ファントムオールスターズ   作:牙虎

7 / 10
騙した?違うな、お前が勝手に信じただけだ
裏切った?何を言う、仲間だと一言も言っていない

人は生きる為に他者を殺す。それが他の人間か他の生物かの違いだけだ

黒鳥 竹


第一話 闘いの続き 再始 陸

 記録音声の者

「あれは、たった12の少年の復讐だった。よくある話だ、若い奴が復讐の為に戦場へ赴き、傭兵となって戦って死ぬ。あるいは寿命で死ぬまで廃人か、実験台行き、企業に犬死にさせられるまで飼殺されるって奴もいたな。どんな奴にしたって、ろくな末路なんてなかった、いや、彼らの周りがそんな路へと追い込んだ。だがあの少年、レイヴン(殺戮者)と呼ばれた男はー」

 

 

 -ある戦時記録より抜粋した音声

 

 

 地平線が見える程の草原、その中にある家のバルコニーの家具として置いてある木の椅子の背もたれにもたれ掛かり、ゆったりと腰掛け、目の前にある大きさ2m弱の木の机に両手を組んで手前に置き、その者は語る

 

 

 記録音声の者

「ーあいつとは互いが初出撃の頃から作戦を共にした事がある。とは言っても、共通の敵を相手にしたってだけだ。それからは色々あったが、目的の違いから作戦に支障がでてしまい、段々と関わる事はなくなった。俺ら傭兵は、明日の朝の光を見る事が生き残る唯一の目標であり、全てだった。そんな世界を変えたかったが、成し遂げることはできず、結局、俺は傭兵をやめた」

 

 

 草原の向こうに霞んでいる地平線に視点をずらし、ため息混じりに語り続ける

 自分の取った過去の行動に未だ、まるで最近にあった事かのように悩んでいる様子であった

 

 

 -こうした情報記録はその当時に殆どが失われ、関わった組織は全て戦火に消えた

 故に、3年間続いたこの戦争は謎が多い

 

 

 その者は視線を前に戻すと、前屈みになって両手を組んだまま両肘を机に付き、両親指を左右の目頭より少し上にもっていき、こう垂れる頭の支えにすると数秒間、そのままの体勢となった

 しばらくして、また椅子の背もたれにもたれ掛かりゆったりと掛け直すと少し上を向き、一回程度の浅い深呼吸した

 そしてまた視線を前へと向けた

 

 

 記録音声の者

「ーん?初出撃の日の事か、ああ、今でも覚えているよ。何時もと対して変わらない、まずまずな晴れた日だったー」

 

 

 -そして記録音声は、続きを語り始めた。昔話を懐かしんで読み聞かせる親のようだった

 

 その様子は少しだけ、楽しそうだった

 

 戦時記録「装甲の傭兵戦争」より抜粋

 


 

 クイックブーストで小刻みに上下左右と回避し、迫り来る水に対応する幻怨

 先程とは状況が一定であるしても、少し不利になりつつある

 存在しない者(幻、幻影、幻想等)専用の武装でない為、長引くほど消耗し続けている幻怨が不利になっていくのは当然だ

 

 消極的な姿勢だった時にタイミングを誤ったが、幻怨にとってそんな事は、さほど気に懸けるものではない

 今の状況をどう切り抜け、幻溢を吹き飛ばすか、その事が最重要事項だった

 

 

 幻怨

(俺に対して仕掛けてきている時は、僅かだが水の守りが弱い。狙いはそこだが、攻撃手が足りない)

 

 

 幻溢の周りから無数の水の柱が伸び、鞭で引っ叩く様にうねらせ、幻怨に仕掛ける

 幻怨は肩部の後ろにあるメインサイドブースターと腰部にあるメインサイドブースターを斜め下右方向、他のブースターは進行方向を調整するように噴射する

 その後、反対側のメインサイドブースターで斜め上左方向、同じく他のブースターで進行方向を調整しながら噴射して回避行動を取る

 それを状況に応じて繰り返しながら迫り来る水の柱たちの周りを滑らかに回りながらライフルで応戦

 

 

 幻怨

(…弾数残り半分、ん?この反応は)

 

 

 維持したくない状況をずるずる引っ張っていた幻怨のレーダーに懐かしい反応が確認された

 幻溢の背後3㎞先に見覚えのあるシルエットが突っ込んできているのを確認する幻怨

 

 騎士の姿をしたそいつは、自身の身長より大きい剣2本のうち、右に持つ方を幻溢に目掛けて投擲

 その後、左に持つ方を両手で持ち、体を少し前のめりで右にひねって、剣先を斜め右後ろになるよう構えた

 

 幻怨は事前に打ち合わせたかの様に幻溢の注意を自分に引き付ける

 ライフルで連射しつつ、クイックブーストで小刻みに斜め上、斜め下と左右に前進

 幻溢の目の前にある水の壁を削りつつ、後ろの水も分からないように少しずつ消していく

 

 

 その間、幻怨と騎士は一切声を出さず、幻溢に悟られる要因を全て省いて行動している

 熟練された乱れぬ連携

 この二名は伊達に戦場を共にしていない

 

 

