『力を欲しますか?』
「…誰だ?」
海岸を歩いていた一夏の脳裏に突如響く声。当然警戒レベルを上げる一夏。
『そんなに警戒しないで良いよ。私たちはあなたの味方だから』
先ほどとは違う声。両方とも声音は優しいが、姿を見ない限り一夏は警戒するなと言われても無理だ。
「悪いな、流石に姿が見えない相手を警戒しないのは無理だ」
『なるほど。失礼しました』
『すぐ行くから待ってて』
声が告げると、一夏の目の前に2人の少女が現れた。艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、大和撫子を体現した少女と、人懐っこい笑みを浮かべる少女が…
「…初めまして、で良いのかな?」
『どういうこと?』
「あなた達の声が聞こえる前、海岸を歩いてたんだ。だけど…」
一夏は左腕をあげる。
「
『なるほど。妙に落ち着いていると思ったらそういうことだったのですね。確かに
『私たちISのコアはみんな繋がってるんだけど、
2人の姿に、一夏は懐かしさと温かさを感じていた。その理由が、普段自分を守ってくれているISの意識だからとは…
「そうか…コアの中は、こんな綺麗な世界が広がってたんだな…」
『綺麗、ですか…ふふ、悪い気はしませんね』
『前、この最深部に来た人も同じことを言ってたよ…
笑みを浮かべるコアの意識たち。
「…ところで、俺は何て呼べば良いんだ?」
『私に名前はありません。強いて言うなら、機体名である白式です』
「…君が白式の意識だったのか。いつもありがとう」
白式の意識に向けて笑顔を向ける一夏。
『いえ…私のせいで、あなたは…』
「ごめんな。たしかに『反応が鈍い』なんて言われたら責めてる様に聞こえちゃうよな…アレは関節の電気伝達が問題だったんだ」
『し、しかし現に私のスペックはあなたの反応速度に…』
「俺と君は普段脳波リンクをしてるだろ?展開に問題が無い以上、君の落ち度はないよ。強いて言うならこの関節機構を採用した倉持技研にあるくらいだ。データ上は君のスペックが問題の様に映っちゃうけど…」
一樹と共に白式のOSを弄っていた際、脳波リンクには全く問題は無かった。そして、こんな緊急事態に一夏が出撃する理由も本来なら無い。関節機構の遅さで他の専用機持ちとは良いパワーバランスでもあることを理解していたから…
『そう、だったのですか…』
『白式ちゃんは結構気にしてたんだよ。マスターであるあなたの筋肉にダメージを与え続けてる事を』
「そうだったのか…ところで、君は白式の意識じゃないのか?」
最初からずっといるので、一夏は意識がふたつあると思ってたのだが…
『うん。ISのコア1つに意識は1つしか無いの。私はたまたま遊びに来てただけだよ。だからこそ、あなたに力を与えられる』
『彼女は私たちISコアの中でも特別な存在なんです』
「それで最初の話になるのか…」
『そう。あなたは、力を求める?』
そう聞いて来る少女の顔は、先ほどまでの人懐っこい笑顔ではなく、真剣そのものだった。一夏も茶化す事なく、真面目に答える。
「力か…欲しくないって言ったら嘘になるけど、身の丈以上の力はいらないな」
『…どうしてそう思うの?』
「力ってのは不思議でな。自分の心の強さと同じくらいじゃないと身を滅ぼすんだ。だから、俺に合った力は欲しい。けど、強すぎる力はいらない」
現に、箒は専用機という力を求め、それを手にした。だが、紅椿という力は箒には強すぎた。力を持った事で浮かれ、弱い者を見捨てるほどに…
『つまりあなたは、心の強さと力がイコールにならなきゃいけないって思うの?』
「ああ。心の強さと同じくらいなら、相手の力量を冷静に図ることも出来るしな」
『…そう。そう考えられるあなたなら、大丈夫かもね。この
「可能性の獣?」
『すぐに分かるよ。でも、そのためには行かなくちゃ。あなたを待ってる人がたくさんいるから…あなたに、『力』を…』
目の前の少女がそう祈るように言うと、一夏の体が光に包まれる。
「君は…」
『私は、開発者である篠ノ之博士と、マスターの意思で今は封印されてるの。当時のマスターにとって私は、君が言ったように強すぎる力だったから。でも、そろそろ私もマスターに会えるかな…』
