ジョージ・ジョースターの拳 Street Fighting Men (ジョジョX蒼天/北斗の拳)   作:ヨマザル

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才能

「……だがキサマ、どういうことだ?我が『破の輪』をまともに食らったにもかかわらず、アザひとつ無いだとォッ!?」

クーラが、忌々しげに尋ねた。

「『破の輪』?さっきの空手チョップのことかい?」

 

空手チョップ……

厳しい修行の末に身につけた、闘気をまとった手刀だ。クーラは忌々しげな顔をした。

「クッッ……たとえキサマが我が『手』を防ぐことが出来たとしても、私は……イヤ……元斗は負けないッ!」

クーラはガクガクする足を無理やり抑え込んだ。

そして、ジョージに向かって再び拳を構えた。

拳志郎は、眉をひそめた。

(ケッ、口ほどにもねぇな。クーラの奴、足に来てやがるか……だが、それはジョージも同じ……!?じゃねぇッ。アイツ、ぴんぴんしてやがる?……だが『破の輪』をまともに喰らったッてぇのに、どうしてだ。………んんっ??なんだぁありゃあ、ジョージの奴は内功を高めていやがるのか?あれが、野郎の『光る拳』のヒミツか?)

「コォォオオオオオオ―――ッ」

ジョージは『奇妙な』呼吸を行っていた。その呼吸のたびに、どんどんジョージの怪我が……治っていくのだ。

「こいっ!ジョォオオ――ジィィッ!!」

クーラが叫んだ。

そして、両手で空中にクルクルと円を描きはじめた。

両手のひらの中心に漂う空気をこねまわすような動きだ。

その手が青白く輝く。

元斗特有の、破壊の力を秘めた闘気が込められた『手』だ。

ほとんどの対戦者は、その破壊力のある『手』から注意をそらすことができない。

そして、その動きに幻惑され、間合いを読み間違える。

そこを、狙いさました『手の一撃』が襲う……と言う訳だ。

 

だがジョージは、並の格闘技者ではなかった。必殺の闘気を込めた『手の動き』に、一切注意を払わないのだ。

かわりに、ジョージはまるでボクシングのように拳を固めた。

「……クーラ、次に僕が放つのは、この……左の正拳突きだ。僕の全力、魂を込めた一撃を放つッ!これでキミを……キミと決着をつけるッ!」

 

クーラの顔が真っ赤に染まる。

「次の攻撃方法を宣言するなど、キサマ侮るのかッ!そんなもの、迎撃してやるッッ!」

二人から離れたところで、戦いを観察している拳志郎は、ボリボリと頭をかいた。

(オイオイ、ジョージのヤロウ何でもありかよ?ただ立っているだけでダメージがダンダン回復していきやがる。何だぁ?ありゃぁ……しかも、あの様子じゃあ、本人は自分の身に起こったことにきがついてねぇぞ)

 

やがて二人の『気』が満ちた。にらみ合いが終わる。

ジョージとクーラは、力を振り絞って激突するッ!

「ウォォォォォオオッ!!」

 バシュッ! 

ドゴゴゴゴッ

拳志郎は二人の戦いを冷静に見守っていた。

(あぁぁぁ……ジョージの奴も、クーラもボロボロだな。すべての力を振り絞ってやがる。もう『光る手』も『光る拳』もねーな。ただ殴りあっているだけだ)

ドガッ!

ボゴッ!

腫れ上がったクーラの顔を見て、拳志郎は首を振った。

(クーラも頑張りやがる……あの馬鹿でかいジョージを相手にして真っ向から殴りあうなんてよ……。それにしてもジョージの奴は、女を相手に一切手加減がねーな……とんでもねぇ野郎だ……俺はぜってぇあんなことはやらないねェ)

 

     ◆◆

 

一方その頃、クリスピアンはようやく拳志郎にやられたダメージから回復しつつあった。

立ち上がったクリスピアンの目に入ったのは……

 

それは、カーテンの裏に潜んでいる二人の男であった。

 

