‥まぁ、神だとは扱われていなくとも、神話に出てくる時点で何等かの力があると見なされている事は確かだ
君らも解っているだろう
力を持つ者達-人が「神格」と揶揄される話だ
幻謎
神殺しと神喰らいの明確な差違
この話をする際、前段階として頻度多く用いられる話題が「信仰」という存在である
この考えは、第零次元世界に限られた現象ではない、と発言する者もいる
信仰とは、どれ程その領域が狭くとも、信仰者が単独であろうとも、成立し、信仰から成る「宗教」はアニミズムから続く、信仰体系の一つとされている
基本的に、今日の第零次元世界において、宗教と認められているものは、法整備の下で活動する事を許可されたものであるが、それも信仰体系の一つであると考えなければ、事が理解し難いものとなる
信仰体系は、宗教という特定の領域を形成しなければ成立しないものではない
可能な限り簡易な説明をするなら、自分の持つ能力を信じ行動する事、それ自体は信仰ではないが、その延長線上に信仰がある
信じるという事を逸脱し、信じ切るを踏み越え、信念を捻り変え、責無く心頭する、そこに信仰という意味と信仰体系があるという考え
それは日常茶飯事、あるいは趣味活動、革命か画期的活動、制作活動、活動だけではない思想や思考、考察といった、人間生活、人が生きるそれ自体に対しても信仰という存在が大小問わず内在しているのではないか、という事だ
これが事実であるかは不明だ
理由は明白だろう
これは考えであり、この信仰に対する考察からすれば、この考えもまた、信仰に類するからだ
重要なのは、その対象が何であれ、というところにある
神殺しは、あらゆる手段を用いてその神格を殺す
殺す対象はその神格のみであるが、神格の殺し方は様々で、信仰者を全滅させる事や、その信仰区域の存在を消す等、数多の方法がある
簡単な殺り方であるが、第零次元世界においては効果が若干だった為、神殺しの報告例は数少ない
神殺しは根断ちの様なものであり、断っただけでは根こそぎ絶やす事は出来ない、という事だろう
余談ではあるが、神滅ぼし、神狩りもまた、その両方と異なる
神狩りとは、根絶やす事
信仰となる根本とそれに関係する物事を全て狩り尽くす、第零次元世界に点在する狩者ら特有の共通認識と思考回路から、神狩りの在り方は決定していた
それは何事に置いても徹底的であり、神狩りによって第零次元世界から消え去った信仰は特定が不可能である程だった
狩者達の凄惨なこの行動、元となった発想とその発端は、未だ詳細不明である
神滅ぼしとは、その神格の存在全てを消滅させる事
この4つ中で最も徹底した神格に対する蹂躙行動
これには最早、信仰に類する事物も関係が無い
只々その存在と関わったものは、一時的な事であろうと全てを滅ぼすだけに過ぎないからだ
この行動を行った者は数名しか確認されていない
明確な情報は一つのみ、その数名全員が、ファントムオールスターズである
神は何であるか、神喰らいを記す上で前述しておこう
先ず解る事が一つ、「神格」という事である
人という存在では決して扱われる事がなく、神という存在もまた、代替不可能な存在として扱われる
この表現は別段に特異な事でもなく、当然の事である
存在というもの自体、別の存在とは代替不可能だからだ
神格は先ず、信仰され、崇め奉られる事によって、その畏敬の念が抱かれているならば、神格としての存在を確立し保証される
逆説的に、信仰されず、畏敬の念もなくば、それは妄想の類いと同一視される事となる
だが、この記述は、ただ騙す為の嘘だった
神格とは、
これが、神格の信仰体系であり、神格の存在を形成する信仰の基本型である
想いによって存在を失い、幻の一種となった、それが「神格」
その為、決して人という存在では扱われず、人に帰る事も叶わない
ある特有の力を持つ人間を飼い殺しにする為に使用された
それは本来、自身の存在へ積む事によって存在を変更するもので、一応自身以外の存在にも適用する事が出来るが、膨大な幻気を消費し、失敗すれば存在が消滅する
人により生み出された
