ロビンの何気ない日常、徒然 作:シャーウッドの管理人
刺すような寒気をいつもより強く感じた。森の朝はとんでもない寒さに襲われるがそれが悪い事だとは思わない。身が清められ、森に受け入れられている。
肌に張り付く絹の服一枚で、ロビン・シャーウッドは走っていた。流れる汗は踏み締める大地とその服に小さな染みを作っていく。疲労感で身体が重くなっていくのを感じる。
普段は意識しないただ足を上げるだけの行為すら、「意識して行う」ものとなる。身体が重荷になればなるほど、その存在を強く感じた。
少し先を行く広い背を追い、ロビンはフォームを崩さないよう気を付けながら走る。
が、その背がピタリと止まった。
「む、もう陽が高いな。今日の所はここまでにしておこう」
着物を肌蹴た偉丈夫は静かに、よく通る声で呟いた。戦場で鎧武者として先陣を切る彼の声は力強い。そう意識している内、染みついているのだろう。
草履が平らな土を踏み締め、振り返る。森のこの場が草木も生えずあるという事は、彼がよくこの道を走り込んでいる事を示していた。
「付き合い、感謝する。いや、初めて貴殿の姿を見た時は優男かと思ったが中々どうして」
と、そこまで言って。彼は「む」と唸る。
そして律儀にも頭を下げた。
「言葉が過ぎた。すまぬ」
「あぁいえ、そんな事は。実際、『優男』と見られがちな自覚はありますしね」
頭を下げる男――日本古来の英雄キャスト、吉備津彦の姿にロビンは苦笑する。彼は生真面目過ぎるのだ。
何事にも真正面から、全力で取り組む。そんな事だから神筆使いに全力で「ハロウィン」と叫ばされてしまうのだ。模擬戦の場ではある種の符号として、決められた言葉だけを神筆使いが選んで話すようになっている。
自分もよくクリスマスに人を誘っている。士気高揚の意味があるようだが、ロビンとしても女性を誘うのは吝かではなかった。乗ってくるのは男衆ばかりだが。
「直接殴り合わないのも原因でしょうか。こいつを引くのにも、非力ではいけないのですがね」
「然り。二射目を一射目に接ぐなど、技術のみならずよほどの筋力あっての事だろう。それを知りながらそう思ってしまったのは俺の不徳の致すところ……!」
「だから、もういいですってば」
走る為に後ろで結っていた髪を解きながら、重ねて告げる。
彼の日課である修練に付き合うと言ったのは自分だ。悪い気分にさせては目覚めが悪い。話題を変えよう。
「そんな事より、食事はどうしますか? すぐにでも腹に何か入れたい気分なので食堂に向かおうと思うのですが……」
と、そこまで言ったところで。
また吉備津彦が姿勢正しく頭を下げた。
「すまぬ! 朝食はいつも母上が作ってくれているのだ! 無下にする訳にもいかぬ……すまぬ! 共に修練するならば、そこにも気を遣うべきであった……!」
空気が変わらなかった。
あぁ、上手くいかない。まぁこれが森とだけではなく、人と生きるという事だろう。また、ロビンの口元に笑みが浮かんだ。
「では、食事は次の機会で。美猴さんとの晩酌に英雄譚などを肴にさせてください」
「む……それならば。心遣い感謝いたす。必ずや、場を盛り上げる血沸き肉躍る話を供と考えておこう!」
どうせ彼の口下手を肴にする事になるのだろうな、と思いながらロビンは彼を握手を交わした。
数日後、その通りになった。