ジョージ・ジョースターの拳 Street Fighting Men (ジョジョX蒼天/北斗の拳) 作:ヨマザル
ブォンッ!
「おっりやぁあぁぁぁぁッ! 北斗百裂拳ッッ」
襲い掛かる兵士に向け、拳志郎が超高速の連打を放つ。
そのあまりの拳速が、まるで無数の拳を同時に放ったかのような残像を残すッ! まるで百本の腕を持つ阿修羅のような、様相だ。
アタタタタタタタタタタタタタタァァァァァッ!
拳志郎が叫ぶ。
残像を伴う無数の拳
その拳をまともに喰らったマハラジャの兵が、『まるでおはじきを弾いたかのように』次から次へとぶっ飛んでいく。
「やるなッ、拳志郎ッ」
にやりと笑い、ジョージは拳志郎に話しかけた。
そのジョージの背後に敵がせまるッッ
敵が槍を振り上げるッ
「キィエェェェーーイッ!」
ジョージは振り向ざま、背後の敵に回し蹴りを喰らわせるッ!
そのまま一回転し、続けてかかってきた別の敵の顎を、蹴り飛ばす。
「ウギィィィッ」
敵がぶっ飛ぶッ!
「止めだッ!」
ジョージは高速の蹴りを次から次へと放つ。
ジョージの連続蹴りを喰らったマハラジャの兵が、バタバタとぶっ飛んでいくッ!
その蹴りの鋭さ、力強さを見て、今度は拳志郎がピュッと口笛をふいた。
負けじと周囲の敵をなぎ倒し続けながら、拳志郎はジョージに話しかけた。
「フフフ、ジョージ。お前もやるじゃねぇかッ!……ところでよォ、面白い拳をつかうな、お前」
バシッ‼
拳志郎は、背後から突き出された槍を、ろくすっぽ見ずに無造作に掴んだ。
槍の柄をもっていた大柄なインド人ごと、それを窓の外へほうり出す。
そして何事もなかったように話を続けた。
「何て流派だ?その拳は……始めて見る動きだぜ」
「フランスのサバットを、僕なりにアレンジしたものさ」
ジョージが拳志郎の問いに答えた。
話しながらも襲い来る人々を蹴り飛ばすスピードは、いささかの代わりも無い。
ジョージもまた、こと喧嘩に関してはかなりの手練れであった。
ジョージの返事を聞いて、拳志郎は少し拍子抜けしたようであった。
「さばっとぉ? おフランスの奴か、マジか?……その、ぴかっと光る奴もか」
ダッダッ!
迫りくる敵を容赦なく撃退しながら、ジョージは頭をひねった。
「ぴかっと光る? 何を言っているんだい?」
パシッ
蹴り上げた爪先を敵の喉笛に食い込ませる。それはまさしく靴を履いての戦いを基本とするサバットの技法だ……
「オイオイ、お前……本当に気づいていないのかよ。その光る拳に」
ドガァッン!
