やったるでぇ!
…頑張りますはい。
一樹が学園を去ってから早数日、俺と箒は黛さんから話を聞いていた。
「雑誌のインタビュー…?」
「そうそう。あれ?2人はこういうの初めて?」
「「はい」」
息を揃えて頷く俺たち。箒の顔が赤くなってる。何故だ?
「そっかー。専用機持ちっていうのは結構モデルとかやる人が多いんだよね〜」
「へえ。ってことはセシリアとか鈴とかやってるのか?」
何気なく後ろにいるセシリアと鈴に聞いてみる。箒は気付いてなかったのか、ギョッとしていた。おいおい、気配を感じただろ?
「当然ですわ!」
腰に手を当てるお約束のポーズが決まっている。
「私ほどの者になれば…」
うんたらから
「…というわけでして…」
うんたらから
「長いよ⁉︎『やったことがある』の一言で良いじゃん!男の子は長話する人は嫌いなんだよ⁉︎」
雪恵が渾身のツッコミを入れた。いやまあ、確かにあまりにも長い話は嫌いだけどさ。雪恵のソレは一樹のじゃないか?アイツは射程以外、長すぎるのは嫌いだったような気が…
「ッ⁉︎し、失礼しましたわ!」
雪恵の言葉を聞いた途端、セシリアは話すのをやめた。すごいな雪恵。
「まあ、セシリアの話が無駄に長いのは置いといて」
「無駄⁉︎無駄とおっしゃいましたね鈴さん!」
鈴の言葉が聞き捨てならなかったのか、セシリアが大きな声を上げる。そんな大声出すと喉に悪いぞ?
「代表候補生ってのは、その国、企業のアイドル的扱いになってたりするからね。アタシもやったことあるし」
「へー。シャルは無理だったとして、ラウラは?」
「わ、私は一度だけ雑誌のグラビアを飾ったぐらいだ…」
恥ずかしがながら言うラウラ。そんなに嫌だったのか?
「ねえ一夏。僕は無理だって、どういう意味なのかなかな?」
はっ⁉︎シャルの顔から黒いオーラが!笑ってるのに笑ってない⁉︎
「い、いやだって、シャルは非公式のパイロットだって言ってたし、あの時は男装してたみたいだし…」
理由を必死に説明する俺を、雪恵は冷たい目で見てくる。俺にMっ気はないぞ⁉︎
「今のは織斑君の言い方が悪いよ」
「大変申し訳ありませんでした」
自分が悪いと思ったら謝るのは大事だよな、うん。
…あれ?さっきのシャルのオーラって、確か雪恵にも…ハッ⁉︎
「……」ニコッ
元祖来たぁぁぁぁぁ⁉︎こ、怖い…マジギレした時の一樹並みに怖い…
「…次は無いよ?」
「イエス、マム」
専用機持ちの中で、実は雪恵が1番強いのではないかと思う今日この頃。
「それは織斑君だよ?私むしろ1番弱いよ」
どの口が言ってるんですか!