人に帰る事が不可能であるのも当然だ、一度、
ここで注意すべきは、神格が幻想の一類、あるいは幻想に近い、成りつつ在る存在であり、幻想が神格という事ではない
幻、幻影は勿論、幻想にも種類がある
その在り方を変える業が、秘匿された所以
その世界区域における絶対の力を背景に、「神格が支配者である」という認識を刷り込み、民達を神格の恐怖に縛り付け、かつて厳格であった指導者らは自分達の地位を確立すべく暗躍する支配者となり、私利私欲の為に神話を制作した
神話は、まさにそれが「今日に在る現実」として著されたもので、責任転嫁された事実など一切も掲載されていなかった
力を持つ者達は、人々の支えとなる心の拠り所となる為だけに、ただ困っている人々を助けたかったが為だけに、その一心のみで神格となった
そして、神格となった人間は全員、その想いを踏み躙られ、ただ利用されていた
それは古来より、政と信仰から成る「宗教」は切り離すことが出来ないものである事を説明出来る
支配者層の道具であった
侵略、支配、統制、血統、権利、排除、自分達限定の全行動、その全てを正当のものとして拡大していく事が常である
時間が経過すると同時に、始まりとなったはずの熱意と想いは埋れ消え、ごく自然と意図有り無しに関わらず簡単に腐敗する
重んじる戒律も既に意味は無く、神格に依存しすぎた人々の末路は容易に想像できる
「神話」という秘匿が破られ、そこで起きたのが、神喰らいである
神喰らい
それは、度し難い神業だった
姿形は知られず、信仰者も不明、神業のみが伝わっており噂だけがただただ一人歩きをするが、その本質は誰も解っておらず、定かではないが、神格らでさえ知る者がいない、とまでされている
厄喰い、あるいは怨飲み、または穢れ吸いの神として存在していた神格で、人のおぞましい業を一身に引き受けるその神業は、本神共に酷く恐れられていたが、その世界区域では必要不可欠な存在だった為、誰一人として、その神業を有する在り方を侮辱する者はいなかった
その神業は、神格としての在り方に従い、力が影響する範囲をある一部に限定させて使用していたものであった事が、神喰らい後に判明した
その業の本来が、
文字通り、存在の全てを喰らうという業だが、人で在った時は、飢餓状態でなければ使用できないという条件があった
その業の力は、幻想となった事で条件が幻気の使用へと変わり、力の範囲が
そして神格を、幻想を、喰らった
神喰らいとは、神格の存在をそのまま喰らい、神格の力、神業、背負う
信仰の全てをその一身に背負う「神喰らい」は、第零次元世界の神格を謎神、唯一とした
場所ー地下空間ー地下施設 ?
ある者が歩いていた
静まり返った通路を足音も立たせず、だがその足取りは見事な程に軽く、弾んでいる
幻魂御社の周りを取り囲む様に広がる地下空間
その空間に先程から何気なく彷徨くその者を見れば、地下底を歩くに相応しくないと誰もが思うだろう
一目見て分かる、動きに特化した軽装、道具等も所持していない
顔の半分程度を何かで覆い、もう片方の目がある部分から頬にかけて、複数の抉り傷が伸びている
外見からして見れば視覚が無いその者は、僅かに照らす通路の灯りさえ利用出来ないにも関わらず、通路の段差を支障なく跨いでいく
?
「神は二日と経たず消え、謎だけが残った…何時思い出しても面白い言葉だ」
その言葉を口にした辺りから、妙にご機嫌な様子になる
余程気分の良い言葉なのだろうか、静寂な空間に鼻歌が少し響く
ここは今も利用者が訪れる、地下施設
研究、収容、倉庫、墓地、作業、住宅、様々な用途を有する施設であり、地盤を基準とした設計になっている為、施設の階数は多い
先の闘いにより、人間の存在自体が消失してしまったにも関わらず利用者がいるというのは、現にこの者が足を踏み入れているからである
ただ、施設を利用する為に訪れてはいない
歩幅を段々と狭くすると同時に、緩やかに軽く弾む足を止め、進路方向を向いたまま半歩左足を前に出し半身となり、何処からとも無く特大直刺剣を取り出す
?