拳志郎が最後に残った敵をまとめて殴り飛ばし、呆れたように言った。
「その拳、絶対に西洋の技じゃあねェぞ……なぁ、本当のことを言えよ」
困惑したジョージは、ただ首を振った。
「拳志郎、やめてくれよ。ぼくの使っているのは正真正銘のただのサバットさ。何も隠していないよ」
(僕はリサリサのような天才とは違うッ! 波紋の拳は持ってないんだッ)
「そんな話よりも、今は一刻も早くマハラジャの居室にいく事が大事だ。そうだろ?」
ジョージはそういうと、マハラジャの居室めがけて走って行った。
◆◆
中庭であらかたの兵士を片付けた為か、二人はほとんど人がいない広大な屋敷を簡単に駆け抜けることが出来た。
そして二人は、いともたやすく屋敷の一番奥に到達した。真鍮製のひときわでかい扉が二人の前にそびえたつ。
マハラジャの居室の前だ。
ジョージの目が険しくなった。
「拳志郎、ここがマハラジャの居室だよ……前に一度、拝謁したことがあるから、覚えているんだ」
「へぇ……ここが目的地ってわけだな」
拳志郎はドアを開けようとして、すんでのところでその手を止めた。
ジョージを振り返る。
「……なぁジョージ………本当にいいんだな……お前、この先に踏み込んだらもう引き返せねーぞ………お前の『母上』も巻き込まれるかも知れねー」
ジョージは首をふった。
「何をいまさら……ぼくのことはどうでも良いさ。それに、『母様』のことも大丈夫さ。あの人は強いひとだよ。……それに、もうとっくに安全な場所に動いてもらっているんだ」
フッと拳志郎が笑った。
「そうか、じゃあ問題ないってワケだな……いくぜ」
「ああ……」
バンッッ
二人は扉を蹴り飛ばし、その奥の豪奢な部屋に踏み入った。
すると、部屋の真ん中の王座に座っていた男が悲鳴を上げた。
「ひぃぃいいいいっ」
あわてて逃げようとするその男の首根っこを、拳志郎が掴みあげた。
「お前がこの地の王様か……ずいぶん貧相な奴だな。拍子抜けだぜ」
その部屋は、まさに豪奢と言う言葉がふさわしかった。一面を美しく磨き上げられた大理石が覆い、その上にはふかふかのペルシャじゅうたんが敷かれている。さらに壁や家具のあちこちに宝石や黄金があしらわれている。
悪趣味ではあるが、見るからに金がかかっていそうな部屋だ。
甘くて、だがどことなく腐ったような香水の匂いが部屋中に漂っていた。
拳志郎に首根っこを引っ掴まれ、王はガタガタと震えている。
「王よ……あなたが面白半分に象をけしかけた結果、どれだけの人々が苦しんだか……その落とし前、つけてもらうぞッ」
ジョージが凄む。
「ひっ……たすけてッ……」
ブンッ
首根っこを掴まれた王は、目の前の床に放り投げられた。
「ブギィッ!」
王は、カエルのようにべちゃりと床に顔を打ち付けた。が、すぐに跳ね起き、アタフタと二人の前から逃げ出そうとする。威厳などかけらもない。
「オイオイ、逃げられると思っているのかぁ……!?」
拳志郎が王を再び再び捕まえようとしたその時、不意に殺気が二人をおそった。
触れられれば斬れそうな、危険な殺気だ。
拳志郎とジョージは王を無視し、身構えた。
敵がやって来たのだ。
その様子を見て、王が、目に見えて安心したような表情を浮かべる。
「もっ、もしや……クーラ様ッ!お助けをッ」
王が叫ぶ。
バリンッ!
王の呼び声を引き金にして、部屋の窓ガラスを突き破って入ってきたものがいた。
女だッ!
女は身に着けたサリー (インドの女性がまとう伝統衣装で、豪華に装った一枚の長い布を巧みに体に巻きつけたもの) をヒラリとひるがえし、華麗な体さばきで部屋の中心に降り立った。
目鼻立ちがくっきりとしたインド系の超絶美人だ。
