フリーダムのビームサーベルとミステリアス・レイディの碧流旋が空中で激しくぶつかり合う。だが、フリーダムはあくまで受け止めるだけで、全く攻撃しない。
「なんで攻撃してこないのよ⁉︎」
「馬鹿なクソガキ相手に本気になるのは大人気ないだろ?」
「とことん馬鹿にして…!私はロシア代表よ‼︎本気でこなきゃ死ぬわよ‼︎」
「って言ってる割には当たる予感すらしないんだが?」
確かに、更識楯無はロシア国家代表であり、IS学園最強なのだろう。だが、それは所詮『スポーツ』という枷の中での話だ。『戦い』を想定して鍛えている一夏や、『戦い』の専門家である一樹から見れば、子供がISを扱っているのと大差無いのだ。
「なら…‼︎」
楯無はミステリアス・レイディの能力、水蒸気爆発を起こすためにナノマシンを散布する楯無。ナノマシン越しに感じる敵意でそれを感じた一樹は驚愕する。
「(ッ⁉︎この馬鹿、アリーナ毎俺を吹っ飛ばす気か⁉︎)」
「(クソがッ‼︎)」
楯無の行おうとしている水蒸気爆発の範囲からアリーナを外すために、一樹はフリーダムを急浮上させる。いくらIS学園のアリーナでも、この規模の水蒸気爆発では破片が飛ぶ事だってあり得る。
「(この危険性が頭から抜けてやがるのか!ふざけんな‼︎)」
楯無は急浮上したフリーダムをナノマシンに追わせる。
「吹き飛びなさい‼︎‼︎」
楯無の意思に従い、ナノマシンは爆発を起こす。だが、楯無の目に映ったのは…
「(嘘⁉︎爆発の範囲から急加速で避けてる⁉︎)」
時にはバック転、時には舞う様に回転しながら浮上と、それを高速で行いながらナノマシンの爆発から逃れるフリーダムの動きに、楯無は空いた口が塞がらない。しかも、一樹はそれを対G性能が無いEx-アーマーでやっているのだ。楯無が思ってる以上に、この行動を行う一樹の技量、耐久力に知ってる者は驚く事だろう。
「だあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
全ての爆発を避けきった一樹はフリーダムを急降下させ、ビームサーベルで碧流旋を破壊した。呆然としていた楯無は、爆風によって体制を崩す。
「キャァァァ⁉︎」
更に一樹は右腰に装備されているもうひとつのビームサーベルも抜刀。右手のビームサーベルを順手、左手のビームサーベルを逆手で持ち、ミステリアス・レイディの武装を全て目にも留まらぬ速さで斬り捨てた。
「アアッ⁉︎」
まだ拡張領域に武装は残っているが、絶対防御が発動された影響で、その武装が使えるだけのシールドエネルギーは残されていない。楯無の完敗だ。
「少し頭を冷やすんだな‼︎」
更に楯無の両腕を拘束すると、アリーナの外で待機していた千冬に向かって投げ捨てる。
「この馬鹿の担任に伝えとけ!こいつのしでかそうとした事の愚かさと、教育の甘さをな‼︎」
「ああ…分かっている」
楯無を受け止めた千冬が弱々しく答えると、一樹は千冬とは別の方向で心配そうに自分を見上げる雪恵の元に降り、Ex-アーマーを解除した。
「かーくん、大丈夫?」
「体は全く問題無いぜ。ただ、イライラが止まらねえ。ちょっと一夏にコーヒー淹れてもらってくれ」
「うん、連絡しとく」
一樹のイライラをひしひしと感じながら、雪恵は一夏に連絡を入れるのだった。
「…で、珍しく俺の部屋に来てそんなにイラついてる訳か」
「分かってんなら早くコーヒー淹れろ」
「…はいはい。こりゃ相当だな」
普段、一樹はイライラしていても人にそれを見せる事は無い。だが、今回は下手したら人命がかかっていたため、一樹自身制御が効かなくなっている(といっても見せるだけで当たる事は無いのだが)のだ。
「かーくん、今丁度チョコレートあるんだけど、食べる?」
「悪い、一個くれ」
「はい」
