それが深淵と一つと成るか、新たな深淵と成るかは俺の知った事ではない
自称上級騎士
騎士
それは-秩序を、国を、民を、そして人としての存在を、全てを守護る者として闘う者
忠誠からか、憧れか、誉れか
自身の力を武器に込め、全力で奮う
歳がどうであろうと関係無く、生物種の違いがあろうと彼らは闘う
守護るものがなくなろうとも、騎士は自分の道を行くのだろう
場所-
幻門
それは幻魂御社と外側とを閉す領域であり、境界線
門の部分の中で一番初めに目にするのは、大扉である
見た目は縦長の長方形、突如として開き、また突如として閉まる自動扉─だが、扉が開くのは何時も限って、幻魂御社に認められた者が扉の前に立った時のみ
そこから先が門の内部となっているが、何故門の内部となっているのか、幻門とは一体何なのか、不明である
?
「…あいつは去ったか」
広場の片隅、幻門からは遠く離れ、対面し合うような位置
上を見上げ、独り片足を立てその足に同じ側の腕を乗せ座っている者が呟く
上半身は頭全体と肩、胸部、腹部、手の甲、下半身は膝から脚の甲までを防具で纏い、コートらしきもので身を包む─
年季が入っているせいなのか、身に付けている甲冑は鈍い光をみせている
しばらくして、幻闢が降りてきた
軽く着地をして、騎士らしき者の方へ足を進めた
騎士らしき者は騎士達の間で流行っているらしい相手の呼び方を用いて近づいてきた幻闢に挨拶した
?
「…久し振りだな、貴公」
溜め息混じりに笑いながら幻闢は挨拶を返した
幻闢
「みない間に随分口振りが変わったじゃないか、自称上級騎士」
実は特に変わった事もなかったが、久し振りだったので取り敢えずわざとらしい口調に話を振る
この二名は前からこんな感じだった
自称上級騎士
「心境の変化というやつかな…まぁ、冗談だ」
体を少し前屈みにして、右腕を幻闢の方に伸ばし、顔も幻闢の方を向けた
幻闢
「…それは以前より友好的とみても?」
幻闢は左手を横腰に置き、右手は手のひらを上にして手を差しのべる形を作り、自称上級騎士の前に出した
自称上級騎士
「おいおい、以前から友好的だったぞ」
自称上級騎士はその手を掴むと立てていた左足を使って起き上がった
幻闢
「よく言うぜ全く…」
そう言うと自称上級騎士はいたずら好きな子供のような笑い方をした
彼の命は17の時、ある事をきっかけに意味を成さなくなった
その影響か、精神面では時々子供っぽくなる
ちなみに、以前はこの様な返しは自称上級騎士にはなく、幻闢に返されたその後は大抵が、意思疎通妨害と非難される事が当然な程に酷かった
幻闢
「‥〜つまりはそういう事だ、だからお前の言うー…」
自称上級騎士
「まぁそんな事より-…」
幻闢
「えっ」
(会話をしてくれない‥?)
求めた意見に対する答をぶった斬り流し、急に全く関係の無い話を先程の会話を潰して上乗せ始めたりをよくしていた
幻闢
「…そんな事がねぇ‥。それで、お前はどう思うんだ?」
自称上級騎士
「ところでさ-…」
幻闢
「えぇ‥」
(わざとか?…わざとなのか…??)
