ロビンの何気ない日常、徒然 作:シャーウッドの管理人
肌に触れるシーツの感覚を、ロビンは常日頃から感じているはずだった。ずぼらな事もままある男やもめの生活の中でも寝具は清潔に保っていて、朝から気分の良くなるものだ。
が、その日は違った。生ぬるい。重い。寝苦しい。清廉なる森の空気を感じるはずが、これでは噂に聞く熱帯夜ではないか。
原因は分かっている。子どもの体温は高いのだ。
「……リトル・アリス、朝ですよ」
布団を除けると、胸元に派手なドレスを纏った子どもがしがみついて目を閉じていた。時折むにゃむにゃと口を動かしているが、判然としないまま身じろぎをする。
完全に寝ている。それも、とても深く。
溜め息を吐く。ロビンには決してやましい所などないし、そもそも子どもなんて興味の範囲外だ。こんな状況に慣れているという訳でもない。
だが、この子ならやりかねない。小さな(リトル)アリスと呼ばれる彼女には、そう思わせるだけの気ままさがあった。
「こら、起きなさい。惰眠を貪るのは悪ですよ」
ぐぐっと頭を持ち上げてやると、ようやくその刺激が頭に届いたのか、彼女は目を覚ます。
なにも動じた様子なく身体を持ち上げ、ベッドの上にぺたんと座ったかと思うと、呑気に大きくあくびをした。
「ふあぁ。おはよう、ロビン君」
「えぇ、おはようございます。しかし男性の寝具に潜り込むのは感心しませんね。何をされても文句は言えませんよ」
「例えば?」
問われ、ロビンは少し考えた。あまり少女に言うべき忠告ではなかったかもしれない。せめて、あと数年は齢を重ねてからだ。
まぁ彼女の時は止まっているのだと聞いた事があるが。
「まぁ、それが分かるまではリトル・アリスだという事です」
「えー、じゃあ今日からレディ・アリス! だから教えて!」
「レディは、自分の事をレディとは言いませんよ」
言葉を繰っている内にロビンの頭にもはっきりとしたものが回り始めた。起き上がり、絹の肌着だけを身に纏う。
ぶーぶーと背後で何やら叫ぶ少女の言葉も半分に聞き流し、キッチンへと歩みを進めた。
「それで、どうしてここに? 森はともかく、私の家には何も面白いものなんてありませんよ」
「そう! それだよ!」
確か兎の肉を干したものが残ってあったはずだ。調味料も前に街の酒場を冷やかした時に仕入れてある。
パンはドワーフのパン屋に配達を頼んである。今日も、御伽の国のふかふかした麦のパンが食べられるはずだ。
「宝探しなの! えっとー、リンちゃんが吉備津彦君のおうちに行って、私がロビン君のところ! どっちが凄いもの見つけてくるかって競争なの!」
「へぇ。でも、空振りに終わりましたね」
薪さえ上手に組んでやれば、火を起こすのは妖精がやってくれる。彼らの食べる薪を集めて作るのがロビンで、そのついでに出来る火を貰うのがロビン、そういうお互い様の関係がある。
鳥の鳴き声と共に風の妖精が飛んできて、耳元で火の加減を教えてくれる。
「だからね! ロビン君の隠しているものを探したの! 布団の中にもなかった!」
「まぁ、眠るときに宝物と一緒に布団に入る人は、あまりいないと思いますよ」
抱き締める宝物でもあれば男冥利に尽きるのでしょうけどね――なんて大人の冗談は、また酒の場の為に残しておくとして。
お腹いっぱいに薪を焼いた妖精がけぷりと合図すると共に、ロビンと少女の食事が始まる。
「宝物はありませんが、義賊風朝のパン定食などはいかがでしょう。スープにひたすのがお勧めです」
「わぁ~い、やったー!」
きっと少女にとっては、こういう日々の些細な事も宝物なんだろうな、とロビンはスープをよそう。
吉備津彦の家でも、少女に美味しい和食が振る舞われていたらしい。