「きっと会えるさ。君と話せるマスターなら。それと、白式」
『はい、何でしょう?』
ずっと黙って聞いていた白式の意識に話しかける一夏。
「これから、意識である君を呼ぶ時は『ハク』って呼ぶよ。いつまでも女の子に兵器の名前で呼ぶのもね…」
『ハク…ありがとうございます!素敵な名前です‼︎』
「こちらこそ、ありがとう…」
そう言って、一夏は光に包まれて消えた。
「おはよう…千冬姉」
「ッ⁉︎」
司令室で独断行動していた5人を見守っていた千冬の後ろから、慣れ親しんだ声が聞こえた。
「い、一夏!体は大丈夫なのか⁉︎」
「ああ…この通り傷1つ無いぜ?」
実際、その状態で片腕逆立ちをやってみせる一夏。確かに怪我は治った様だ。
「っと、千冬姉、俺に出撃許可をくれ。アイツらを…助けに行く」
「し、しかし今のお前の機体では…」
「いや、白式はやっと俺に
「…信じて良いんだな?」
一夏は無言で頷く。
「…今度こそ、無事に帰って来いよ、一夏」
「ああ…行ってきます!」
司令室を飛び出す一夏。対福音の最後の希望が…飛び出す。
「頼んだぞ、一夏」
旅館から飛び出し、崖の前で止まる一夏。
「…行くぞ!白式‼︎」
一夏は白い光を纏いながら、福音のいるポイントまで全力で飛んだ。
少し時は戻る。一樹を包んだ光は超高速で宇宙へ上がり、ピンク色の船『エターナル』へ向かっていた。
「7時の方向からすごい速さで何かが接近して来ます」
ブリッジクルーであるメイリン・ホークの言葉に、珈琲を飲んでいたエターナル副長、アンドリュー・パルトフェルドが顔を引き締める。
「モニターに出せるか?」
「すぐに出します」
エターナルのメインモニターには光に包まれた一樹が映っていた。
「これは…一樹君だ!ハッチを開け!医療班用意!大怪我を負ったボスが帰って来たぞ‼︎」
光はエターナルの格納庫に入った。ハッチが閉まり、エアーブロックが正常に作動すると光が晴れ、そこには傷だらけの一樹がいた。
「ウグッ!ハァ、ハァ、ハァ…ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ。グボア!」
咳き込み、口を手で押さえるとその手には血が付着していた。そこに医療班が到着する。
「社長!」
「大丈夫ですか⁉︎」
「あまり…ウグッ」
痛みに耐えきれず、その場で気絶し、浮かぶ一樹。医療班より早くその一樹を抱えたのは宗介だった。
「…状況は知ってる。遅くなって悪かった」
宗介が一樹に謝りながら医療班と協力して担架に乗せる。医療班は一樹をすぐに治療室へ運び、治療を開始しようとするが、筋肉への負担がかかりすぎて断絶、そしてビームを直接受けたことによる火傷など、普通の治療では手遅れな状況だ。だが、ここ『S.M.S』の医療スタッフの腕もあり、危険域は脱した。数十分後…体のあちこちに包帯を巻いた一樹がいた。すぐにどこかへ行こうとする一樹の目の前に宗介が立ちふさがる。
「宗介…」
「お前、やっぱり、行くのか?」
「ああ…」
ストライクのカメラ越しとは言え、箒を始めとした女子生徒の憎悪のこもった視線、見下す視線を宗介たちは見ていたのだ。
「お前をいないものとして扱うのがほとんどなのにか?」
「確かに、IS学園のほとんどの生徒はおれが気に食わないだろうな。けど、俺はそんな人でも…護りたい。平和な生活を送ってるみんなを…掛け替えのない日常で笑ってる人を…それが、俺に出来る『償い』だから』
静かに言う一樹だが、その目には強い意志があった。こうなると何を言っても聞かないと分かってる宗介は…
「…そうかい。なら着いてきな」
イタズラっぽく笑うと、宗介はついて来いと手招きする。一樹は素直について行くとそこには…
「コイツは…」
「最新型EX-アーマー『フリーダム』。タービンエンジンの改良によって出力が上昇。そのおかげでマグネット・コーティングに回せる電力も増えた。更に頭部装甲の取り付けで脳波を受信、関節機構に先読みさせてる事で反応速度をあげた。無論火力も上昇してるぜ。これなら…」
