サラ教官と別れた後、ゆっくりと敵を倒しながら移動した俺は迷宮の終点にたどり着く。
そこでは真価を発揮した戦術オーブメント≪ARCUS≫によって俺を除いたⅦ組の全員が淡い光に包まれ、熟練の兵士のように連携しこの迷宮のボスであるイグルートガルムに止めをさす瞬間を目撃した……
―――――――――――――――――――20分前――――――――――――――――――――――――――
迷宮を出ようとしたリィンたちの前に現れたのは広間の石像が変化した魔獣-イグルートガルム―と魔獣が呼び出した一つ目の魔獣だった。
リィンはすぐさまみんなに指示を飛ばし、気絶しているアリサとエリオットを守れるような位置取りをすると狙いを定める。
リィンの武器は刀。
特徴を挙げると切れ味は高いが、ガイウスの槍と比べるとややリーチは短い。
敵は石像から変化した魔獣であり、外皮は鱗に覆われていて堅そうである。
リィンはそう観察すると肉が少ない関節部を狙い始める。関節部を集中的に攻撃することで転倒を誘発させようとする。
リィンは相手の攻撃を避けながら関節部を狙う。
ガイウスは注意を自分に引き付けようと果敢に相手の頭部に陣取って攻撃する。
イグルートガルムは鬱陶しそうに頭をを振ると口からブレスを吐こうとする。
そこにエマのアーツによって召喚された魔法剣が飛び込み、今まさに口から飛び出そうとしていたブレスに直撃。爆発する。
その衝撃で口から血しぶきをあげながら叫び声を挙げる。
リィンたちがその声に一瞬怯むと、イグルートガルムの周囲にいた魔獣がキィキィと声を挙げながら目から黒色の渦巻き状の魔力弾をリィンたちにむけて掃射する。
リィンとガイウスはそれをもろに受けて吹っ飛ぶ。
それを好機と見たイグルートガルムはリィンに狙いを定めて跳びかかろうとして飛んできた銃弾に身体を抉られ体勢を崩す。
攻勢にでようとして、逆に隙を与えてしまったイグルートガルムに斬撃と魔法が襲いかかる。
硬い外皮に火球が襲いかかり、その身を石で出来た槍が串刺しにし、鋭い一撃で目が抉られ、刀によって千切られたイグルートガルムは倒れ伏し、リィンたちは止めを刺そうと近づく。
そこに取り巻きの魔獣が魔力弾を放ちリィンたちは咄嗟にその場を離れる。
―――瞬間。
イグルートガルムから紫色の暴風が吹きだして、それは取り巻きの魔獣を取り込んでさらに大きさを増していく。
数秒後、風が吹きやむと中から巨大な翼をはやしたイグルートガルムが出現する。
イグルートガルムは一啼きすると舞い上がり、先ほどとは段違いの速さでリィンたちを攻め立てる。
エマが戦術オーブメントを起動させアーツを放とうとすると、それを妨害するかのように局地的な暴風を巻き起こして詠唱を中断させ、マキアスが銃を放とうとするとリィンやガイウスが障害物になるように移動し、リィンやガイウスが近づけば即座に空に飛び上がり魔力弾やブレスを吐き出して遠距離攻撃を仕掛ける。
リィンたちも気絶から回復したアリサたちの援護を受けているが決定的な一撃を充てることが出来ずこう着状態に陥っていた。
イグルートガルムはリィンたちの後方にいるアリサやエリオットが邪魔になると考えたのか魔力弾でリィンたちを牽制しながらアリサたちの方向へ飛んでいく。
それを見たラウラとフィーはイグルートガルムに立ちふさがるが、機動性能はあちらが上であり不意を突かれて素通りされてしまう。
支援陣に攻撃しよとした瞬間迷宮の方から騎士剣が飛来しイグルートガルムの翼の根元を打ち抜き片翼を失ったイグルートガルムは大きくバランスを崩し落下する。
「危機一髪か?」
「き、君は!?」
聞えてきた声に真っ先に反応したのはマキアスだ。
なんせ迷宮に落とされる前までいがみ合っていた『貴族』の声が聞こえてきたのだから。
「ユーシスか!」
「ああ。ほかの誰に見える?民を守るのは上に立つものの務めだ。だから、俺もこの戦闘に参加させてもらおう。」
