ぬらりひょんの孫*鬼   作:若禿

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魑魅魍魎集まりて

 

 関東妖怪総元締奴良組......の台所。

 奴良組の女衆と小妖怪が手分けして奴良組の食卓を飾るべく奮闘している場所である。

 総会や寄合がある際などは集まってくるお偉い片に伴い酒とつまみの作る量が多くなるため何時も忙しく、まさに女の戦場とも呼べる場所である。

 

 しかし今日に限ってはその比ではない。戦場などという生ぬるいものではなく、最早地獄と言っても差し違えない程に連鎖的に烈火の炎が舞っていた。

 

 それもそのはず。いつもの如くその日の卓を終え、明日に備え仕込みを始めた直後、これまたいつもの様にぬらっと現れた総大将から地獄の業火の火種が投げ込まれたのだから。

 

「おうおめぇら、一仕事終えて休んどるとこ悪いんじゃが、今から数刻後緊急総会開く事になってのう。既に何人か集まって来とるから、今居る分の簡単な酒とつまみ、後の分と用意してくれ」

 

「......は?え?総大将それって......」

 

 主に奴良組の家事を担うその一人である毛倡妓。

 いきなり現れた総大将の言葉にぬか漬けの仕込みをしていた腕が止まる。

 

「因みに平成に入ってから一番でけぇ総会じゃ。酒とつまみの材料は集まった連中から幾つか貰って裏手に回してあるからそれを温めて出しとくれ。場所は何時もの座敷じゃが数が数なんでのう。三の口に頼んで少しばかり広がっとるからそこんとこよろしく頼むわい。ああ、勿論お前らも参加じゃから集まり終わる前に片付けてくれ。じゃあ後での」

 

 そう言って戸を閉めて消える総大将。

 毛倡妓は止まった手とは裏腹に頭を高速で回転させ始める。

 

 奴良組の総会とは奴良組傘下の妖怪達が集い、組についてや妖怪としての悪行を話し合う"畏れ高める"ものである。つまり全ての畏れの元に行われるため、本家以外の場所で執り行う事は滅多にない。

 そんな総会であるからこそ、見栄ではない華やかさを保ち威光を示す必要があり、そしてその決め手となるのが料理なのである。

 昔より食を制すもの全てを制すという言葉があったかな?たぶんあった。だから畏れとは食であり、食は畏れなのだ。

 

 そして今しがた総大将は"平成に入ってから一番でけぇ"総会とおっしゃられた。つまり本来来ることのない妖怪か少ない妖怪も集まるということ。

 そんな大から小の関東妖怪が集まる場所に貧相なものなど出せばそれこそ弱体化している奴良組の窮地。ましてや自分は三代目候補であるリクオ様の侍女。自分が嘗められる事すなわちリクオ様が嘗められる事と同義である。それだけはけっしてあってはならない事だ。

 

 即座に思考を切り替えた毛倡妓は、ぬかまみれの手を引き抜き近くに居た小さい妖怪を掴みあげる。

 ぬか臭い手に揉まれたその妖怪は今すぐ身体を洗いたい衝動に刈られるが、毛倡妓の有無を言わさぬ覇気に気圧され金縛り状態である。

 

「確かお前噂妖怪の"唇襲"だね?いいかい今から言うことをよく聞くんだよ?そして早急に暇な小妖怪共、それと雪女に一言一句しっかり伝えるんだ。今から最大の総会が開かれる。時間はない、今から戦争だから全員私の元に集まれと。後若菜様の耳には入らないように気を付けろともね!分かったかい?分かったら早くお行き!」

 

 言伝てを言い終わると同時にぬかまみれで投げ出される唇襲。掴まれた際に口に入り込んでしまったぬかの味、ぬかの匂いに涙しながらもそれを耐えながら長い廊下をひた走る。

 途中ぬかで滑って転びながらも、上の命を果たすべく己を殺し走る姿は小さい妖怪でありながらも何かを感じさせるものであったとかなんとか。

 

「うきゅ~!うきゅきゅ、うきゅー!!」

 

「え?総会......?今から!?......ってぎゃー!ちょっとなにあんた臭いわよ!ふぅー!」

 

「う......きゅ......」

 

「あ、凍らしちゃった......」

 

 何かを感じさせるものであったとか。

 

 

 

 

 奴良組本家の座敷、迷い家の怪異である三の口によって空間事広げられたその一室には様々な妖怪、魑魅魍魎が集い今か今かとその時を待ち続けていた。

 

「いや~豪勢だねぇ今夜は。集まった面々もさることながら、つまみの一つ一つが滅多に見れんものばかりだ。何があんのかは知らねぇが、この酒とつまみ呑めんなら何でも良くなってくらぁ!がはは!」

 

 そうやって笑うのはご存知一つ目。

 膳には一つ目の言うように様々な珍味、名物とされるものが奴良組により手を加えられ華やかに並べられていた。

 一つ一つがかなり価値あるものであり、食通で知られる一つ目も思わず唾を飲むほど。これが幹部ではない妖怪全てに行き渡っているのだからまさに豪勢というに他ない。

 

「膳にはまだ手を付けるなよ一つ目。それにしても総大将、一体何をなされようというのだ......この私にも"楽しみにしておれ"と教えてはもらえぬかった。これだけの妖怪にこれ程のつまみなど......まさか妖怪を集めて......?も、もしや奴良組解散の知らせではあるまいな!?......い、いやまさかそんな馬鹿な事は......」

 