一人はガタガタと震えながら、クーラに向かって拳銃を構える王。

そしてもう一人は、いつの間に現れたのか、その王を支える元ジョースター家の執事、ノーマンの姿であった。

「王さまッ!奴らですッ……とんでもない奴らなんですッ!奴らに正義の鉄柱を与えてくださいッ、私がお持ちしたアレで、奴らを……」

ノーマンは王に囁いていた。 身なりこそジョースター家で執事をやっていたころと同じパリッとした服装だ。だが、その目はうつろで、きょどきょどと動いている。

ノーマンは、まるでしがみつくようにして王を鼓舞した。

そのノーマンの『狂喜』が移ったのか、王の目もまた、正気の色を失っていた。

「グッ……ギギギィ……余をないがしろにしおって」

王の手が、動く。その手にあるのは、巨大なマシンガンだ。

「そうじゃ、あの野蛮人共も、これさえあれば……クヒヒヒヒッ」

クリスピアンとほぼ同時に、拳志郎も王とノーマンに気が付いた。、

「!?マシンガン……ジョージたちに向けてやがるッ!何だとォ、あのチンチクハゲめ」

伏せろッ!

拳志郎はそう大声で叫びながら、王の方へ飛び込んだ。

クリスピアンも、叫びながら飛び出した。

「ねェちゃんッ!何やっているんだ。油断するなッ」

クリスピアンと拳志郎、二人の大声が、必死で戦っていたジョージとクーラの耳に入った。

 

ジョージとクーラが戦いの手を止めたッ!

だが……

ババババッ!ガガッ!!

次の瞬間、王のマシンガンの銃口から火が噴いた。

「ブヒャヒャヒャヒャッ」

王が、笑うッ!

 

体力の限りを尽くして戦っていたクーラは、なんとか回避しようと踏ん張り、足元を踏み外した。

バランスを崩し、床に体を叩きつけられる。

そこに、銃口が向いた。

 

逃げられないッ!

 

「ッ!」

思わず目をつぶったクーラが再び目を開けると、拳志郎の顔が目の前にあった。

思わず赤面した。

クーラは、拳志郎の腕の中で抱っこされていたのだ。

しかも、いわゆる『お姫様抱っこ』の格好だ。

「放せ……北斗のぉ」

クーラはあわてて拳志郎の腕を押しのける。

「フゥウッ……大丈夫かぁ、嬢ちゃん……助けてやったんだぜ、そんなに怒るなよ……そんなんじゃぁ、彼氏の一つもできねーぞ」

拳志郎がニヤッと笑った。

クーラは、何とか動揺を抑え、つとめて冷静に答えた。

「抜かせ……だが、礼を言っておく……ジョージの奴に集中しすぎていて、奴の動きを見逃していたわ………………ところでジョージは?」

「あそこだ…………」

指差した拳志郎の顔が、歪む。

「チッ……なんてことだ」

 

「なによ?」

その視線を追ったクーラには、その目に入ったもののがなんだか、一瞬理解できなかった。

ようやく現実を認識すると、立っていることもできずしゃがみこんだ。

(……嘘でしょ)

目の前に見える現実を、信じたくない。

現実感覚が、消えていく……

 

コ¨ コ¨ コ¨ コ¨ コ¨ コ¨ コ¨ ……

拳志郎に抱きかかえられたクーラが目にしたのは……血だらけの胸を抑えてしゃがみ込む最愛の弟、クリスピアンの姿であった。

クリスピアンのすぐ隣には、しかめっ面をしたジョージが立っていた。だがジョージは無傷であった。重症なのは、クリスピアンだけだ。

「……」

ジョージは、クリスピアンの手をそっと握り、地面に横たえた。

 

ジョージの無事な姿を見て、ノーマンがペッと唾を吐き、悪態をついた。

「くっ、しょんベンくさいガキが邪魔をしおって。だだだだ……だが、復讐はこれからよ。薄汚い愚民よッ、よくも俺をぉぉ」

「ハッ……よ、よ、よ、よッ……余をないがしろにするからじゃッ、拳法家だぁ?素手で銃に勝てるかッ、おっ、お、お、おっお前たちもぉおお」

半分錯乱した王が、ジョージに向かって引き金を引こうとするッ!

 

だが、銃口が『先ほどまでジョージがいた場所』に向いたとき、すでにそこにはジョージの姿はなかった。

銃口が向く一瞬前、ジョージは素早くノーマンと王へ飛び掛かっていったのだッ!!

