:クリス視点
特別オリエンテーリング。
そう目の前の紅い髪の女教師は言った。
「へ……?」
自分の前の方にいた緑の髪で眼鏡を掛けた青年があっけにとられたような声を出す。
マキアス・レーグニッツ。帝都出身で父親は帝都知事のカール・レーグニッツ。
とここまでは頭の中に情報が浮かんでくるのだがそれ以上は出てこない。
神からのプロテクトが掛かっている可能性はあるがもっと別の何かが起因している気がする。
また、ストーリついての情報もほとんど出てこない。ここが学院の旧校舎であることは分かるのだが、それ以外の情報は一切思い出せない。
それはともかく
俺たちは学院裏手のいかにも何かありそうな建物の前に集まっている。
「こ、ここって……」
「士官学院の裏手……随分古い建物みたいだな」
オレンジ色の髪の少年―――エリオット―――がそうつぶやくと隣りにいたリィンがそれに応える。
旧校舎の周りには木々がうっそうと生い茂り、地面は舗装などもされていないため、ずいぶん前から放置されているようだが……。
俺たちをここに連れてきた教師―――サラ・バレスタイン―――は全員のいぶかしげな視線を受けながら説明をしようともせず、建物の入り口にあった施錠された大扉を開け放ちさっさと中に入っていった。
「こんな場所で何を……?」
「くっ……全く意味がわからないぞ……?」
金髪の少女―――アリサ―――とマキアスが至極当然ともいえる反応を示し。
「まあ、考えても仕方あるまい」
と蒼髪の少女―――ラウラ―――が独り言をつぶやいた。
その言葉が後押しとなったのか、次々と建物の中に入っていく。
俺も入っていこうとして―――視線に気づいた。まぁ、俺が気づいたのではなく正確には
クリスが気づいたのだが。
クリスによると特に敵意や害意は感じないため俺たちはそのままスルーして旧校舎に入っていった。
―――俺を訝しそうに見ている少女に気づかずに。
:フィー視点
あの青年は特殊部隊にいたのだろうか?
これが私が彼に抱いた感想である。彼が視線を崖の方に視線を向けるまで私は私たちを見ている人たちに気づかなかった。ここからは木々に隠れていて崖は常識的に考えて見えないはず。
また、普通に生活している人なら今の状況で周囲に気を配る余裕はないはず。
私のような過去がなければ。
正直サラには感謝している。彼も私のようにどこかの猟兵団や部隊にいたのかもしれない。
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旧校舎の中は薄暗く、照明の類もないようで窓から差し込む陽の光で何とか見えるといったものだった。
大広間の奥にある舞台に上がったサラ教官は
「――サラ・バレスタイン。今日から君達《Ⅶ組》の担任を務めさせてもらうわ。よろしくお願いするわね」
と宣言した。
「な、Ⅶ組……!?」
「そ、それに君達って……」
みなサラ教官の言葉に動揺し、それぞれが個々の意見を漏らす。
「ふむ……? 聞いていた話と違うな」
ラウラが顎に手をあてそう呟く。
「あ、あの……サラ教官?
