ファントムオールスターズ   作:牙虎

9 / 10
銃器が何事に置いても撃つものであると同様に、刀剣はどの様な物事が在ろうと斬る為のものである
だからこそ断ち斬りたい
未だやり残した残滓を更新する為

探求者 幻人


第一話 闘いの続き 再始 捌

 -ファントムオールスターズでは、口約束は一時的なものとして扱われる

 

 

 場所 幻魂御社-北側 幻緑の森

 

 

 幻闢

「……」

 

 幻狩

「…」

 

 探求者

「………」

 

 

 三名は森に入るなり唐突に口を閉じ、三者それぞれ木の上やら背の高い草の中やらに姿を潜め、黙ったきりになった

 理由は単純なもので、存在しない者(幻、幻影、幻想等)を感知したからだ

 動きはあり、幻気は分かるものの、相変わらず視界も幻気も乱れ荒れ、詳しい位置は互いに分からず、検索も隠密行動をするなら意味を為さない

 最悪の場合、自分達の場所が察知されるからだ

 

 仕方がないと考えた幻闢らは、幻気を飛ばして策立てを始めた

 今は警戒状態、堂々とした状態で言葉を発しては位置を特定される可能性がある

 

 

 幻闢

『さて、どうしたものか…虎牙(たいが)、何か策は?』

 

 

 しゃがんだ状態で木の幹から二つ隣の幹へと移動をしながら進んでは、木の後ろに張り付き隠れ、僅かに飛んでくる検索する幻気をやり過ごす

 それを繰り返すのが、段々と危険に感じた幻闢は森慣れしている幻狩に打開策を求める

 

 

 幻狩

『それは無い時の確認と判断するぞ?…お前が考えるであろう策は無い』

 

 

 草の中を特に目立つ揺れを起こさずに、しゃがみながら二名の先を行く幻狩

 進路先にいる未だ不明である存在しない者(幻、幻影、幻想等)の情報が掴めないのか、そう言いながらどう動くか悩ませている

 

 探求者は二名の後ろから付いて行く様に木の後ろや岩の裏手に回り、中腰で身を隠し、有事に備えいる

 所謂、後方支援者あるいは後衛

 先の闘いで負った傷が未だ癒えぬ故の配置だという

 

 

 幻闢

『分かっていたとはいえ、予測通りに返されるとなんかな…』

 

 

 予想通りの返答に、更に悩ませる幻闢

 だが悩めど良い考えが出ず、といった様子

 

 

 探求者

『森を徘徊すると言えば…あー、ダメだ』

 

 幻狩

『ああ、多過ぎる。奴等は何かとこの森が行着けだ』

 

 

 幻緑の森を行き来する存在しない者(幻、幻影、幻想等)は多い

 先の闘いが始まる以前から、この森は存在しない者(幻、幻影、幻想等)にとってお気に入りであった

 理由は諸説あり、それ故に徘徊する候補も多い

 

 

 幻狩

『取り敢えず、虎牙(こうが)。お前釣ってこいよ』

 

 幻闢

『取り敢えず、だとてめぇ。まあそれ以外考え付かねぇけどさ、考えたくもなかったが』

 

 探求者

『なに、援護は任せろ』

 

 幻狩

『俺も手伝おう』

 

 

 幻狩は幻闢の方に向かって手でGoサインのジェスチャーをする

 まあ妥当かと幻闢は考える

 検索する幻気は自分の方にしか来ておらず、他の二名は木の上ではない

 上手く陽動すれば奇襲が出来るだろう

 

 

 幻闢

『おうお前ら、しっかり頼むぜ。力んで俺ごと潰してくれるなよ?』

 

 幻狩

『なに、巻き込もうとお前が避ければ問題なかろう?』

 

 探求者

『消し飛ばさなければ問題ない』

 

 

 探求者は先程仕舞った刀を、岩の裏に隠れた状態で再び取り出す

 そして、裏手から少し離れ、中腰から奇襲の体勢に入る

 

 

 

 一天

 天一兄弟が作り上げた存在しない者(幻、幻影、幻想等)を斬る為の刀、そのもう一振り

 鍛造自体の工程は同じであるが、この場合は弟が横座となって鍛錬した為、一天という呼び名となっている

 意思が在るかどうかは不明、だが天一と同様の力を持つ

 刻まれた刀銘は、断ち斬り

 そのもの、その存在を断ち斬る、あるいはその繋がりを断ち斬る為、鍛造されたものである

 

