ロビンの何気ない日常、徒然 作:シャーウッドの管理人
長方形の、なにやら見慣れぬものであった。表面の絵が動いている所を見ると魔法の品か、さもなければ機械と言う奴であろう。
黒い灰被り、シンデレラの異伝であるアシェンプテルは適当に当たりを付けながらすぅと彼の後ろから手元を覗き込む。幸いと言うべきか、彼は目先にばかり集中してこちらに気付いてはいない。射手たる男がなんという様か。
白く細い指が表面の絵をすぅとなぞっていく。画面は指示を受けた兵士のように、テキパキと模様を変えていく。あぁこれは文字を命じているのか、とアシェンプテルにも理解できた。
が、彼は一つ二つ文字を打つと、どうやらその文字を消す事を命じているようだ。さらによくよく見てみれば文字の繋がりが不明瞭で、どうやら誤字が多いようだと理解出来る。
繊細にして豪胆、弦を捉えて離さず、しかしそうと決めれば誰よりも正確で速い――そんな指が、やたらめったらと手間取っていた。
「えぇい、まどろっこしい!」
「ひゃ!?」
思わず叫ぶと、ロビン・シャーウッドは珍妙な声を上げた。それと同時、また機械に誤った字が命じられる。
やれやれ、とアシェンプテルは額に手を当てる。ここは街のカフェテラスだ、皆の英雄でもあるキャストのこんな情けない姿を見たら、街の住民であるモブ達はどう思う事やら。
「近頃奇妙な事を始めたとは聞いていたが……一体何事だ、シャーウッドの森の。手紙一つ書くならば筆を執った方が早いだろう」
「あぁ、いえ。これは手紙ではなくてですね。ここでしか話せない方々とお話するためのものなのです」
彼も誰かに話したくてたまらなかったのだろう、したり顔で口の滑りもいい。店員に頼んだ紅茶を片手に、とりあえず話を聞いてやることにした。
シャーウッドが言うには、この『すまぁとふぉん』は神筆使いを通して世界に言葉を発信できるらしい。他にも色々な使い方が出来るが、神筆使いに許されているのはそれだけのようだ。子どもの使いみたいだな、という言葉は秘めておくことにした。
神筆使いのいる世界の人達と。そして、自分達とは違う世界に住む自分達と。この機械は繋げてくれるのだと。
「中々いい刺激になりますよ。自分の余暇、適当に巡らせる考えを外に発する事が出来ると思うと」
「ほぉ」
さ、っと彼の手元から機械を奪う。本当に射手とは思えないほどふ抜けている。
「その割には、ツイート……あぁ、このツイートと言うのが発言数だな。これが他の者ほどではないようだが」
「か、かえしっ……っと、と。私ですら使いこなせていないというのに、何故もうそこまで……!」
「あまり侮ってくれるな、これでも蝶よ花よと舞うべき姫のはしくれだからな。こういうものの扱いは、女の方が巧いものだ」
「ぐ、そんなものですか……」
「優雅だなんだと言われているが、案外と武骨ばった男で困るなシャーウッド?」
『スマートフォン』を投げ返してやる。こいつの事は大抵把握したが、あまり『この』アシェンプテルの趣味ではない。スマートフォンの世界にはそういう交流を好むアシェンプテルも数多くいるのだろうが。
外に出るには相応の外面が必要になる。それはアシェンプテルが姫であり、姫である気品と優雅を自分に課しているからだ。このような失言を自ら誘うような場には出たくはない。
が、『この』シャーウッドはそうではないようだ。
「武骨でいいのです。えぇ、少し苦手で覚束ないぐらいで。何かに挑むというのは得難い経験ですから」
シャーウッドは困難を求める。戦いでもそうだが、向上心が高いのだ。
アシェンプテルにも似た性質がある故に分かるが、簡単な道を歩いて誰かと同じようにしている事が我慢ならないのだろう。自分に資質と心意気があるのだからそれを活かさなければ、という焦りと充実感をない交ぜにした感情。
「まぁ、やるというのならば止めはしないがな。おかしなことをしてしまうかもしれないが、お前は恥を恐れるような男でもないだろう」
「えぇ。言葉を返すようですが、私は野を駆け地を這ってでも戦う賊のはしくれですので。穢れて走るのは望むところ」
勿論、戦場以外でもです――シャーウッドは、嬉しそうに言い切った。
それは生きる事に真摯で、前向きで、充実していて、プラスの方向に傾いている。良い事だとアシェンプテルも思うし、周りもそう思うだろう。
しかし、と。アシェンプテルは紅茶を飲みほした。
――私にはそれが、驕りにも見えるのだがな