ジョージ・ジョースターの拳 Street Fighting Men (ジョジョX蒼天/北斗の拳)   作:ヨマザル

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鉄拳

その頃、見張り台の上では南斗紅雀拳のセンとジョージが、激しい戦いを繰り広げていた。

 

「喰らえィ」

再びジョージがタックルに行くッ

 

シュルルルルッ

 

だが今度は、そのタックルを見切られた。

ジョージの攻撃をかわしたセンは、ホッと息をついた。

「クッ、でかい図体の割に、なかなか早い動きだな……。だが、まずタックルを選択したこと、これでアナタが憲法家でないことははっきりしたッ!我が、南斗紅雀拳の敵ではないッ!喰らえイっ」

キィエエエエエィツ

センは奇声を上げた。ユラユラと腕を動かし、異様な構えを取る。

 

(何だ?なにをしようとしているんだ?……ええぃッ、ここは度胸一発、先手必勝だッ)

センに向かって、ジョージが再びタックルをしかけ、突っ込む。

 

「フン……下らんッ!」

センは、にやりと笑った。

タックルに来たジョージを迎撃しようと、腰を落とし、腕を構える。

 

その時、二人の間に太い枝が落ちてきた。

階下から投げつけられたものだ。

 

バシュッ

 

その枝に、センが腕を伸ばす……すると、木が瞬く間に削れていくッ!

 

ジャルルルルルッ

 

枝は、どんどんその身が削られていく。

そして床に落ちる前に、まるで、蒸発したようにその姿はなくなった。

そして床には、木クズがまるで雑草のようにばらまかれていた。

 

その光景を見たジョージは、冷や汗を浮かべた。

「馬鹿な……木が……木クズになっちまった。まるで、ニホンの鰹節のように削られるなんて……コイツがやったのか?」

 

木を投げたのは、拳志郎であった。

拳志郎は地面から見張り台を見上げ、ジョージに大声で警告した。

「ジョージッ!今のでわかったろ……南斗をナメルなッ!南斗は、手足を必殺の武器と化す、恐ろしい破壊力を持った拳法だッ」

 

「……ああ、良くわかったよ」

 

「フッ……わかったからどうだというのだッ!我が『南斗紅雀拳』の威力、とくとあじわうがいいッ!!!」

センは両腕を広げた。

その腕を、まるでクジャクの尾びれのようにヒラヒラト舞わせ……今度は宙を舞うッ。

 

「啄殺乱破(たくさつらっぱ)!」 

 

バシュッ

 

センは空中で見張り台の天井を蹴った。

そして、無数の突きを繰り出しながら、ジョージに向かって突っ込んでいくッ。

「死ねぇぇイイイッ」

 

「!?ッウォォオオオオッ!」

ジョージは、とっさに床板を剥ぎ取り、センに向かって投げつける。

同時に必死に床を転がり、センの突進をかわすッ

 

ぼごぉぉぉっ!

 

 

衝撃音とともに、周囲の床材が飛び散るッ!

 

「フッ……良くかわしたな、だが二度目は……無いッ」

 

「ハッ!貴様こそ、この俺をナメルなァァァッ!」

センに追撃の構えをとる間も与えず、今度はジョージが動いた。

「ゴラッ!」

 

センの頭部への回し蹴りだッ

 

「フッ……下らん攻撃だ……なッ?」

センは片手をあげ、ジョージの蹴りを防御しようとした。

その時……

不意にジョージの脚が 消えたッ!

 

次の瞬間、消えたジョージの脚が、四方から同時にセンを襲うッ!

 

「ブギィィイイイッ!」

マトモにジョージの蹴りを受けたセンが、見張り台からぶっ飛ぶ。

 

無様に地面に這いつくばるセン。

 

その様子を、少し離れた所から拳志郎が満足げに見つめていた。

(やるじゃねーか……ジョージィ……だがもちろん、元斗皇拳の伝承者と、まともにやりあって無事だったお前だ。こんな、南斗百八派の末席に引っかかっているような拳法じゃ、とーぜん相手にはならんか)

 

「クッ……こんな、ハズは……」

ヨロッ とよろけながらも、何とかセンが立ち上がった。

 

「へぇ……僕の蹴りをまともに喰らって、それでも何とか立てるのか、キミ、なかなかタフだね」

それを見て、ジョージがひらりと見張り台から飛び降りた。

「こいッ!」

 

「クッ……こうなっては、南斗紅雀拳、最大奥義で葬ってやるわ……喰らえ」

センは、緩やかな動きで腕の本数を多く見せるような構えをとり……

「全身を切り刻まれて死ねッ!雀紅千波(じゃこうせんば)ッ!」

 

その腕から、同時に周囲を切り裂くナイフの群れの様な手刀が飛ぶッ!