「…さて、先ずは
(…‥
存在障り
以前では存在しない者が出現した後にのみ確認されていたが、先の闘いが要因となって第零次元世界に出現が増大した存在の破片、幻気の塊に類する
接近に対し攻撃性を有するものもあり、幻気がある方へと集まる習性を持つが、発生から一定の時間が経過すると幻気に変化している為、その習性、特質も解っていない
存在障りという名は通称で、本来の名称は存在の残滓
存在障りとは、群がる様に集まる様子が存在を消したくなる程に鬱陶しい事から呼称されている
その者は少し辺りを確認する為か、顔を見回す様に辺りに向ける
その者の眼前には今、存在障りが輪郭のみ人の形を成して通路の壁や天井、床の上に揺れ動きながら歩まず立っている
何かを阻むように、あるいは待っているかの様な状態であるとその者は一切動じず考えるが、斬り捨て先に進まねば事は解らない
それに、此処に赴くに至った用事もある
?
(出現原因を探りたいが‥今は用事が最優先だな、排除するだけでいいか)
先程取り出した足元に突き刺さっている特大直刺剣を右手で引き抜き、右足を存在障りの方へ一歩出すと同時に、剣先を下に向け自分の前に構える
その動きを確認したのか、存在障りの内一つがその者の間合いに一瞬で入り込む
存在障りは右腕部分を手刀の様に構え、左足を踏み込ませた
片足が床から離れたその隙きを読み狙ったかの如く、その者は右足を抜き、存在障りの懐に右足を踏み込ませると、左手を少し抑えるように右手の傍に添え、右下側から左上側、斜めに斬り上げた
床に左足が着く間も無く、間合いに入った存在障りの上半身部分は斬り上げられ、天井に叩き付けられた後、張り付いたまま消滅した
?
(…変わらずあっさりしてるが、いつも通り数は多いな)
他の存在障りは一つが斬り上げられている最中に、既に後ろへ複数回り込んでおり、挟み撃ちをして行動範囲を徐々に狭めようとする
だがそれが通用するのは、俊敏性に欠ける者に限定される
存在障りが複数、その者の前後から同時に5つ、腕部や脚部で鋭い攻撃を繰り出す
存在障りはそれぞれ、その者の後頭部、右肩付け根、鳩尾、左膝前後の中心を狙い、逃げ場を極力無くし攻撃一つは通そうと突進する
だが、攻撃全てがその者に回避された
後頭部は頭を下げ、右肩を前に出す様に上半身を捻って半身となり、上半身を捻った勢いで鳩尾も逸らす
その状態のまま進行しながら体勢を低くし、膝の位置を変え、存在障りの狙い全てを避け切る
その者はそのまま前方方向にいる存在障りの懐に、低姿勢を維持したまま踏み込み滑り込むと、自分の動きを後から追う様に剣先を床に滑らせ、右斜め下から斬り上げ、斜めの斬り入り進路を鋭く左右に斬り替えジグザグに4、5回、細々にして有無を云わせず排除する
無論、存在障りの反撃もあるが、それはまるで隙間を突き抜ける風の如く回避し続け、その動きの一連で存在障りを次々と斬り飛ばす
?
