何故なら早希は俺とは違って、もの心付く前から俺と一緒にいる。
だから、もし俺達が本当の兄妹じゃないと知ったらきっととてつもないショックを受けるはずだ。
義理の兄とはいえ、妹を苦しめたくない。
「………。」
なんて良い兄貴みたいな事を言っているけど、本当は早希に嫌われるのが怖いだけだ。
俺を兄として慕ってくれる妹に嫌われるのが……。
早希に事実を言わないのは俺がこの家に来たのは早希がまだ物心付く前の事だったからだ。
ずっと兄と慕っていた男がまさか自分と何も関係ないただの他人だった。そんな事実を早希に知らせたくないという兄としての意地なのだ。
……なんて兄らしい事を言っているけど本当は事実を打ち明けたら
いつも『お兄ちゃん』って呼んでくれる妹に嫌われてしまったら、俺は、俺は!!
「冬華、悠樹がなんか変だぞ~。」
「ん? あぁ、気にしないであげて。悠樹君、早希ちゃんの事になるといつもあんな風になるから。」
「あぁ、いつものシスコンモードか。」
周りで冬華と音緒と友哉がなんか話しているが気にしない。
シスコン? その言葉は俺にとっての褒め言葉だぜ!
「だめだこのシスコン、早く何とかしないと」
「もう手遅れじゃない?」
「だな。」
周りで音緒と冬華と友哉がなんか話しry
ゆうきと早希は同じ血液型
朝の血液占いで分かる
「はい早希ちゃん、面会証よ。」
「ありがとうございます。
お姉さん、お仕事頑張って下さい」
「ふふっ、ありがとう。」
慣れた手続きが終わり、顔馴染みになった受付のお姉さんから面会証を礼を言って受け取り、受付を後にした私は怒られないギリギリの速さでエレベーターに向かう。
丁度来たエレベーターに乗って手に持つ面会証を首にかけると、扉が閉まって私しか乗っていないエレベーターは動きだす。
初めて来た時は緊張しっぱなしでさっきのお姉さんともたどたどしくしか話せなかったけど、もうかなりの回数ここに来ているおかげで、今では“頑張って”と一言かける事も自然に出来る様になった。
慣れって怖いと思う。
そんな事を考えていると、ボタンの上にある階を表示するパネルが3階、4階と上がっていき、
ポーン
『5階です』
エレベーター内に設置してあるスピーカーが目的の階に到着したのを告げて扉が開く。
それと同時に私は再び怒られないギリギリの速度で、ある部屋を目指して歩き始めた。
ーーーー
「ここ、だ」
目的地である病室の前に到着した。
急ぎ足で来たから少し息が荒い。
でもそれ以上に緊張で胸が苦しくて、取手にかけた手が震えていた。
この手の震えだけは何度ここにやって来たとしても慣れてくれない。
毎回ここに来て、この扉を開ける度に恐怖を感じる。
だけどいつまでもこうしているわけにはいかない。
「……よし。」
私はしばらく扉の前に佇んで心の準備をした後、意を決して扉を左にスライドさせた。
真っ白い病室。
真っ白いベッド。
そのベッドで眠っているお兄ちゃん。
……そして、お兄ちゃんの身体から何本も出ているチューブ。
そのチューブの行き先はお兄ちゃんの枕元に設置された機械へと繋がっていて、その心拍数は前に来た時とほぼ同じ値が表示されていた。
それを見て、私がいない間にお兄ちゃんの容態が急変してない事に一瞬安堵したけど、すぐに気持ちが重くなる。
お兄ちゃんはまだ目を覚まさない。
お兄ちゃん、私、来年で中学生になるよ。
私は持ってきたお兄ちゃんの着替えを置いて、お兄ちゃんのベッドの側にある椅子に腰掛けて、お兄ちゃんの手を握りながら、お兄ちゃんの手を握るけど、お兄ちゃんは目覚めない。
もうすぐ2年になる。
お兄ちゃんが私を庇って車に撥ねられた日からもうすぐ2年に。
ーーーー
『悠樹君の症状は私どもにも分かりません』
それがお兄ちゃんを診断したお医者さん達の結論だった。
どんな権威を持つお医者さんでも、どんな名医と呼ばれているお医者さんでも兄ちゃんの症状は分からず、辛うじて分かったのは事故の怪我が治っても尚、お兄ちゃんは眠り続けて目を覚まさない事。
そしてまるで時が止まってるみたいにお兄ちゃんの身体に変化がない事。
お兄ちゃんの身体は心臓も動いてるし、血液も流れている。
顔を近付けたら呼吸してるのも分かるし、その呼吸に合わせて胸も上下しているのも見える。
でも髪や爪は伸びないし、顔付きも身長もこの2年で全く変わらない。
まるで時が止まってるみたいだ。
「あぁ、早希ちゃんこんにちは」
何時間経ったのだろ。
椅子に座ってお兄ちゃんを眺めていると、病室の扉が開く音と共に私を呼ぶ声が。
振り向くと、扉の所にお兄ちゃんが小学生の時から友達の上白 冬華先輩が立っていた。
「冬華先輩、こんにちはです。」
冬華さんに挨拶を返して再び顔をお兄ちゃんの方に戻す。
結局その日も面会時間ぎりぎりまでいたけどお兄ちゃんが目覚めることはなかった。
。