 

「甘いッ!」

だが、ジョージはその『ナイフの群れ』のような手刀をすべてさばき切り……

代わって自分の拳をセンに叩き込むッ!

「ゴラゴラゴラゴラッ!」

 

ボッゴォオオオ!

 

セン:ジョージの連撃をまともに喰らい、気絶

 

 

 

「ふぅ、これで片が付いたかな」

爽快にセンをブッ飛ばしたジョージが、額の汗をぬぐった。

 

そんなジョージに向かって、拳志郎が文句をつけた。

「オイオイ、ジョージ。ズルくないか?お前はまともな拳法家と勝負ができて、俺はワニ公との戦いかよ……不公平だぜ」

 

「ハハハ、花をもたせてくれて、ありがとう……でも、コイツラは僕が『処分』すべきゴミだったからね」

 

まさか自分が属する英帝国軍に、こんな極悪非道な事をする部隊があったとは……ジョージは、肩を落とした。

せめて、この非道を告発し、関係者がもしまだ生き残っていたら、しかるべき保証をしなければならない。ジョージはやりきれない思いで、非道の証拠をつかもうと、自分が処刑した敵の遺留品を調べ始めた。

すると、見張り台の下に、鉄板が埋められているのを見つけた。その鉄板は、分厚く、何かの蓋として使われているようであった。

 

拳志郎とジョージは、鉄板に指をかけた。

「ほら、行くぞジョージ。息を合わせろよ、せぇえのぉぉッ!」

だが、屈強な大男が二人がかりで頑張っても、その鉄板はピクリとも持ち上がらなかった。

 

「だめか、重すぎる……いや、溶接されているのか?……ならば……」

速度を必要としない力仕事ならば、自分のスタンドの独壇場だ。ジョージは、スタンドを呼び出した。

「ザ・ソーンッ!」

 

ヴォ――ンンッ

 

ジョージの隣に、茨でできた大男のヴィジョンが現れた。

 

ジョージのスタンド、ザ・ソーン。

改めてそのスタンドをマシマジと見て、拳志郎が尋ねた。

「ああ、闘気を使うのか。なるほどな……ところで、お前の闘気、おもしろいな。スゴイ力じゃねぇか……なぁジョージ、なんでさっきはその闘気を戦いに使わなかった?」

 

「使えないんだ。動きが遅すぎるからね……僕の能力は『植物のようにゆっくりとした破壊と眠り』を相手に与える能力さ。戦闘には使えないんだ」

 

「へぇ~~なるほどな」

拳志郎が、納得した。

「そうだよな。世の中、そんなに便利なものは、ねぇよなぁぁ」

 

「安心したかい?」

 

ジョージが意図したように、ザ・ソーンは、ゆっくりした動きで、ゆっくり、ゆっくりと鉄板をたわませ、引きはがした。

 

バリッ!

ベリッ

ボゴォッ!

 

やがて、ジョージのスタンド:ザ・ソーンは、ゆっくり、ゆっくりと鉄板をまるで紙のように引きちぎった。

するとその奥には、人ひとり、かろうじて入れるぐらいの洞窟が口を開けていた。

 

「へぇ……なんじゃこりゃ?」

興味津々にのぞきこもうとした拳志郎を、ジョージがひき止めた。

 

「あわてるなよ。有毒ガスがたまっているかもしれないんだからな」

 

「わかってるよ……で、どうする !?オッ?」

拳志郎は、ジャングルの奥からある気配を察知し、ニヤリと笑った。

 

