人と光の“絆”   作:フルセイバー上手くなりたい

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戦闘描写が入るとやっぱり長い!

見にくいかもしれませんが、よろしくお願いします。


今回一樹が戦う相手、それは…


Episode132 狂犬-マッドドッグ-

_____死なせない!死なせるものか!!

胸元が大きく抉れている比古を小屋に運び、懸命に手当てする一樹。

親代わりでもあるこの人を、死なせないために。

一樹は小屋中を走り回った。

 

 

「…今日はこの辺りまで。ここなら、更識の息のかかった宿があるから」

楯無のみ京都に残し、IS学園組は簪を筆頭に東京へ向かっていた。

比較的移動が楽と言われている東海道を歩いているが、近代文化に慣れてしまっている体にはキツすぎた。

「大丈夫か?雪恵」

病み上がりの雪恵を気遣う一夏。当の雪恵はセリーに肩を借りて立っている状態だ。

「…ちょっとキツイ、かな」

「ちょっとじゃないよユキエ!顔色じゃ分かりにくいけど、今だって立ってられてないじゃん!」

セリーの言葉に、一夏が雪恵をよく観察すると、足が尋常でない程震えていた。

「…雪恵、今日はゆっくり休んで」

「ごめん、ありがとう」

簪とセリーに支えられながら旅館に入る雪恵。

雪恵がここまで無茶をする理由はただ一つ…『一樹と会いたい』だ。

海上で撃たれ、海に流された一樹と…

「(かーくんなら、絶対に東京に向かってる。私も頑張らなきゃ!)」

 

 

「おい、起きろ」

「おろ!?」

比古の手当てをした後、眠ってしまっていた一樹の目覚めは、師匠の蹴りだった。

「お前の帰りを待っている人達がいるんだろ?何こんな所で油売ってるんだ」

「し、師匠…どうして」

「手当てしといてどうしても何も…まあ、あえて理由をつけるのであれば、その刀だ」

一樹が抱えている逆刃刀・真打を指す比古。

「よく見てみろ。目釘が抜けかかって、刀身が抜けるか否かのギリギリまで緩くなっている。その結果、天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)の力がわずかばかり刀身に吸収され弱まった…持ち主の意を汲んでくれる、良い刀だな…」

「(赤空さん…)」

そっと逆刃刀の柄を撫でる一樹。

そんな一樹を心なしか優しい顔で見る比古。

「…まあ、紆余曲折あったが、これで奥義の伝授は終了だ。お前も体験した通り、天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)は逆刃刀にさえ十分な殺傷力を与える…あとはお前が()()として、この技の強弱緩急を全て意のまま自在に操れるよう昇華しな」

「…はい」

 

 

「すいません!!!!ここに櫻井一樹君はいますか!!?!!?」

比古の話を聞き終えた丁度その時。水色髪の少女…更識楯無が駆け込んできた。

「…楯無殿?」

一樹が名を呼ぶと、血相を変えて飛び込んできた。

「櫻井君!!無事だったのね!!!!」

一樹の手を掴み、ブンブン振る。

「ど、どうしてここが…?」

「そんな事より!安心して。雪恵ちゃんもセリーちゃんも無事よ!」

「……良かった」

穏やかな笑みを浮かべる一樹。そんな一樹に声をかける比古。

「…約束しろ一樹」

「師匠…?」

「お前のその命…決して無駄にはしないとな」

比古の言葉は、一樹の胸に深く刻まれた。

「…はい。師匠、お世話になりました」

深々と頭を下げると、一樹は楯無と共に山を下りていった。

「…死ぬなよ。バカ弟子」

 

 

「政府の連中は、躍起になってあなたを探してる。見つかれば…処刑されるわ」

楯無の案内で葵屋まで来た一樹は、今自分が指名手配されている事を聞かされた。

「…他の皆は?」

「簪ちゃんの案内で、先に東京に戻ってるわ。私はあなたを探すために残っていたの」

「それはかたじけない。では、拙者も東京に向かうでござるよ」

「…本気?」

「京都よりも、東京の方が拙者の仲間がいる。それにこの手配書を見るに、拙者が私服に戻れば問題解決でござるよ」

「…それは無理よ。今、あの和服屋は常に政府の人間に固められてる。24時間常にね。いくらあなたでも、潜入は難しいと思うわ…」

「(…無駄に頭を使うようになりやがって)」

小さく小さく舌打ちする一樹。そんな一樹に、翁が古地図を渡してくる。

「…これは?」

「更識家が代々、江戸へ渡る時に使っていた抜け道です…どうか、お役立てください」

「…かたじけないでござる」

「途中までは私も行くわ。最終的に、東京の更識邸で合流するのが目的よ」

すでに身支度を済ませていた楯無と共に、一樹は葵屋を出て行った。

 

