ファントムオールスターズ   作:牙虎

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夢か現か──幻か
今となってはどうでも良い事だが

幻闢(げんびゃく) 虎牙(こうが)


第一話 闘いの続き 再始

 場所―幻魂御社―最上部中央広間

 

 

 視線を少しずつ下に向ける

 目の前に広がる世界は、有無を言わせぬ、息すら止めさせる程の壮観であった

 遥か雲の上、遮るものなど何一つない

 そして朧げだが、見える世界がおかしい

 

 

 文明や経済、貿易が盛んに行われ発展した都市(まち)並み

 

 宗教とその戒律、人徳─精神あるいは人力を超越したものを重んじ、厳かな雰囲気を醸し出した連なる建造物

 

 無法でありながら弱肉強食というものに縛られた者達がただひたすらに生と死を貪る死地

 

 荒れ果てた地と散らばる機器の残骸、淀んで緑のない戦場

 

 おどろおどろしく焼けた金属片とただ寂しく突き刺さっている建造物の成れ果てが無数に生えた平地

 

 そして幻魂御社から成る、幻始の都

 

 

 他にもちらほら見えるが、それら全てが薄く透けて重なりまるで同じ位置に在るかのような、錯覚だとしか考えられない景色だ

 ただそれでいて、その重なりが決して交差していないとわかる

 そして、視るという情報以上に強く伝わってくる

 これは現実に在る、と

 

 高くそびえ立つ幻魂御社

 その実態や役割、用途は不明であり、ただの目印として皆が使っていた

 


 

 

 幻闢(げんびゃく) 虎牙(こうが)

「いきなり撃つとは挨拶だなッ」

 

 

幻闢(げんびゃく) 虎牙(こうが)は銃撃の音が鳴り響く前に左脚を屈伸させ身体を後ろに倒すと同時にバックステップ、放たれた銃弾を回避した

さらにその奥、帯状の者は迫る銃弾を帯状の手で素早く弾き落とした

その手はその直後より崩れ始める

 

 

幻人(まぼろしびと) 景虎(かげとら)

「いや避けられるだろうと思ってつい‥」

 

 

幻人(まぼろしびと) 景虎(かげとら)は二丁の銃で帯状の者を銃撃しつつ、両脚の踏み出しを入れ替え・反転させながらステップとターンを繰り出し無数に襲い掛かる帯状の手を回避する

 

 

幻闢(げんびゃく) 虎牙(こうが)

「ついじゃねーよ!」

 

 

帯状の手は勿論、幻闢(げんびゃく) 虎牙(こうが)にも襲い掛かる

さかさず先程の長物を取り出す

斧槍剣だ

幻闢(げんびゃく) 虎牙(こうが)は手の甲と平で柄を8の字の円螺旋に描き帯状の手を弾き斬る

 

 


斧槍剣

 

斧槍、剣槍に属せない特殊な形状の上、どちらかといえば剣であるというところから名が決まった特殊剣の類

ブレイド部分は全体の半分と大きく、叩き斬る、刺し斬る、回し斬る、撫で斬る、押し斬る等が可能で用途は選ばないが、ガードは片側しかなく、重量は当然のことながら重心のバランス、元々の形状自体からして些か扱うことを考慮していない面が目立つ

 


 

 

幻闢(げんびゃく) 虎牙(こうが)

(俺が動き出したことを幻魂御社(げんこんおんしゃ)付近にいる者全てが察知しただろう事は分かっていたが‥)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程から徒広い広場をぐるっと軽く回って確認し、通路を幾つか一瞥しては離れる、時々止まりまた歩く、それを繰り返す

 だが、最初からその外付け階段に目を付けていたような、それしか見ていなかったようなそんな感じの見回り方だった

 

 

 幻闢

「さて、これからどうするか」

(……周りが今どうなってるか、然程変わっては無さそうだが)

 

 

 外付け階段は混雑時に備え、かなり余裕のある作りとなっている

 広く緩やかな傾斜、それでいて段自体の幅が足の跨ぎに対し大き過ぎず、手摺りに滑り止め、謎のクッション性がある程良い硬さの床、階と階の中継広場には憩いの場があるほどにゆったりとした空間、殆ど傾斜のないスロープなんてものまである