「村人が戻ってきたみたいだね」

同じく気配を察知したジョージが、晴れ晴れと笑った。

「これで、一件落着……かな?」

 

二人の予感は正しく、やがてジャングルの密林をかき分け、人狩りの対象とされていた男たちが恐る恐る顔を出した。村人たちを理不尽に狩りたてた者共は、すべてジョージが倒していた。

男たちは、『人でなし』どもがいなくなった事に気が付き、狂喜乱舞した。

 

「#&★☆#! お前達ッ」

「ああっ、アンタッ ……無事でよかった」

「うわぁーーん、お父さんッ!」

「……よしよし、泣くんじゃない。もう大丈夫だ」

 

男たちは妻と子供と、それに年老いた両親を。人質にされていた家族は父親の名を、それぞれに涙を流して呼びあい、抱きしめあった。

 

やがて、逃げていた男達が拳志郎とジョージにむかって、口々に礼を言った。

「ああ、あんた達、ありがとう……ありがとう……」

「ありがとう……あんた達の事は忘れないわ。アンタたちは私たちの救世主様よ……」

「にぃちゃんたちッスゲェ―――ッ カッケェ――――ッッ。どうしたら、そんなに強くなれるのぉ?」

 

手放しの称賛に、二人が顔を赤くした。

「!?ぉおおお、まっ、気にすんなよ」

「僕たちは暴れたくて暴れただけさ……」

 

 

と、その時だ。

 

「隙ありッ!」

 

キャァッ

いつの間に目を覚ましたのか、センが再び立ち上がっていた。

拳志郎とジョージを取り囲んでいた村人たち、その輪の外れにいた二人の子供が、センに両腕をねじりあげられていた。

「近寄るんじゃねぇッ。このガキどもを、五体満足でいさせたかったら、なぁぁぁ」

 

「なんてことだ……」

ジョージが歯噛みをした。

 

センは、嫌がる子供を両脇に抱えた。

「ブヒャヒャヒャヒャッ!お前達ッこの人質の命が惜しければ、降参しろッ」

 

「ちっ……」

拳志郎は、一歩センにむかって歩みだしかけ、その足をとめた。

 

「……いやぁぁ……?もっといいことを思いついたぞォオオオ。……お前達、『二人で死合え』や」

キシシシシ……。ゲスな笑いが、センの口から漏れた。

 

「キサマ……なにを言っているんだ」

 

プッ……。拳志郎が、失笑した。

「オイオイ、死合いだぁ?冗談はよせよォ……こんなオッチャンが、俺のあいてになるかよ」

 

「……何だって?クソガキ」

ジョージが、聞き捨てならぬとばかりに、拳志郎をにらみつけた。

 

「あぁあああ?」

よせば良いのに、拳志郎がジョージを煽った。

「オマエ、拳力がおれより劣るから、嫉妬してんじゃないのか」

 

「何だと……」

 

拳志郎とジョージはにらみ合い……

 

ボゴォッ

ドガッ!

バゴォッ!

 

真正面から殴り合った!

互いの拳が、ちょうどボクシングのクロスカウンターの形で、交錯する。

「……お……おい……」

取り残されたセンが戸惑うなか、二人はまるで子供のように殴りあった。

互いの拳を、さけることも、ブロックすることもせず、ただ真っ正面から打ち合っている。

それは、まさしく子供の喧嘩であった。

 

「オッサン、なかなか痛てぇじゃねーか」

すっかり顔を腫らした拳志郎が、フガフガと言った。唇が腫れ上がり、まともに話せないのだ。

「ケン、君は働きもせず、拳法ばっかりやってた男だろ?なのに『コンナモノ』なのか?がっかりだよ」

ジョージが応えた。その声も、フガフガしている。

もちろんジョージの顔も、まるで赤い風船を膨らましたかのように、パンパンに腫れていた。

「アタァッ!」

拳志郎は、ジョージの挑発に、連打で応えた。

「ゴラッ!」

ジョージも対抗する。

二人のラッシュがぶつかり合う!

バゴッ!

ボゴォォッ!

ドガガガッ!

