弾が転入して来た日の放課後、久しぶりの第四整備室で男子全員が揃っていた。
「おーし、じゃあ調整始めるか」
「え?一樹がすんの?」
「むしろ誰がすると思ってんの?」
「え?整備科の生徒…」
「「アホか」」
極秘情報の塊であるバンシィの調整を、そう簡単に他人にやらせる訳にはいかない。現に、一夏の麒麟もそうなのだから。
「んじゃまずは…バンシィのOSから弄るか」
空間投影ディスプレイに表示されるバンシィと、脇に置いたパソコンから弾の戦闘データを見て、弾の戦い方にあった調整を開始する。
一樹にしては珍しく、少し大きめの電子バイザーを装着した。
「(やっぱり、弾が発する脳波程度じゃデストロイモードへの移行は出来ないか)」
過去にS.M.Sでやったテストの結果と、バンシィのデータを照らし合わせたところ、弾はデストロイモードに移行する程の脳波をまだ発する事が出来ていない。実際、ノワール時代の脳波展開の習得にも弾は苦労していた。
「(後で宗介に連絡して、ちょっとしたオプションパーツの製造を頼まないとな)」
デストロイモードを
幸い、S.M.Sは搭乗者の脳波を増幅させるシステムを製造する事が出来るので、それが完成するまでの辛抱だ。
「(まずは、弾から返してもらったノワールをコイツに繋いでっと)」
バンシィを得た後、ノワールを一樹が返却した弾。本人曰く、『使い分けれると思えない』とのこと。
待機形態である腕時計をパソコンとUSBで繋ぐと、弾の戦闘データが電子バイザーに表示された。
そのデータを見ながら、弾の動きに対応出来るOSを組み上げていく。
近〜中距離の戦闘なら危なげなくこなせる事が分かり、ホッとしたのは内緒だ。
更に本人からの要望を受け、装備を麒麟と同じような構成へ変更した。
普段格納されている左腕のアームド・アーマーDEを覆うように、大きめのシールドを装備。弾曰く【ノワールの時はシールドが使いにくかったから、一夏のみたいに左腕に装備したい】とのこと。シールドは麒麟のよりひと回りほど大きく全体カラーが黒だが、機能は同じだ。シールド表面に対ビームコーティングを施し、内部にはIフィールドジェネレーターを搭載した。しかし弾の脳波がまだ弱いため、麒麟ほど機敏にIフィールドを発動する事は出来ない。
他、複合兵装内蔵型ビームマグナムを始めとした基本兵装は麒麟の装備のカラーリングを変えたのみなので割愛する。
「…出来た。とりあえず、しばらくはデストロイモードになるのは諦めてくれ。正直、お前の脳波レベルじゃ狙って【変身】させる事は出来そうにない」
「おう。まあ、ノワールを思考展開出来る様になったのも最近だし、予想はついてた。調整さんきゅな」
「どういたしまして。それと、多分明日はお前と一夏たちで模擬戦になると思う」
「それは何で?」
「千冬の性格から考えて、まずお前の実力を生で見たがる。だからまずは代表候補生'sと模擬戦をして、最後に一夏と…ってな」
「うげ、代表候補生たちともやるの?面倒だな」
「そう言うな。ノワールの武装の確認がてらだと思ってくれ」
「あ、なるほど」
「いきなり実戦なんてわざわざ狙うもんじゃないし、その機体はかなりのジャジャ馬みたいだしな…少しでも長く起動してほしい」
いくらS.M.Sと言えども、短期間で弾専用にカスタマイズする事は出来なかった。こればかりはひたすら展開時間を稼ぐしかない。
「デストロイモード移行に関しては、宗介に連絡しておくから、近いうちに専用改装が出来ると思う。だからお前は現段階でのバンシィの装備を完璧に把握しろ」
「了解!」