(
「どうした、先の勢いはもう終わりかよ」
一息、呆れた様に息を吐いた
その後、両方の口端を釣り上げ、頬の筋肉を大きく動かし、少し開口して微笑む
それと同時に特大直刺剣を両手で持ち、剣先を斜めに下げ左側に構え、進行方向を180度反転すると同時に動きが止まっていた存在障りへと突っ込む
その者は楽しんでいる、闘うこと自体ではなく、蹂躙をし尽くす事を
突如として動き始めた存在障りは消し飛んだ他の存在障りを気にする素振りも無く、引き寄せられる様に次々とその者に飛び込んで行く
先程の攻め方とは少し違い、飛び込んでいる最中に存在障りは各々で武器らしき物を形成し、直ぐ様二組や三組になり、組み合わせ毎で散らばって動き出した
その者は数歩前まで接近した組に対し、右足で床を蹴り速度を上げ進路変更して瞬時に近付き、特大直刺剣の剣先をその組内の存在障り一つに向け突き出した
そして、突き刺したと同時に右斜め下へと引き抜き、今度は突き刺した場所を中心に右斜め上から横8の字描く軌道で薙ぎ払う様に大きく斜め十字を斬り込む
横へと飛び出してきた存在障りも巻き込み一気に数を減らしていく
この斬撃を回避し、あるいは元々、斬撃範囲外の存在障りが次々に距離を詰め、斬撃の合間を抜けてその者の左右真横の空きを埋め、そのまま攻め入る
その者は右足で地面を蹴り、軽く跳躍すると、今度は床に向かって大きく斜め十字、わざと地面を抉る様に深々と特大直刺剣を差し込み、床を抉り刻む
この時、抉り刻んだ事で床の破片が左右横方向へ広範囲に飛び散った
斬撃により凄まじい速度で動く、幻気を含んだ床の破片は、容赦なく存在障りを壁に押し付け、破片の当たった箇所から順に、壁を土台にすり潰していく
散弾すり潰しを免れつつも渦中にいた存在障りはこれに怯み、その者はその隙きを使って、左足から着地し、左足を軸にそのまま右足を捻る様に床を蹴り続け数回転、特大直刺剣を横に構え残りの存在障りを薙ぎ払った
?
「これで終いか、意外と多かったな…」
(ここには存在障りが集まっていた、上で何か‥上は確か死屍の海か、…少し急ぐか)
向かって来た存在障りを全て斬り捨てた後に回転を止めると、少し斬り跡の残った通路の壁を視る様に覗い、特大直刺剣を器用に回転させ逆手に持って、通路の横壁に突き刺し、身を翻して目的順路に足を進める
突き刺した剣は、何時の間にか仕舞われており、刺し跡だけが残っていた
上を見上げ、壁を見透かしているのか、何かを視ている様だ
?
(さて…あいつは無事かな)
見上げる事を止めると、再び右足から一歩、次に左足を一歩、右でまた一歩と、進み始める
変わらず軽快な足取りをするも、先程とは表情が少しばかり違い、僅かに足早にもなっている
地下施設の最深部とは程遠い、地下施設の最上階部分
地下施設の複数ある出入り口のいずれからも遠く離れる場所、幻魂御社の真下に位置する隠し出入り口が設置された通路
その出入り口の正面にある認証装置が備えられた扉の前まで足を進め止まると、扉へと足先を向け、真正面に立つ
その扉は一見、今まで通路にあったものとは装飾、造りも同様の量産物と判断出来るが、幻魂御社同様、
?
「ほいっと、解除」
その者は認証装置に幻気で触れると、扉は一定の速度で開く
開く扉により、その者の眼前には予想外の存在が一つ、視界に入る
?
(…あれは、‥)
大分専門的な改造を施された部屋の中央、医療器具と実験器具に囲まれた特殊なベット、その上に横たわる者と、器具だらけの中に空いた僅かな空間の中を佇む者、その二者が在る
横たわる方は、おそらく10代
そして、現代の量産品、その中でもオーソドックスな恰好をしている
特殊なベットの上であるのに対し、それ相応の服装でないという事は、処置を終え、再び服装を整えている事を意味する
佇む方は、ボロい布羽織で全身を隠す様に覆い、頭部は被り物を被っている
足だけが布羽織から出ているが、ただその形状は、人の足ではない
予想だにしなかった存在は佇む方、此処に訪れること自体今まで、その者は視た事が無かったからだ
?
「迎えはお前だったか、ミドッザ」
(‥意外な顔だ)
?