「アタタタタタタタタタタタタタタタタタタァァァッ!!」

「ゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴララララァッッッ!!」

「そんな手打ちのジャブで、ボクが倒せるかッ」

ジョージは、防御を無視した攻撃に出た。

アッパー気味の右を、拳志郎めがけてフルスイングで放つッ

バゴッ

「ゲボゥ」

拳志郎が、体をクの字に折った。

ジョージの拳が、拳志郎のみぞおちをえぐるッ

(クッ、こいつナチュラルに重たい拳だぜ……危うくさっき食べたワニ公を、フル リバースする所だったぜ。 あっぶねェ―――。 だが、ここは平気な顔でハッタリをかますぜ)

拳志郎は、歯を食い縛り、努めて平気な顔で、ジョージをあおった。

「あぁああん?テメーこそ、そんなスローな拳で、よくもこの霞拳志郎さまの前に立てたもんだな、コラァ」

ドガッ

お返しとばかりに、拳志郎の膝蹴りが、ジョージの脇腹を抉るッ

ジョージも、体をクの字に折った。

左手で口をおさえ、朝食をなんとか胃のなかに押し止める。

(ウプッ……クッ、拳志郎……『拳法家』っていうのは、こんなにも鋭い攻撃をするのか……これだけ早い一撃だと、出所が抑えられないッ)

「こんな攻撃っ、くらえぃ!!」

だが、ジョージも止まらない。

崩れ落ちると見せかけ、ジョージは拳志郎の腕をとりながら足を払った。

 

二人が、地面に倒れ込む!

「上等だ、このやろーッ!」

拳志郎が、ジョージの襟を掴んだ。

「うぉおおおおおっ!!」

ジョージは、隙をついて拳志郎の上に馬乗りになるッ

二人は、互いに馬乗りになりながら、地面をゴロゴロと転がっていった。

互いの襟を掴み、殴り合い続ける。

ボガッ、ボゴッ

「痛てぇなッこのやろー……」

バゴっ

「はっ、そんなものか?下から無理やり打ち上げた手打ちの拳なんかで、ボクが倒せると思っているのかい」

「あぁぁぁ?いってろ、このタコ野郎」

ポカポカッ

まるで子供のような喧嘩に、センがしびれを切らし、わめいた。

「……オイッ!舐めてんじゃねェ~~ッ ガキの喧嘩か、テメーら。奥義を使えッ!秘孔を突けッ このやろぉ」

「うるせぇッ!! 引っ込んでろバカヤロォッッ!」

完全にキレた二人は、逆にセンを怒鳴り付けた。

二人の剣幕に、センは思わずたじろぎ、口ごもった。

そんなセンをしり目に、二人はいったん少し距離をとり、にらみあった。

コォオオオオオオ………

ジョージが奇妙な呼吸を始めた。

その呼吸にあわせて、ジョージの体から『茨のようなもの』が、顔をだした。

ジョージのスタンド、ザ・ソーンだ。スタンドの茨は、ジョージの呼吸に合わせてゆっくりとジョージの体を覆っていく。

「ふぉぉぉぉぉ――ッ」

拳志郎も異様な構えをとり、鬪気を溜めていく。

その鬪気がオーラとなり、拳志郎の背後に『戦の女神』の姿を形づくった。

「ぶひゃ……やっ、奴等が本気をだすぞ。ふぷぷぷ……」

ようやく、奴ら二人が本気で潰しあうか。

ほっとしたセンは、自分の足元に伸びる『茨』に気がつかなかった。

「痛っ!……なんだぁ?」

センは、不意にチクリとした鋭い傷みを足元で感じた。

足元を見ると、自分の足に茨の刺が刺さっているのを見つけ……

「あぁ、なぁんだ。棘のある植物を踏んだのか か カ……」

白目をむき、ぶっ倒れた。

ジョージは、横目でセンが倒れたことを確認し、ニヤリとした。

「よし、邪魔者はボクのスタンド: ザ・ソーンで始末した。……これでもう、うれいはないよ」

「……おお、良くやったぜ。オッサン」

 

「…………」

二人の漢の視線がぶつかった。

ニヤリ、と漢たちの唇が、ゆがむ。

 