そして翌日…一樹の予想通り、午後の授業全部を使って、弾vs1年専用機持ちの模擬戦が行われる事になった。
…ご丁寧に、1年生全員が見れる様にして。
「え?え?何これ?動物園のパンダ?」
「「それを俺たちは半年前から喰らってる」」
「本当にお疲れ様でした!」
出撃準備のためにピットに移動した男子3人。システムに不調が無い事を確認すると、弾はカタパルトに移動した。
「最初の相手は…雪か」
「何か気をつける事は?」
「お前が生きて家に戻れる様に戦え」
「対戦相手より味方の方が怖い!?」
ガクブルと震えながら出撃すると、先に出ていた雪恵(アストレイ・ゼロのI.W.S.P装備)が苦笑いを浮かべていた。
「あー…もしかしなくてもかーくんに脅された?」
「は、はい…」
「なんか、ごめんね?」
「い、いえ大丈夫です。ちゃんと試合形式で戦えば良い話なので」
「うん、よろしくね。あと敬語じゃなくて良いよ?」
「お、おう…」
『それでは、五反田君対田中さんの模擬戦を開始して下さい』
麻耶のアナウンスが終わると同時に、雪恵は弾に向かって飛び、弾は後退した。
「逃がさないよ!」
後退し続ける弾に、ビームライフルを連発する雪恵。
シールドを構えながら、雪恵の移動速度を確認する。
「うし、そろそろ行くか」
ビームサーベルを抜刀すると、初めて前進。
対する雪恵も、ビームライフルを腰に移動させるとI.W.S.P専用のビームソードを抜刀。近接戦闘に臨む。
バチィィンッ!!
一瞬サーベルとソードがぶつかると、弾は素早く刀身の向きを変えて雪恵の攻撃を受け流した。
「え」
「ごめんお終い」
あっさりと受け流され、呆けてしまう雪恵。
その隙を見逃す弾ではない。ビームマグナムをガトリングモードに切り替えて連発。あっという間にアストレイ・ゼロのシールドエネルギーを無くした。
『勝者、五反田弾』
「あー負けちゃった…」
「田中さん、怪我はしてないよねそうだよね?」
「何で負けた私より五反田君の方が震えてるの…」
言うまでもなく一樹への恐怖だ。
呆れながらピットに戻っていく雪恵を見送り、シールドエネルギーを消費していない弾はそのまま試合に挑む事にした。
しかし、後が詰まっているのでダイジェストでお送りする。
・篠ノ之箒戦
「アンタには前振りはいらねえ…最初っからクライマックスだ!!」
「な、何をそんなに怒って…ウワァァァァ!?」
・セシリア・オルコット戦
「お前倒すけど良いよな?答えは聞いてねえ!」
「ちょっ、攻撃に殺気が篭ってますわよ!?い、イヤァァァァ!!?」
・凰鈴音戦
「やる前に言っておく。俺はかーなーり、実は怒ってる」
「予想はしてたけど!キャラ変わりすぎじゃない!?ちょっ、ま…」
一樹には語られていないが、弾にはTOP7の少年達から『あの3人と対戦することになったら構わん、全力で潰せ』との指令を受けていたので、問答無用で叩き潰した弾。
その後のシャルロットやラウラ、簪戦はどちらかというと相手の練習になるような対戦を心がけた。
そして、何よりやりたがっていた一夏との模擬戦だが…
「よし、お前の実力は充分わかった。だからもう模擬戦はやめようそうしよう」
千冬が青ざめた顔で模擬戦を打ち切った。
「「「何でじゃァァァァ!?」」」
一樹に一夏、そして弾の魂の叫びに怯みながらも千冬は怯えている生徒たちを指す。
「織斑以外の代表候補生をほぼ瞬殺出来る実力があると分かった以上、私の授業での対応は決まった。それに…正直に言うと、お前らがぶつかるとそろそろアリーナが壊れる気がしてならない」
思わず納得してしまう3人であった。
次回、ドラマCD編