「この……ド外道ガッ!」

ジョージは、鬼の形相でノーマンと王に飛び掛かるッ

パーン

 

ジョージは、自分に向かって発射された弾丸を、横っ飛びでかわす。

床をゴロゴロと横にに開店すると、すぐさま片膝を立てた状態で起き上がった。

そのまま、再び突進するッ!

 

「王さまッ!奴がまた来ます。奴をやってしまってくださぃぃぃっ!!」

ノーマンが、あわてて悲鳴を上げた。

「余に任せておけぃッ」

王は再び銃口を向けるッ!

バババババッ!!

だが、着弾したのはまたしても、誰もいないただの大理石の床だ。

ジョージがいち早く、再び回避行動をとったのだ。

「この卑怯者がァああああッッ!!!」 

ジョージは拳を固めるッ!

バゴッ

左手でショットガンのような連打を放つッ!

「ゴラゴラゴララァァッ!」

 

ドガッ!ドガドガッ!

「ブギィ」 「ウゲェツ」 

まともに喰らった王とノーマンは、まるで紙人形のようにぶっ飛ぶ。

……王・ノーマン:二人仲良く再起不能 ……

 

「……この、ドグサレがッ!」

ジョ―ジはそう毒づくと、二人に背を向けた。

 

その時

 

ゲボッ

 

クリスピアンが激しく吐血した。

その血をぬぐいクーラの方を向くと、青ざめた顔に無理やり笑みを浮かべる。

「チッ……ドジこいたぜ。へへっ、でも姉ちゃん……こ、これであの時の借りは……か、かえし、たぜ」

「あん時の借りって……バカね、あんた、そんなことどうでもいいのに」

だいぶ昔の話だが、思い当たる節はある。

クーラは拳志郎の腕から抜け出し、弟の元へ駆けよった。

バタンと弟が倒れ掛かる寸前、クーラは弟の体を抱きかかえた。

 

「……ねーちゃん、北斗なんかに負けんなよ」

つっかえ、つっかえ、震え声で、 クリスピアンがささやいた。

 

「なっ……クリスッ、ダメよ……しっかりしろォッ!あの時の事って……そんなこと、まだ気にしてたの……」

クーラとクリスピアンの脳裏に、昔の思い出がよみがえる……

10年前のある日、デカン高原のとある岩山でその事件は起こった。

     ◆◆◆◆◆

その日、クーラは興奮したクリスピアンにつれられ、自宅から少し離れた岩山を登っていた。

「へへっ、お姉ちゃん……こっちこっち。ボクが見つけた、とっておきのヒミツ基地さっ。お姉ちゃんにだけ、とくべつに教えてあげるよ」

まだ7歳のクリスピアンは、すっかり興奮していた。よせばいいのにアチコチをパタパタパタ、パタパタと走り回りっている。そうやって無駄に走りながら、自分が見つけたとっておきの『秘密』の場所のことをつっかえ、つっかえ説明する。クーラに褒めてほしいのだ。

クーラは、そのあどけないクリスの笑顔をみて、自分もつられて笑いながら、岩山を登っていた。

「フフフ、待ちなさい、クリス」

 

「こっちだよ。このオカを登ったところにあるの……ほら、あそこっ!あそこの岩山に洞窟があるんだッ、ボクが見つけたんだよッ」

クリスが興奮して、ピョン、ピョンとジャンプした。息せききって、母親代わりのクーラに、自分の見つけた洞窟がいかにすごいのか、あらためて力説する。

「ハイハイッ、そりゃあよかったわね……!?」

と、ニコニコしていたクーラの顔が、急にこわばった。

クリスピアンの背後にいるものに、気が付いたのだ。

「クリスッ、すぐそこから離れなさいっ!」

クーラは、務めて声を抑えてクリスピアンを呼んだ。

 

ザサッ

 

そこにいたのは、血に飢えた巨大なトラであった。

虎は、まさに『舌なめずり』して、クリスピアンを見ていた。

 