雪恵から渡された一口チョコレートを食べながら、一夏が淹れたコーヒーを飲む一樹。いつもより少し多めにガムシロを入れたコーヒーは、一樹の気持ちをようやく落ち着けたのだった。
「ふう…ご馳走さん、助かったよ一夏」
「まあ、あのアマがやらかした事は俺もイラつくから、お前の気持ちも分かるよ」
苦笑いを浮かべる一夏に、一樹も苦笑いで返すと、部屋を出ようと立ち上がる。
「…じゃ、学園祭まであと少しだ。頑張れよ」
「おう」
「うん!」
翌日、その日の準備ノルマを達成した一夏。一樹、雪恵と共にアリーナに向かおうとすると、不貞腐れた顔の簪が大きな箱を抱えて待ち構えていた。
「…コレ、あなたに渡せって、宅配業者が」
「「え?」」
雪恵と一夏は不思議そうな顔をする。一樹は不審な物を見る目になっていた。
「…重いから、早く受け取って」
「あ、ああ。ありがとう」
一夏が受け取った瞬間、箱からピッ、ピッと音が聞こえ始めた。
「ッ⁉︎一夏寄越せ‼︎」
「あ、ちょ一樹‼︎」
一樹が一夏から箱をひったくると、近くの窓から飛び降り、即座にフリーダムを装備、急浮上した瞬間____
ドォォォォォォォンッ!!!!
____大爆発が起きた。
「ッ⁉︎」
「かーくん!!!!」
咄嗟に麒麟を展開して簪と雪恵を庇う一夏。雪恵は一樹の身を案ずる。
『一夏!大丈夫か⁉︎』
フリーダムから解放回線が飛んできた。フリーダムを宇宙対応モードに切り替えていたので、全身がPS装甲で守られていたのだ。一樹の声を聞き、ほっとする面々。
「ああ、俺達は大丈夫だ!」
『よし!ならすぐに千冬に連絡しろ!俺は束さんに連絡してここ30分以内に入った奴をチェックする!』
「了解だ‼︎」
しかし、束の腕を持ってしても、簪の言う宅配業者を見つける事は出来なかった…
そして学園祭当日…
「お帰りなさいませ、お嬢様」
結局、1年1組は『メイド・執事喫茶』となった。一応クラスの女子は全員メイド服(ここ重要。何故ならメイド服を着る事を喜んでいた金髪ショートの子がいるからだ)を着ている。そして唯一の男子である一夏は燕尾服を着て優雅に一礼してホールスタッフをしていた。ちなみにペア写真が1枚5000円というとんでもない値段でやっているのだが、これが大盛況である。もしかしたら既に売り上げ個数で1位を獲得しているかもしれない。そんな一夏を傍目に、ある一角では大泣きしている赤毛の長髪をバンダナで後ろに流している青年と、それを面倒そうに相手する青年がいた。
「ぢぐじょう"ぅぅぅぅ!何でアイツばっかりぃぃぃぃ⁉︎」
「お前そのリアクション何年続けるんだよ…」
赤毛の青年、五反田弾と一樹は、喫茶店の中でずっといる(無論こまめに注文している)のだが、一夏がキャーキャー言われている度に弾が泣くので、いい加減一樹もうんざりしてきた。
「…もうお前一人で学園回れよ」
「そんな事してみろ!さっき門で待ってるだけでも警備員呼ばれたのに今度は警察騒ぎだ‼︎」
「自覚してんなら大人しくしやがれ‼︎こっちだって見回りしたいんだよ‼︎」
「お前は良いよなあ!信頼出来る彼女が出来てよ‼︎」
「俺が迎えに行った時生徒会の先輩と仲良くしてたのはどこのどいつでしたっけぇ⁉︎」
「あの人は迎えが来るまで怪しまれない様にって事で話し相手になってくれてただけだよこんちくしょう‼︎」
「お前もかよ!お前も一夏と同じ唐変木かよ‼︎」
「ふざけんな!誰が唐変木だ誰が‼︎」
今にも取っ組み合いそうな雰囲気に…
「坊ちゃん方、他のお嬢様方のご迷惑になりますのでお静かにお願いします」
一夏が止めに入るが…
「「出たな元祖唐変木‼︎」」
「…誰が唐変木ですか。私は気の利く執事でございます」
「「嘘ついてんじゃねえこの中途半端ニュータイプ‼︎」」
「誰が中途半端ニュータイプじゃゴラァ‼︎‼︎」
止めに入った一夏ですら取っ組み合いに参加しかける始末…そこに____
ガンッ!!