 

 

 幻狩

『成る程、なら問題ないな。気張って避けろよ、囮』

 

 

 幻狩は探求者の言葉に同意を表し頷くと、装甲の忍者の時に使用した狩り道具を出す

 しゃがんだまま前屈みになって、両足と片手を地に着け体を3支点で構え、何時でも突撃出来る体勢となる

 

 

 

 狩鉈

 幻狩が狩者(かりうど)となった頃から使い続けている狩り道具

 昼夜問わず、狩りを楽しんだ幻狩は、手入れを決して怠らなかったが、血錆びや欠けもあり、ただひたすらに使い込まれ、年季が入っている

 幻狩と共に長く在ったそれは、幻狩の狩りの残滓、そのものである

 

 

 

 幻闢

『相変わらずの扱いに安心感を覚えてしまった、空しい』

 

 

 言葉のわりに虚無感が全く無く、幻闢は天一を取り出し、木々を蹴って前へと進む

 目標は進路上にいる存在しない者(幻、幻影、幻想等)

 検索する幻気が増えていき、幻気の濃さが一気に増す

 幻闢はギリギリで避けながら木々と形成した空気の壁とを蹴り続け、上下左右に前へと進み、更に近づいていく

 

 存在しない者(幻、幻影、幻想等)は複数ある脚を使い、木々を掴みぶら下がる、または引き倒し、空間を作って臨戦態勢となると、顔にある夥しい眼を蠢かせ周囲を視ている

 幻闢が近付いてくるを正確ではないが察知しているらしい

 

 

 

 幻眼 地破(げんがん ちやぶり)

 幻の地域という名でも呼ばれ、今もなお猛威を振るい続けている

 地破

 その名の如く地を操り、割り砕き、変形や移動させ、大地という領域を手中とする

 まるで昆虫の様な体形から左右対称ではあるが、歪な脚並びをしており、360度どこからでも脚を伸ばす事が出来る

 

 

 

 突然蠢く眼を止め、幻闢が向かってくる方向を凝視していた

 

 

 幻闢

(……!?、っと緊急回避ぃ!)

 

 

 それに気付いた幻闢は咄嗟に木々の側面を蹴り、視界の外へ紛れ込むように方向転換をした

 だが回り込むように近付いて行くも、また幻闢の方を向いた

 

 

 幻闢

(っ…またかよ勘弁してくれ、ていうか気付いてるんじゃねぇかこれ)

 

 

 幻眼の周りをただ不毛に飛び回っている幻闢

 幻眼の動きに、急接近したことが思いの外早く気付かれた事を悟り、先程より少し動きが鈍っている

 

 

 幻眼

「…もう再存在した(眼を覚ました)のか、幻闢」

 

 

 幻眼は声を出し、幻闢に話しかけた

 その声は、特に思うところも無く、ただ述べただけといった調子だった

 

 その言葉に疑問を持った幻闢は意味の無い動きを止め、木々の裏から出る事なく、その場で留まっている

 

 

 幻眼

「…どうした、動きが止まっているぞ」

 

 幻闢

(…つい止まってしまったが、どういう事だ。聞いておくべきか)

「一つ聞く…お前らにとって、俺が再存在した(眼を覚ました)のがそれほど重要か?」

 

 

 木の裏側に背を沿わせ、幻闢は幻朧の時と同じく、居合いの体勢を取った

 後ろの二名は相対する幻闢と幻眼を注視し、未だ動いていない

 幻眼は幻闢の問いに答える前に、身構えた

 

 

 幻眼

「それが計画の第二段階を開始する合図だからだ、…まあ知っていると思うがね」

 

 幻闢

「知ってて当然みたいに言うな、こちとらまだ現抜かせる時間しか経ってないぞこの野郎!」

 

 