「…珍しいな、
(噂をすれば、…とはな)
振り返ることも無く言葉を発する幻謎は、ミドッザが部屋に入ってくる前と変わらずか、特殊なベットに横たわる者を静観している
それに対し呆然として言葉を返した後、ミドッザは少し息を飲んだ
そんなミドッザに幻謎は、静観する事をやめ、左足を斜め後ろに半歩、下げると同時に身体をミドッザの方に開き、何気なく視線を向ける
幻謎
「
(様子を見るに‥俺は、少し…意外だったのか)
ミドッザ
「…何故か
(
ミドッザ・アフターマン
九騎士の一名、冒涜の騎士 血統者ミドッザ
過去の戦闘により、顔左側を損傷、目を中心に抉り傷が縦に広がっている
顔右側は特殊な顔帯で覆っているが、詳細は不明
アフターマン
それは、”滅亡後の生き残り”を意味する言葉であり、ある終焉の目撃者である証
ミドッザはその生物種の血統唯一として存在しており、その終わりを一番よく知る者として、アフターマンと名乗っている
謎神の存在だった者、
かつて神格として神業を使用し、他の神格全てを喰らった
喰らいの業を持っていた事を理由に神格となったらしいが、実際のところ、神格になった動機すら不明である
神喰らい後、紆余曲折在ってファントムオールスターズに所属した
幻謎はそのままミドッザを眺めたまま、ミドッザはその様子に少し首を左に、幻謎を視返す様に傾げる
前触れも無く、二者の間には無言がある、両名共に自然と沈黙したのである
幻謎とミドッザは知り合いだ、だが、何時も気を置かず話をする仲では無い
幻謎
「‥
ミドッザ
「そうした方が良いだろう、この装置を
この特殊なベットは見た目に反して、医療行為を行っていない状態の仕組み自体は簡単で、案外誰でも操作が出来るのだが、この装置には幻気が使われている
その為、幻気が今どの様な状態で装置内で作用しているのか、その現時点での行為実行者以外では把握が困難となっており、下手に触る事が出来ない
使用者の意識があるなら、機器の内側から簡単に確認する事ができる様になっている
幻謎
「意識は‥も、まだか」
ミドッザ
「‥」
沈黙が再び訪れる
幻謎は顔だけを戻して特殊なベットに横たわる者を再び少し眺め、また顔だけを動かしミドッザの方を向く
望んでもいない沈黙を破る為、言葉を発する
幻謎
(……ふむ、‥あ、そうだ)
「ところで見ていて唐突に思い出したのだが、闘いが始まる少し前、人がある社に集まっているところを見かけた‥」
ミドッザ
「‥え?、…ああ、うん」
(‥なんか始まったな、入り方が無理矢理過ぎるだろ)
呆れた顔を向けるミドッザに対し、幻謎は我存ぜぬの態度で話を続ける
その態度にミドッザは少し口を挟もうとするが、幻謎が何かを嫌がって無理矢理話をし始めた事を瞬時に察知し、黙って話を聞き入る
幻謎
「何でも、もう人が訪れなくなった神社で、取り壊してしまうそうだったのだが、そこに居た人だかりの内、二人が言っていた」
(始まり方に無理はあったが‥始まれば関係は無いな、よし)
荒れ果てた境内の彼方此方を人々が探り探りに観察をしている
そんな中、入り口付近にいた若者二人が休憩がてら話をしていた
帽子を被った若者
『取り壊しちまうんだってな、廃れりゃ当然か』
上着を手に持つ若者
『当たり前だろ、人が居なくなって信仰も無くなった。神も居ねぇよ、こんなとこ』
呆れた口調で帽子を被る若者に物を言う上着を持つ若者
そんな二人も作業中の人に呼ばれ、人だかりへと消える
その様子を遠くから、少し物寂しげに見る少年、その隣に幻謎がいた
幻謎
「何に対しても、人間は勝手が過ぎた。あらゆる存在が完全に消えると思い込んでいた、‥信仰も、可能性も、業も、積ったもの全てを。その結果がこれだ、ー」