女は軽蔑したように王を見下げ、鼻をならした。そして拳志郎とジョージを睨み付ける。
「拳志郎、北斗神拳の伝承者候補よ、そしてジョージ・ジョースターよ……この馬鹿者がしでかしたこと、ただ謝るしかない……だが、この男も悪いだけの男ではない……評価すべき良い所もあるのだ………ここは、この私に免じて許してくれないか?」
尊大な口調だ。クーラはしがみついてきた王を張り倒し、二人に頭を下げた。
「あぁぁ〰〰、謝って住む程度の事か? コラッ」
拳志郎がすごむ。
クーラが肩をすくめた。拳志郎とジョージの二人を前にしても怯むことがない、堂々とした態度だ。
「そうだな、わかっている……せめて元斗皇拳伝承者としてお前たちのお相手しよう。一人の拳士としてな」
そういうと、クーラは羽織っていたサリーをスルリと脱いだ。
そのサリーの下には7分袖にたちきった活動的なデニムの上下が見えた。
クーラは腰を落とし、両手を奇妙な形にゆらゆらと動かし始めた。
心なしかその手が、ぼうっと光を放っているように見える。
「……元斗皇拳?」
聞きなれない言葉を聞いてジョージは首をかしげた。だが、臆せずにクーラに話しかける。
「なぁ、君……その男を僕たちに引き渡してくれないか……!?ッ」
ジョージは襲ってきた殺気に、本能的に回避行動をとった。ほぼ同時に、つい先ほど自分がいた空間を、確かにクーラの抜き手が貫いていく。
恐るべき速度だ。
バシュッ
「フフフ……良く避けたな……だが安心しろ。お前は後だ……まずは北斗が先……キサマの相手はその後で、ゆっくりしてやるぞ」
クーラが言った。
気づけばジョージが被っていた帽子がすっ飛ばされていた。床に落ちた帽子は、真っ二つに断ち切られている。
「ウッ……なんて切れ味だ……これをクーラがやったのか……これが、元斗皇拳か……」
「あぁぁ……元斗皇拳っつうのは亜細亜の支配者、天帝を守る『太極星』を宿星とする拳法よ……今の伝承者が女だとは聞いていたが……まさか、こんな所で出会うとはな」
「それはこちらのセリフだ。北斗の……元斗、北斗は互いに関わりを持たないのが習い……だが………」
クーラはニヤリと笑った。
そして、拳志郎の前にたち両手で円を描いていくような、流麗な構えをとった。
「だが、せっかくここで出会ったのだ。手合わせを願おうッ!」
拳志郎はボリボリと頭をかいた。拳は、握らない。
「……悪いが女に向ける拳はねぇ………」
その言葉を聞き、それまでは悠然と落ち着き払った態度を見せていたクーラが、怒りの表情を見せた。
「な、なんだとぉ?………私をあなどるなよ」
クーラは拳志郎に突進し、連続突きを放つッ!
拳志郎は素早く引き下がり、その突きをまともに受けないッ!
「逃げるなッ!」
クーラの再度の追撃。
だが拳志郎は、巧みな足裁きでクーラと距離を取り続け、まともに向き合わないッ
「はぁ……はぁ………どうあっても、戦わないつもりか……」
クーラはしばらくの間、逃げ回る拳志郎を追い続けた。だがやがて、荒く息をつきながらその足を止めた。
「……くそぉ……キサマ……私をぐろうしおって……」
「ヤァ――……悪いな……だが、アンタを馬鹿にしたわけじゃあねェンだ……許してくれねぇかな」
「……ならば、立ち会えッ!」
「だから、俺は女とはたたかわんと言ったろう」
拳志郎の言葉に、クーラは唇をかみしめた。その唇から一筋の血がこぼれる。
「……ギリッ……」
「……おい、拳志郎………」
見かねたジョージが口を開きかけたその時、クーラが破った窓から、またもや飛び込んでくるものがあった。今度は男だ。
「ねぇちゃん ッッ 、もういッッ! 後は俺がやるよ」
その男は、飛び込みしな、拳志郎に向かって飛び蹴りを放つッ!
ドガッ-!