 

 だが階段だ

 エスカレータ、エレベータ、自動スロープ、大型昇降機、‥外付けだからこそ内部構造を気にせず文明の利器を存分に使えるものを──、階段だ

 登降する者を考えた作りになっているにも関わらず、肝心な部分─人間の負荷負担、その考慮が欠けている

 

 よくもまあ階段なんて取り付けられたものだ、建築者はどれ程の階層がこの幻魂御社にあると思っているのだろうか

 

 

 幻闢はその階段に足をかける──事はなく、落下防止柵をすり抜け縁を蹴った

 一瞬にして真っ逆さまに降りたのだ

 更に空を蹴り加速する

 

 

 幻闢

「……」

(変わってない、か‥)

 

 

 何回か空を蹴った後、相変わらずポッケに手を突っ込んだまま維持していた体勢を崩し右回り左回り、と表現するのも烏滸がましい程に不安定な落ち方を始め出した

 

 

 幻闢

「落ちてる場合じゃねぇってのに‥ったく」

(何やってんだが俺は)

 

 

 暫くその落ち方のままいたが、前転でくるりと一回転、体勢を直し足を下にして降り進む

 

 

(………)

 

 

 突然、幻闢のいる数メートル上の空間が歪み、そこから得体の知れない手が伸びて来た

 幻闢は直ぐその方向に振り向き、体を捻って手を躱す

 

 

 幻闢

「……回り道するもんじゃねぇな」

(間違いなく言える事は一つ、俺は変わったって事だな)

 

 

 先程の最短発言は嘘だったのか、そう溢す

 

 空間の歪みが広がり、幻闢を囲うかのように点々と増え始める

 幻闢は直ぐ様空を蹴って幻魂御社の壁面へと向かう、包囲を抜ける算段をつけたのだろうか一目散で歪みになど目もくれない

 空間の歪みからはその動きを封じようと幾本の腕が勢いよく伸び、幻闢に迫りくると同時に無数の腕が次々に飛び出していく

 

 

 幻闢

(…全く最近は(ことごと)く裏目に出る)

 

 

 後ろから追跡、前から阻止、上下で挟撃、左右で追い打つ

 手という手が幻闢に向けられる──が、それら全ては空を切る

 

 

(……やはり、当たらないか)

 

 

 腕の隙間、交差する狭い幅、ズレるタイミングや広がる範囲のバラつき、手というものはその数を無数にしたとしても、面にはならない、それは無数の点である

 幾ら際限のない精度で極めようとも、一つ一つの動きである以上連携は出来ても一体化して起こっているわけではないため、そこが弱点となる

 

 俊敏な動きで次々に手を掻い潜る

 横薙ぎを前に踏み込み抜け、続く2の手後ろの引き込みを手の進行方向に動きを合わせて肩で受け流し回り、3の手回り途中の腹部強襲を肩受けしていない方の手で最小限に払い除ける

 そのまま4の手、5の手、6の手と次々に続く頭部、脚部、背中を2の手の回転を活かしながら掠め()なす

 その間、幻闢はこの行動をしながら前に進んでいる

 

 単に言ってしまえば、間違いなく幻闢は空を走った

 走っただけではない、踏み込み、軽快な足運び

 今更だがこの者、人ではないようだ

 

 

 幻闢

(このまま幻魂御社の中を抜けて─…通路を幾つか回る振りして、…うぅん、逃げるか?闘うってなると厄介だし─)

 

 

当然だが、そうは問屋が卸さない

 

 

(ならば、直接叩くしかない)

 

 

突如、先程とは明らかに異なる歪みが空間に現れ始める

その歪みからこちらの空間へと引き摺り出ようかという勢いで一気に無数の手が次々と出て、まるで袋を無理やり引き破る様に空間を掴み引き裂き始めた

 

幻闢は一瞬動きを鈍らせるが、直ぐ様それを無視して一番近い通路へと突入、そのまま一気にそれを突き放そうとする──が、

 

 

バリ”バリ”ッ

 

バィンッ

 

 

そんなけたたましい音と共に、空間が歪み始めた

 

 

幻闢

「…───っ」

(─────こいつっ!)

 

 

(一か八か、一撃で決める!)