ミドッザ
「…解らない事象、不明である事物を主観で判断して、それを事実として扱う。人間の悪い癖だな。所詮は信仰生物か、面白くない連中だ」
不意に開いた口に、幻謎は言いかけた言葉を止め、ミドッザの呟きに耳を傾ける
その呟きは、特に限った内容でも無く、ただの愚痴として聞き流す事が妥当ではあるのだが、「口から出た言葉」、というものに反応したのだろう
ミドッザに向けて出していた左足を左横に半歩出すと、後ろにあった右足をミドッザの方に出し、身体全体を対面させ、幻謎はミドッザの方へ改めて向き直した
ミドッザは幻謎をしっかりと見据える
幻謎
「ーだが、‥確かにそうだが、直面した現実を自分なりに視ようとする事は悪くない。それに、その人間が解釈する現実は、可能なり得るとその人間が考え信じるからこそ、だ。可能性は多く存在する。”学ぶ”という事と同様だ。例えば、次元世界の外を視てみろ」
ミドッザ
「……解釈の事は解ったが、外を視ろってのはなんか投げやりと言うか‥難しいな、少し難解じゃないか?それ。他に視野を向け‥いや、他に視野?」
(少し覚えがあるなこれ‥)
自分の言葉に疑問を抱き、ミドッザは顎に右手を当て、少し思耽ける
そして何気なく、部屋にある機材を視界に入れる
ミドッザにとっては見覚えのある機器ばかりだ、幾度も使用する機会があり、操作方法は手に馴染んでいる
物思いに耽けるミドッザに対し、幻謎は言葉を続ける
ミドッザは視界に入る機材へと歩み寄り、幻謎はそんなミドッザを見ながら、ミドッザが立っていた位置近くまで、ゆったりと足を運ぶ
幻謎
「ああ、そうだ。言葉そのままの意味として理解する事でも問題は無いが、そうした場合でも在り方は変わらん。外を直接視る事など出来ない、内に在るからこそ外を認識出来るのであって、内と外を行き来する者からすれば忘れがちな事だ」
ミドッザ
「‥凝り固まった思考、視野を持っている事に気付け、か。なんか懐かしい言葉だな‥事実一つに拘り過ぎていたあまり説教をくらった事もあったかな」
機材の前に立ち、左手で静かに触れる
機材を見下ろすかの様に、顔を下に傾け、何かを思い出している様に顔を綻ばせる
その顔は、
幻謎
「探求する事は悪くない。ただ、そこに、事実とはまた違った現実に、差異を認識する事もあるというだけだ」
ミドッザ
「存外に、そういうものなのか」
(なんかこのやり取り前にやった様な‥)
ミドッザは幻謎の方へ振り向き、右手を横腰に置き、左手で下唇の下を抑え、幻謎を見据える
幻謎は少しミドッザの方とは別の位置へと目を向けるも、直ぐにミドッザの方へと変わった
幻謎
「そういうものさ、存外にな」
(以前このやり取りをミッドザと深淵がやってたな)
ミドッザは何かを考える様子で幻謎から目線を外すと腕を組み、幻謎は再び先程とは違う場所を見る
話の途切れに二名は、同じタイミングで沈黙し、目線を反らした
補足として、以前、深淵という者が暇を持て余した際に、その場に
深淵
「‥暇だな、よし。このメンバーで少し話をしよう」
他のメンバー
「…え?」
深淵自身は暇潰し程度と主張していたが、途中から議論に変わり、更に皆がその議論に没頭して仕事をボイコットしてしまった事があり、その時以降、暇潰しの際は誰かがタイマーを持っている事が義務付けられた
今回、幻謎が話した内容は、以前深淵とミドッザとの会話内容が元となっている
ミドッザ
「‥」
(確か暇潰し程度の話をする為に深淵が考え始めたやつだったな、これ‥)
幻謎
「‥」
(あまり時間が掛からなかったな‥深淵の様にはいかんか)