「えっ?なに言っているの?」

そんなことより、早くいこうよ。クリスピアンは笑った。自分の身に危険が迫っているとはかけらも思っていない、能天気な笑い顔だ。

「早くッ!」

クーラが真剣な顔で、囁く。

と、クリスピアンが後ろを振り向いた。

トラと、目が合う。

「えっ……トラ?……スゴイ牙だ。え……ボクにむかって来ているのッ??」

クリスピアンが戸惑ったように言った。

 

「クリス……落ち着いて、ゆっくりこっちに来るのよ。焦っちゃダメ、ゆっくり、落ち着いて。虎から目を離さないで。大丈夫よ、落ち着いて……」

だが、7歳の子供に、人食いトラを目の前にして落ち着けと言っても、無理な話だ。

すぐにクリスピアンが泣きだした。

「うわぁぁぁぁぁぁあ!お姉ちゃんッ助けてぇ」

「大声出しちゃダメッ! ハッ?」

クーラの叫び声を聞いて、興奮した巨大なトラがいきり立った。

トラは、クリスピアンに向かって飛び掛かるッ!!

「ギャルルルッ」

 

「!クリス危ないッ!!!」

バシュッ

 

おもわずクリスピアンとトラとの間に分け入ったクーラの背に向かって、トラが爪を立てるッ!

血しぶきと絶叫を上げて、クーラが吹っ飛ばされるッ!

吹っ飛ぶクーラを追いかけ、トラが前足を振り下ろすッ

 

「うわぁぁぁぁぁああっ 姉ちゃんッ、姉ちゃんがァ」

クリスピアンが泣き喚いた。

 

バシュッ!

「!?ギャゥああああっ」

次の瞬間、トラの前足が吹っ飛んだ。

間一髪、クーラの『光る手』が前足を切り落としたのだ。

 

痛みに狂い荒れるトラに、クーラが渾身の一撃を与えるッ!

「ウウッ……喰らえ、元斗白華弾ッ」

バシュッ!

クーラの渾身の一撃は、みごとに虎に直撃した。

そしてトラは、頭部と腹部を無残に切り刻まれた。

「Gyiaaaaaa!」

トラは強烈な吼え声をあげ……死んだ。

 

クーラは、弟が傷一つ追わなかったことを確認し、微笑んだ。

「………ああ……よかった。と……と、虎は逃げたわね。もう心配ないわよ、ク…リ……ス」 

クリスピアンは、泣きながら姉にしがみついた。

「姉ちゃん……どうしよう、ボクをかばってこんなケガを……血がいっぱいでてる……」

姉の体に回した手が、血に染まる……

 

クーラは、泣いている弟の頭をそっとなぜた。

「フフフ……クリス、心配いらないわ……泣き虫ねッ、そんな事では修行にも差し支えるわよ……あ、アンタは、早く大きく、強くなって、今度はワタシをまもってね」

そう言い終えると、クーラはすべての力を使い果たし、気を失った。

     ◆◆◆◆◆

「フフフ、俺ってば、なかなか強くなれなくて……でも、これでようやく約束を守って姉ちゃんを守れた……か、な?」

クリスピアンは満足げにそういうと、がっくりとこうべを垂れた。

「クリスピア~~ンッ!」

クーラは、クリスピアンを抱きかかえて、号泣した。

「うぁあああああああああ」

 

その隣に立ったジョージが、クッと拳を握る。

「クッ……、僕がもっと早くコイツラに気が付いていたら」

 

 

「クーラ……」

泣き叫ぶクーラのかたわらに、拳志郎がそっとより添った。

 

クーラは拳志郎を睨みつけた。

「なんだ、北斗のぉ、私を笑いに来たか?」

クククク……

クーラは、自虐的に笑った。

「天帝の守護星、元斗皇拳も血に落ちたものよな。見失った天帝を探して各地をさまよい……情報を得るためには、その土地に巣くう悪にさえ目をつぶり……挙句に一門のものは『北斗』に負け……伝承者など、『拳法の素人』に敗れかける始末……まったく情けない」

フフフ……ハハハハハッ!