ユーシスはそう言って騎士剣を拾い上げると地に堕ちたイグルートガルムに切りかかる。
リィンたちもこの好機に一気にケリをつけるためイグルートガルムに襲いかかる。
そのとき、
リィンたちを淡い光が包む。
――――見える。
全員の攻撃の軌跡が全て見える。
まるで全員が何年も一緒に過ごしてきたように手に取るようにわかる。
アリサの弓から矢が放たれ、イグルートガルムの目に突き刺さり仰け反り、その瞬間翼にマキアスの放った銃弾とエマの放った魔法が突き刺さり、翼が爆散する。
リィンの刃が後ろ脚を斬り飛ばしそこに間髪なくガイウスの槍が突き刺さる。
暴れるイグルートガルムの手足をかいくぐりフィーが腹に一撃を叩き込む。
がら空きになった首にエリオットから放たれた魔力弾が撃ち込まれへこませ、そこにユーシスの斬撃が叩き込まれ、止めにラウラの大剣が振り下ろされイグルートガルムの頭を胴体から完全に断ち切った。
途端、淡い光は消失し、ようやく終った戦いに全員の緊張の糸がほどけ脱力する。
そんななかリィンが呟く
「もしかしていまの力が―――――?」
「そう、≪ARCUS≫の真価ってわけ」
全員が見上げると、サラ教官が拍手をしながら降りてくる。
「いや~、やっぱり最後は友情とチームワークの勝利よね。うんうん。お姉さん感動しちゃった。これにて入学式の特別オリエンテーリングは全て終了なんだけど…」
サラは全員を見渡すと首をかしげながら
「なによ。もっと喜んでもいいんじゃない?」
「よ、喜べるわけないでしょう!」
「正直、疑問と不信感しか湧いてこないんですが…」
「僕は、一度死の淵に追いやられかけたんですけど…」
いろいろな文句が飛び交う。そんな中、ユーシスがサラに問いかける。
「単刀直入に問おう――特科クラス《Ⅶ組》……一体何を目的としているんだ?」
まっすぐな質問にサラはこう答える。
「さて――約束どおり、文句の方を受け付けてあげる。トールズ士官学院はこの《ARCUS》の適合者として君たち10名を見出した。やる気のない者や気の進まない者に参加させるほど予算的な余裕があるわけじゃないわ。それと、本来所属するクラスよりもハードなカリキュラムになるはずよ。それを覚悟してもらった上で《Ⅶ組》に参加するかどうか――改めて聞かせてもらいましぉうか?」
しばらくの沈黙の後、リィンが一歩踏み出しサラ教官に言う。
「リィン・シュバルツァー。参加させてもらいます。」
「…リ、リィン!?」
「ええっ」
その言葉にエリオットとアリサは驚く。
「一番乗りは君か…何か事情があるみたいね?」
「いえ…我侭を言わせて行かせてもらった学院です。自分を高められるのであればどんなクラスでも構いません。」
そうリィンが言うと、ほかのメンバーも次々に参加を表明する。
そしてこの場で参加を表明していないのは二人だけとなった。
「で、君たちはどうするの?」
参加を表明した7人の視線が二人に集中する。
その残った二人のうちの一人であるマキアスは「すぐに仲良くなるわよ」というサラの言葉に反発する。
「そ、そんな訳ないでしょう!?帝国には強固な身分制度があり、明らかな搾取の構造がある!その問題を解決しない限り、帝国に未来はありません!」
「うーん、そんな事をあたしに言われてもねぇ。」とサラ教官は明らかに面倒そうにするが、マキアスのこの言葉にユーシスが反応した。
「――ならば話は早い。ユーシス・アルバレア《Ⅶ組》への参加を宣言する。」
ユーシスはマキアスに視線を向けながら参加を表明し、そこからは参加を決めたユーシスがマキアスを煽り、彼も参加を決める。
結局のところ二人共参加する事になり、サラはいがみ合う二人を見て嘆息していた。
「で、アンタはどうするの?」
サラのその言葉にマキアスとユーシスはいがみ合いを止めて振り向く。
そこには迷宮の中では一切会うことはなかったクリスの姿があった。
「そんなの決まっていますよ。―――クリス・レディア。特科≪Ⅶ組≫に参加させてもらいます。」
クリスはそう告げた。