幻謎
「‥そう言えば、
自称上級騎士を長とする傭兵騎士団
九名の騎士はかつて、各々の祖国に騎士として仕えていたが、ある蜂起を切っ掛けに祖国を去り、旧知であった事から集い、この団を結成
騎士の矜持はただの意地に変わり、それでも尚、騎士を名乗る者達、それが九騎士である
基本的に九騎士として傭兵業をし、仕事屋 幻人事務所の指示により、更新活動している
名前にある”九”の由来は、第零次元世界において、九という数字こそが最強である証で、だが九騎士が自ら名乗ったのではなく、そう呼称される様になった為である
自称上級忍者を頭とする傭兵忍衆
互いに旧友であり、敵対関係であったが、各組織の崩壊後、信頼に足る同士として集い、衆となる
忍者とは名乗っているだけで、出自においての忍要素は特に無く、
基本的に普通の諜報・工作機関として機能し、仕事屋 幻人事務所の指示により、更新活動している
ただ、仕事屋 幻人事務所以外の
名前にある”九”の由来は、九騎士(自称上級騎士のみ)に対抗意識のある自称上級忍者が勝手に名乗った為である
補足として、九騎士と九忍者の発足は同時期である
両方ともに元々、発足時に組織の正式名を決定しておらず、また
自称上級騎士
「こう呼ばれているから今から組織名は九騎士な」
他の九騎士メンバー
(正気かコイツ)
自称上級忍者
「
他の九忍者メンバー
「正気かお前」
という、結構軽い感じで決定されており、名前に対しては思い入も無く、特に意味はなかった
仕事屋 幻人事務所に傭兵として所属しているが、普段から九騎士、九忍者としても活動している
ただし、仕事屋 幻人事務所の指示があった場合、その指示を最優先する事を契約時に課せられている
破れば勿論、粛正である
ミドッザはゆっくりと幻謎の方を向きながら首を傾げる
ミドッザにはどうやら、幻謎の言葉が若干理解し辛いものであったらしく、返事をする間に3、4秒程、固まったままとなった
その間、ミドッザの思考内では、幻謎の言葉を反芻し、一体どんな意味合いを用いて使われたのか、少し思慮するが、直ぐ思いつき返答する
ミドッザ
「ん?‥ああ、…‥雇用形態の話か」
(在り、方…?)
幻謎
(…?)
「そうだ、雇われで目的である組織に組み入り、実績と信頼を重ね、その後に正式な組織の一員となる。これが、所属のある騎士や忍者になる最新のやり方だろう」
ミドッザ
(在り方て、‥どんな意味で聞いてんだコイツは)
「‥九忍者の方は意図が読めんが、騎士である自称上級が考えている事は分かる」
ミドッザは呆れつつ、組んでいる腕を解き、壁のある所まで歩いて背中からもたれ掛かると右脚を軸に足を組み、両手をそれぞれの側の横腰に置いてから話の続きを始める
幻謎
「……ほう?」
ミドッザ
「ただの意地だよ」
幻謎は興味津々でミドッザの方を向き、聞き入る為に数歩、ミドッザへと歩き近付いた
ミドッザはゆったりと頭を下げ、静かにある日の事を語った
仕事屋 幻人事務所の九騎士専用として用意された階にある事務室にて、活動記録を書類にまとめる作業をするミドッザと自称上級騎士が、休憩がてら駄弁っていた
ミドッザ
「ーそう言えば、何故この様な更新機関と契約をしたんだ?条件が厳しい事に加え、九騎士の負担はお前が一番大きんだぞ」
自称上級騎士
「何故だろうな、‥俺は今でも、あの時からの意地を張り続けているだけかもしれない」
ミドッザは制作した書類をまとめ、縦入れのファイル箱に押し込んだ後、しっかり入り切る様、ファイル箱の底を軽く机上に降ろし叩く
その様子を自称上級騎士は眺め、ミドッザはファイル箱を叩き止め、机上の棚に入れると言葉を続けた