…というかさっきから思考が読まれてる件。
「なんか、こうして見てると雪恵ちゃんってお母さんみたいだよね」
ふと思ったのか、シャルが言ってくる。
「シャルロットちゃん程じゃないよ。女手一つで13年間も子供を育てたシャルロットちゃん程じゃ」
「ねえちょっと待って!それ僕じゃないから!僕まだ高校生、分かる⁉︎」
「えーっと、どこかにクリーム色の長髪を、尻尾の様に肩に掛けてる男子生徒が…」
「一夏もノらないで⁉︎」
「そういえばシャルロット。アンタいつからブロンドだったっけ?茶髪じゃなかった?」
「鈴まで⁉︎」
シャルがみんなからいじられていると、痺れを切らした黛さん。
「あのー、そろそろ本題に戻っていただけると…」
「あ、すみません!雑誌のインタビューですよね?」
「そう!放課後にまた聞くから、少し考えといて。あと…」
黛さんは声量を落とすと、俺と雪恵に小さく聞いて来た。
「…櫻井君のことで、何かわかったら連絡するね。今、
「「⁉︎」」
俺と雪恵の顔に、驚愕が走る。つまり…
「櫻井君がいなくなったのが、あまりにも急すぎるから…誰か、裏工作をしてるのかもしれない。2人は特に櫻井君と親しかったから、気をつけて」
「「お気遣い、感謝します」」
「___って訳だ。
『了解、完成したら報告するよ』
一樹はS.M.S社長室から、宇宙にいる祐人と通信で会話をしていた。ほぼタイムラグが無いのが不思議で仕方ない。
『にしても、フリーダムもダメだったとなると相当シビアな反応速度になるぞ?』
「むしろそれが丁度良いよ。俺には」
『それもそうか。じゃ、こっちは作業に移るな』
「ああ、頼んだ」
祐人との通信を切ると、一樹はトレーニングウェアに着替え、灼熱地獄へ向かおうとする。
『マスター、今日はダメ。昨日のダメージが残りすぎてる』
先日、再会を果たしたミオが一樹を止める。
「……」
『ちょマスター⁉︎なんで無言で首飾りを外そうとしてるの⁉︎』
「…協力してくれるんじゃないのか?」
『それはそれ、これはこれ』
しれっと言い放つミオ。一樹はコアである首飾りを外すと、部屋へと向かう。
『ああマスター⁉︎置いてかないで‼︎』
放課後、部活に向かおうとする箒に俺は話しかけた。
「なあ箒。さっき黛さんに言われた件、どうする?」
「当然断る。見世物など、私の主義に反するからな」
「ま、そうだよな。俺もそういうの苦手だし」
良かった、箒も断るみたいだ。俺がほっとしていると、その黛さんがやってきた。
「やっほー、お待たせ〜。それでね、取材の件なんだけど」
「ああ、すみませんけど…」
俺が断ろうとしたところを、黛さんの言葉に遮られる。
「じゃん!この豪華一流ホテルのディナー招待券が報酬よ。もちろん、ペアで」
そう言って、黛さんはホテルのパンフレットを俺と箒に渡してきた。
…うわ、このホテルかよ。一樹と宗介と行って、『バーの雰囲気は良いけど、レストランはダメ』の共通認識のところじゃねえか!余計行きたくね…
「受けましょう」
おいコラちょっと待て
「え?ほんとに?篠ノ之さん、こういうのイヤかなーって思ったのに」
「何事も経験ですから」
だから…
「そっかぁ。じゃあ決まりね。織斑君もそれで良いよね?じゃあ明後日の日曜日に取材だから、この住所にお昼の2時までに来てね」
そう言って、黛さんは去っていった。
…俺の意思を聞かずに。
「…おい箒」
「何だ?」
「主義はどうした」
「わ、私は柔軟な思考を持っているのだ!」
そう言って目をそらす箒。なんだそりゃ…
「い、一夏!」
「ん?」
「こ、このディナー、一緒に行かないか⁉︎」
うーん…正直あまり乗り気じゃないんだけど…断るのも悪いし。何より折角の高級店のタダ飯だ。行かないと勿体無いな。
「おう、強制的に受けさせられるんだ。これで報酬も貰えないなんて言ったら怒るぞ」
まあ、少しくらい皮肉を入れても良いだろう。
「(よし…よし!一夏と高級ホテルのディナーだ!)」
恋する乙女には、一夏の皮肉が聞こえていなかった。なんとも都合のいい思考回路である。
「はぁ…面倒くせえ…」
「いやまあ、気持ちは分かるけどさ?箒ちゃんの前でそれはやめてあげてね?」
その日の夜、夕食を取り終えた俺と雪恵は部屋でくつろいでいた。取材の件を話すと、雪恵は苦笑いを浮かべる。
「隠し通さなきゃいけないのも大変だね?織斑君」
「一応、在学中はどこにも所属してないって事にしておかないと、面倒だからな」
しかし、S.M.S以上の企業から声が来るわけないしなぁ…俺的にはもうバラしても良いと思うけどな。
「かーくんが頑張ってるんだから、織斑君も頑張らないと」
「そこなんだよなぁ…」
俺以上にこの学園、この世界に振り回されている一樹に比べれば、全然楽なんだけど…俺が喋らなければ良い話だし。
「…あれ?セリーちゃんから電話だ」
雪恵が視線で俺に出て良いか聞いてくる。
「出てやれよ。セリーも寂しがってるだろうしな」
「…ありがと」
雪恵が電話をするために、少し離れると…
コンコン
扉がノックされた。誰だろうな、こんな時間に。
「はーい、どなた…」
「こんばんは♪」
扇子を持った水色の髪を見た瞬間、俺は扉を閉め、鍵を閉め、チェーンロックもかけた。
「ちょ、フル締め出し⁉︎流石のお姉さんも泣くわよ⁉︎」
「はぁ…」
渋々扉を開けると、泣きそうな顔の楯無さんがいた。
その手に握られている扇子には、『鬼畜』の文字。あなた最近メンタル弱すぎませんか…?