血まみれの弟をかき抱き、クーラは己の不甲斐なさを嘲った。

 

拳志朗は膝をついた。クーラの肩に手をかける。

「お前はいい拳士だ。誰も笑ったりしねぇ」

 

「ハハハ……では、お前に一片の情が残っているのなら、私たちを放っておいてくれ。せめて、残された時間を二人で過ごしたい」

 

悲痛な顔で言い募るクーラにむかって、拳志郎は首を振った。

「おいおい、まだあきらめるには早いだろうが~~」

 

「えっ?」

 

「よく考えろ、お前の目の前にいるのは『北斗神拳』の伝承者(候補)だぜぇ?」

そう言うと、拳志郎はクーラの目の前にしゃがみこんだ。

しゃがみこむと、今度は意識を失っているクリスピアンに向って、話しかける。

「クリスピアンよぉ……、お前なかなか漢じゃねぇ~~か……見直したぜ。きっとあと十年も修行すりゃあよ、相当な使い手になれるぜ。お前は……ここで死ぬには、惜しい奴だ」

 

トンッ

 

拳志郎は、気絶しているクリスピアンの胸の中心を、人差し指でついた。

 

「拳志郎?貴様、何を……」

 

「心央点……血止めの秘孔をついたぜ………これで血は止まったから、ちゃんと手当をして……後はジョージがその『不思議な力』を使えば、クリスピアンは助かるだろうぜ」

クルリと、拳志郎がジョージの方を振り向いた。

 

「何っ、本当かッ!」

クーラの目が輝いた。

 

「えっ?」

ジョージは、一歩後ろに下がった。

 

「ジョージ……お前、何かクリスを助けられるような、『不思議な力』があるのか?……ハッ、そうか、それで私の闘気(オーラ)をまとった攻撃を受けても、大丈夫だったのか」

 

「いや、クーラ、誤解しないでくれ………拳志郎!?何を言っているんだ? でたらめを言うのはよせッ。僕に特別な力など……ないよ」

ジョージは焦って、もう一歩後ずさった。

希望に満ちた顔で迫るクーラから顔をそらし、拳志郎に助け船を求める。

 

「ふっ……ジョージよ……お前は、闘気をまとい細胞を滅する『元斗皇拳の光る手』を平然と受けられる男だ……そんなこと、この俺様でさえできねぇ……そんなやつが、何を言っているんだぁ?」

 

「なっ……あれは……あれは『違う』んだッ!買いかぶりだよ」

 

「たっ、頼むッ……弟を……ッ」

なおも否定するジョージに、クーラがすがった。

 

ジョージは、力なく首をふった。

「拳志郎、君がやればいい。君の『経絡秘孔』とやらでクリスピアンを助けてやれッ」

 

「……そりゃあ無理なんだよ。俺の使う『経絡秘孔』は確かに施術者の身体を操作する物よ……だから、能力を一時的に高めたり、血を止めることは出来る……だがよぉ、悔しいがマシンガンの銃創は治せねぇ~~」

 

「……」

 

「なぁジョージ、お前の『本当の力』を見せろよ?………知ってるぜェ、お前の『光る拳』は、『北斗神拳』や『元斗皇拳』とは真逆の『活人拳』……そうだろう?」

 

お前ならやれるぜ。

拳志郎の言葉は、ひどくジョージの心を動かした。

(『活人拳』って、『波紋』のことか……ぼッ……僕が?人の命を助ける?……『波紋』でェ?)

 

コ¨ コ¨ コ¨ コ¨ コ¨ コ¨ コ¨ ……

 

だが、いくら拳志郎が励ましても、ジョージはまだ悩んでていた。これまでに何度も『波紋を練ろうとして』失敗し続けた苦い記憶が、なおもジョージの行動を引き留めているのだ。

(もし、僕がリサリサやストレイツォ先生のように『波紋』を練れるのならば……もしかして……いや、無理だ、出来っこない)

 

「ジョージ、お願い……」

クーラのすがるような目が、痛い。

 

(いやだ……でも、姉をかばったこの男は見捨てられないッ)

ジョージは、覚悟を決めた。

(!?…………ええい、一か八かだッ)

 

コウォゥオゥォウォゥ……コウォゥオゥゥゥォウゥゥゥゥ……

見よう見まねで覚えた『波紋の呼吸』を行う。

目を閉じ、『波紋の呼吸』で得た波動を、指先に集中させるようにイメージするッ!

 

集中終了ッ!