「オイオイ行儀悪いぜ。オタク」
さすが拳志郎は蹴りを簡単に受け止めていた。
「クッ……さすが、こんな不意打ちの蹴りなど効果はないか……」
飛び込んできた男は、拳志郎からの反撃を避けようと、あわてて床を転がるようにして距離を取った。
その男にむかって拳志郎が悠然と挑発した。
「いやいや、中々、面白い蹴りだ………楽しかったぜぇ……サーカスの余興としてはなぁ」
「何だとォ!」
その男は歯噛みした。
そこに、つかつかとクーラが歩み寄った。
「!? クリスピアンッッ」
「姉さんッ」
「クリスピアン一体なぜ出て来たのよッ、安全な所に居なさいって言ったでしょ」
クーラは腰に手を当てて、クリスピアンに向かって説教した。
「……僕は、姉さんだけを矢面に立たせて、自分はその後ろに隠れているような弱虫じゃないッ」
クリスピアンがむっとした口調で答える。
その姉弟の会話を、興味深そうに 拳志郎が聞き入っていた。
「なんだぁ?シスコンかぁ? まぁ、マザコンのジョージといいコンビかもしれねぇがよォ」
「拳志郎……勝手に言っていろ」
ジョージが苦虫をかみしめたように言った。
やがて姉弟の話し合いが終わり、クリスピアンと呼ばれた若者が二人の元へ意気揚々とやってきた。
その背後では、クーラがヤレヤレと言うように頭を振っている。
「……拳志郎、俺と闘えッッ………言っておくが、クーラ姉さんは俺より強いッ! 俺に苦戦するようじゃあ、元斗皇拳の正統伝承者には歯も立たないぜッ」
クリスピアンは二人に向かって颯爽と拳を構え、クィクィッと手のひらを曲げてみせた。
『コッチに向かってこい』と挑発しているつもりなのだろう。
だが悲しいかな、クリスピアンの構えからはクーラが放っていたような必殺の気合が徹底的に欠けていた……
ふーっと拳志郎がため息をついた。
「オイオイ、ずいぶん礼儀を知らないガキのようだねぇ。あ俺が礼儀作法を叩きこんでやらなきゃならねぇか」
迷惑そうな口調だ。
だがその顔は、ニヤニヤと少し嬉しそうだ。
「ふざけるなよ……余裕ぶった顔をしているのも、今の内だけだぜ」
クリスピアンは頬を紅潮させた。
そして拳を構える……軽いが、中々いい構えだ。
「ハハハハ。オタク、元気イイねェ。こっちも望むところだぜ。実は俺も元斗皇拳とは、一度手合わせしたかった……悪いねぇ、気ィつかってくれて」
ポキポキ
拳志郎は指を鳴らしながら、無造作にクリスピアンに近づいていく。
「……ふざけるなッッ……そして喰らえィ!元斗流輪光斬ッッ」
クリスピアンの両手が光る。
そして、クリスピアンは、光る手をまるで円を描く様にユックリと回していく……
「こいっ、元斗の男ッッ」
拳志郎が足を止めた。
「フッ……喰らえッッ」
クリスピアンが両手を交差させる。
すると、緑色の光る 車輪が、その両手から飛ぶっ!
『光る 車輪』が、拳志郎を襲うッ!
ゼシュツッッ!
拳志郎のわき腹から血が噴き出るッ!
「!?やったか?、イヤダメだ、まだだ…… 浅いッッ…… クリスピアンッッ、気を付けろ!」
二人の背後から、クーラが叫んだ。
姉のアドバイスに、クリスピアンがコクリとうなづいた。
心なしか、その顔は少し青ざめていた。
「……ああ、わかっているよ。だが、僕の一撃は直撃したはずだ。それでも、ダメージをほとんど与えられていないなんて……やはり、北斗は強いッ」
「 いや、 アンタこそ流石だねぇ……この 俺に血を流させるとは、それが元斗皇拳の威力って奴かい…………その光る手を武器にした、円を描くような攻防一体の動きはおもしれぇな」
拳志郎は脇腹に手をやり、手についた血をプッと吹き飛ばした。
クリスピアンの攻撃が、わずかにかすっていたのだ。
かすかにかすっただけでも、拳志郎の鋼の肉体をえぐるような破壊力……
初めて目の当たりにする元斗皇拳の威力に、ジョージは驚愕した。それは、ジョージが知っているあらゆる格闘技の破壊力を、はるかに超越した物であった。
「拳志郎、奴の手の威力は驚異的だッ!奴が攻撃できるような隙を与えず、一気に攻めろっ」
「 フッ……そりゃあ違うぜ、ジョージ……俺は北斗の男として、『やつの技をすべて受け止めきった上で』、勝たにゃならんぜ。それが、北斗の務めよ」
拳志郎は微笑み、首を振った。
「……………それはそうと、元斗皇拳の『光る手』を受けてみたが、やっぱりお前の『光る拳』とは違うものだってことを改めて確信したぜ……実はさっきまで、お前の拳は元斗に連なる流派かと推測していたんだが、どうやら違うようだな………失礼した。で……ジョージ、あんた、やっぱり何者だ?」
ジョージは呆れたように言った。
「だから、何を言っているのか、わからないよ。それに、今はそんなことを気にしている場合か? 元斗の『手』から、目をはなすんじゃあないっ!」
「へっ!戦いの最中におしゃべりかよッ。余裕ぶりやがってッ!」
再びクリスピアン が流れるような動きを見せた。
すっと間合いに入り込み、流麗な体さばきで拳志郎の懐に潜り込むッ
「フッ……」
拳志郎が、両拳でジャブに似た連弾を放った。
近寄ってくるクリスピアンを迎撃するためだ。
「!?」
拳志郎の連打を、クリスピアンは『弧を描く動き』ではねのけた。
さらにその『弧を描く動き』を殺さず、拳志郎の懐深くに入り込む。
そのまま、流れるように攻撃ッッ!