「うぅ…折角櫻井君の情報が入手出来たのにぃ…」
「何やってるんですか楯無さん、早く入ってください。あ、お茶淹れますか?」
「いっそ清々しい程の手の平返しね⁉︎」
何言ってるのやら?お客にお茶を出すのは当たり前でしょ?
『グスン、グスン…』
「いつまで泣いてるんだよ…」
本日の修行を終えた一樹は、タオルで汗を拭きながらミオに話しかけていた。
『だって…だって、再会してすぐに放置プレイって…マスターの鬼!鬼畜!ドS‼︎』
「ひどい言われようだ…」
改めて剣の首飾りをかけると、猛抗議してくるミオ。
『ふんだ。こんな事するんならもう協力してあげないもん!』
「そうか。ならフリーダムのままで何とかするだけだな」
『ごめんなさいお許しをぉぉぉぉ‼︎』
「素直でよろしい」
一樹の手にかかれば、最強のISコアと言えど、子供と同じだった。
『うぅ…これでも私は篠ノ之博士の最高傑作なんだよ?』
「知ってる」
『それを扱えるってことをもっと考えてさ…』
「最強のISコアだからって萎縮してたら、お前を乗りこなす事なんて出来ねえだろうが」
『…あ、ちょっと今のキュンって来た』
「ああそうかい」
S.M.S本社に戻ってから毎日、一樹は暖かい風呂に浸かっている。暖かい風呂がどれだけ贅沢なのか、この数日で改めて実感した。
「あ"あ"あ"あ"生き返るぅ〜」
『もう、マスターったらおじいちゃんみたい』
「…お前は俺の実年齢知ってるはずだが?」
『そうなんだけどね。マスターの動きとか見てるとそうは思えないんだよ』
「まあ、俺自身そんな気はしてないしな。ふとした瞬間に『そういえば俺、何歳だっけ?』と思うけど」
『ふうん』
「つまり、一樹がいなくなったのは教頭の独断であって、生徒からの訴えではないんですね?」
「うん。櫻井君は極力他者と関わらないようにしてたから、クレームが来るはずが無いんだ。あったとしても、
「…ん?1学期だけ?」
一樹が退去する前日は含まれてないのだろうか?
「私もそう思ったんだけど、
「…ってことは」
「うん。櫻井君がいなくなったのは教頭の独断」
「じゃあ、かーくんは戻ってこれるんですか⁉︎」
興奮気味に楯無さんに聞く雪恵。
まあ確かに、一樹がいなくなって1番悲しんだのは雪恵だしな。
「…分からない」
しかし、楯無さんの答えは疑問だった。
「独断とはいえ、櫻井君は1度追い出されたのよ?『こちらの判断ミスだったので戻ってくれ』って言われて、戻って来ると思う?」
「「……」」
確かに、普通は戻ってこないよな…
「私も、櫻井君はこの学園に必要不可欠だと思うの。だけど、戻ってきてもらうには、何かが足りない…今はそんな状態なの」
ただ、希望があるというだけ気持ちは楽になった。俺は楯無さんに礼を言う。
「ありがとうございます、楯無さん」
「ありがとうございます、楯無先輩」
「ううん。私は櫻井君に恩を返したいだけだから…ところで、話は変わるのだけれど」
「「はい?」」
「『全学年専用機持ちタッグマッチ』が行われることは、もう知ってるわよね?」
「ええ、まあ」
そういえば、そろそろ組む相手を決めないとな…と、俺が考えていると、楯無さんは両手を合わせて頼んできた。
「お願い一夏くん!私の妹、簪ちゃんと組んで!」
「「…は?」」
はてさて、どうなることやら。