人と光の“絆”   作:フルセイバー上手くなりたい

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Episode64 理由-リーズン-

「セリー、雪の部屋に行くぞ」

「…なんで?」

「このシャワーじゃセリーには合わないからだよ。ちゃんとしたシャワー浴びれるから、雪と一夏の部屋に行くぞ」

「…わかった」

セリーは洗面用具を持つと、一樹と一緒に1025室へ向かう。

 

「俺じゃなく、一樹が狙いになる…ですか?」

「そう。一夏くんも決して弱くは無いわよ?それでも…櫻井君と比べると…」

「大丈夫です。自覚はあります。現に俺は一度もアイツに勝ててないですから」

苦笑いを浮かべながら話す一夏。

「…そう。話を戻すけど、一夏くんをターゲットとした場合、遅かれ早かれ櫻井君が援護に行くわよね?」

「まあ、そうですね」

「つまり、一夏くんを狙う=櫻井君と合流されて連携で大ダメージを喰らう…これが今までの流れ。けど、最初っから櫻井君がターゲットの場合、誰も援護には行けないわ」

「「なっ!?」」

「一夏くん。仮にも櫻井君は【護衛役】なの。護衛役(櫻井君)が囲まれたからって、護衛対象(一夏くん)が援護に行くのはおかしいのよ」

辛そうに話す楯無。IS学園最強である楯無でさえ、一夏の足元にも及ばなかったのだ。他の生徒が行ったところで、足手まといにしかならないだろう。

「…学園は、一樹を見捨てるってことですか…?」

「…そうなる確率が高いわね」

この前までの自分だったらすぐにそうするだろう。だが、妹の簪に話を聞いてから楯無の考えは変わった。

 

『櫻井君はね、哀しい人なの』

『哀しい人?』

簪のISである【打鉄弐式】の製作中、打鉄弐式に搭載されている高性能OSを見た楯無。そのOSを開発した者の名を簪から聞いた時、楯無は驚きを隠せなかった。人見知りする簪が、何故一樹にOS設定を許したのか聞いたところ、簪はそう答えたのだ。

『私みたいな人見知りで、内気な子にも視線を合わせて話してくれるのに、誰にも認められない人…お姉ちゃんも、この間までは櫻井君の事を認めてなかったでしょ?』

『え、ええ…』

『お姉ちゃんだけじゃない。この学園のほとんどが、櫻井君を認めてないと思う。だって、たまに廊下で見るから。織斑一夏がいない時に、みんなが櫻井君を見る目を…』

『…どんな目なの?』

『邪魔者のように見る目、ゴミを見るような目、存在を否定する目…挙げだしたらキリがないよ』

思い出すだけでも体が震えている簪。直接その視線を受けてない簪ですらこうなのだ。実際にその視線を受けている一樹の【痛み】は計り知れない。

『最近、1組の人はそんな事ないんだけどね…織斑一夏以外のみんながその目で見てた時、櫻井君が整備室に来る時は顔色が悪い時がほとんどだったよ』

誰もいないと思って整備室に入った時、一樹の顔色はあまりいいものではなかった。

『誰よりも優しくて、強い人なのに…誰よりも哀しくて、弱い人なんだよ。櫻井君は』

 

「…一夏くんを直接狙っても、すぐに連携で崩される。けど、櫻井君だけを集中して狙えば…」

「生徒ではないかーくんを、教頭達は見捨てる。生徒の保護を口上に」

「実際、生徒の中で最強の一夏くん(護衛対象)を援護に出す訳には行かないから、櫻井君は孤立する…」

楯無、雪恵の予想に、一夏は拳を固く握りしめる。

「なんでだよ…なんでそこまで⁉︎」

「…それが、今の世界情勢なの。それに何度も言ってるけど、櫻井君は生徒としてでも、係員でも、ましてや教師でもなんでもない。各国の偉い人の命令で入っているの。IS学園の教師のほとんどはそれに反対したけど、各国首領陣のサインには勝てなかったから…」