 

「しかし、何故楯無殿も同行するでござるか?拙者1人で行った方が、面倒も少なかろうに」

歩きながら楯無に聞くと、楯無は肩をすくめながら答えた。

「まあ、道案内みたいなものよ。後は、分岐点まではどうしても人がいるところを通らざるを得ないから、カモフラージュの意味もあるわ」

「なるほど」

楯無の案内の元、東京を目指す一樹。

その男が現れたのは、そろそろ分岐点というところだった…

 

 

「見つけたでえ。久しぶりやなかず坊」

 

 

「ッ!!?!!?」

その声に驚く楯無と、比較的冷静な一樹が上を向くと、そこには素肌にヘビ柄のジャケット、更に黒革のジーンズを履き、左目に眼帯をつけた男の姿が。ジャケットの下から、その男の肌には紋が刻まれており、ひと目でその筋の者だと分かる。自信満々と石橋にいるその男に、一樹は見覚えがある。

…いや、見覚えがあるなんてものでは無い。昔からの顔馴染みであるその男は…

「…お久しぶりです。真島のおじさん」

現特別警察集団真島組組長であり、警視庁から【狂犬】と呼ばれる真島吾朗だ…

楯無が急ぎ周りを見ると、そこは既に真島組の者が囲んでいた。

「(まさか櫻井君、ここにこの人達がいることを知った上で!?)」

冷静な一樹にも、楯無は驚いていた。恐らく、気配で真島達がいる事が分かっていたのだろう。そして、()()が避けられない事も。

「しかし、大変な事になっとるなかず坊。謂れのない罪を被さられるなんて…大丈夫や。オレらは分かっとるで?かず坊がそんな事をする訳無いってな」

「おじさん…」

「せやけどな」

石橋から飛び降り、一樹と楯無の正面に着地する真島。

部下が投げて来た武器_____楯無には鞘に納められた大太刀に見えた_____を受け取ると、獲物を見つけた肉食獣の目で一樹を見据える。

「オレは今警察に感謝もしとるんや…かず坊と全力で、堂々と闘える機会をくれたんやからな!」

「ッ!!?!!?」

真島の発する、純粋すぎる闘気に圧倒される楯無。

「……」

「ッ!ハァ、ハァ、ハァ!!」

それを察して、真島から庇う様に前に出る一樹。そのおかげで、楯無は圧から解放され、何とか呼吸が出来るようになった。

「…拙者は、あなたと戦いたくはないでござるよ」

「かず坊ならそう言うと思ったで。けどな、こっちもそれを許せない()()なんや。そんな事はかず坊が1番分かっとるやろ?」

「……」

黙る一樹を見据えながら、真島は己の得物を取る。楯無には大太刀に見えたソレの両端を、()()()()()()()

「え!?」

驚く楯無の目に映っていたのは、真島が2()()()()()()を持っている姿が…

そう、真島はひとつの鞘に、2本の小太刀を納めていたのだ。

しかし、楯無が驚いた理由はそれだけでは無い。

「あなた…ドス使いじゃなかったの?」

楯無は【更識家当主】として、真島のデータを見た事がある。その中に、真島がドスを使って暴れる映像があった。

「…普段はな。けどオレが本気で暴れられるのは小太刀二刀流(コレ)や」

腰を落とし、いつでも駆け出せる体制に入る真島。

「…下がっているでござるよ」

一樹が楯無を下がらせた瞬間、真島が踏み込んで来た。

二刀の小太刀が一樹を斬り裂こうと迫ってくる。

後方に跳ぶ事で避ける一樹だが、それを読んでいた真島は右の小太刀を突き出す。

「ッ…」

対する一樹は左に大きく踏み込み、空手の要領で受け流す。

だが…

「ウラァッ!」

「がっ!?」

真島の回し蹴りが顔面に命中。流石の一樹もダメージが大きかったのか、一瞬怯む。

それを狙い、二刀の小太刀で挟み斬ろうとする真島。一樹の背後には石の壁があり、これ以上後退出来ない…!