 

「オーバードライブ(波紋疾走)ッ!」

ジョージは、クリスピアンに両手で触れたッ!

 

……パチ

 

ほんの少しだった。

波紋は、ほんの少しだけ放出され、微かな音をたてた。

だが、クリスピアンはピクリとも反応しなかった。

「どっ……どうだ?」

クーラは、希望に満ちた顔をしている。

 

「……ダメだった……ごめんよ。精一杯やってみたけど、やっぱり僕には波紋は使えないよ……そっちの才能は僕にはないんだ……」

ジョージは肩を落とした。ジョージの足元には、先ほどと変わらず、クリスピアンがぐったりと倒れていた。

チラリとジョージの脳裏に、幼馴染(リサリサ)と小父(ストレイツォ)のがっかりした顔が浮かぶ……

 

拳志郎は首を振った。

「そうじゃない……ジョージょお……それじゃないだろう?お前の『本当の才能』……俺には観えたのは、そいつじゃない」

 

クーラはジョージの二の腕にしがみ付いた。

「ジョージ………さっきまで拳をかわしていたお前に頼むのは、おかしいことかもしれない……だが、たのむッ! もう一度やってくれッ、クリスピアンは私の唯一の家族なんだッ!」

 

「ウウッ」

いたたまれなくなったジョージは、もう一度『波紋の呼吸』を行い、クリスピアンに触れるッ!

だが、やはり『何も』おこらない……

「ゴメンッ……やっぱりダメなんだ」

ジョージは、再び肩を震わせ、うつむいた。

「やっぱり僕には出来ないんだ……もうわかっただろ、僕には才能がないんだよっ」

 

うなだれるジョージの肩を、ゴツンと拳志郎が叩いた。

「だぁからよぉ……そうじゃねぇだろ、ジョージ……お前の『光る拳』のヒミツはそれだけじゃねぇだろ。お前のその本気、俺にもう一度見せろよ。その、内功じゃねぇッ……さっきからお前が必死になって隠そうとしてる奴だよ……それを使え」

 

ジョージは、ビクッと身を震わせた。

「なんだって拳志郎……君は、君には『観えている』っていうのか?」

 

コ¨ コ¨ コ¨ コ¨ コ¨ コ¨ コ¨ ……

 

「フッ、さあねぇ」

「……ずっと秘密にしてきたんだ……」

「おいジョージ、おまえが『それ』を秘密にしたいのはいい。だが、お前、ここでクリスピアンの小僧を『見捨てる』のか?」

「……そんなこと出来ない。わかっているよ」

ジョージは、大きくため息をついた。

「……クーラ……実は、もう一つだけ手があるんだ。でも、これは一か八かの賭けになる……もしかしたら、『クリスピアンの命を奪う』事になるかもしれない……かけてみるかい」

 

クーラは、ゴクリと唾をのみ、うなずいた。

「このままでは、クリスは絶対に死んでしまうッ!何でもいいわッ、何か、何か……」

 

「わかった」

ジョージは微笑み……自らのスタンド(幽波紋)を出現させた。

「The thornッ!」

 

バリッ!

 

ジョージはスタンドの名を呼び、自分の手をクリスピアンに向って伸ばしていった。

すると、伸ばした手から、『茨の塊でできた腕』がゆっくりと現れた。続いて頭と胴体が現れていく。

ゆっくりした動きだ。だが、力強い。

ジョージの腕から延びた『スタンドの腕』は、ノロノロと動きつづけ、ついにはクリスピアンの体に触れた。

 

すると、『スタンドの腕』がほぐれ、茨の塊になった。その茨が、クリスピアンの体をゆっくりと覆っていく。

 

そして、茨から花が咲き、種が実り、その種がクリスピアンの体に根をはった。

 

茨に包まれたクリスピアンは、幸せそうに眠り続けている……

 

ジョージは、ふぅっ と大きな息を吐いた。

「……クーラ、拳志郎、すんだよ」

 

拳志郎が、満足げにジョージの背中をたたいた。

「ジョージ、それだぜ。その変な闘気だ。さっさとそいつを使えばよかったんだ」

 