「ふっ、では 『死合うか』」

「ああ、逝くかッ」

「蒼龍天羅(未完成Ver)っ!」

拳志郎が叫ぶ。

その声に呼応し、拳志郎の背後にたたずんでいた『戦の女神』が両腕を広げた。女神が、二人を抱擁するっ

女神の懐にいだかれた二人の体が、宙に浮いた。

二人の体が、女神の胎内に包まれる。

 

「なんだ、ここは……急に、まるで、別の空間に閉じ込められたような……まるで、晴天の蒼い空の中にいるような……」

ジョージは、周囲をキョロキョロと見回した。

二人の周囲を取り囲むのは、どこまでも続く深い蒼。蒼天の空の中とも、海のそことも知れぬ、奇妙な空間であった。

拳志郎が、胸を張る。

「ヘッ……これぞ我が北斗神拳の秘拳、蒼龍天羅だ……まだ、未完成な業だがな」

「ソウリュウテンラ……なんだかわからないが、なんて……不思議な空間だ……」

「もう、誰も俺たちを邪魔しないぜ」

拳志郎は、両手でゆっくりと円を描き、左手の平を立てた。

その左手に、そっと右拳を添える。

「この構えは『北斗天帰掌』、真剣勝負って時の『礼』の構えさ。……もし誤って相手の拳に倒れようとも、相手を怨まず、悔いを残さず、ただ天に帰るっつー意味よ」

「へぇ……いいね、こうかい?」

ジョージも、見よう見まねで拳志郎の動きを真似た。

「そうだ、それでいい」

拳志郎は二カッと笑い……

 

「ウォオオオおおっ」

二人が、吠えた。

「このヤロォオオオおッ」

ドガッ!

ゴギィッ!

 

二人の拳が、互いにぶつかり合うッ

「うぁたぁっ!」

蹴りをまともに喰らいながらも、拳志郎が右フックをジョージのあごに決めるッ!

「プッ……こんなナマッチョロイ拳で、ボクが倒れるかッ」

プッ

ジョージは、血が混じった唾をプッと吐き捨てた。そして、その攻撃などまるで効いていない という風に、平然と殴り返すッ。

 

ジョージのタックルからの関節技を、拳志郎が打ち返す。

 

拳志郎の連打を、ジョージの蹴りが迎撃する。

 

一進一退の攻防の果てに、ついに、拳志郎が覚悟を決めた。

 

「北斗神拳の秘孔を味わえッ! 喰らえッ」

拳志郎は、ジョージの左わき腹をつくッ

 

「ガブッ……」

「はっ、勝負あったな。新膻中(しんたんちゅう)と言う秘孔をついた。……お前は、俺の声がかかるまでこの秘孔縛から逃れられねェ …… ?」

勝ち誇った拳志郎は、息を飲んだ。

 

秘孔縛をまともに食らったはずのジョージが、平然と動いているのだ。

「コゥォオオオオオ」

ボゴォッ!

(クッ、バカな……コイツ、拳をふるいやがったぞ)

ジョージの拳をかろうじてブロックした拳志郎は、混乱していた。

これまで、秘孔をついて、破られたことなど、ただの一度もなかったのだ。

 

「拳志郎、ハッタリは意味ないよ。ボクの動きは、のろくない……ボクに『秘孔』を打つなんて、出来るもんか」

ジョージが拳志郎の周りでステップを踏み始めた。

軽快なフットワークで、拳志郎の周囲をグルグル回る。

 

「けっ……俺の攻撃を喰らって痛いくせによ。やせ我慢すんじゃねぇぞ」

憎まれ口を聞きながら、拳志郎は次の一手を必死に考えていた。

(オイオイ、コイツ、秘孔が効かねぇぞ。うっそだろぉおおおお………で、次はどうするか)

ジョージが、不意に腰を落とした。

次の瞬間、超高速のタックルに来るっ

 

拳志郎は、とにかく迎撃のために拳を固めた。

(ままよッ!とにかく、この拳で正面からぶっ叩いてやるぜぇッッ)

 

バシュッ

その時、蒼龍天羅(未完成Ver)の空間の一部が突然発光した。

発光した空間が『震え』、ひびが入り、そして崩れ落ちていく。

まるでガラス窓のように、蒼龍天羅は崩れた。空間の向こう側、発光する部分の先に、別の空間が見えた。

そこから現れたのは……クーラだ。

「なぁああに、味方どうして死合ってるんだ、この……ドバカッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