「ッ!?」

止むを得ず逆刃刀を半身抜き、小太刀の攻撃を受け止めた一樹。それを見た真島が、ニタァと笑う。

「…抜きおったな」

逆刃刀の鍔に小太刀をぶつけると、強引に鞘から抜かせた。

「ッ…」

距離を取り、逆刃刀を前に突き出す一樹。嬉しそうに笑い続ける。

「そうや…それでええ。これで存分に()れる…」

笑みを浮かべる真島と対照的に、一樹の表情は厳しい。それを見る楯無の顔に、心配の色が濃くなっていく。

「(櫻井君…)」

「…約束してほしいでござるよ。真島殿(どの)

「殿…か。かず坊もスイッチが入ってきたな。で、何や?」

「何があっても、楯無殿に手を出さないでほしいでござる」

その言葉を聞いた楯無が抗議しそうなのを、一樹はひと睨みする事で止める。

「なんやその事か。それは心配せんでええで。それに、オレに勝ったらここは通したる」

「…本当でござるか?」

「そりゃあな。オレも子分が動けなくなる事は避けたいからな」

ホッと息をつく一樹。1番の懸念事項である楯無の安全が確保されたのだから。

「じゃあもうええな」

「…ああ」

どうしたって、この闘いから逃れる事は出来ない。真島が楯無の安全を保障してくれただけでも儲けものだ。

()()()()()で相手するでござる」

「よっしゃ!行くでかず坊!!!!」

姿勢を低くして駆け寄る真島。縦横無尽に迫り来る斬撃を、全て逆刃刀で流す一樹。真島の攻撃が止まった瞬間に、真島の横を駆け抜ける。

「待てやッ!!」

一樹の後を追う真島は、その背中に小太刀を投げようとするがやめた。一樹が石壁を走るという離れ業をする事で、狙いが定められないのだ。

「(忘れとったわ…かず坊は足場が繋がっているとこならどこでも走れるって事を!)」

そして、石壁を走りきった一樹は、比較的広めな場所を闘いの場所に定めた。

追いついた真島の攻撃を逆刃刀で捌き、一樹も攻撃するが、真島は俊敏な横移動で一樹の攻撃を避ける。

「そんな攻撃はオレには当たらんで!」

「ッ…」

一樹の攻撃を左の小太刀で受け止め、右の小太刀で突き刺そうとしてくる。

一樹はそれを脇の木を蹴って飛び、空中横転する事で避け、真島の背後を取る。

「させんわ!」

すぐさま体を独楽の様に回し、一樹の接近を阻止する真島。

流れる様に小太刀の交差斬りを仕掛けようとするが、一樹が勢いよく逆刃刀を振り下ろした事によって止められた。

「くっ…あぁぁぁぁ!!」

一樹の腕力に、小太刀二刀が押し切られそうになるが、真島は気合で押し戻す。

「もろう、た!」

逆刃刀を左の小太刀で抑え、右の小太刀で一樹を突き刺そうとする。

「ッ!」

一樹は小太刀の突きを避けると、突き出された真島の左腕を掴んで自分から倒れこむ。巴投げの亜種技で、真島を投げ飛ばす。

「ふんっ!」

しかし真島は尋常でない速さで起き上がり、まだ転がっている一樹に向かって左の小太刀を突き下ろす。

「くっ…!」

すぐに横転して小太刀を避ける一樹。真島は突き刺した小太刀をそのままに、小太刀一刀で追撃する。

「(速い…!)」

一刀のみになった分、受け止めやすいと思ったら大間違いだ。むしろ一刀のみに攻撃を集中する分、真島の俊敏さが全開し、一樹の想像以上の速さで斬撃が迫ってくる。

 

ガギィンッッッ!!!!

 

耳をつんざくような金属音が響いた瞬間、真島の膝蹴りが一樹の腹部に決まる。

「ガッ!?」

思わずうずくまる一樹の頭部に、回し蹴りが…

 

バキッ!!!!