「なんだ、このジョージの闘気は?『茨』?……こんな『奇妙な』闘気は、始めてみた」

クーラは目を丸くして、ジョージのスタンドを見ていた。

「ジョージ、それでどうだ、クリスピアンは直ったのか?」

 

「彼は僕がこの能力を解除するまで、もう目を覚まさない」

 

「なんだって?」

「だから、彼はボクが許可するまで、目覚めることは無い」

「!?貴様ッ、だましたのか?」

クーラの手が禍々しい緑色に光りだす……

 

「違うッ、誤解だよ。聞いてくれ……僕のThe Thornに触れた人間が、昏睡状態になる。この状態なら、まるで木のように、ずっと変わらぬまま眠り続けることができるんだ」

 

「つまり?」

 

「つまり、クリスピアンはまだ『死なない』……このまま数か月、ゆっくり体を回復させた後で、目覚めさせればいい」

 

「それを先に言ってくれ」

クーラが『緑色に光る手』を消した。だが、ある事に気が付いて、素っ頓狂な大声を上げた。

「ちょっと待てッ、つまりこの『植物状態』のクリスピアンを数か月、守り切れってことぉ?」

 

「他に手はない……大丈夫。僕の母に任せればいいよ」

 

「なるほど……お前の満点ママなら何の心配もないな」

拳志郎がうなずいた。

「クーラ、それはいい手だぞ。お前の弟を、ジョージの家に運ぼうぜ」

 

「しかし、いいのか?」

 

「もちろん」

ジョージはサワヤカにうなずいた。

 

「そうか、悪い……この借りは返す……むっ?」

 

拳志郎、ジョージ、クーラの三人が一斉に同じ方向をむくッ、

 

三人の背後に、ジョージに『再起不能』にされたはずの元ジョースター家の執事、ノーマンが立ち上がっていたのだ。

 

「ふっ!ハッハッハッ!!貴様ら、もう終わりだ。貴様らを守るものは何も無いッ!すでに北斗神拳伝承者は我の手にあるッ!そして、『波紋の里』もだッ!ハハハハハッ……」

ノーマンは何が面白いのか、大声で高笑いを始めた。

 

バゴォ――ン!

「ブギィッ!」

 

嗤うノーマンを、拳志郎が素早くなぐりつけた。

 

「ヒッ……」

ノーマンは、部屋の隅にぶっ飛び、四つん這いになって拳志郎から逃げ出した。

 

「オイオイ、北斗の文句は俺に言えッ!かんけ―ない奴にあたるなッ!」

 

「ブッ……偉大なる大英帝国の臣民たる私を、白人の私を、思いっきり殴りやがって。この、トイレのドブ水臭いサルの分際で……『神』が、『私』が許さんぞォォォ」

 

四つん這いの無様な格好で、ノーマンが吼え……

 

「ガッ……あれっ?痛くないぞ……それどころか、体が絶好調だァッ!アハハハハハッ!絶好調になったのならァ!この力を利用して、『あのお方』の、『我らの神』のために、お前たちをぉぉおおお」

 

調子に追ったノーマンが ピョンと跳ね、立ち上がった。近くに倒れていた王の手に会ったサブマシンガンをひったくる。

ノーマンは、そのマシンガンを嬉々としてジョージたちに向けた。

 

「……」

拳志郎、ジョージ、クーラは、ノーマンを無表情に眺め、クルリッと背を向けた。

 

「貴様らぁ、なぜ背を向けるッ! 許さんぞォ~~一人一人殺ってやるぞォ~~、このサブマシンガンでぇぇ~~。フフフ、ハハハハハッ」

 

カチッ

カチッ

 

ノーマンは首をかしげた。

「!?アレッ?引き金を引いても弾が出てこないよ?アレッ?どうしてだぁ?」

 

スカッ

 

ノーマンはサブマシンガンの引き金を引こうとした。だが、ピクリとも動かない……

 

「ハハハハハッ!なぁぁああんんだぁ! そっ、そうか。なんで弾が出ないか、り り り 理由がわかったぞッ……」

 

「そうかい、ごくろうさま」

拳志郎が、背中越しに言った。ポケットに手をやり、葉巻を探している。

 