 幻溢は突っ込んできた幻怨に対して水を使って対処するべく、自分の眼前に水を集中させ、形成させた

 既に幾度となく、幻怨の進行を妨害してきた水の壁

 だがそんな事は気にせず、幻怨は何の素振りを見せることなくその水の壁に対して全速力で突撃

 腕部と一体化している近接武装 パイルブレードを使用し、水の壁の一部を文字通り吹き飛ばした

 

 

 

 パイルブレード

 

 土地開発や考古学調査の為に開発されたパイルハンマー内臓式腕部の杭の部分を若干ブレードに見える杭に変え、手の部分の動きを邪魔しないように位置を調節

 加えてブレードが射出した時に装着者の手や腕が巻き込まれて手を持って逝かれないように位置を従来のものより位置ずらし改良

 更に射出機の部分を撃鉄から専用の撃鉄・特殊油圧バネ式に変更した設計となっている

 

 従来のパイルハンマー同様、威力や衝撃力は申し分なく、従来にはなかった機能、圧縮撃ちが可能となった

 圧縮撃ちは、撃鉄・特殊油圧バネ式のみが可能とする機能で、油圧バネ装置を限界まで駆動させ圧力を高め、突出方向ヘと一気に撃ち出す仕組みとなっており、反動が通常時以上となるが、その分想定以上の威力を発揮する

 扱いは難しいが、特に構造、部品、刃部分が頑丈なのが売りで、射出したままの状態でナイフの様に扱う事もできる

 だが、使用時の神経系の消耗が激しく、反動が想定の数倍重くなっている

 その為、一部以外おいそれと誰も使わなかったそうだ

 

 何処の企業が初めに開発したのか分かっておらず、杭のままではなく何故ブレードの様な杭に変えたのかもわかっていない

 

 

 

 幻怨は続け様にもう片方のパイルブレードで水の壁を壊していく

 その様子を見た幻溢は自身の腕を振り上げ、幻怨目掛けて振り下ろした

 

 その時、幻溢は背後から体を貫く衝撃を受ける

 騎士の投擲した剣が直撃して深々と刺さっている

 幻溢は怯み、その隙に幻怨はミサイルを水の壁に数発押し込み、水の壁をある程度壊し崩した

 

 騎士はそのまま突っ込み、斬りかかる

 だがそこで、意識を後ろにも向けた幻溢が反応、咄嗟に腕を使って剣撃を受け流す

 そして振り返ると同時に腕をしならせて振り、カウンターを狙って騎士に仕掛ける

 騎士は剣撃を受け流されて体勢を崩しており、絶好の的であった

 

 

 騎士

(…これはまずいな、ん?)

 

 

 幻怨は騎士を数発狙撃した

 騎士は急いで左半身になると、剣を両手に持って撃ってきた弾丸を出来る限る受け止める様に、剣の腹を少し正面寄りの斜めで流した

 騎士は衝撃を殺しきれずに後ろへと吹き飛ばされていく

 そして幻溢の攻撃は空を切る

 

 飛ばされた反動で騎士は縦に数回しながら後方へ幾分か離れた後、空中で静止した

 

 幻怨は後ろを晒した幻溢の背部に刺さってある剣を左手で引き抜くと同時に蹴りを食らわせた

 その後、幻怨は幻溢から距離を十分置き、飛んできている水流に対応する

 

 

 幻怨

「自称上級騎士、受け取れ」

 

 

 幻怨は左手に持った剣を自称上級騎士に目掛けて投げた

 回転しながら向かって来る剣の柄を、自称上級騎士は勢いを殺して掴み取る

 

 

 自称上級騎士

「ああ、ありがとう。先のは助かった」

 

 

 掴み取った剣を何処と無く仕舞い込むと、改めて幻溢の方を見た

 

 だが既に幻溢はそこから居なくなっており、今まで荒れ狂っていた水はなかった

 

 

 幻怨

「逃げたか」

 

 自称上級騎士

「逃げたな」

 

 

 二名揃って目を離した隙に幻気を囮にされて逃げられた

 幻怨は置かれた幻気に近づくと、八つ当たりとして幻気を気散らした

 

 

 自称上級騎士

「…まぁ、落ち着けよ」

 

 

 自称上級騎士は幻怨にゆっくり近づき、懐かしそうにため息つきながらそう言った

 


 

 

 記録音声の者

「ーとてもじゃないが、あんな出撃は二度とごめんだ。だが、あいつとならどんな任務だろうと生き残る事は出来るだろう。これは経験したからこそ言ってるもので、実際、組んでみないと相性は分からん」

 

 

 木の椅子にゆったりと座り、腕を組み、視線を横に広がる草原の地平線に向ける

 ふと思い付いたように、視線を戻し記録者にある事を聞いた

 

 

 記録音声の者

「そういえば、あいつと今同じ所で働いているんだっけ、なら伝言の記録を頼めないか?」

 

 

 了承を取れたらしく、その者は片手を顎に持っていき、少し視線をずらしてからまた戻し、言葉を続けた

 

 

 記録音声の者

「よう、殺戮者(レイヴン)。元気でやってるか?俺はもうこんな調子だ、お前は相変わらずサポート役の相方を困らせてそうだな…成し遂げろよ、相棒()。─今までありがとう」

 

 

 やり切れない目をしながらも、記録音声の者は最後にそう強く言った

 

 

 -時間とともに、闘いは次へ進む

 




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