バシュッ
ダダッ
二人の体が錯綜したッ!
そして、再び距離を取って構えるッ!
「……いいねぇ、俺にここまでのダメージをおわすとは、さすがだねぇ、元斗のぉ……」
拳志郎は満足そうに言った。
何と、クリスピアンの『光る手』に触れた拳志郎の肌が、肉が、赤くただれているのだッ!
「はっ……元斗皇拳は天帝の剣ッ!まだまだこんなものではないわッ」
クリスピアンの手が、さらに強く光るッ!
「次は、お前の体をハンバーグにしてやるッッ」
「へぇ……やって見ろよ」
ドガッッ
パシッ
ザッシュッッ
再びクリスピアンの円を描くような攻撃が襲ってきた。
拳志郎はその攻撃を受け止め、弾き返すッ
反撃の拳ッ!
拳志郎の拳も、蹴りも、クリスピアンはいなしていくッ
二人は、まさに互角の攻防を繰り広げているように見えた。
だが……
均衡は、拳志郎が放ったたった一発の拳によって、あっけなく崩れた。
「フンッッ」
「クッ……」
脇腹に正拳をまともに喰らい、クリスピアンがぶっとぶ。
その一撃は、強烈だった。
クリスピアンは派手な音を立てて床を滑って行き、『王の玉座』にぶつかり、破壊した。
なんとか立ち上がったが、すでに足はヨロヨロであった。
その様子を見て、拳志郎がクルリとクリスピアンに背を向けた。
「元斗皇拳、噂通り恐ろしい拳だったぜ……だが、クリスピアン、お前は拳士としてまだ未熟ッ、基礎能力が足りていないね。後十年は基本からやり直せ」
拳志郎はそう言い放つと 、今度は部屋の隅っこでガタガタ震えている王の方へ、目を向けた。
「さて、邪魔ものもいなくなったところで、そろそろここに来た目的を果たそうかね」
「ひっ」
王が悲鳴を上げ、後ずさった。
グジュッ、ポタリ……
ポタ……
ポタ……
と、王の元へ向かう拳志郎の腕から、血が流れおちていた。その肌はグジュグジュに荒れ、白い肉が見えている。
そう、その怪我をした場所は、拳志郎がクリスピアンの攻撃を『受け止めたていた』部分だ。
(いててて……気合いでクリスピアンの小僧は何とかやっつけたぜ。だが奴の言葉通り、奴の拳を受け止めた肌がやけに傷むぜ……ヤロウ、未熟者のクセに、なんて威力だ)
拳志郎は、平然とした顔の裏で、必死に痛みに耐えていた。
歯を食いしばり、脂汗を流しながら、拳志郎がポキポキと指を鳴らす。
その様子を見ていたジョージは、いつしか『拳志郎の強さ』に、すっかり魅せられていた。
(拳志郎……恐ろしい拳士だ……あの、円を描くクリスピアンの動きを逆手に取ったってワケだな。クリスピアンの攻撃を誘導し、自分は一直線に拳を撃ちこむ……円の弧を描く動きは、当然直線的な軌道よりも長い距離を動く……ほぼ同時に撃てば、最短距離を行く直線の動きの方が早いのは道理ッ)
ジョージも腕っぷしにはそこそこ自信があるッ! 幾多の戦場を生き延びてきた自負もある。この、目の前にいる漢の『強さ』に、どうしても刺激されずにはいられないのだ!