 言葉を発すると同時に、幻闢は勢い良く幻眼へと突っ込む

 木々が突然揺れ動きだし、その幹を振り回して幻闢に目掛けてぶつけてくる

 幻闢は此方に向かってくる木々を蹴り避けて幻眼の方へと素早く跳ぶ

 少し進んだところで、蹴り跳ぶ為に足を着けた部分の木々の皮が捲れ、足に食い込み絡んで、幻闢の動きが止まる

 そこから足を徐々に木々の中へと引きずり込んでいく

 一先ず天一で自身の足を大まかに斬り、その後に食い込み絡んだ木々の皮と引きずり込んでいる部分の木々を素早く細かく斬った

 先程から葉がひらひらと舞っている

 

 

 幻眼

(以前の様なウザったらしい動きがない。再存在した(眼を覚ました)にしては鈍っている…幻朧の話とは何か違うな)

 

 幻闢

(…動きにキレが出てねぇな俺。やはりここでは近付きにくい、もっと開けた場所に行くか。あいつらにも指示を…)

 

 

 葉が勢いよく此方に降り落ちてくる

 幻気を使用する葉には、視界を遮る目隠しや、まとわり付いて重し・攻撃の威力を鈍らせるほか、飛び来る刃ともなる

 

 幻闢は移動しながら斬った足を幻気に戻し、幻気からまた足にすると、森の開けた場所に行こうとする

 

 

 幻狩

『待て、虎牙(こうが)!そのまま奴の注意を引け、俺達はこのまま視界の外から攻め込む!』

 

 幻闢

『あいつが動いてねぇんだ、お前らの動きが読まれるぞ!』

 

 

 幻眼の木々を使用した攻撃を蹴り跳んで回避する幻闢は幻狩らと緊急の作戦立て直しの連絡を取り合っていた

 

 

 探求者

虎牙(こうが)、天一と一天を使う。ならどうだ?』

 

 幻闢

『駄目だ、天一はさっき大分幻気を使ったから、まだ幻気を補充仕切れてねぇ!』

 

 

 幻闢は幻眼を他の二名から遠ざける様に立ち回る

 だが、幻眼はあまり動かず、ただそこで幻闢に対し、木々で攻撃している

 

 幻狩はそれが、幻闢を自分へ近づけさせない様な闘い方だと判断する

 まるで何か準備をしているような

 そこで幻狩は何かに気付き、幻闢へ伝える

 

 

 幻狩

『…!まずいぞ虎牙(こうが)、地破りが来る!』

 

 幻闢

『ッ!」

 

 

 幻闢は通信途中を半ば強制に切り、幻眼の方を注視する

 そこで幻闢は気付く

 先程より幻眼との距離ができてしまっている

 そしてこの距離は、幻眼にとって最も闘いやすい間合いだった

 幻闢がその場から離脱しようとした時、葉が地と足を繋げる様に引っ付いていた

 

 

 幻闢

(っ動けなー…)

 

 幻眼

(そこだ、幻闢。もらったぞ)

 

 

 

 地破り

 幻眼が幻気を使用して地域を操る様の事

 

 

 

 地破り

 幻闢の足元周り、数メートルを一瞬にして崩壊させ、粉々になった地層を幻闢に飛ばし逃がさないよう妨害する

 

 

 幻闢

「ぐぅうッッ!!」

 

 

 幻闢はその空中で踏ん張り、その妨害に対し、天一を振るって抵抗し続ける

 だが、幻眼の幻気により、崩壊した奥底へ徐々に叩き落とされつつある

 

 

 幻眼

「っぐぅあぁッ!?」

 

 

 その一方で幻眼は地破りをした隙を狙われ、首辺りを狩鉈で幻狩に抉られている

 一瞬怯むも、即座に幻眼は体全体を空間軸で右回転させ、体の上に乗っていた幻狩を退かせ、また木々を掴んで一定の距離を置き、幻狩と対峙する

 

 

 幻闢

「…あ、やべ」

 

 

 その間に、更に積まれた砕けた地層に完全に圧され、幻闢は落ちた

 落ちればそのまま落ちるまま

 幻闢は幻眼の幻気で押され、地下へ地下へと落ちていった

 

 

 幻眼

(幻闢以外にいたのか、もう少し警戒すべきだった…!)

