それは…
「…悪い千冬。今なんて言ったのか、もう一度言ってもらって良い?」
千冬から告げられた事に、一樹は耳を疑った。
「だから…生徒の模擬戦に付き合ってやってくれ」
非常に頼みにくそうに千冬が言う。
「あの…今の俺、一夏の肩を借りながら歩いてる身なんですけど…」
シャドウ・デビルとの戦いの傷は、まだ治っていない…
「それは充分承知の上だ…」
「こんな状態で、専用機持ちと戦うのは…やれなくは無いけどさ…」
「ん?ああ説明が足りなかった。相手してほしいのは訓練機の方だ」
「…はい?」
千冬の説明はこうだ。最近、学園を襲撃されるのがもはや当たり前となってきている。何かイベントが起こる度に、だ。専用機持ちだけで対応出来るならそれが一番だが、学園の自衛のためにも一般生徒が強くなった方が良い…と。
「…なーる。その案には賛成」
「決してお前がいなくなるためって訳では無いぞ?」
「わーってるよ。で、機体の数は?」
「25機だ」
「…は?」
「だから、25機だ」
あれ?デジャビュ?
「(…なあミオ。俺たちの初陣って何機が相手だったっけ?)」
『……25機、だよ』
ミオも同じ事を思ったのか、何とも言えない表情をしていた。
「ま、まさか私たちが櫻井君に相手してもらえるなんて!」
「あのカッコいい機体が間近で見れるなんて!」
「「「「生きてて良かった!」」」」
実習の時間になった。千冬の指示で、それぞれ機体を纏った1組の生徒たちに、雪恵は苦笑を隠せない。
「あの…かーくんが相手って意味を、正しく理解してる?」
「「「「…私たち何分保つと思う?」」」」
さっきまでのテンションはどこへやら、一気にお通夜の様になる生徒たち。
「…まあ、1分保てば上々じゃないか?」
「「「「秒殺の可能性!!?」」」」
一夏の回答に、生徒たちに黒い波線が現れる。
「今回の貴様らの目標は、櫻井相手に1分保つことだ。出来なかったら…」
「「「「出来なかったら?」」」」
「私が直々に補習を行ってやろう」
「「「「地獄しかない!!?」」」」
「全部聞こえてるんだけど…」
ピットのベンチで一樹は苦笑する。
『マスター、手加減してあげるの?』
「…出来ればな」
今、一樹のコンディションは最悪に近い。現に、このピットに来るまでセリーの肩を借りた程だ。
「手加減しなくても…今全力出したら普段の手加減になるんじゃね?幾らお前の性能があっても」
『マスター…』
「ま、なるようになるさ」
フリーダムを展開し、カタパルトと接続する。
「とりあえず、楽しもうぜミオ」
『…うん!』
カタパルトから出撃したフリーダム。華麗に舞う様に飛びながら、VPS装甲を起動させる。
「来たァァァァ!!」
「やっぱりカッコいいよあの機体!」
フリーダムを待ち望んでいた生徒達。中には関節部の輝きに、眩しそうに手をかざす生徒もいた。
「…本当に25機だ」
『あの時のまんま戦っちゃう?』
「それだと…何分?」
『あの時は2分掛かったよ』
「なら、丁度良いか」
作戦?を決めた一樹とミオ。
「あ、ミオ。ちょっと話したい事があるから回線つないでくれ」
『良いけど…誰と?』
「一夏」
「セシリア、一樹がよく見ておけだってさ」
一旦一夏を経由して、セシリアに言う一樹。
「え、えっと…何故私ですの?」
「かーくんが使う武装が、セシリアちゃんの参考になれば、だと思うよ」
一通りフリーダムの武装を知っている一夏と雪恵は、何か企む様な顔をしている。
「ふむ。何か櫻井には考えがあるようだな…ちゃんと学習しろよ、オルコット」
「は、はい…」
開始の合図を待つ一樹と生徒達…
試合、開始!
麻耶のアナウンスを聞いて、最初に動いたのはラファールを纏った生徒達だ。
搭載されているマイクロミサイルを、牽制の意味を込めてフリーダムに向かって撃つ。
「行くぜ、ミオ」
『うん!』
フリーダムはそのミサイルを物ともせずに、隙間を縫う様に飛ぶ。
「「「なっ!!?」」」
ミサイルを難なく避けたフリーダムに、ラファール達が愕然としている。
左腰のビームサーベルを抜刀すると、固まっていた2機のラファールをすれ違い様に戦闘不能にする。
「せめて1発は当てる!!!!」
今度は打鉄の部隊がガトリングガンを一斉射してくる。
「甘い甘い」
弾丸の嵐を避けながら、打鉄部隊のガトリングガンを切断。
「囲むよ!」
誰かがそう叫ぶと、4機が一樹を囲む様に動くが、それは持ち替えた2丁のビームライフルによって迎撃される。
「なんのぉ!!」
「コレでぇ!!」
フリーダムの動きを止めようと、迎撃されたラファールの2機が、ワイヤーを射出。フリーダムの左脚、右腕を捕らえた。
…あれ?デジャビュ?
「今だよ!みんな!」
フリーダムの動きを完全に制止したと思ったのか、一斉に攻撃してくる。
「見てろよオルコット。ビットってのはな、こう使うんだ」
翼のスーパードラグーンを射出し、まずはワイヤーを破壊。次に飛んで来た実体弾達を破壊する。
「「「「嘘ぉぉ!!?」」」」
「う、嘘ですわ…8機ものビットを、同時に動かすなんて」
同時に動かすのは、4機が限界のセシリアには、その場面は衝撃すぎた。
「しかも射出してからも、高速で動いてるしな」
一夏が少年の様な笑みを浮かべながら言う。普段、一樹が機体を展開する時は、自分か襲撃者の相手をする時だけだ。
それが、第三者の視点で見るとここまで楽しいとは…
一夏も男子である。ロボットが戦う姿を見るというのは、心にくる物がある。それは、自分がそのロボットを扱う側に立っても変わらない。
ドラグーンを操作しながら、フリーダムはビームサーベルを振り回して暴れる。数の上では有利な筈の生徒達が、防戦一方になるくらいには。
フリーダムの斬撃からどうにかして逃れようと下がれば、そこはドラグーンが狙っている。
「「「「もうイヤ!!!!櫻井君の鬼!鬼畜!ドS‼︎」」」」
『マスターを理解する女の子が着実に増えてるね』
「…そこまで言うならもう終わらせるよ」
練習に付き合わされた挙句、そんな事を言われるとは…一樹は呆れながら、フリーダムを急上昇させてマルチロックオン。
「…はい、お終い」
「「「「イヤァァァァ!!?」」」」
「…丁度1分。櫻井め、遊んでたな」
「いやあ!第三者の目で見ると楽し…一樹?」
ゆっくりと下降してきたフリーダム。そして解除した途端、一樹は膝を付いた。
「ハア、ハア、ハア…」
その額からは大量の汗、制服に少し血が滲んでいる…血?
「「セリィィィ!!急患だぁぁぁ!!!!」」
織斑姉弟の声が、アリーナ中に響いたのだった。
「ねえカズキ。何で戦っても無いのに傷口開いてるの?」
「フリーダム動かすのに夢中で、怪我の事を忘れてた」
相変わらずの一樹に、セリーは頭を抱えるのだった…
8巻行っくぞぉぉぉぉ!!!!