 

 

幻闢は直ぐ様その通路入口前で空を蹴り上へと逃げる

 

 

幻闢

(!、──しくったッ)

 

 

その隙を逃す者はこの場にいなかった

 

無理矢理逃げた体勢はその後の対応を一手遅らせてしまう

伸びた手は3本、だが確実な一撃をそれぞれが放つ

 

 

幻闢

「…ちっ」

(……逃げんのはやめだ、やってやろうじゃねぇか)

 

 

音も無く貫かれた部分は千切れ飛ぶ──事はなく、貫かれた中心部分は大きく穴が空いたものの、何か断絶的に繋がっているとしか思えない状態でその場に残り続けている

血が出ているわけでもなく、肉片、骨片、服の断片すら無い

右肩、胸部真ん中、そして頭部

それぞれを前面から受けているため、頭部は顔面から諸に食らっている

それを舌打ち一つ零す程度に、人間とは違った感覚が伝わってくる

 

 

「終わりだ」

(ここだ、ここで決める──決めなければならないっ!)

 

 

声と同時に歪みから細長く鋭利な見た目の何かが、幻闢目掛けて突っ込んでくる

 

 

幻闢

「終わんのはテメェだ、空気野郎」

(ここまで食らってやったんだ、逃がすかよ)

 

 

そのまま幻闢の体を貫こうと言わんばかりに突き立てた鋭利な先端を、幻闢は左手で鷲掴みにして止める

力負けする事も、腕が振れることもなくピタリと止まり、鷲掴みにした先端を上にひん曲げる様に力を入れ、右手で何かを掴む仕草をし始めた

 

 

ピキッピキッッ ピシッッ

 

 

聞けば誰もが嫌な音だと思うだろう破砕音が音を立て始める

 

 

「グ──ッ!」

(やはり今の状態では無理か‥!)

 

 

すると突然、幻闢の左手は空を掴み、まるで何事もなかったかのように先端も、腕も消えた

幻闢は無言で両腕を下ろすと、幻闢の状態までもが元に戻っている

 

 

幻闢

(‥逃げて、ねぇな。だが位置が分からねえ‥相変わらず幻気(まぼろけ)を上手く消しやがる)

 

 

幻闢はそのまま動かずジッと止まる、まるで獲物を待つ狩者(かるもの)かの様に

 

──しん、とした空気が場に広がる

 


 

幻気(まぼろけ)

存在しない者(幻、幻影、幻想等)が持つ、または用いる力の源流

存在しない者(幻、幻影、幻想等)幻気(まぼろけ)により、存在、汎ゆる概念に干渉する事が出来るようになり、また世界空間、存在ある者に対しても干渉出来るようになる

 


 

存在しない者(幻、幻影、幻想等)

汎ゆる時間、空間、世界空間等に存在が無い者

基本、存在しない者(幻、幻影、幻想等)同士でしか干渉出来ず、概念も無く、存在しない者が時間、空間、世界空間等に存在するには幻気(まぼろけ)を必要とする

存在しない者には(まぼろし)幻影(げんえい)幻想(げんそう)幻生(げんせい)…etcと多くの分類があり、大きくは幻、幻影、幻想の3つとなる

 


 

微動だにせず、待ちの態勢のままで居続ける幻闢は、手短に現状の整理をつける

その間、右手は先程から維持したまま、握る手前の形で動きは止まっている

 

 

幻闢

(幻気検索(まぼろけけんさく)にも引っ掛からなかった事を鑑みるに、─奴は多量の幻気(まぼろけ)を失っているはず…)

(………ふむ)

(しかし、あの状態になってても逃げねえとは‥、奴ら、余裕ないみたいだな‥)

 

 


 

幻気検索(まぼろけけんさく)

幻気(まぼろけ)を用いた存在点検索

存在しない者(幻、幻影、幻想等)に存在は無いが、幻気(まぼろけ)を用い存在点検索とを干渉させる事で検索を可能とする

 


 

存在点検索

時空間上にある存在点を世界空間内から検索、割り出し、世界空間内の位置を特定する業

 