 

 

 幻闢が落ちる少し前

 幻狩は幻闢が地破りに巻き込まれて落ちかけているのと、幻眼がそちらに気を取られているタイミングを見計らって幻眼に急接近し幻眼の体を素早く這い上がり、首付近に両手で持った狩鉈を思いっ切り叩き入れた

 

 

 幻狩

「…あ、少し遅かったか」

 

 

 対して幻狩は、幻闢がいると思い、地破りの跡を覗いたが、既に落ちていった後だった

 幻狩は一瞬、幻闢の様子見に行くかと考えるも、折角目の前に存在しない者(幻、幻影、幻想等)がいるので狩ってから行くとしよう、と、そう決めた

 

 

 幻狩

「さて、やろうか。どうせ暇なんだろ?」

 

 幻眼

「……、そうだな。暇ごと潰してやる」

(癪だがこいつは何時も鋭い、厄介そのものだ)

 

 

 幻狩は幻眼の方を向き、少し前屈みになり、軽く膝を曲げ腰を落とす

 右手に狩鉈を握り、相手に見えないよう自分の体の後ろに回し、左手を添えるように左足を半歩前に出し半身となった

 

 幻眼は木々を掴んだ腕を数本放し、遊ばせる

 その様は蠢く眼と同じくぼやけて動いている

 

 

 探求者

(…虎牙(たいが)の出方次第か)

 

 

 探求者は未だ先程の岩の裏にいる

 左足に付けている剣止めに左手を伸ばし、柄に手を置く

 存在しない者(幻、幻影、幻想等)になる前から失っていたはずの左腕が、今確かに幻気によって形成され、在ることに探求者は気付いていない

 

 その剣止めは、剣止めの片方横部分にある刃部分が通る最低限の隙間から収納する構造になっており、出し入れには相応の力が必要で、出入り方向も決まっている

 

 その為、手を置いた程度では抜けはしないが、その手には力が無意識のうちに入っており、僅かに金属が軋み擦り通る音がした

 その音に、剣止めの方へと目を向ける探求者

 

 

 探求者

(……久々、か)

 

 

 持っている左手でそのまま剣を剣止めに押し込むと、一触即発寸前の方に再び視線を戻す

 

 

 探求者

(偶然にも、俺達はまたここに集まってきている。この次元世界の根幹はやはり…)

 

 

 

 ?「惑わされるな、何時だって事は必然だ。連続の中を視定めろ」

 

 

 

 すると、不意に声が聞こえた

 探求者は対峙する二名に動きを悟られないように、声のした方向を素早く振り向いた

 当然、そこには何もおらず、幻気もない

 

 

 探求者

(……まずは目の前の仕事を片付けるとしよう)

 

 

 探求者は視線をまた戻すと、幻狩に連絡する

 奇襲を狙うその目付きには、考え事等一切含まれていない

 そんな印象を抱く様な目をしていた

 

 取り敢えず、自分が今直ぐに為す事を決定したようだ

 

 

 探求者

虎牙(たいが)。一切余裕を与える事無く攻め続けてくれ、俺が奇襲で決める』

 

 幻狩

『そうか、じゃあ頼む。ただ、引き付け以外は好きにやるぞ、構わんな?』

 

 

 幻狩はそう伝え、探求者の返事を待つ事無く、膝を思いっ切り曲げ、前に出していた左足で地面を削り蹴る

 同時に左手を狩者の羽織(かりうどのはおり)の中に忍ばせ、もう一つの狩鉈を握り構える

 

 

 探求者

(少しは返事を待てないのかこの狩者(かりうど)虎牙(こうが)の回収は後だな…まぁ、あいつも勝手にやるくらい出来るし放置でも問題はないが、鈍ってるからなぁ…)

 

 

 幻眼は幻狩に対して、幻闢の時と同じく木々で攻撃を開始する

 ただ相手は幻狩

 幻闢とは、闘い方が違っており、回避が戦闘行動の主軸ではない

 

 幻狩は次々と来る木々の幹、根、葉を容易く刈る

 狩鉈を両手ずつに持ち、左右両方の斜め上から振り下ろし、斜め下から振り上げる、規則性も無く次々と入れ違いに交差する狩鉈と同時に右足、左足と前に踏み込んでいく

 前に前にと進みながら、根を叩き落とし幹を砕き、葉を粉塵に変えるその様は、平然と森を壊していく重機の様だ

 狩り対象に直進する狩者(かりうど)というのは、こういうものだろうか

 