パッシィイイインン

クーラの手が、禍々しく発光する。

その光が、拳志郎の創り出した蒼龍天羅(未完成Ver)が創り出した空間を、完全に砕いた。

    ◆◆

そして気が付くと、拳志郎とジョージの周囲が、元に戻っていた。

 

『人狩』の餌食にされかけていた村人たちが、二人の周りを取り巻き、顔をのぞきこんでいた。村人たちは、二人が目を開けると、ワッと歓声を上げた。

「よかったぁ~~、あんた方、無事じゃったかぁ……」

「あの光る繭に、この人達が包まれて、空に上がって言った時は、びっくらこいたなぁ」

「ホントにのぉ、クーラ様があの繭を切り裂いてくれなけりゃ、一体どうなっていたことかのぉ」

 

ニコニコ笑う村人たちに取り囲まれ、拳志郎とジョージは、ギコチナイ笑みを浮かべた。

拳志郎は、落ち着かなげに煙草を取り出し、すぱすぱと吸って見せた。

ジョージは、まぁまぁと村人をなだめるために両手を上げた。

 

その両手に合わせ、村人たちが『万歳』の掛け声をかけた。

 

「ウワァアン。おねーちゃん、怖かったよォおおお」

解放された村人達を見て、先日ジョージの元に現れた少女:リマが涙ぐんだ。

「もうだめだと思ったのに、み……みんな、ブジだっだよ" ぉ" お" おお」

 

クーラは剣呑な表情を一変させ、リマを優しく抱き締めた。

「ヨシヨシ もう大丈夫よ……良く頑張ったね」

 ギュっ

幼子を連れて村を脱出し、カヌーに乗ってマングローブの海を越え、ジョージ達の元に助けを求めに来た少女は、クーラの胸に顔を埋め、小刻みに体を震わせた。

 

「ほんと、よく頑張ったよ。……キミが、本当のヒーローだよ」

クーラは、優しくリマの背中を撫で続けた。

 

ジョージが、コホンと咳払いして、クーラに話しかけた。

「いゃあ、クーラ……来てたのか」

「あぁぁぁ?」

クーラは再び表情を一変させ、鬼の形相になった。

 

「ヒッ……」

その顔を見て、リマが怯えたように後ずさりした。

    ◆◆

10分後

「………… !!」

 

「……あっ、あれぇ?」

センは、なにやら喧しい怒鳴り声をきいて、ようやく目を覚ました。

 

「アンタたちっ、バカなの?本当のバカなの」

「……面目ない」

見ると、怒り狂った女と、その前で神妙に正座をしている男たちが見えた。

正座をしているのは、突然殴り込んできて、自分たちを壊滅させた恐るべき男たちだ。

そんな男たちが、しょんぼりとして怒られている。まるで、悪戯が見つかった5歳児のような風体だ。

 

「本ッ当に信じられないわ。ねぇ……アンタ達は、この子達の村を救いだす為にここに来たんでしょ! それが、『ついウッカリ腕試しをしたくなった』ですってぇ………」

「………」

「 !!!※※※………!!」

「 !◎@★〇・※※※|……!」

「 !ちょっと、アンタ達はホントに反省してるのぉ!!※※※……!!(以下リフレイン)」

 

(ジョージと拳志郎の奴が女に怒られてやがる……。何だかわからんが、こりゃあ逃げ出すチャンスかぁ……。うへへへ)

センは、こっそりと退却を試みた。腹這いの姿勢のまま、そっと、もの音をたてないように慎重に、動いていく。

 

カサカサ

(へっ……へへへへ……な……何とかここから逃げ出しちまぇば、こっちのモンだ。……おれはもう、あの阿呆のショウゴに見つかるようなヘタはうたねぇ)

 

だが……

 

ゴツン

 