 

「ゴッ!!?」

その蹴りの威力に、一樹は吹き飛ばされ、大地を転がる。

「どうしたんやかず坊…お前の本気はそんなもんじゃないやろ?」

「はぁ、はぁ、はぁ…」

肩で息をする一樹。

「はぁ……はぁ……ふぅ……」

呼吸が落ち着いてきた一樹は、その場で逆刃刀を半回転。順手から逆手に逆刃刀を持ち替えた。

「「……」」

睨み合う2人。楯無を始めとする観戦者達も、怒涛の展開から目が離せない。

 

 

「(……あれ?)」

一樹の眼が鋭くなっていくのを見た楯無だが、不思議とその眼に恐怖を感じない。以前なら、その全てを斬る様な眼を見たら腰が抜ける程だったのに…

「(あ……そうか)」

以前の一樹は、自分が死んでも良いと思って戦っていた。しかし、比古が命をかけて一樹に教えた【生きようとする意思】が、戦闘体制に入った一樹の眼に、光を灯したのだ。

「(今の櫻井君の眼を見れば、きっと雪恵ちゃんは全部分かるんだろうな…)」

それだけの信頼関係が、この2人にはある。

楯無がそこまで思考した時、膠着状態が解かれた。先に動き出したのは、一樹だった。

 

 

「……ッし!」

真島に向かって踏み込むと、逆手に持った逆刃刀で連続で仕掛ける。真島はその攻撃を小太刀一刀で裁くが、その顔に冷や汗が…

「(かず坊、とうとう本気になりおったか!!)」

本気になった一樹を、小太刀一刀で受け止めるのは骨が折れる。それだけ、一樹の動きは速かった。

「ウラァッ!」

「ッ!?」

何とか体制を整えるために、一樹に前蹴りを放つ真島。蹴りを避けるために後方に跳んだ一樹を、その俊敏な動きで追い込む。どこか紫のオーラが見える真島の動きからの攻撃を、一樹はスライディングのように腰を落とした横移動で避ける。そんな動きをする一樹を追いながら、大地に突き刺したままの小太刀を抜いた。

「逃がさんわ!」

左足を軸に、独楽のように回って真島と対峙した一樹に向かって、拾ったばかりの小太刀を投げた。

「ッ!!?」

何とか頭を左に傾けて飛んできた小太刀を避けるが、それは一樹の後ろの木に突き刺さった。避ける方向が限定されてしまった一樹。その隙に決着をつけようと、真島が迫る。

縦横無尽に襲ってくる斬撃を、逆刃刀で懸命に迎撃する一樹。まるで、何かを狙っているように…

「(…ッ!ここだ!!!!!!!!)」

短気な真島にしては保った方だろう。簡単に攻撃出来る刺突攻撃を放ってきた。一樹は上半身を大きく左に傾けて避け、逆刃刀の柄頭で殴った。

「ガッ!?」

カウンターを喰らった真島が大きく仰け反る。その隙を逃す一樹ではない。

「はぁっ!」

「ぐっ!?」

回転の遠心力を加えた蹴りを真島に喰らわせて仰け反らせると、一瞬で肉薄。飛び蹴りを放つが、真島は前転して回避。木に突き刺さった小太刀を回収し、一樹に斬りかかる。

「ウオラァッ!」

小太刀二刀の斬撃を逆刃刀で受け止めると、素早く踏み込み、真島を空中に投げる。

「う………らぁっ!!!!」

「くぅっ!?」

空中で真島は身動きが取れない。その隙を逃さず、一樹は空中にいる真島目掛け、逆刃刀を振り下ろす。

「…ッし!!!!」

「ガァッ!!?」

その威力に、真島は斜面を転がり落ちる。何とか起き上がった真島が上を見上げると、逆刃刀を振りかぶった一樹が飛び降りてきた。

「アガッ!!?」

落下のエネルギーも加わったその一撃に、流石の真島も意識を失いかける。それを見た一樹は逆刃刀を下ろした…

「…真島殿、もう勝負はついたでござるよ」

「いや、まだや……まだ終わっとらんで……」

あまりの激闘に、真島の全身は血だらけだ。真島程の実力者が相手となると、流石の一樹もあまり加減が出来ないのだ…

「まだ…オレはやれるで!!!!」

「……そうでござるか」

逆刃刀を持ち直した一樹。その刀身を、風に乗せるように下に向け…

 

逆風(さかかぜ)(切り上げ)!逆袈裟!左薙!右切り上げ!唐竹(切りおろし)!左切り上げ!右薙!袈裟斬り!…そして、刺突!!!!