この学院の1学年のクラス数は5つだったと記憶していますが……。それも各自の身分や、出身に応じたクラス分けをしていると聞いたのですが…。」
眼鏡の女子―――エマ―――が事前に聞いていたクラスの振り分け方についての違いを述べる。
そうなるとこのクラスは学院側から入学する生徒には事前に伝えられなかった。
ということになる。
その言葉を聞いてサラは頷いて肯定するが、逆に否定もする。
クラスがⅠ~Ⅴ組みしかなかったのは去年までの話であり、今年は新たに立ち上げられたため違うと。
その理由は
「君達、身分に関係なく選ばれた特化クラス――《Ⅶ組》が」
「特化クラス《Ⅶ組》……」
「み、身分に関係ないって本当なんですか?」
アリサがⅦ組についての事情を追求しようとするが
そこに激しく問い詰めるような声が響き渡る。
「――冗談じゃない!」
そう叫んだのはマキアスである。
「身分に関係ない!? そんな話は聞いていませんよ!?」
マキアスは身振り手振りを交えてサラ教官に食って掛かる。
「えっと、たしか君は……」
「マキアス・レーグニッツです!」
サラ教官に自らの名前を名乗った後もマキアスは話続ける。
「それよりもサラ教官! 自分はとても納得しかねます! まさか貴族風情と一緒のクラスでやっていけって言うんですか!?」
「うーん、そう言われてもねぇ。同じ若者同士なんだからすぐに仲良くなれるんじゃない?」
「そ、そんなわけないでしょう!?」
サラは楽観的な意見をマキアスにいうが、マキアスは納得せずに首を左右に振って否定する。
そんな光景をマキアスの横で見ていた金髪の青年が大きく鼻を鳴らす。
それに反応したマキアスはイラついた顔で青年にも食って掛かる。
「……君、何か文句でもあるのか?」
「別に。”平民風情”が騒がしいと思っただけだ」
「これはこれは……。どうやら大貴族のご子息殿が紛れ込んでいたようだな。その尊大な態度……さぞ名のある家柄と見受けるが?」
「ユーシス・アルバレア」
彼は体を向け少し挑発するような顔で
「”貴族風情”の名前ごとき、覚えてもらわなくても構わんが」
と憮然とした表情でそう言い放ったのだった。
ユーシスとマキアスの会話に場はまたもや騒然となる。
《アルバレア》は帝国東部のクロイツェン州を治めており、帝国貴族の爵位として最上級である”公爵”を冠していた。
つまりは、ユーシスは貴族の息子という立場となる。
またエレボニア帝国における最も家格の高いとされる四大名門の一つに数えられている、帝国に住む者ならば知らぬものなどいない、大貴族の中の大貴族と呼べる存在なのであった。
そんななか、異国人風である男子生徒は首をかしげており、白髪の少女と青髪の青年は動じておらず、少女の方はあくびをしていたが。
「だ、だからどうした!? その大層な家名に誰もが怯むと思ったら大間違いだぞ!」
自分が予想していたものを遙かに上回るビッグネームに気勢を削がれながらマキアスは反論する。
あと一つのきっかけで破裂しそうな雰囲気が漂っていたが、
「はいはい、そこまで」
手を叩いて二人をそう諌めると、全員の意識がこちらへ向くのを確認し、サラは言う。
「色々あると思うけど、文句は後で聞かせてもらうわ。そろそろオリエンテーリングを始めないといけないしねー」
「オリエンテーリング……それって一体、何なんですか?」
「そういう野外活動があるのは聞いたことがありますが……」
サラの言葉にエマとアリサが反応する。
リィンはその言葉に校門で武器を預けていたことを思い出す。
「もしかして……門の所で預けたものと関係が?」
「へぇ、いいカンしてるじゃない。」
そういうとサラはなぜか後ろに下がり、何かのボタンを押した。
「へっ!?」
「わ!?」
「きゃっ!?」
「何っ!?」
突然床が傾き急激な角度の変化に半数がバランスを崩し真っ暗な穴に落ちてゆく。
リィンは耐えようとするが徐々に力が抜け滑り落ちてしまう。
近くの金髪の少女をなんとか助けようと、手をのばし―――――――視界の端に天井にぶら下がる少女と傾いた床を蹴り上げて穴の外へ脱出する青髪の青年を目撃した―――。
「こらフィー。サボってないでアンタも付き合うの。あとクリス、あんたもちゃっちゃと行くのよ。」
「…めんどくさい。」
「これが試練じゃないんですか?」
「違うわよ……」
フィーがぶら下がっているアンカーから伸びたワイヤーをサラはナイフを投擲し絶ち切るとフィーは自由落下していく。
「ほら、あんたもさっさと行く!」
「りょーかい」
クリスも飛び上がって穴に落ちて行った。
「私の胃大丈夫かしら…」
誰もいなくなった大広間にサラの声が響いた…