(だが、まだ『本気』を出していないようにも見えるな……僕だったら、どうやって彼と戦う?)
いつしかジョージは自分が拳志郎と戦った場合を想定して、その動きを追っていた。
逃げ惑う『王』を部屋の隅に追い込み、拳志郎が言い放った。
「アンタが『王』だってぇ? 『王』ってのはなぁ、民の為にあるものだろうがぁ、あああぁん?」
「まっ、待ってくれッ……助けてくれっ、なっ……金なら出すッ! アンタを実質の王のようにしてやろう……女はどうだ? 絶世の美女を思いのままにさせてやるッ」
「……アンタ、救いがねぇなぁぁ」
「う…ウッ……クーラ様ッ、お助けをッ」
呆然としていたクーラがハッと我に返った。
「!? 拳志郎ッ待てッ」
クーラは拳志郎の後姿に話しかける。
「何だね?」
「まってくれ、まだ元斗が北斗に敗れたわけではないッ。拳志郎、私と戦えッ」
必死な口調だ。
「……断る。何度も言って悪いが、女に向ける拳は持ってない」
「貴様、この後に及んでも尚、私を侮辱するのかッ」
……ギリギリギリ ……
少し離れた位置にいるジョージにまで聞こえるのかと思うほど、クーラが歯をきしませる。
「まいったね」
拳志郎がボリボリと頭をかいた。
「貴様がやる気がなくともッ、私には戦う理由があるッ」
ブンッ!
クーラの拳、その拳を……拳志郎は避けもせず、ただ正面からまともに喰らった。
「痛ててて……やるね、イイ突きだ」
拳志郎が、クーラの腕をつかんだ。
「……でも、悪いが俺の方が上だ。アンタとやっても俺が勝つ…………が、オレは女とは戦わん」
「なっ……元斗の闘気を込めていないとはいえ、私の拳をよけもせずにただ耐えるだと」
クーラは本気の第二撃を放とうと手を光らせ……だがその光を止めた。
拳志郎の哀しみに満ちた目に気が付き、毒気を抜かれたのだ。
「……なぁ、クーラ。あんなヤツの為に、お前程の拳士が体を張ることはない……奴は見捨てろ」
「なっ……だが、しかし……」
悔しさと怒りのあまり涙を流すクーラに背を向け、再び王に向かって歩み始める拳志郎。
その拳志郎の前に、ジョージが立ちふさがった。
「……なんだ、ジョージよ」
「……拳志郎、これでは彼女に失礼だ……」
「……わかってるぜ………だが、俺は女に手を上げん」
「……君のその考えかた、それもわかるつもりだよ……だから、キミの代わりに、僕が彼女の相手をしようと思う」
「……なんだと?」
「拳志郎、君は見ていろ」
ジョージは拳志郎に背を向けると、クーラに向かって構えた。
元斗皇拳、それや細胞を滅する闘気を操る、恐れるべき強大な威力を持つ拳だ。
拳志郎は、無理だ……とジョージを引き留めかけ、その手を止めた。
(ジョージの奴……だが、奴も俺とクリスピアンのコゾーとの戦いは見ていた。それでもやるって言うんだ。奴には勝算があるに違いない……か。これでヤツの本気がみれるか?)
「貴様……」
クーラの目が激しい怒りに燃えた。
「貴様……、貴様ごときがなぜ元斗皇拳を侮る……」
「僕の名前は、ジョージ・ジョースター……クーラ……君の相手は僕がしよう。退屈はさせないよ」
ドドドドドドド……
「貴様……許さんッッ!」
怒りに燃えるクーラが、ジョージに向かって、必殺の拳を放つッ!その拳速は、先ほどのクリスピアンとは比較にならないッ!
触れれば触れたところを焼き尽くす、元斗の拳がジョージを襲うッ
「ウォォォォッ」
ジョージはその拳をすり抜けるようにしてかわすっ、
そしてタックルッ
そのジョージの容赦のなさに、拳志郎はあんぐりと口を開けた。
(オイオイ、ジョージ。女にいきなりタックルだとぉ?相手を寝転がらせて、どーするって言うんだ……アイツ、普段の爽やかぶった言動はダミーで、本質的にはエグイ奴なのか?)