機体を見ただけで、一樹の中で大きく動く物があった。これなら、自分はどこまでも飛べる。そう思わせてくれると…
「一樹、俺から…いや、俺達S.M.S所属者全員の願いです。『必ず帰ってきて下さい。織斑と一緒に』と…」
S.M.Sの敬礼をした宗介に一樹も敬礼で返す。
「約束しよう。今度は怪我無しの状態で帰ってくるさ」
宗介がデッキから出ると、一樹はフリーダムを装備、スペックを確認していた。
「Nジャマーキャンセラーの小型化に成功したのか?だからタービンエンジンの出力を上げられたと。凄え…ノータッチの状態でストライクの4倍以上のパワーがある…」
徐々にフリーダム頭上のハッチが開いていく。それと同時に、フリーダムのスラスター推力を少しずつ上げていく一樹。
「頼むぜ。フリーダム」
ハッチが完全に開いた。
『一樹君、帰って来たら僕の新しいブレンドをご馳走する。早めに帰って来いよ』
「ああ。櫻井一樹、フリーダム、行きます‼︎」
フリーダムがストライクとは比べものにならないスピードで上昇、地球に向けて全速力で飛んで行った。
箒達は福音のオールレンジ攻撃をなんとか避けていた。
「みんな!大丈夫⁉︎」
5人の中で一番軽傷なシャルロットが心配する。理由は一樹の設定したOSにより、シャルロットの思った通りの動きが出来るタイムラグはほぼ無い為だ。他の候補生達も長く乗っている為かタイムラグは短めだが、シャルロット程では無く、所々破損していた。特にダメージが大きいのはまだ専用機を駆って間もない箒だ。その箒に、福音のオールレンジ攻撃が迫る。箒は何とか回避するが、背中のスラスターを一門破壊された。
「グァ!」
スラスターの爆発による火花で、箒の髪を束ねていたリボンが焼けてしまう。しかもスラスターが破壊されたことにより、第四世代機ならではの高速移動が不可能になった。福音のビーム砲が箒をロックオンし、チャージされていく。
「箒さん!逃げて‼︎」
「速く逃げなさいよ‼︎」
「箒!危ない‼︎」
「そのままでは死ぬぞ‼︎」
皆が声をあげるが、箒の耳には聞こえていなかった。
「(私は…死ぬのか?一夏に謝罪も出来ず、雪恵の真相も知らないままで…)」
箒の最初に出来た友人、田中雪恵はクラスで孤立していた箒に話しかけてくれた…雪恵と会ってから、箒は恋を知り、友達と過ごす素晴らしさも実感出来た…しかし、雪恵が死んだと、担任教師から聞かされた時、箒は絶望。死んだ理由を担任に問い詰めると、一樹が風景画の写真を撮ろうとするのについて行った結果、足を滑らせ、山の急斜面を転がり落ち、石に頭をぶつけたからだったと、職員室で箒は聞かされた。雪恵はクラスでも男女問わず人気であった…その雪恵の死に一樹が関係していると、箒がクラスの女子に話し、それがどんどん広まった…
「(雪恵…私も…そっちへ行くのかもしれない…)」
一夏へ謝れない事に泣きながらも、箒は福音のビーム砲で死ぬかもしれないと言うのに、恐怖はしていなかった…
…め……よ
「(?なんだ?)」
だめ…だよ
「(この声…雪恵か⁉︎)」
箒ちゃん、諦めちゃだめだよ
「(でも、もう私は…)」
助かるから…箒ちゃんは…生きれるから…だから…諦めちゃだめだよ
「(雪恵…)」
諦めなかったら…また、会えるから…私は…死んで無いから…
「(何⁉︎)」
だから…箒ちゃんも…生きて…
雪恵の声がだんだん小さくなっていく。しかし、箒は絶望から立ち直った。
「(雪恵が…生きている?なら、私はここで死ねない‼︎)」
瞳に希望を写し、福音を見据える。しかし、福音は容赦なく極太ビームを箒に撃った。
「「「「箒ィィィィ(さぁぁん)‼︎」」」」
箒の眼前に極太ビームが迫る。箒の瞳が再び絶望に染まろうとしたその瞬間。
「ウオォォォォ‼︎」
白いISが箒とビームの間に入り、X字に開いたシールドで、福音のビームを受け止めた。
「フゥゥ…間に合ったぁ…」
その場にいた5人の顔が驚愕に包まれるが、確認が出来ない。なぜならそのISは、珍しい
「…お待たせ、箒、皆…」
その顔は…5人が好きな、優しい顔で、今最も見たい顔だった。
「「「「一夏‼︎」」」」
可能性の獣、一夏は乗りこなせるのか⁉︎