 

これを順番に、全て一瞬で叩き込むこの大技こそ、飛天御剣流【九頭龍閃】。

 

奥義と同時に得たこの技を、真島に喰らわせた一樹。

「ゴハァッ!!?!!?」

吐血しながら大きく後方に仰け反る真島。しかし、究極の戦闘バカである真島はまだ止まらない。

「中々今のは効いたでぇ…けどまだや…まだまだや!!」

「……」

もはや真島を止めるには、気絶させるか骨を折るかしかないのだろうか…

一樹は逆刃刀を半回転させると、静かに鞘に納めた。

「…次で決めるでござる」

「…せやな」

一瞬の静寂、そして…

「「ッ!!!!」」

 

ドギャアァァァァンッ!!!!!!!!

 

「ガボッ!!?!!?」

楯無達には、何が起きたのか分からなかった。気がついたら一樹は逆刃刀を振り上げており、真島は吐血しながら空を舞っていた。

ドシャッ、と真島が大地倒れた。

「相変わらず……ゴツいなあ……かず坊」

「……」

ガクッ、と真島は気絶。

一樹は逆刃刀を再度鞘に納めると、真島組の顔見知りの者達に一礼して歩き出した。その後を慌ててついていく楯無。

「ねえ櫻井君、さっきのって…抜刀術?」

「…ああ」

「速すぎて見えなかったんだけど…」

「それがあの抜刀術…飛天御剣流奥義、天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)でござるから」

「え?え!?今までそんなのあるそぶり見せなかったじゃない!!?」

「必要なかったでござるよ」

それに一樹自身、この奥義を得てから一週間も経っていない。楯無が知っている筈が無いのだ。

「それより、早く行くでござるよ」

「え、ええ…あ、そうだ。マサって人から警備配置書を貰ったから、更識邸まで一緒に行くわ」

「…そうか。なら、しっかりついてくるでござるよ」

「え?ちょっ!早いって!!」

 

 

雪恵達とIS学園で別れてから、簪は更識邸で待機していた。何故こんなに早く戻ってこれたかと言うと、途中で体調が回復したセリーのテレポートを使った為だ。

「…お姉ちゃん、ちゃんと櫻井君を見つけられたのかな?」

電子機器が使えない今、情報の伝達が非常に遅い。更識邸に着くまではその事しか頭に無かったのでそこまで気にしなかったが、無事着いた今、簪の心労はマッハだ。

「早く来てよ2人とも…」

「これでも急いで来たでござるが」

「わひゃあ!!?」

突如背後から声が聞こえ、簪の心臓が跳ね上がる。慌てて後ろを向くと、そこには藁傘を深く被った一樹の姿が。

「さ、櫻井君!生きてたんだね!」

「おかげさまで」

「お姉ちゃんは?」

「そこで生き倒れてるでござるよ」

一樹の指す方向には、椅子に座って真っ白に燃え尽きている楯無がいた。

「そっか!」

それには特にリアクションをしない簪。おや、真っ白な楯無の目元に雫が…

「じゃあ櫻井君にはお茶を持ってくるね」

姉の分が無いことに、更に楯無の目元から水が…

「いや、先を急ぐでござるよ…藤原との決着をつけねばならぬ故」

真っ直ぐ簪を見る一樹の目に、簪は根負けした。

「…分かった。でも、這ってでも戻って来てね。死んじゃったらどうしようも無いけど、生きてさえいてくれれば、必ずお医者さんに治してもらうから。人を生かす前に、自分を生かす事を忘れないで」

「…師匠と同じことを」

「え?」

「いや、何でもないでござるよ」

「そう…あ、ちょっと待ってて」

「おろ?」

そう言って簪は奥へ向かう。キョトンとする一樹。燃え尽きたまま涙する楯無。

そして戻ってきた簪の手には…

「…これに着替えて行って」

「……」

 

 

数分後、渡された物に着替えた一樹が戻ってきた。

「…やっぱり、櫻井君にはそっちの方が似合うよ」

「そうでござるか?」

渡された物とは、涼との戦いでぼろぼろになり、女将に修復を頼んでいたあの緋色の衣だった。

「女将は相変わらず仕事が早いでござるな」

「…女将がバレないよう分かりにくく話してくれた事を言うね。『私服は()()返せないけど、代わりにこの正装を貸してあげる。キッチリ決着をつけてきなさい』だって」

その言葉に、一樹は小さく笑う。そしてすぐに表情を引き締め…

「…雪とセリーを頼む」

「…うん。分かった」

簪に後を頼み、更識邸を出ようとした、その瞬間だった。

 

ピィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!