辛そうに説明する楯無。だが、一夏は怒りを抑えきれずに叫ぶ。

「だから、一樹を排斥するためなら亡国機業に手を貸す形になっても良いと?ふざけんな!いままでこの学園を…世界を守って来たのは誰だと思ってんだ!」

「織斑君…楯無さんに当たってもしょうがないよ…」

興奮気味の一夏を落ち着かせる雪恵。

「あ…すみません」

「いいのよ。私もついこの間までは、それに関して見て見ぬフリをしてたんだから…とにかく、その事を頭に入れておいてね」

「「分かりました」」

「うん…おやすみ」

そう言うと、楯無は部屋から出て行った。

 

「(次に亡国機業が攻めて来たら、私が必ず食い止める…今度は2人だけには背負わせない)」

楯無が決意を固めていると、一樹がセリーを連れて来た。

「あれ?更識楯無じゃねえか。どうしたんだ?」

「…何してたの?」

「あ、櫻井君にセリーちゃん。ちょっと一夏くんとお話をね…2人は?」

表情はいつも通りに、2人と話す楯無。

「俺はセリーをこの部屋に連れて来ただけ。流石に女の子に冷水シャワー浴びせるわけにはいかねえからな」

「……ごめんなさい」

一樹を整備室に住ませると決めた1人である楯無は深く腰を折った。

「別にもう良い…ただ、セリーだけは許してくれよ」

「え、ええ。それはもちろん。セリーちゃんは大浴場使っても良いし」

「あ、なるほど。その手もあったか。じゃあ次から雪と一緒に入ってもらうわ。とりあえずセリー、部屋に入ってシャワー浴びてこい。終わったら迎えに来るから」

「ん、分かった」

セリーは扉をノックし、部屋に入った。

「……で、一夏にどんな話をしたのか聞かせてくれるか?亡国機業関係だったらなおさらな」

「…あなたはもう知ってると思うけど、先ほど亡国機業がアメリカの軍事施設を襲撃したわ。幸いISを奪われる事は無かったけど、襲撃者の腕はかなりのものだったらしいわ」

「ISを奪われなかった、ってのは聞けてよかったぜ。で、襲撃者のISの名は?」

「イギリスから強奪された【サイレント・ゼフィルス】だそうよ」

「オッケー。こっちの情報とも合ってるから裏付けは取れた。情報収集出来る人が2人以上いると助かるぜ」

「…ありがとう」

「気にすんな。更識家にはこれからもお世話になりますぜ?情報関連はお宅の方が良い場合もあるしな」

「…そのかわり、荒事は未経験なのよね、私。暗部が聞いて呆れるでしょ?」

自虐気味に話す楯無に、一樹は苦笑する。

「んにゃ全然。荒事は()の仕事なんだ。暗部だからって命をかける事は無いさ。その命は、大切なものを守るための命なんだから」

「…櫻井君」

楯無は、一夏に向けるのはまた別種の感情を一樹に向けていた。一夏に向けている感情の名は【恋】。一夏の隣に、立ちたい…そんな気持ち。そして、一樹に向けている感情の名は【憧れ】。どれだけ走っても、彼の進む速さにはついていけない。だからせめて、視界に入れられるくらいの位置を維持したい。彼の大きくて、小さな背中が見える位置を。一夏と共に…追いかけたい。

「(私も…あなたのように強くなれるかしら?)」

まるで父親を見るような目で、楯無は一樹を見送った。

 

「かーくん、セリーちゃん終わったよ」

「ん、気持ちよかった」

「そりゃ良かった」

シャワーを浴びてほっこり顔のセリー。一樹も楯無との会話を終えて冷水シャワーを浴びたので髪が少し濡れている。

「じゃ雪。ありがとな」

「ユキエ、ばいばい」

「ばいばいセリーちゃん。明日は一緒にお風呂行こうね」

雪恵に礼を言い、整備室へと戻る一樹とセリー。

「カズキの手、冷たい」

一樹の手を握ったセリーが呟く。

「悪い悪い。なら手離すか?」

「ん…このままでいい」

「あいよ」

整備室に着き、セリーに寝袋を渡す一樹。

「これ使ってくれ」

「ありがとう…」

よっぽど眠かったのか、寝袋に入ったセリーはすぐ寝てしまった。

「おやすみ、セリー」

 