「!?ッ」
クーラはタックルに合わせて、カウンターの蹴りを放つッ。
ジョージはとっさに途中でタックルを止め、勢いを殺すために地面に寝転んだ。
クーラが放った迎撃は、ジョージの後頭部をむなしくかすめるッ
「!?」
ジョージは地面に手をつくと、そこから、跳ね上がるように回転しながら蹴りを放つッ!
「生意気なッ」
クーラが宙を舞う。
弧を描くように空中で体をひねる。
今度はクーラがジョージへ、カウンターの『反撃の一撃』を打ちこもうとするッ!
クィッ
と、ジョージの蹴りが軌道を変えた。
軌道を変えた蹴りは、クーラの左肩を狙うっ
ガシッ!
クーラは、すんでのところで蹴りを受け止めた。
蹴りの威力で大きく後方に吹き飛ばされたが、無事であった。
「ウォォォォッ……なんて変幻自在の蹴りなの、まるで雲のようにとらえどころのないわ………融通無形の拳、それがあなたの力ってワケ?」
「今の蹴りをノーダメージでさばくなんて、やるじゃあないかッ」
(へぇ、なかなか………………確かにジョージの奴の拳は、サバットとか言う奴を大元としているようだな。だがその本質は、全くとらえどころない『無形の拳』ってワケか……あの攻撃は、雲のように定まった形を持たず、ゆえに先を読むことが著しく困難だぜ………加えてあの体格が生み出すスピード、攻撃力……へっ、これは厄介だな……)
拳志郎は、嬉しそうにモゾモゾと体を揺らせた。
(クーラは、さすがだな。あのクリスピアンの若造とは比較できない腕だ……さすがは、一子相伝の元斗皇拳を史上初、女ながらに最年少で伝承者となっただけの事はあるッ……その噂は北斗にも聞こえていたからな…… だが惜しいナ。奴が漢ならな……)
ジョージが吼えた。
「せめて短時間で終わらせるッ」
バッバババッ!
ジョージが右回し蹴りを放つ
その直後に、時間差で左からの回し蹴りを放つッ!
まるで、左右から同時に放たれるかのような、強烈な回し蹴りだ。
どこにも逃げ場がないッ!
「甘いッ!」
クーラはくるっと空中にのがれ、ジョージの回し蹴りを避けた。
「なんだってェ、僕の、この双龍脚を避けただとっ」
「ジョージこれでよくわかっただろ。元斗の強さをッ」
拳志郎が言った。
「ジョージ、この辺りが止めどころだッ!引けッ!」
「いや、大丈夫さ……確かに僕の拳には、確かに君たちのような不思議な威力はない……だが、拳力では負けてないよ」
ジョージはフックを放つ。
その拳が、またしても途中でありえない角度で軌道を変えた。
クーラのガードをかいくぐり、顎を跳ね上げるッ!
「正直……キミを殴ることには抵抗があるよ。でも、これがキミの望む事ッ! 僕は……心を鬼にして君と戦うッ!」
ガッ、ドッ、ドッ!
「クッ……ウッ!うわぁあああッ」
クーラがその光る手を回転させ、ジョージの攻撃をガードする。
その『光る手』が触れると、相手の細胞を一瞬で消滅させることが出来る。
それは、元斗の攻防一体の防護ッ!
その『光る手』が、ジョージに触れる……
だが、クーラの『光る手』はジョージを焼かないッ!
「なっ……どうして? どうして元斗の拳があなたには効かないの?」
「いや、効いてるよ……キミの攻撃を受けるたび、キミに拳をふるうたび、痛いよ………心が」
ジョージが言った。普通の男が口にしたらドン引きするほどクサイセリフだ。
「……英国紳士として、女性に手を上げるのは不本意ッ、だが本来闘争とはシンプルなものっ、戦う相手の性別など関係ないものッ」
続けざまのワン・ツーッ!
ブッ!ドッ!