 その向かいでぶつぶつと思考に耽るのは奴良組天狗堂堂主である鴉天狗。

 一つ目にためを張ってる事からわかる通り、鴉天狗もまた魑魅魍魎の主になる前より総大将と盃を交わした奴良組幹部各であり、お目付け役として天狗管轄の高尾山より本家に住み続ける側近である。

 

「あなた、久方ぶりに女房にあったというのに総大将、総大将と......。私なんてあなたにとって会っても会わなくても特に変わりない空気みたいな存在なのですか?」

 

 その横で静かに圧のある微笑を浮かべるのは鴉天狗の妻である濡鴉という妖怪で名は椿。

 艶のある黒髪をもつ若く美しい見た目ではあるが、鴉天狗の妻であり既に沢山の子を産んだ母であり、夫がお目付け役として本家にずっといるため、実家である高尾山とそこに住まう天狗達を纏めている堂主代理という名の実質堂主である。

 この椿、夫が自分や家族をほったらかしてる事に密かに怒りを貯めており、表には出さずともその不満は言い知れぬ気となって椿の周りに漂っている。いつ爆発しても不思議ではない。

 

 普段なら管轄である高尾山を離れることは滅多にないのだが、濡鴉には総大将より直接お呼びがかかったため、濡鴉のママ友に子を預け本家へと出向いた来ていた。

 微笑みながら怒るという器用な事をしているが、実はこの椿、高尾山を発つ際は久々に夫に会えるとうきうきでニコニコであったのは同じ濡鴉であるママ友しか知らない。

 まあそれでも怒りは怒りで別みたいだが。

 

「っ!つ、椿......!い、いや決してそんな事は無いのだぞ?ただ私は奴良組を心配しているだけで......」

 

「あら、奴良組は任侠一家なのでしょう?仁義を通し畏れを示す。あなたの中の仁義は妻や実家を蔑ろにしてでも組を守るというものなのですね。家族なんてどうでもいいと」

 

「そっそんな事は言ってないぞ!?ただ今の奴良組は非常に危うい状態で......」

 

「がはははは!それぐらいにしといてやれ濡鴉の嬢ちゃん。鴉天狗も組を思ってのお目付け役。組を守る事すなわちお前ら家族を守る事に繋がるからな。あまり責めてやるな」

 

「ひ、一つ目......」

 

「ふっ......。ああ、でもこの前化け猫組の店ぇ行ったとき、偶然居合わせた白狼天狗の娘っ子だったか。ありゃえれぇ別嬪さんだったなぁ。鴉天狗、お前も"悪くない"つって一緒になって随分と楽しそうに飲んでたなぁ」

 

「なっ......!一つ目お前何を......!」

 

「んでぇ確か一頻り盛り上がって御開になったんだが、確か"駄目だどうしても気になるな。もっと詳しく教えてくれないか"なんて口説き文句言って真っ赤になった白狼天狗の娘っ子と夜の町に消えてったなお前。翌日になっても遠い目で"良い柔らかさだった"なんとかいってよぉ。いやぁーもてる男は羨ましいねぇ!」

 

「......ア・ナ・タ?」

 

 目の笑っていない椿から妖力が溢れ出す。

 その大きさは堂主の妻というだけありかなりのものであり、小妖怪や椿の実子であり父と共に本家で奴良組に尽くす"三羽鴉"の愛称で知られる黒羽丸、トサカ丸、ささ美ら三人は母の怒りに震えている。

 

「ひっ......ひぃ!まっ待て待て待て!誤解だ椿!一つ目が言ってるのはたまたま白狼天狗の娘が持ち合わせていた酒の話で!私はやましいことなど一切していないぞ!?一緒には飲んだがそれだけであるし、話を聞けば店を開いていてそこで酒を造っているという。だからそこで二次会をと......。それに一つ目!貴様も私と一緒に居ったではないか!儂も飲みたいからと常に傍に居ったろう!誤解を招くような話し方をするな!」

 

「がはははは!すまんすまん。尻に敷かれてるお前を見るのがたのし......尻......?鴉天狗、今ァ思い出したんだが......。お前白狼天狗の娘っ子んとこの店で確か飲み過ぎて酔っ払って、その勢いで娘っ子の尻揉んでたよな?あんときゃ儂もかなり飲んでたから今の今まで忘れてたが......。確かそん時に「酒も柔らかく味わい深いがお主の尻もなかなかに柔らかい。味の方は如何程かなははははは」とかなんとかって......?ぬおっ!?」

 

「......何か言い残すことはあるかしら?あなた?」

 

「ひぇっ!つ、椿ィ!すまんあれは飲み過ぎてつい......!そ、そう酒が悪いのだ!あの酒には何か特殊な......ひ、一つ目ェ!」

 

「いやぁ......。は、ははすまねぇな鴉天狗。骨は拾ってやるから安心せい」

 

「一つ目貴様ァ!」

 

「あなた?今話しているのは私ですよ?いけませんね堂主ともあろうお方が人の話を聞き流すなど。これは少し"オシオキ"が必要ですね?」

 

「ひぃっ!ゆ、許してくれ椿~」

 

 一つ目の漏れでるような呟きにより完全に黒に染まった鴉天狗。

 鴉なのに黒に染まるとはなかなかに面白いなどと言ってる場合ではなく、椿の妖力は洒落にならない程に膨れ上がり他人事である一つ目、周りの大妖怪である幹部も息を飲むほどの大きさである。

 

 女程恐ろしいものは無いと誰が言ったか。小妖怪達がもう駄目だ誰かが止めねば血の雨が降る!と戦慄に包まれるなか、その緊張を破るかのように上座近くの戸が開かれた。

 

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