一夏と雪恵も就寝の準備をしていた。すると、ノックの音が聞こえた。

『一夏に雪恵ちゃん。今大丈夫かな?』

「シャル?入ってきていいぞ」

「鍵は開いてるからね〜」

客はシャルロットだった。

「どうしたんだシャル?こんな時間に…」

「えっと…その…」

言いづらそうなシャルロットを見て、雪恵は苦笑する。

「…あ、ちょっとセリーちゃんに渡すものがあったんだ。ちょっとかーくんとこ行ってくるね」

「あ、ああ」

一夏にそう言うと、雪恵は部屋を出て行った。

「あ、あのさ一夏」

「ん?」

「こ、今度の週末、遊びに行かない!?」

 

「ってことで、多分今頃シャルロットちゃんが織斑君を誘ってるんじゃないかな?」

「…そうか」

セリーを起こさないために廊下に出た一樹と会話する雪恵。

「一夏の誕生日プレゼントを買うのが口実かな?」

「そうだと思うよ」

窓から見える星空をぼーっと眺める一樹。そんな一樹に、雪恵はずっと気になっていた事を聞く。

「ねえかーくん」

「ん?」

「…カメラ、どうしたの?」

「…」

昔はずっと首にかけていたデジタル一眼レフ。しかし、雪恵がIS学園に来てからはその姿を見ない。

「…学園には持って来てるの?」

「いや…家に封印してるよ。たまに帰った時は手入れをしてるけど」

「どうして?昔はずっと持ってたのに」

「…中2の終わり時…3月末頃にさ」

一樹は、カメラを持たなくなった理由を語り始めた。

「小4のあの事件以降、俺には心の支えが必要だった。だから、ひたすら『綺麗なもの』を撮り続けたんだ。青空や星空、夕日、海、森、力強く生きる動物たち…けど、中学で出来た友人____この間会った五反田弾な____に勧められたんだ。『そんなに写真撮ってるならコンクールに出してみたらどうだ?』ってな」

「うん…」

「一夏も勧めてくれたんだ。アイツも、結構写真を撮ってるからな。それで、あまりに勧めるもんだから、とりあえず俺のお気に入りを何枚か送ったんだ」

 

『なんの勉強もしてない素人の写真が通るわけねえだろ…一次審査で落ちると思うぜ?』

『何言ってんだ!お前の写真は下手な写真家より上手いんだぞ!』

『おい弾。写真で生活してる人たちに謝れ』

弾の発言にツッコミを入れる一樹。

『でも一樹。実際お前の写真を見てると落ち着くんだ。弾の言う事もあながち間違いじゃないぜ?』

自身も写真を撮ることがある一夏がそう言う。

『…そう言うお前はどうするんだよ。コンクール出さないのか?』

『俺は思い出写真ってことで、誰かしらが必ず写ってるからな。出すわけにはいかねえよ』

『風景画撮れば良い話じゃね?』

『流石にそれは無いな。それこそコンクールを侮辱してる事になる』

『まあ、分からなくはないけど』

そして一次審査の結果が届いた。

『『どうだった?』』

本人以上にワクワクしている一夏と弾。一樹は無言で通知を渡す。

『どれどれ…!?』

『送った写真…全部通ってやがる!?』

コンクールを勧めた2人が驚いている。

『…ちなみにお前らの予想は何だったんだ?』

『送った何枚かの内』

『2枚は通ると思った』

 

「もしかして、その2枚って…」

「お前が()()()()に撮った奴だよ…」

 

二次審査は広い会場に展示された各写真を見た一般客による投票だった。一樹は他の参加者の写真を見るために、会場へと来ていた。そして____

『何だよ…コレは…』

____自分の写真の『汚さ』が見えてしまった…

『何で…こんな写真が…ここにいれるんだよ…』

端から見れば、確かに自然の美しさが撮れているだろう。しかし、写真を通して撮った者の意思が見えるとしたら…

『なんて…きたないしゃしんだよ…』

しかも、その写真が賞を取ってしまい、一樹はその後カメラを持てなくなってしまった…

 

「今は持つ事は何とか…けど、写真を撮る事は、無理だな…」

「そう…」

しばらく、2人の間を重い空気が流れる…

「…よし!今度の週末、どこに行こっか?」

雪恵は、重い空気を吹き飛ばす様に笑顔を見せる。一樹はそれに、少し救われるのだった。




次はデートに行けるのかな…?

頑張ろう…
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