ほんわか「いっくよ~♪」
ともかく一緒に寝る事になった俺達。
先に俺が布団に入って早希の入るスペースを作ってやると、さっきのむすぅとした表情は何処へやら。
机の脇にぬいぐるみを置いた早希が嬉しそうな顔で俺の作ったスペースに潜り込んできた。
早希がまだ小さいとは言っても1人用のベッドに2人で寝転べば狭く、少し動いただけで互いの肩が当たってしまう。
「早希、狭くないか?」
「全然大丈夫だよ。むしろいつもよりお兄ちゃんの近くにいれるから嬉しいな♪」
でもそんな事気にもならないのか、隣の妹は満面の笑みを浮かべて離れるどころか逆に俺の左腕に抱き着いて猫みたい頭をスリスリさせてくる。
(何このかわいいニャンコ、天使か!(注:妹です))
「早希はホント甘えん坊だな。」
「むぅー今日は良いの。それよりお兄ちゃん、早く明かり消して?」
「はいはい。消すぞ~」
「は-い♪」
頭で早希の可愛さに悶えながら、それを表に出す事なく早希に急かされながら俺は枕元に置いてあるリモコンで部屋の明かりを消す。
「お兄ちゃんと一緒に寝るの久しぶりだね♪」
視界が真っ暗になってすぐ、左から早希の嬉しそうな声が聞こえてくる。
その声に俺は「そうだな。」と返すと、さっきから気になっていた事を聞く事にした。
「なぁ早希、早希はずっと廊下にいたのか?」
「!」
そう、早希がずっと廊下にいた事について。
それについて聞いた瞬間、左腕に抱き着いている早希の身体がピクンと動く。
「そ、そうだよ。」
そして返って来た言葉はいつも元気な早希にしては少し元気がなかった。
「寒かったろ。気にせずいつもみたいに入って来れば良かったのに。」
廊下でずっと待っていた。その行動はいつも勉強中だろうと着替え中だろうとノックもなしにいきなり入ってくる早希にしては違和感のあるものだった。
「う、うん。私もそうしたかったんだけど、でも今日は見ちゃった夢のせいでちょっと入りにくくて……。」
「夢? そういえば怖い夢見たってさっき言ってたな。……どんな夢だったんだ?」
「……。」
「早希?」
その違和感の原因はどうやら早希が見た夢のようだ。
だがどんな夢を見たのかと聞いてみたら、早希は俺の左腕をギュッと抱きしめて黙ってしまう。
(まぁ無理に言わせる必要はないか。)
「なぁ早希、嫌なら別に言う必要はーー」
「――いなくなっちゃう夢。」
「……え?」
「……お兄ちゃんがいなくなっちゃう夢、見たの。
私の前から突然お兄ちゃんがいなくなって、私はお兄ちゃんを探すの。でもどこを探しても、どれだけ探してもお兄ちゃんは見つからない。
……そんな夢だったの。」
「……。」
早希の抱きつく力が強まる。そして左腕越しに早希の身体が震えているのを感じた。
「ねぇお兄ちゃん。お兄ちゃんはここにいるよね? 私の前からいなくなったりしないよね?」
暗闇に慣れてきた目が涙目で不安そうに俺のシャツをぎゅっと掴んで俺を見つめる早希を映す。
そんな捨てられた仔犬みたいになっている早希を安心させるために俺はニヤリと笑って、
「当たり前だろ? 俺は早希の“お兄ちゃん”なんだから。」
「ふぁ!」
強張って震えている妹を抱き寄せ頭を撫でる。
ゆっくり優しく。
突然の事でビックリした早希だったが、状況を理解したのか、次第に強張っていた早希の身体から徐々に力が抜けていき俺に身体を預けて来る。
「お兄ちゃんにぎゅっとされたまま、なでなでされるのって安心するからすき。
ねぇお兄ちゃん。私が寝るまでぎゅっとしてなでなでして?」
力が抜けた事で一気に眠気が襲って来たのか、それとも久しぶりの添い寝で気持ちまで子供に戻ったのか、とろんとした表情でおねだりする早希は昔みたいに甘えん坊だった。
「え~、俺もだいぶ眠いんだけどな。……まぁたまには良いか。」
一瞬頭を撫でるのをやめようと思ったが、それは早希の顔を見て思いとどまる。
だって、こんなにも安心しきっている
ってこんな事言ったら俺がまるでシスコンみたいじゃないか。
……まぁ否定はしないけど。
「ありがとう、お兄ちゃん。なんか安心したら眠くなってきちゃった……。」
「もうこんな時間だからな。俺はずっと傍にいるから安心して寝ろよ。」
「わかった。おやすみ、おにい、ちゃん。」
そう言って瞼を閉じた早希は本当に眠たかったらしい。
数秒後には「すぅーすぅー」と可愛らしい寝息を立て始めていた。
(“俺は早希のお兄ちゃん”……か。)
手を動かしながらかわいい妹のかわいい寝顔から目を離す。
そして代わりに視界に入ってきた天井を見ながら、さっき自分が言ったセリフを思い出すのと同時にため息が漏れた。
“俺は早希のお兄ちゃん”。その言葉は嘘だ。
俺と早希は本当の
俺は家族の誰とも血が繋がっていない。
もちろん父さんと母さんともだ。
そしてその事実を知らないのは家族の中では早希だけ。
俺がこの家に来て、年数にして8年。
それだけの間、俺や父さんや母さんは早希に嘘を吐き続けている。
(8年、か……。もう、そんなになるのか。)
早希と出会ってからの年数を数えた俺はその長さに驚く。
8年。その年月は15歳の俺にとってすれば、早希に出会う前より出会ってからの方が長い事を示していた。
俺は天井に向けていた視線を再度隣で眠る早希に向ける。
さっきは“まだまだ子供で甘えん坊さん”と、からかったものの、俺の腕の中でスヤスヤと眠っている早希はこの8年でだいぶ女の子らしくなった。
寸胴だった身体はささやかながらも丸みを帯びた凹凸のあるものへとなってきたし、顔つきも幼くあどけないものから少女の可愛らしいものへと変わってきているように思う。
きっと……いや絶対に後3,4年もすれば美人に成長するだろう。
それ位に絶対的自信を持って言える程、早希は可愛く魅力的な女の子だ。
「……。」
でも同時に不安になる。
義理とはいえ妹相手に俺が変な感情を起さないか、という不安が。
今はまだ良い。けどこの先成長していく妹を見て自分が耐える事が出来る保証はどこにもない。
そしてきっと、こんな思考に辿り着いている時点で既にもう、手遅れな部分はあるのだろう。
(でも今だけは、願わくばいつまでも。俺は早希の“お兄ちゃん”であり続けたいな。)
そんな事を想いながら、俺も瞳を閉じた。
すぐそばで眠っている早希の体温を感じながら……。