と、このように業と説明しているが、この業を使用した者はいない

皆、何かしらの力を用いてこの業を再現しているだけで、何の力を用いずこの業を使用など出来ていない

有り得ないのだ、世界空間全体に特定の存在を認識するという原理上、業を起動する力を用いないという事は、力を用いる必要が無い状態と同じであると言えるのだから

 


 

存在点

 

 


 

時間点

 

 


 

空間点

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程現れた者は上に留まっていると察知するが全く動きがないどころか、その者の存在が薄っすらぼやけている様にみえる

 直ぐ様は追うことはなくとも、遠距離での他の牽制行動、状況の様子見、陽動工作、手段は豊富だ

 それにも関わらず軽々と回避可能な腕の牽制だけを出現させ、存在をぼやかすだけしている幻に疑問を抱いた

 

 

 幻闢

(どういう事だ? ……何を考えている、待てこの手は覚えが―)

 

 

 存在しない者(幻、幻影、幻想等)のこの行動に不安がよぎった幻闢は嫌な予感がする方向に視界を向ける

 そして下を確認したその瞬間、驚愕した

 先程現れた存在しない者(幻、幻影、幻想等)がほんの数㎞先に居たからだ

 

 

 幻闢

(危ねぇえ! 下確認してなかったら直撃を食らっていた……そうかあの野郎、幻気を置きやがったな)

 

 

 ? 

(……流石に気付くか、本当に良い勘をしている……戦闘的思考(直感)も衰えは無いようだ)

 

 

 幻気は存在しない者(幻、幻影、幻想等)が発するものであり、そのもの同士でしかそれを感知することができない

 そして当然のことながら存在を得なければ存在しない者(幻、幻影、幻想等)はそのもの同士でしか干渉できない

 そうでなくとも、存在しない者(幻、幻影、幻想等)には概念も定義も無い

 何か触れたければ、触れるための概念や定義に先ず触れなければならない

 そうしなくてもいい物も、勿論ある

 

 先程、幻闢の言った「置く」とは幻気をその場に留めておくという事である

 幻気は存在しない者(幻、幻影、幻想等)の根源であり、その者たちにとっての全てである

 そして存在しない者(幻、幻影、幻想等)は幻気で自身のなす事全てをこなす

 

 

 空中を留まっていた幻闢はその幻に対して真っ直ぐ降下する

 幻闢の視界はすぐそこの幻を捉えている

 今、闘いたくはなくとも対峙してしまっては仕方ないと判断したのか、先程の慎重さはなく勢いだけがあった

 

 

 幻闢

「こういう闘い方……相変わらずだな、幻朧」

 

 

 戦闘態勢を取りつつ、対峙者の名を告げる

 何度も闘った相手なのだろうか、存在しない者(幻、幻影、幻想等)の名は既に把握していた

 

 

 幻朧

「そう言うお前も変わってはいないぞ、いや少しは変化したか」

 

 

 対峙者の含みある発言に興味を隠せないでいる幻闢は質問する前にある事を聞かれた

 

 

 幻闢

「一体どういうー」

 

 幻朧

「あの人間はどうした、簡単にくたばる奴でもないだろう」

 

 幻闢

「……」

 

 

 その言葉に質問しようとする言葉の続きを止める幻闢

 幻闢にとってかの者がどうなったかについては、幻闢自身も知りたいものではある

 

 -そして両者は共に接近する

 

 

 幻闢

「あいつに聞くのが一番早いんじゃないか?」

 

 

 だから一呼吸おいてそう返した

 幻闢は前々から、こいつらは興味がある事に対しては物覚えのいいやつだ、と再確認した

 幻闢は幻朧が伸ばしてきた数本の腕を、身を捩り右回転、左回転しながら降下していく

 近づくにつれ、腕は桁違いに増え、避けるのが厳しくなっていき、擦れ擦れに接近する

 

 

 幻朧

「そうか、では消えろ。幻闢」

 

 

 そして対峙者の実に勝手かつ理不尽な物言いである

 

 

 幻闢

(……あれで納得したのか、こいつ)

 

 

 呆れつつそう思い、幻朧の腕を何本か同時に足踏み蹴りをして後ろに高く飛んだ

 その後、態勢を整え、構えた

 

 

 -幻闘、再始

 

 

 

 

 




存在しない者を内包するのもまた存在しない者

最後まで読んで頂きありがとうございます


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