ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

101 / 258
現在(2017.08)進行中のイベントのE-4攻略中のお話です。
ネタバレや攻略法を見たくない方は回避して下さい。


摩耶と居候と鯵ごはん

早朝の7時、鎮守府庁舎の狭い事務室で電話が鳴った。

当直をしていた、高雄がゆっくりと受話器を上げる。

 

この電話は基本的に官公庁や業者との日常的な連絡用であって、9時前に鳴ることはない。

その一方、ここの電話番号はある程度民間に流出しているので……。

 

「私は、さる御山で修業を積んだ密教僧でござる。そちらの鎮守府の上に邪悪なる暗雲が立ち込め、その呪いが提督殿のご健康に大いなる差し障りをなしておるのを見過ごせず……」

 

この手の山師からの電話が、稀によくある(誤字ではない)。

 

「それはご親切にありがとうございます。それで、我々の提督のご健康に差し障りがあるとは、具体的にはどのようなことでしょうか?」

 

意識1%で電話に応対しながら、今日の食材の納入リストをチェックする、秘書検定1級の高雄。

 

「邪鬼に憑かれておりまするぞ。そのために提督殿は、おいたわしくも食が細くなり、精力も減退なされておられるかとお見受けする。ぜひ拙僧に加持祈祷を……」

 

グァッシャーーン!!

 

ついつい、電話機を粉砕してしまった。

 

確かに今週、地元TVの夕方のニュースに映った提督はやつれて見えた。

世間一般では、作戦遂行の過酷さのせいだとか思っているのだろうが……。

 

「あの種馬男が精力減退!? バカめ、と言ってさしあげますわ!」

 

 

「お前、キラキラなのに赤疲労とか器用なことやってんなあ」

 

大食堂で遅めの朝食をとる、浴衣姿の防空棲姫。

その隣の席に、ジャージ姿の摩耶が腰を下ろす。

 

提督に朝まで尋問(意味深)されて、防空棲姫はキラキラしつつも極度の疲労状態。

 

「提督の方は、三杯もおかわりして作戦指揮に行ったんだろ? あいつ、見かけによらず本当タフだよなぁ……」

「ソレニ……ケッコウ意地悪ヨ……アノ人……」

 

拗ねたようにチュルチュルと冷やしうどんをすする防空棲姫。

中東から欧州にかけての深海棲艦隊の配置や戦力、門の位置など、知っている情報を洗いざらい提督に聞き出されてしまい、自己嫌悪に陥っているところだ。

 

今朝のうどんは富士山名物の吉田うどん。

太くて非常にコシが強く、もっちり硬いのが特徴だ。

噛みしめるたびに、鎮守府の畑から収穫された小麦の香りが、口いっぱいに広がる。

 

つゆは昆布、鰹節、煮干からとったダシに、三種類の醤油と酒、みりんを加え、さらに追いがつおで旨味を増した濃厚な黄金スープ。

 

トッピングは揚げ玉とワカメだけとシンプルだが、刻み海苔とワサビだけでも十分なほどに、うどん自体が美味しい。

 

「ほらよ、鰺ごはんも食えよ。アタシが作ったんだ」

 

摩耶が茶碗を差し出す。

下味をつけて香ばしく焼いた(あじ)をほぐし、大葉と白ゴマと、酒と醤油で信州味噌を溶いたタレとともに、熱々ご飯に混ぜ込んだものだ。

 

「ン……クゥッ……モグッモグッ」

 

脂ののった鯵の旨味が熱いご飯に染み渡り、素朴で優しい素材の味で、もりもり食べられてしまう。

 

「昼はイタリア艦たちがピザ焼くってさ」

 

防空棲姫の食べっぷりについ浮かんでしまった笑みを消そうと、摩耶はわざとぶっきらぼうに言って席を立つ。

 

「お客様扱いは1泊2食まで。3食目も食うなら、居候(いそうろう)扱いで掃除なんかも手伝わせるけどよ……昼、食ってくか?」

 

摩耶の問いかけに、防空棲姫は少し迷って左手薬指の指輪を見つめた後……コクリと頷くのだった。

 

 

ビキニブラの上に白いパーカーを羽織り、ヘッドフォンをした眼鏡の美女。

グロテスクな深海生物に腰掛けて携帯ゲームをやりながら、ショートパンツから伸びた細い脚をブラブラさせている。

 

戦闘用の籠手(こて)も外し、バカンスモードの集積地夏姫。

配下のPT小鬼群が敵の接近をキーキーと知らせてくるが、サンダルをぶつけて黙らせる。

 

「迎撃……シナイノ? アレハ、艦娘ドモヨ?」

 

飛行場姫がヘッドフォンをむしり取って聞いてくるが、集積地夏姫はダルそうに首を横に振る。

 