この様に、振ったけど自分は振り返さないというのがよくあり、幻闢は自分が友好的とは思われていないと考えていた
幻闢
「それはそうとお前、なんで此所にいるんだ?あの時九騎士メンバーでそっちの闘いがあったろ…それに他の騎士連中の姿も見えない」
かの闘いで別々の所で闘っていた手筈だった
その為、自称上級騎士は本来この場所にはいない事になっていた
自称上級騎士
「…闘いが終わった後、野暮用でな。独りで此方に戻ったんだ。此所に着いた時、上の方で闘っているのがわかったから座って待ってたんだ」
自称上級騎士は顔を少し上に上げ、腕を組み、体を幻闢のいる方向とは別の方向に向けた
それを見た幻闢は首を右に傾げ、左手を横腰に置き、右手を顎に置いた
幻闢
(…野暮用、ねぇ)
「…なるほど。ところで、俺はアイツを見つけて仕事を再開しようと思っているんだが、どうする…ってか他の奴ら知らね?」
自称上級騎士
(…再開?一旦抜けていたのか‥と言うより
「…ーん、知らないな。九騎士の面々なら思い当たるんだが」
腕を組んだまま幻闢の方へ、体は半身で顔だけ正面に振り向き、答える
幻闢
「なら九騎士の方は任せた、俺は他の奴らを探しに行く」
幻闢は自称上級騎士の応答に頷きながらそう伝えると、崩れた都市の方を向いた
自称上級騎士
「わかった。だが貴公、気を付けたまえよ。腕が鈍ってるみたいだからな」
幻闢
「…ん?もしかして闘っているところ殆ど視てたのか?」
そう言われて自称上級騎士の方を振り向いた
自称上級騎士
「ああ、バッチリな…かつての
幻闢
「う、うるせぇ、笑うな!」
自称上級騎士は大きく笑い、幻闢は左腕を右に持っていった後、外側に大きく払う動作をして笑う事を止めようとしている
自称上級騎士
「それにしても仕事か……」
(…ろくなことは、なかったなぁ)
幻闢
「……?」
その仕事場では、九騎士はある上司の下にいて、何度も異常以上な仕事を共にさせられていた
当の上司は力ずくで仕事を片していて、とてもではないが真似出来るものではなかったそうな
自称上級騎士
「…いやなに」
などと、談笑していたところ、幻魂御社の西側 死屍の海と北側 幻緑の森 の方で大きな衝撃と共に幻気の濃さが何倍にもなった
幻魂御社を囲む場所は四方あり、適当な間隔で東西南北に分かれていて、それぞれに出入り口がある
東側口 生脈の緑地
西側口
南側口
北側口
これらは今、幻緑の森から溢れ出た幻気と
幻気は
幻気の濃さが濃くなったというのは、
幻闢
「…今えげつねぇ事になってるみたいだな」
幻闢は件の方を向き、やれやれといった、ため息をついた
だが、とても楽しそうな様子だった
自称上級騎士
「かなり本気らしいな…西側と北側……で、分担はどうする?闘うんだろう?」
どこからか取り出した、自称上級騎士の身長を超える剣が二本、自称上級騎士は手前の地面に胸の高さぐらいの位置まで突き刺した
自称上級騎士は手袋の留め具を掛け直し、ゆっくりと両腕を下した
幻闢
「ああ…俺が北側へ行こう、西側は任せた」
自称上級騎士
「わかった…先に終わったらそちらへ向かう、そちらの方も同じく頼む」
自称上級騎士は刺さっているうちの一本を右手で引き抜き右肩に担ぐと、残りの一本の柄端に左手を置いた
幻闢
「勿論だ、じゃあ行くか」
そう言いつつ幻闢は振り返り北側へ向かおうとした時、幻闢にだけそれは聞こえた
?「闘いは終わらない、か…じゃ、行くか」
幻闢
「--―……」
幻闢は足を止め、目の前に現れた実際にはない景色を視ていた
自称上級騎士
「…っと、…どうした貴公?」
幻闢
「…いや、ちょっと懐かしい声を聞いたような」
そうは答えたが、自称上級騎士から視た側では、何処を見ている状態かよくわからない様に見えた
自称上級騎士
「…そうか」
(…)
「…おっと、伝え忘れるところだった」
自称上級騎士は顔だけ幻闢の方を向いた
幻闢
「…ん、なんだ?」
幻闢は顔を少しだけ自称上級騎士の方に振り向いた
自称上級騎士
「『ありがとう』だってさ」
幻闢
「…そうか」
そう言って前を向いた、満足そうに微笑んでいた
-闘う理由がたとえ取るに足らなくとも、その者達は闘う
幻闢
「じゃ、気を取り直して行くか」
そうしてようやく幻闢は動き始めたので、自称上級騎士も行動を始めた
-記憶が定かでなく、無意識でしか覚えてなくとも、その者達は闘う
自称上級騎士
「ああ」
そうして両者はそれぞれ北側、東側へ向かった
-かつて共に
最後まで読んで頂きありがとうございます