 幻眼は、幻狩の後ろに続く無残な残骸が積もるのを見計らっていた

 攻撃を続ける中、幻狩の後ろにある残骸が少しずつゆっくりと空中に上がっていく

 

 幻狩は足を早め、幻眼に近付いていく

 幻狩が近付くにつれ、残骸は浮かんでいくが、進む程その分だけ幻狩が残骸を増やしていく為、残骸の量は増えていくばかりだった

 幻狩の後ろは既に、残骸で埋め尽くされ、残骸以外は見る事が出来ない程の密度になっている

 

 残骸は一斉に幻狩の方へと突っ込んで行く

 幻狩はそれと同時に地面を蹴り、幻眼へ一直線に走る

 幻眼は木々類だけでなく、自ら前進し、直接自分の手で幻狩を仕留めようと動く

 

 木々類を払い除け、幻眼との衝突寸前

 左足一本で地に足を付け踏ん張り、両方の狩鉈を下から掬う様に地面を抉り入れ、そのまま掬い上げた

 それと同時に幻狩は空いている右足で再び地面を蹴り、幻眼の視界を遮るように狩者の羽織(かりうどのはおり)を広げ、頭上を布一枚分の猶予で飛び越えた

 その後、3、4回か幻眼の体上半部や腕を、片足で右、左と踏みつけながら越した

 

 幻眼はこれに動揺するが、先程の奇襲があった為、周囲を警戒する

 幻狩が来た方向は、残骸が幻狩を追っており、その進行方向の中にいる幻眼は視界が残骸で埋め尽くされている

 

 

 幻眼

(しまった、これでは伏兵が…)

 

 

 幻狩の行動は、幻狩が単独であるならそれは然程脅威とはならない

 だが複数であるなら、後続が奇襲しやすい状況となる

 更に幻眼は自分の行動が裏目に出ている

 自分にとって有利な場所が、一手のミスで不利となった

 

 幻眼は向かってくる残骸の中に、木々類ではない影を見る

 自分に真っ直ぐ、その勢いは、幻狩以上のもの

 幻眼は弾かれた様に腕を動かし残骸を払い除け、影を曝すように振り回す

 

 その影は残骸が勢いよく動いた時から、既に残骸に紛れていた

 一天を右手に持ち、残骸を避けながら紛れ込んで走る

 

 

 探求者

(……)

 

 

 狙いは頭、そこを縦に断ち斬る

 残骸を払い除けようとする腕の下を掻い潜り、自身を残骸に紛らす

 

 幻眼は、払いに払っても姿を現さない影に苦を強いられ、少しばかりか後ろに引きつつあった

 地破りをするにしても、近距離では自分も巻き込まれてしまう

 道連れを狙う事を考えない限りは、近距離での地破りは通常しない

 

 粗方の残骸を払い、視界を明瞭とした幻眼の眼前には、探求者が体の右横に一天を両手で携え、構えながら急速接近してくる瞬間だった

 そこまで接近していた

 

 だが探求者が振りかぶる前に、幻眼が先に仕掛けていた

 幻眼は腕数本を束にして、その束一本を更に数本にする

 体を浮かせ、地面と体の軸が垂直になるように体を立たせると束々を360度一周、隙間が出来ない様に広げ、それを同時に、探求者を一瞬の力で挟み叩き潰す為一気に閉じる

 

 閉じた威力は、探求者の存在を粉砕するには至らないが、それでも戦闘継続を困難にする事は容易い

 閉じた幅の中で一番破壊力が高まる部分と探求者の存在が合うように調節し、探求者を捉えた

 その衝撃により、地面に散らばっていた木々類や残骸がその衝撃を中心に、一気に散らばり、空中へと吹き飛ばされた

 だが、その中心に探求者はいなかった

 

 

 

 斬擊返しと存在弾き、そう呼ばれる業がある

 斬擊を返すというよりは、斬擊で返す、その様からそう呼ばれるようになった

 相手の攻撃を弾き受け、その威力を斬擊にて返す

 斬擊返しは刹那、相手の力が此方へと移ったその時、斬擊は自身に宿る

 だがこの業、返しを失敗すればその威力を持った斬擊がどうなるかは分かっていない

 