ミドッザ
「捨ててしまわないのか」
ミドッザは自称上級騎士の方をジッと視る
自称上級騎士は、何時の間にかミドッザの方ではなく自身の右手を見ていた、まるで、届かなかった
自称上級騎士はその右手をゆっくりと握り締めると、椅子を座り直し一息ついて、ミドッザを見て静かに、しっかりと答えた
自称上級騎士
「捨てる事が出来るなら、騎士など最初からやっていない。お前もそうだろ?”冒涜の騎士”」
ミドッザ
「ククク…違いない」
ミドッザがそう言い終えると、二名して仕事も気にする事無く大笑いした
以降、他のメンバーが戻るまで、二名の笑い声がその階に響いていた
懐かしそうに語るミドッザは、楽しそうな身振り手振りを見せ、朗らかだった
自称上級騎士とは同年代の仲で、気を置かず言い合う事が出来る者同士、会話も楽しいのだろう
会話内容は客観的に鑑みて楽しいものではないだろうが、当事者らは堪らないそうだ
ミドッザは、過去の話から話の本筋を戻した
ミドッザ
「意地は意地だ、飢えても誰も食わん程のな」
幻謎
「‥食わせる気も無いだろう?」
幻謎は掌を上に向け、指の向きをミドッザの方へ向ける手振りで、呆れた様に指摘する
幻謎は、九騎士が何故騎士で在り続けているのか、その過去を知ろうとはしない、その姿を見続けていれば解る事だ
だがだからこそ、現在のその当事者の在り方を聞いたのである
自分自身もまた、そうであるから
ミドッザ
「当然だね‥」
ミドッザは腕を組んで、口端を伸ばし歪ませ”良い笑顔”をする
それを見て幻謎は、両手を肘より少し上に上げ、笑う様に一息ついた
その後、互いに少し微笑みながら、悪くない沈黙を過ごした
だが少しして、幻謎とミドッザは部屋の天井、だが照明器具ではなく装飾の施されていない壁の一部を眺めていた
虚空である
幻謎
「‥‥‥」
(…………)
ミドッザ
「‥‥‥」
(…………)
………
幻謎、ミドッザ
(……まだなのか、
幻闢は未だ現れず、4度の沈黙は二名の間に、只々その辛さだけを置いた
と、その時、両者の聴覚にある振動が伝わる
それは、地盤を割り、下へ下へと勢いよく突き抜ける音だった
ミドッザ
「‥これは、幻の地域の…、
幻謎
「わかっている、行くぞ!」
二名はその部屋から飛び出し、幻緑の森方面の通路を駆け抜ける
ミドッザが先行して目的現場に集まりつつある存在障りを斬り捨て走り、その後ろを幻謎が少し地面から浮遊してスライドする様に続く形で、現在地点より北上する
幻謎
(以前より存在障りが多いな‥)
「集まり具合が何やら異常だ、気をつけろ」
ミドッザ
「ああ、わかってる!」
(向こうで一体何が起こっている…!)
ー終わりの無い闘いに、自分の意志を貫く為、向かう
両者其々は、目的現場にて起こっている事態が予期せぬものである事を察知しつつも、それが
ー正悪など無く、在るのは、意地と遺志を持った者のみ
自分を通す為に、かの者達は前に進む
ー今を闘い抜く、更新者の永路
場所ー地下空間ー地下施設 幻闢研究室
ゆっくりと開かれる瞼
2、3回眼を左右に動かし、視界が明確である事を確認し、その動きの最中、装置の器具が視界に入り、何であるか視認しているようだ
今度は、頭だけを動かし、周囲を見渡す
室内の中をじっくりと観察して、此処がどの様な場所であるのか、把握しようとしている様だが、出来なかったのか、ゆっくりと頭を元の位置へ戻す
?
「……ここは、‥」
(…一体‥)
ーそして、意識を取り戻した者が一名、その永路に足を踏み入れる
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