「理由は、いつの間にか、お お お お 俺の指がッなくなっているぅぅからだったぁぁぁあああああああ!!これで、どうやってあのお方のために奴らをぶっ殺せるんだぁぁ?」

 

ようやく煙草を探し出した拳志郎が、もう一度振り向き、ノーマンへ言った。

「安心しろ、今から、オタクはそんなことで悩む必要がなくなるぜ」

 

「えっ?」

 

ぷはぁ――ッ

拳志郎は煙草をくわえ、煙を吐きつけた。

「だって……お前はもう、死んじまっているのだからよぉ」

 

「ええっ?ハハハハ、何を言ってるんだ」

 

「……もう一度教えてやる。『お前はもう、死んでいる』」

 

「……ハッ」

ノーマンは、その言葉を鼻で笑い飛ばしかけ……急にきょとんとした表情になった。

「……なんだ、体がどんどん気持ちよくなってくるぞ、そっ……それに、なんでか体がくすぐったいぞォ?ブヒャヒャヒャヒャ」

ノーマンのきょとんとした表情が、だんだん恍惚に染まっていく……

 

「経絡秘孔のひとつ、牽正(けんせい)をついた。せめて死の直前に、天国を感じながら逝け」

 

ピッ

 

拳志郎はたばこの抜け殻を指ではじき、ノーマンにぶつけた。

 

それが引き金となった。

 

「アベシッィ!」

ノーマンは、両手の怪我から噴水のように血をまき散らした。

次の瞬間、ノーマンの腕が、そして肩から心臓にかけて、まるで『内部から爆弾を爆裂させたかのように』、弾け飛んだ。

 

「うっ……物凄いな」

顔をしかめ、ノーマンの体を調べるジョージ。

 

そのジョージから少し離れたところに立つ拳志郎に、クーラが話しかけた。

「フッ……北斗神拳、相変わらずの破壊力ね……もちろん私には通じないけどねッ」

 

「へっ、元斗も……『東斗』も、北斗には勝てんぞ」

拳志郎が胸を張った。

 

「!?今、何て言った?」

クーラが怪訝な顔をした。

 

「……『東斗』と言ったのさ、じきにお前にも分かるさ。しばらくアイツと一緒に行動してればな」

 

「……拳志郎、何を考えている。あの『イギリス人』が『西斗』、『東斗』の伝説と関係あるとでも?」

 

「フッ、やはり、元斗にも伝わっているのか?古の秘拳『西斗月剣』と『東斗仙道』の物語を……」

 

「拳志郎……あれは、ただの伝説じゃないの?」

 

「いや、……本当の話さ……多分な」

 

     ◆◆

 

一方、ジョージは拳志郎とクーラの話には参加せずに ノーマンの持ち物を探っていた。

そして、『あるもの』を見つけた。

「!?これはッ?」

それは、一枚のふるぼけた白黒写真であった。写真には、巨大な山脈をバックに二人の漢が映っていた。

写真の中の二人は、歳こそ離れてはいたが、とても仲がよさそうに笑い合っていた。

 

「おっ、親父じゃないか?……元気そうだな……それで、隣の男は誰だ」

拳志郎が、ひょいッとジョージの肩越しに写真を見ながら言った。

 

「彼は、『老師トンペティ』……確か、5年前に亡くなったはずだよ……」

 

「なるほど、これは昔の写真ってワケだな。どおりで親父が若々しい顔なワケだぜ。……それで、この写真の場所はどこだ?なんで、このクソ野郎がオヤジとその『老師』の写真をもってやがる?」

 

「ここは、『波紋の里』だ。忘れるものか……それで、この人が君の父さんだって?」

 

「ああ、そうだぜ。コイツは『霞 鉄心』第六十一代北斗神拳伝承者で、俺の親父だ」

 

ふむ……ジョージは腕組みをして考え込んだ。

(『北斗神拳伝承者?』彼が『波紋の里にいた?』その写真をなぜこの男が持っていたんだ? いったい何が起こっているんだ?」)

 

コ¨ コ¨ コ¨ コ¨ コ¨ コ¨ コ¨ ……

 

(このままじゃ何もわからない……チベットへ行ってみるか……エリザベスの……妻の下へ……)

ジョージはそう決めると、1人蒼天の空を眺めた。

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