 

警官隊の、笛の音が響いたのは。

「「「ッ!!?!!?」」」

一樹と簪、そして真っ白だった楯無もその音に反応する。

「何で!!?見つからないよう細心の注意を払って来たのに!!!!」

「…誰かが張っていたのでござろう」

一樹が呟くと同時に、警官が次々と更識邸に突入してくる。そして、一樹を囲むと、1人が震えながら…己を鼓舞するように叫んだ。

「櫻井一樹!!!!この館は既に警官が囲んでいる!!お前はどこにも逃げられない!!大人しくお縄につけ!!!!」

「「「「つけ!!!!」」」」

「……」

一樹がざっと見回していると、ずんずんと簪が一樹の側に来る。

「更識殿?」

普段の簪なら有り得ない行動に、一樹は首を傾げる。簪は一樹の視線を気にせず、警官隊に対峙する。

「…みなさん、恥ずかしく無いんですか?今この国を脅かしてる人と戦おうしてる人を捕らえて処刑するなんて!人として恥ずかしく無いんですか!!?!!?」

「「「「何!!?!!?」」」」

「簪ちゃんの言う通りよ…櫻井君を捕まえるって言うのなら、私達2人を殺してからにしなさい!!!!!!!!」

「「「「!!?!!?」」」」

強い覚悟を持って警官隊と対峙する更識姉妹。今にも2人に飛びかかろうする警官隊の前に、一樹が立ちふさがる。

「2人とも、かたじけない」

余裕のある笑みを2人に見せ、改めて警官隊と対峙する一樹。

「う、うおぉぉぉぉ!!!!」

1人の警官が踏み込んでくる瞬間、表情を引き締めた一樹。その眼光に警官は一瞬怯むも、気を奮い立たせて踏み込んだ。

警棒の攻撃を、更識姉妹に当たらないよう注意しながら捌く一樹。

「下がっているでござるよ」

更識姉妹を広間の端へと押し込むと、自身は姿勢を低くして駆け出す。警官達が固まって阻止しようとするが、そこを素早くスライディングして抜け、広間から庭へと出た。

庭には警官が張っており、一樹は更に多くの警官に囲まれる事になってしまった。

「…その2人は関係なかろう。それに、土足で人の家を荒らさせはしないでござるよ」

多くの警官に囲まれいると言うのに、一樹は全く気後れしていない。次々と飛んでくる警棒の攻撃を軽くいなし、警官隊を圧倒していく。しかし一樹は1度も攻撃を仕掛けず、あくまで警官隊の攻撃をいなすだけだ。だからこそ、警官隊は果敢に挑めるのだが。

「……」

しばし警官隊の攻撃をいなし続けた一樹だったが_____

 

シュッ!

 

_____とうとう逆刃刀を半身抜いた。それだけで、()()()()()()()と聞いている警官隊の腰が抜ける。

「「「「ヒィッ!!?」」」」

「………」

怯える警官達を見回した一樹は、ため息をつくと逆刃刀を鞘に納めた。

「……もう()い」

鞘に納めたまま逆刃刀を腰から抜くと、警官達に見えるよう高く上げる。

「…拙者にお主らと戦う理由は無い」

そして、そっと逆刃刀を大地に置いた瞬間だった。

 

バキッ!!!!

 

「ッ…」

1人の警官の警棒が、一樹の背中を捉えたのは。警戒していたためそこまでダメージは無かったが、それを気に警官全員が一樹に迫った。無抵抗で押さえつけられる一樹の目には、更識姉妹が己の名を呼ぶ口の動きが僅かに映った後、また警官隊で埋もれるのだった。

 

 

その数時間後、【伝説の殺し屋】が逮捕されたという新聞が、東京中に広がったのだった。




警察に捕まった一樹は、果たしてどうなる!!?
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