地を這っていたセンは、頭を何かにぶつけた。頭をあげ、なにとぶつかったのか確認したセンの顔が、絶望にゆがむ。

バーンッ

顔を上げたセンが見たのは、腕組みをしながら仁王立ちしている拳法家たちであった。

「うびっ、うへへへへぇ………」

「ようやく目覚めたか……ザ・ゾーンを解除してから10分も気を失っているなんて、のんきな奴だ……だが、すぐに覚悟を決めるんだ」

ジョージが、奇妙な呼吸を始めた。

「お仕置きの時間ね……。この元斗皇拳の『光る手』に滅せられぬものなしッ」

クーラは、手刀を顔の横に上げた。その右手が、青白く光った。

「北斗神拳の前に立つもの、『死』あるのみ」

拳志郎は、ポキポキ と指を鳴らした。

そして、知らない子供が、拳志郎の隣に、仁王立ちしていた。

「ウヌメッ……この、南斗の面汚しがッ」

その子供を見て、ジョージが、クーラが、そして拳志郎が、首をかしげた。

太眉の、いかにもキカンボウといった風情の男の子だ。

 

その少年を見たセンは、激しく取り乱した。

「シ……ショウゴ……どうして」

「ウハハハ、俺にも訳がわからんッ!俺を閉じ込めていた穴蔵の鉄板が、突然無くなったのョッ!。だが、こうやってワレが解放されたからには、わかっておるな……」

ショウゴは豪快に笑った。

そして、嬉しそうにセンに向かって、一歩、踏み出した。

「ひっ……」

「ゲロウめッ、だがウヌの命もこれまでよ。天に滅せいッ!」

止める間もなく、ショウゴはセンに飛びかかり、その顔を殴りつけた。

 

「ウォォォォォッ!」

たった一発の拳をくらったセンが、後方にぶっ飛ぶッ

ふっとばされたセンの体は、砲弾のように飛んでいった。見張り台の柱にぶつかり、柱をへし折った。

その上に、音を立てて見張り台が崩れ落ちた。

セン:『鉄拳』で 顔面を陥没させられ、死亡

 

センの体を調べた拳志郎が、へぇっっと感心したような顔で、ショウゴを覗き見た。

(へぇ………このガキ、中々の拳じゃあねーか。センのヤローの顔が、まるでハンマーで殴り付けたようにベコッてるぜぇ)

「ウハハハハ、同然の報いよッ。ワレを騙し、監禁した罪、死すら生ぬるいワ」

ショウゴはひとり、悦に乗った笑い声を上げ続けていた。

「……あ--、お前は誰だ?」

「俺の名はショウゴッ!南斗聖拳の伝承者よ」

「嘘ッ!キミがぁ?南斗聖拳のォッ?」

クーラが、こめかみを抑えた。

「なんだ、何がおかしい?」

そんなクーラに、ショウゴが詰め寄った。

「だって……アナタまだ15才ぐらいでしょうが、そんな年で………」

「拳法家に年齢などかんけー無ぇしッ、カンジンなのは拳力のみッ」

キリッ と、キメ顔でショウゴが言った。

 

(メンドクサイ感じの小僧だな……)

ジョージは苦笑しながら、生意気な少年に向かって質問した。

「……それで、どうして君がここにいるんだい?」

「誰だ、キサマは?……まぁいい。いい質問ダナッ。話してやろう」

ショウゴは胸を張った。

 

     ◆◆◆◆

ショウゴの話を聞いた三人の拳法家は、げっそりとした。

それは、バカらしいほど、間抜けな話だったのだ。

 

話は、元々武者修行を兼ねて、一人で旅をしていたショウゴが、南斗の裏切り者、センの行方を追うよう密命を受けたことから始まる。

だが、旅慣れていなかったショウゴは、旅の途中で路銀が付き、飲まず食わずの旅になったのだそうだ。

ついに、腹が減って行き倒れかかっていたところを、英国軍に拾われ、食事をごちそうすると言われたのだそうだ。

腹が減ったショウゴは、ノコノコと英国軍についていった。この村の地下シェルターで、ふるまわれたご飯を喜んで食べていたら、食事に眠り薬が仕込まれていた。うとうとしたところにセンが現れて、まんまと閉じ込められた……というわけであった。