ガンッ!!
「「イッテェェェェェ‼︎⁉︎」」
「五反田君も織斑君も静かに!他のお客さんの迷惑でしょ‼︎」
雪恵がトレイで一夏と弾の頭を強めに叩いた。
「た、田中さん…流石の俺達もコレは効く…」
「雪恵…コレはシャレになんねえよ…ってか何で一樹は叩かねえんだよ…」
「え?私がかーくんを叩くと思う?」
「聞いた俺が馬鹿だった…」
軽く諦めながら一夏は接客に戻っていく。
「お待たせしました。追加注文のサンドイッチとサービスのAランチでございます」
落ち着いたところで雪恵は注文の品を置く…のだが。
「おいコラ待て雪、『サービスのAランチ』って何だソレ。そしてこのサービス品ではあり得ないこの量は何だ?」
「…それではごゆっくりどうぞ」
「ゆ〜き〜え〜さ〜ん?聞こえてるだろう〜?」
「…だってこうでもしないとかーくん食べないじゃん」
「いやいやいやいやいや!俺充分食べてるからね⁉︎」
「…どれくらいの頻度で?」
「1日1食が健康に良いって昔の偉い人が「言う訳無いでしょ‼︎」…ほら、節約のため「かーくんそんな稼ぎ少なくないでしょ‼︎」あーもう!良いじゃねえか1日1食で‼︎」
「かーくん、普通は1日に3食食べるの!」
「それは一般人だろ⁉︎俺は“体質的”に1食で充分なんだから良いだろ⁉︎」
「かーくんの財布にお金が無いのは収入の殆どを私や『アサガオ』に送ってるからでしょ⁉︎ある意味究極の浪費家じゃん‼︎」
「どっちも必要な金なんだから良いじゃねえか!」
「アサガオはともかく私にはもう大丈夫だよ!もう下手な土地と家が一括で買えるほどあるんだよ⁉︎だからこうしてかーくんの食費に戻してるの⁉︎」
「前にも『いざという時にとっとけ』って言ったよなぁ⁉︎」
「予備の程度を越えてるよ‼︎」
…何事かと思うかもしれないが、本日弾が大体5回頼んだ内の5回とも雪恵が『サービス』として一樹に食品を出しているのだ。流石にツッコミを入れた一樹と、そして一樹を案ずる雪恵の言い争い。結局このテーブルは騒がしくなる様だ…
「あ、あの…櫻井君に雪恵ちゃん?そろそろ静かにしないと他のお客さんが…」
見かねたシャルロットが止めようとするが…
「ちょっと黙っててシャルロットちゃん、今この分からず屋に食べる事の大切さを教えてるところだから」
「ちょっと黙ってろシャルロット。今この分からず屋にお金の大切さを教えてるところだ」
ほぼ同じタイミングで似たような事を主張する2人。シャルロットではもう止められない。せめてもの救いはこの2人の言い争いを周りの客達が微笑ましく見ている事だろう…結局、一夏と弾が間に入った事で一樹と雪恵はようやく止まった。
では、また次回!