 存在弾きは文字通り

 弾きは点と点、線と線、面と面による一瞬の接触と即座の置き離し

 存在する事物全てを弾き返す事が可能だが、やはり幻気を使用してこその業である

 本気の存在しない者(幻、幻影、幻想等)と対峙する時、この業の真姿を見るだろう

 当然弾きをしくじれば、それを諸に受ける

 

 そしてこの二つを組み合わせる事により、返し業としている

 

 

 

 ほぼ同時

 衝撃が発生したその瞬間、先程まで接近していた探求者が少し離れた位置にいた

 

 

 幻眼

(……っ!!)

 

 

 探求者は既に、返しの体勢になっていた

 

 存在弾きでその衝撃をいなすと、少し飛ばされるが右足を後ろに半身で踏ん張り、今度は左足を後ろに持っていき、半身状態で断ち斬りを右片手持ちにして横に振りかぶる、返しの構えとなった

 

 

 探求者

「その存在、断ち斬る」

 

 

 探求者は後ろにあった左足を素早く前へと持っていき、右足をその補助をするように踏ん張る

 断ち斬りを振り斬る瞬間だけ両手で持ち、左足が前へと行った一瞬後に、少し斜め下から振り斬った

 斬擊返し

 放たれた斬擊は飛び散っていた残骸を問答無用で斬り通り、幻眼の頭部へ接近する

 速度は勿論、存在しない者(幻、幻影、幻想等)だからこそ反応出来るレベルだ

 

 幻眼は咄嗟に束々になっていた足数本を地面に振り下ろし叩きつけ、その反動と勢いで身を捩り、なんとか躱す

 だが、斬擊を完全には避ける事が出来ず、斬擊は幻眼を捉えた

 

 

 幻眼

「ッ!!?グァバアッ!!」

 

 

 幻眼の頭部右側すぐ横から、斜め右へと斬擊上にあった腕数本を束ごとまとめて斬り落とし身体を引き裂く

 腕の付け根から、関節、身体を形成する繋がりを関係なく斬り飛ばし、幻眼のほぼ右半身が空中で散らばる

 幻眼は回避体勢を崩すが、戦闘体勢を保つ為、左半身の腕でなんとか地面に着き、その後すぐさま地面を勢いよく蹴り、木々にぶら下がる

 

 

 幻眼

「……ッ…」

(…咄嗟の反応に斬擊が反応した?…考えるのは後だ、この状況を崩す)

 

 幻狩

「…」

(まだ動けたか、少し気が早ったな)

 

 

 幻狩は軽く舌打ちをした

 先程、幻眼が腕を着いた地面には狩鉈が深く抉りを入れている

 幻狩は一瞬遅かった為、だめ押しは避けられてしまった

 幻狩は腰を上げるとそのまま狩鉈を地面から引き抜いた

 

 

 幻狩

(だがこれで逃げる事はー…)

「!」

 

 

 そして顔を見上げ幻眼の方を見ようとするや否や、幻眼までも含む広範囲の地面に亀裂が走った

 再び地破り

 自身もまとめ、幻狩と探求者を幻闢同様に埋め叩き潰す為、幻眼は全力で地破りを行った

 

 

 探求者

「うおっ!?マジか!」

 

 幻狩

「上に上がるぞ!」

 

 

 幻狩は顔を見上げると同時に、直ぐ様幻眼から視線を離し方向を反転させ全力疾走する

 それを見た探求者は少し動揺して動きを鈍らせるも、幻狩の全力疾走を見て同じく上へと走り始めた

 既に崩れ、最早崖となっている傾斜を器用に素早く進む二名

 崩れた範囲は幻闢の時と比べ相当広いが、幻狩と探求者は崩れ迫ってきた地層や岩盤を踏み台に蹴りながら、地破りの範囲外に蹴上がる

 

 

 探求者

「やってくれるぜあの野郎」

 

 幻狩

「回避したは良いが、これではな」

 

 地破りの範囲外に出た二名は跡を見るが、"そこの地域だけ地中深くから押し上げられ、そのまま押し上がった地域をひっくり返して叩き付けた"、前文通りの光景があった

 幻闢の落ちた場所も入る位の範囲であった為、二名は顔を合わせる

 

