……?」

「ええっと……流石に発売されると思いますよ……?」

 二人は顔を見合わせると、互いにクスリと笑う。

「……真琴も……がんばって……」

「はい! 魔女としての修行もですが、方向音痴も治せるように……!」

「……山……迷ったら……帰れない……」

「ほ、箒で飛べば大丈夫ですよっ!」

「…………方向音痴……治る……?」

「う゛っ……」

 この雪美の一言に、真琴は胸を押さえた。

「…………チトが……道を覚える……?」

「ハッ、それは良い考えです!」

「ニャ!?」

 突然そんな事を言われ、当のチトは驚愕の表情を見せる。

「ニャッ、ニャァ……ニャー!」

 チトは方向音痴ではない。だから真琴の方向音痴を治すという話から、なぜ自分が道を覚えなくてはならないのか、と必死な様子で真琴に抗議した。

「お願いします、チトさん。これは私の方向音痴を治すために必要な事なんです!」

 そんなチトに、真琴は手を合わせてお願いする。

「……ニャァ」

 すると、チトは溜め息交じりに了承した。

 ジト目で真琴を睨み、尻尾でぺしぺしと彼女の太ももを叩きながら。

 

      ◇

 

 その後も暫く、雪美は真琴と話をしていた。

 元々雪美は人と話すのが苦手だったのだが、アイドルとして活動を続けている彼女は、少しずつその苦手を克服している。それに加え、話し相手が都会では滅多に会えない魔女仲間というのもあるだろう。

「雪美、遅くなってすまん。撮影を始める……ぞ……」

 そこへ再びプロデューサーがやってきた――が、雪美の隣に座る真琴を見て、彼は動きを止めた。

「……プロデューサー……?」

 不思議に思った雪美が、彼に声を掛ける。真琴も心配そうに見ていた。

「君、アイドルにならないか!?」

 プロデューサーは少し興奮気味で真琴に近付く。

 雪美と真琴、それぞれの膝で丸まっていたペロとチトがそれに驚き、瞬時に二人の膝から降りる。

「へっ!?」

 そして真琴も、自分が何を言われたのか一瞬分からなかったようだ。

 しかし、それに反応したのは雪美だった。

「……プロデューサー……真琴……アイドル……出来ない……」

「な、出来ない? それはどうして……」

 雪美の言葉に冷静になった彼は、真琴がアイドルになれないという理由を聞く。

「その、私、もうすぐ青森へ行くんです。なのでお話は嬉しいですけど、アイドルになるのは……」

「旅行と言う訳ではないのか……」

「はい、暫く向こうの親戚の家にお世話になるので……」

 それを聞いた彼は、ガックリと肩を落とした。

「そうか、そう言う理由なら仕方ないな……。っと、忘れてた。雪美、そろそろ撮影始めるぞ」

「……うん……ペロ……行こう……」

「にゃー」

 雪美は立ち上がり、ペロを連れて先に撮影現場へと向かう。

 プロデューサーは彼女の後姿を見た後、同じくそれを見ていた真琴に声を掛ける。

「その、良かったらだけど、少し撮影するところを見ていかないか?」

「え、良いんですか?」

「ああ、驚かせてしまったお詫びと言うか、雪美の話し相手になってくれたお礼と言うか……」

「ふふっ、確かに驚きはしましたけど、気にはしていません。それに雪美さんの事も、私の方がお礼を言いたいぐらいです!」

 真琴は笑顔でそう言った。その笑顔に、プロデューサーは彼女がアイドルになれないのはやはり残念だ、とそう思ってしまう。

「そうか……。まぁとりあえず見ていってくれると、俺も雪美も嬉しいな」

「分かりました。それならお言葉に甘えて、見学させてもらいます! 行きますよ、チトさん」

「ニャァ」

 そう言って真琴も、プロデューサーと共に雪美の撮影の見学へと向かった。

 

 × × ×

 

「えっと、確かこの辺のページって……あっ、あったあった。へぇ、こんな風になってるんですねぇ……」

 あれから数か月後。

 真琴は今、青森にある親戚の家で、魔女としての修行をしながら日々を送っている。そんなある日、とあるアイドル事務所のアイドル達のみで特集が組まれた雑誌が発売された。

 それには真琴がここに来る前に、横浜で出会った一人のアイドル(魔女)も掲載されているものだった。

「チトさん見て下さい! 雪美さんとペロさんですよ、ほらほら!」

「ニャー」

 その時の事を思い出しテンションが上がった彼女は、チトの目の前に雪美とペロが載っているページを開いて置く。

 と、丁度そこへ、褐色の女性がリビングへやってきた。

「あれ、真琴何してんの?」

「あ、お姉ちゃん。ふふ、実は知り合いの方がこの雑誌に載ってまして、それを見てたんですよ!」

 そう言って、真琴は自身の姉――(あかね)にその雑誌を見せる。

「真琴にアイドルの知り合いなんていたの?」

「はい、実はここに来る前、横浜で偶然お会いしまして」

「へぇー、それは知らなかったなぁ」

 すると今度は、二人の兄妹が入ってきた。

「おっす真琴ー。で、何の話してんの?」

「私にも見せてー!」

 真琴の又従兄妹である、倉本 圭(くらもと けい)とその妹、千夏(ちなつ)だ。

「圭くん、千夏ちゃん」

「真琴にアイドルの知り合いがいるんだってー」

「おぉ、何それすげぇ」

「アイドルの!? まこ姉すごい!」

「偶々ですよー」

「誰がそのアイドルなのー?」

 千夏が雑誌を覗き込む。

「この佐城雪美さんですよ」

 そう言って真琴は雪美のページを指差した。雪美を見た千夏は、目をキラキラと輝かせる。

「わぁ、可愛い! 綺麗!」

「おー、こりゃあ将来は相当の美人になるね、この子」

「チトみたいな黒猫も一緒に写ってんのな」

「ペロさんですね。雪美さんのお友達です」

 真琴がペロの事を紹介してる間にも、千夏は興味津々といった様子で雑誌に見入っていた。

「ふふっ、千夏ちゃんも見入っちゃってるので、私は少し畑で野菜の様子を見てきますね」

「手伝いいる?」

「いえ、そこまで時間もかかりませんし大丈夫ですよ」

「おっけー」

 

 庭先に出た真琴は、陽の光を手で遮りながら空を見上げた。

(雪美さん、今頃何をしてるんでしょう? 今度、お手紙とか書いて送ってみましょうか)

 数か月前に出会った一人の少女を思い出しながら、その彼女に送る手紙の事を考える。

「あ、チトさんの肉球判子も添えましょう♪」

 




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