目の前の艦隊は、この集積基地を素通りしようとしている。

集積地夏姫の任務は、あくまでもこの集積基地の防衛。

いけ好かない高慢な異国の深海棲艦のために、わざわざ給料分以上の仕事をする義理はない。

 

それに……。

 

せめて爆撃機だけでも発進させようと主張している飛行場姫を無視し、キンキンに冷えた缶ビールを開ける。

 

ドラム缶型の亜空間ポケットから、鶏の唐揚げ、シューマイ、フライドポテト、ソーセージ、ミートボール、玉子焼き……ラップにくるまれたビールによく合うオードブルの皿を次々と取り出して広げていく。

 

「アラッ……ソレハ……?」

「サッキ、“アイツ”カラ届イタ」

 

このドラム缶は亜空間を通じて、鎮守府にあるもう一つのドラム缶とつながっている。

食べ物の配達用にと、夕張とかいう艦娘が作ってくれたものだ。

 

オマケでドラム缶に入っていた、“アイツ”の軍帽を飛行場姫に投げる。

慌てて軍帽をキャッチし、愛おしそうにクンカクンカしている飛行場姫に呆れながら、集積地夏姫は鶏の唐揚げに手を伸ばした。

 

その左手の薬指には、“アイツ”から貰った指輪が光っている。

 

「サア、花火ケンブツダ……」

 

 

戦艦仏棲姫は焦りの表情を浮かべていた。

 

前衛の潜水艦隊が消息を絶ってから、警戒警報を何度も出していたというのに、今度の敵は何の妨害も受けずに最終防衛ラインまで悠々とやって来た。

 

太平洋方面(へんきょう)からの増援組は、今日は何一つ仕事をしていない。

戦艦仏棲姫は役立たずな同朋どもを呪いながら、目前の敵へと目を向けた。

 

「アレハ……ナン……ナノ? マサカ……ウソデショ……」

 

横に並ぶ英戦艦ウォースパイトの主砲が小さく感じられるほどの、見たこともない巨砲を備えた黒い戦艦が迫ってくる。

 

「大和型戦艦二番艦、武蔵。参る!」

 

試製51cm連装砲二基が猛然と火を噴き、空は閃光に染まり、海が割れた。

 

 

防空棲姫から、スエズ運河を守る戦艦仏棲姫が超重装甲を誇ることを聞かされ、艦隊一の頭脳である霧島が立てた作戦は、2年前に防空棲姫を倒したときと同じ。

 

「相手が最強の防御力を持つなら、こちらも最強の攻撃力でブン殴りましょう!」

 

さすが名軍師・霧島の策。

武蔵たちとの最初の砲雷撃戦が終わった時には、敵艦隊はすでに壊滅、戦艦仏棲姫も大破していた。

 

闇夜のような暗黒空間に逃がれようとした戦艦仏棲姫に、由良、羽黒、照月、綾波、プリンツ・オイゲン、そして雪風からなる第二艦隊が猛追して夜戦を挑んだ。

 

必死の形相で最後まで抵抗をした戦艦仏棲姫だが、とどめは雪風が刺してくれた。

 

「雪風、また生還しました! 司令のおかげですねっ♪」

「アァッ、白イ悪魔……アレ…ウゴカナイ……アハハハ……ウミトソラガ、綺麗……」

 

MVPの表彰を受けている雪風を見て2年前のトラウマが甦ったのか、ガクガクと震えて昇天しそうになる防空棲姫。

 

「綾波型駆逐艦、六番艦の狭霧です。あまり多くの戦いを経験してはいませんが、お味方のために……尽くしたいと思います」

 

「綾波型駆逐艦、五番艦の天霧だ。さあ、行ってみよう!」

 

「神風型駆逐艦……旗風、参りました。お供させて頂きます。よろしくお願い致します」

 

新たに加わった艦娘たちの自己紹介から、祝勝会というよりは歓迎会に突入しようという趣旨なのだが……。

 

戦艦仏棲姫の残骸から顕現した……というか、その転生としか思えない重厚な胸部装甲を持つフランス戦艦娘のリシュリューへとマイクが渡った。

 

「Je suis vraiment ravie de vous rencontrer amiral」

 

一瞬、日本語でOK?という空気が食堂に漂う。

 

「J’ai toujours pensé à toi. Vivons ensembre」

 

提督が発音だけは流暢なフランス語(ただし、語彙は大学時代の必修語学でのうろ覚え)で歓迎の言葉を伝える。

その言葉を直訳してしまうと「僕はずっと君のことを考えていたよ。一緒に暮らそう」で、完全にプロポーズだ。

 

「Merci...Mon amiral(嬉しい、私の提督)」

 

顔色を変えるコマンダン・テストの横で、大淀が冷静に対妖精さん(ここの鎮守府の妖精さんたちは電子機器が大嫌い)防御済みの高性能携帯翻訳機を操作する。

 

大食堂が修羅場に包まれる、3分前の出来事であった……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。