クーラは、その高速の拳をかろうじて受けた。
「クッ、こっ……こんな、南斗、北斗、元斗につらなわぬ素人の拳に、私が押されているッ?」
認めないわッ!
そう叫ぶクーラに、ジョージが首を振った。
「一対一の戦いに、素人もくそもあるものか……虎や獅子が修行することなど無しッ、技術など無粋ッ! あるのはただ、強さだけッ!」
バーンッ
「言うねぇ……確かにジョージの言うことも間違っちゃあいない。確かにな。とはいえ……」
拳志郎は、少し興ざめしたようにつぶやいた。
「どんなに努力しても、結局人は獅子に勝てないってぇことか?そんなことはねぇだろ。人は獅子に勝てるさ。そもそもそうじゃなきゃ、つまらなぇ……」
「調子に乗るなぁッ!」
ジョージの一瞬のスキを見つけ、クーラが拳を放った。
バシュッ!
完全には避けきれず、ジョージはその拳を、まともにみぞおちに喰らった。
「ウッ、さすがスゴイ攻撃だ。」
拳志郎は懸念の色を浮かべて、その様子を見ていた。
「そうだ……無形の拳は受けに回ると弱い。さて、どうするんだ、ジョージ?」
「先手必勝っ!元斗光烈脚ッ」
クーラが、光をまとった無数の蹴りをジョージへ叩き込むッ!
「アマィッ!」
だが、ジョージは、クーラの蹴りを巧みにブロックしつつ、懐に踏み込んでいくッ!
コォォォォッォオォッ
懐に潜入したジョージが、クーラの体に肩をぶつける。
クーラの体勢が崩れるッ!
「ゴラゴラゴラゴラゴラァァァッ」
ジョージの渾身のラッシュが、クーラを襲うッ
「!?何だってェッ」
だが、あることに気が付き、ジョージはムリヤリ途中でラッシュを止めた。
「………ハーハーハ――」
ジョージの突き出した拳の上に、クーラが直立しているのだッ
「あれが元斗の奥義、天衝舞か……」
拳志郎がつぶやいた。
「ヨシッ、クラエッ!『破の輪』ッ」
クーラの光る手がその光を強める。
そして、巨大なオーラをまとった光る手が描いた二つの輪が、ジョージに襲い掛かった。
「ウォォッ」
あわてたジョージは、拳を引き戻す。
そしてカウンター気味にサイドキックを放つッ
ジョージの操る無形の拳のもととなっている武術サバット、その神髄は『靴を履いた状態を想定して戦う事』にある。
つま先を使ったサイドキックは、ジョージのもっとも得意とする攻撃なのだッ
その足が、『輝いた』。
ジョージの蹴りが、クーラが生んだ一つ目の輪を切り裂く。
だが、残るもう一つ手が生み出す『光る輪』が、より輝きを増して、ジョージを襲うッ!
「キィエエエイイ一ッ」
「ゴラァァッ!」
グワシィッッ
二人は同時に弾き飛ばされ、床に崩れ落ちた。
「これ……これくらいの痛みッ……それが何だッ」
クーラはジョージのサイドキックをまともに肩口に喰らった。
だがそれでも、膝をガクガクさせながらなんとか再び立ち上がった。
まさに一瞬の攻防。
だが拳志郎の眼には、二人が激突した瞬間に何が起こったのか、はっきりと見えていた。
(ほう……あの相打ちの瞬間、またジョージの体が光ったぜ。その光が、クーラのオーラが込められた攻撃から、ジョージを守りやがった……どういう理屈だ?)
「ハ―ッ、ハ―――、恐ろしい攻撃だった……あっ……危なかった……」
ジョージは片膝を突いた姿勢で、身を起こした。
拳を固め、ゆっくりと立ち上がる。
「だが……もう君には手が無いハズだ………まだやるかッ!?」
「キサマこそ……こんな程度の拳で何を誇るッ! そんな覚悟の定まっていない『なまっちょろい』拳で、我が元斗皇拳の底が測れるかッ!!」
二人はヨロヨロしながらも、まだ戦いを続けようと拳を構え、むかいあった。