「ウム……どうした。何故両手をついて膝まずいておる?」

「何でもないわ。ちょっとクラッとしただけよ」

「なんと……元斗の、修行が足りんのじゃないか、キサマ」

「……そうね、私まだ修行が足りないみたい」

クーラが、ゲンナリと言った。

「それで、『ショウゴ』クンよぉ~~。お前は南斗のどの一派なんだ?」

拳志郎が尋ねた。

「俺は北斗のモンだ。だから南斗聖拳のことはよぉ--く知ってるぜ。その伝承者達とも、顔見知りの奴等がおおいぜ。………だが、お前のことは知らね--」

ショウゴが眉を上げた。

「つまり貴様は、南斗のものは、ミナ北斗に挨拶をしなければならぬ……『北斗の貴様が知らぬ我を、南斗とは認めぬ』……と、でも言いたいのか?」

「そう言う訳じゃねーがよお……。だが、腑におちねぇんだよ。……お前のこのハンマーで殴ったみてぇな剛拳、確かにすげぇ威力だ。だが、こんな拳が南斗にあったかぁ?」

クーラが、鼻を鳴らした。

「ハッタリなのよ、だから言えないのよ。だって、南斗の拳は、その『切れ味』が脅威な拳よ。外部から高速で拳を突き入れ、『切り裂いたり』、『突き刺したり』するのが、南斗の拳の味よ……こんな風に、不器用に『ただ叩き潰す』拳じゃあないわ」

「クーラの言う通りだぜ。お前、本当に南斗聖拳かぁ?」

「なんだとぉ……俺を愚弄する気かッ……ならば言ってやるわ、聞いておののくがいいッ! 我が宿星は慈母星ッ!拳は南斗六聖拳が一つ、南斗蒼鸞拳よっ」

「!?」

クーラと拳志郎は、顔を見合わせた。

「……なんとそうらんけん? 知らねェーなぁ……クーラ、お前は知ってるか?」

「悪いけど、元斗の私も、聞いたことが無い拳法だわ……」

「ワハハハ、無理もないな。ワガ南斗蒼鸞拳は南斗六聖拳の伝承者と、その高弟たち以外には存在を秘されておるからな………だが、心してきけッ!」

ショウゴは体を大きくそらし、誇らしげに笑った。

「そうよ、ワガ南斗蒼鸞拳こそが、南斗百八派すべての基礎であり、真髄ッ!……我が拳に小手先の技などは無い。南斗の特徴たる外功を、ただひたすら高めていくことこそが全て。その神髄は外功を極めた、『鉄壁の盾』よ」

「へぇ、要は『護身術』かよ……それでぇ?」

「浅はかなッ!『鉄壁の盾』は、『鉄拳』でもあるのよッ!我がコブシに砕けぬものなど無しッ!……しかも……おっと」

「おっと……何よ?」

「ウハハハハ、それ以上のことは言えヌ」

「…… 」

クーラが、額に青筋を立てた。

その様子を見て、ジョージが三人の間に入った。北斗・南斗・元斗の関係を知らないジョージは、にこやかに三人を仲裁した。

「……まあ、いいじゃないか。僕らはここをつぶした。もう村人が、おぞましい『人狩り』にあう事はない。……ボク達は目的を達したってわけだ」

ジョージの言葉通り、村人たちが歓声を上げ、4人の拳法家達に頭を下げた。

「アンタ達ッ!ありがとうございましたッ!!」

「ウム。貴様等も、タイギであった」

「なんでアンタが一番偉そうなのよ……」

「ハハハハ……楽しいヤツじゃないか。ボクは好きだね」

ジョージは、楽しそうに言った。

 

「アンタねぇ……」

拳志郎は、タバコをくわえながら、その様子を見ていた。

(しかし、ジョージのヤロウ。何故、秘孔がきかねえ………ありゃあ、『北斗の秘孔封じ』じゃねえ……一体なんだ?)

「なんだい?拳志郎……ボクの顔に何かついているのかい?」

拳志郎の視線に気が付いたジョージが、尋ねた。

「いや、なんでもないぜ」

拳志郎は、ジョージから視線をそらし、タバコを踏み消した。

┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨……

(秘孔封じ……奴は気づいてねぇ、だが……やはり、ヤツの『波紋法』ってぇのは、伝説の……)


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