 

 幻狩

「これでは捜索も検索も困難だぞ」

 

 探求者

「幻眼も当然のように()ねーしな」

 

 幻狩

「…この際だ、虎牙(こうが)は放って置こう」

 

 

 腕を組んで少し考え事をしていた幻狩は、名案とばかりに腕を組んだまま右腕を立てて人差し指を上に向ける

 その様子を見た探求者は、頭を左右に軽く振りながら掌を上にして腕を軽く曲げ、少し大袈裟に軽く広げる様動かしながら上に上げた

 その後、二名は地破り現場を背に、森を抜けるべく進んで行った

 

 

 探求者

「先程の事もそうだが、虎牙(こうが)に対して結構ひどい事やってるな。余程退屈しているみたいだが」

 

 幻狩

「狩りが全く出来ていないからな。それと、やっぱりあの約束状が嘘だと分かったか」

 

 探求者

「分かるも何も、あいつらの一時離脱の話(口約束)を聞いて受理したのは俺だぜ?」

 

 

 その言葉が衝撃的だったのか、幻狩の足が急に止まる

 そしてゆっくりと探求者の方へと向いた

 

 

 幻狩

「そうか、あの時完全に手が空いていたのはお前だけだったか」

 

 探求者

「ああ、だが見事に忘れていたよ。今までね」

 

 

 止まっている幻狩を他所に歩いていた探求者も足を止めて幻狩の方を振り向く

 一天を仕舞わず、まだ握ったままだ

 

 

 探求者

「だから今回の業務妨害を不問とする、それが一番、お前にとっての効果ある処分だ」

 

 幻眼

「…ちっ、おいおいそりゃねぇぜ」

(くそが、楽しみ(暴れる機会)が一つ潰れた)

 

 

 幻狩は足を再び動かし探求者を追い抜く

 散ら張る木々の破片を踏み割る音など一切気にせず、幻狩は構い無く歩き進む

 探求者はそれを少し見過ごした後、ゆっくりとした足取りで幻狩のあとを行く

 両者共に、武器を手にしたままだ

 

 

 探求者

「何、直に忙しくなるさ。それも」

(俺の読みがそのままの通りなら、おそらくは―…)

 

 幻狩

「森を抜ければ直ぐ、か」

 

探求者

(いや、そうではないんだが、…そうでもあるから否定が出来ないな。一部否定等の誤解を招きかねない言い方は避けるか)

 

 

 探求者の言葉を繋ぐように、言葉を発した幻狩

 探求者と幻狩の現在地から随分あるが、二名の視界は、木々の幹が重なるその隙間から、森の向こう側が広がっている事を捉えている

 少しの間、互いに緊迫する面持ちで眼合わせをした後、二名して、同時に森の向こう側へと目線を向ける

 

 そこは木々が減るにつれ、地面が岩肌一面となり岩石が無造作に転がる

 都市や人は当たり前のようにいたのだが、先の闘いにより、その地域に岩だけを残し、他の全てを消し去った

 ただ岩だけが続くその領域には、先の闘い以前から存在する者には解らない世界を隔てるものが存在する

 同じ空間の同一点に在りながら、重なる事もなく交わる事もない状態-世界区域

 

 

 幻狩

「あいつは相変わらずそこにいるのか」

 

 探求者

「…どうだろうか。(気紛れ )そのものだからな、あいつ」

 

 

 探求者は腕を組み、目線をそこから動かさない

 睨む事や観察しているわけではないその行動は、存在しない者(幻、幻影、幻想等)特有のものである

 その様子を見た幻狩は、また視線の先を森の向こう側に戻すと、探求者の視界内最端に写り混む程度に狩鉈を持っていない手を軽く斜め上下に動かし、探求者の視界内を遮る

 探求者はその行動に気付き、幻狩の方を向いた

 

 

 幻狩

「確認がてらだが、行こうか」

 

 探求者

「…ああ」

(何故だろうか、()ないと思ってしまうのは…)

 

 

 

 何かが引っ掛かるままではあるが、二名は適当に言葉を交わし向こう側へと再び歩き続け始めた

 

 

 

 

 ―自身の探求するものを確かめる為、探求者は再び闘いに踏み出す

 

 




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