一緒に野球をした、あの小さい○○君が結婚、月日の流れの速さを感じます。
笑い合い、励まし合い、時に喧嘩をすることがあっても、いつも相手のことを思いやる、
そんな優しい温かな家庭をお二人で育んでいかれますように……
なんて祝辞電報を、同日に100人目を超えてジュウコンする従兄弟からもらっても嬉しくないだろうと思い、提督は従兄弟の結婚式にはご祝儀だけを贈ることにした。
「ローちゃんも、とうとう練度99でケッコンですって! ダンケダンケ!」
「提督さん、新婚旅行は本当にイタリアに連れてってくれるの? グラッチェ!」
憲兵さん、全力でこっちです……。
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イタリア潜水艦ルイージ・トレッリも無事に発見し、この鎮守府の長かった大規模作戦も終わりを告げた。
現在は、開店休業を通り越して、閉店ガラガラ状態。
艦娘たちも作戦のために手が回らなくなっていた、農作業に精を出している。
黄金色の陽射しに、水田がキラキラと光る。
雨や曇り続きで生育が遅れていた稲穂も、8月後半から夏らしい気候が戻ったことで、力を振り絞って懸命に成長しようとしていた。
「食べながらでいいので聞いてくれ! みんなも知っていると思うが、来週、提督と鳳翔さんが欧州に旅行に行く」
昼食でみんなが休憩場所に集まったところに、長門が声をかけた。
「呂500とリベッチオも新婚旅行を兼ねて同行するが、他にも戦艦、空母、重巡、軽巡、駆逐、補助艦から1人ずつ、計6人の護衛艦隊を随伴させたいと思う」
長門の発表に、周りの艦娘たちがざわめく。
「まず、戦艦枠は全体のリーダーかつ、通訳としても働いてもらいたい」
「Oh,それならBattle ship枠はKongoがいいんじゃない?」
無邪気に提案するアイオワに、帰国子女(ただしバイリンガルとは言っていない)の金剛の額に汗が浮かぶ。
「ミーは鎮守府のホームセキュリティーをしなきゃいけないネー、ベリー残念デース」
ルー語を加速させながら金剛が言い訳をする。
「うむ、金剛には提督の留守中、何かと相談にも乗ってもらいたいからな」
金剛の語学力を察している長門としても、ここは欧州艦に任せるつもりでいる。
海外戦艦で最先任ならば、ビスマルクだが……。
練炭でトウモロコシを焼き、バター醤油で食べている日本に馴染みすぎたビスマルクを見ると不安になる。
パスタの国のだらし姉や、着任したばかりのリシュリューを除くと、結局はウォースパイトかローマの二択。
ウォースパイトには、着任したアーク・ロイヤルの世話役を任せるので……。
「ローマ、頼めるか?」
「そう言われると思ってたわ……」
「次に、空母枠だが……」
「一航戦、赤城。立候補します」
「大規模作戦の総合MVP、この瑞か……ぐぇっ!」
「赤城さんの手を煩わせるまでもないわ。私が行きます」
「はいはいはいーい! 鈴谷にお任せぇ!」
「語学なら、神戸生まれのお洒落な航空母艦、熊野にお任せいただいてよろしくってよ」
「ビールにワインにブランデー、ウィスキー、パーッといこうぜ~。パーッとな!」
「うふふ、提督と欧州旅行……悪くないわね」
「千歳姉、自分だけズルイよー!」
「水上機母艦も空母枠に入るかも?」
「アクィラの出番ですか? いいですとも」
「欧州は私の庭だ。案内なら、このグラーフ・ツェッペリンに任せろ」
「誰の庭だと? 今は友軍とはいえ、聞き捨てならない」
懸念していた通り、長門が話し終わらないうちから手を上げて立候補する艦娘が多数となった。
瑞鶴と加賀、グラーフとアーク・ロイヤルなどは喧嘩を始めそうだし……。
「やっかましいー!!!」
長門から、あらかじめ人選を相談されていた龍譲が一喝する。
「空母枠は大鷹(旧・春日丸)でもう決めとる。今回の旅行は鳳翔に楽しんでもらうためのもんや。他のケッコンしとる空母は遠慮しとき?」
鳳翔のためと言われ、しーんとなる空母艦娘たち。
軽空母、正規空母で、新入りのアーク・ロイヤルを除けば、まだケッコンしていないのは大鷹だけだ。
(水上機母艦は空母枠には入らないかも?)と首を傾げる秋津洲を除き、みな納得した顔をする。
「重巡枠も同様の視点で、こちらで決めさせてもらった」
「あれぇ~? もしかして、ポーラですかぁ?」
重巡でケッコンしていないのはポーラだけなのだが……。
「ケッコン前から提督の部屋に裸で入り浸るアル重を行かせると思うか?」
「デスヨネー」
「重巡枠は愛宕。今回の旅行、港湾夏姫など深海勢も合流するが……負けないためだ」
「ぱんぱかぱーん!」
愛宕が腕を振り上げて気勢を上げると、体の一部がブルルンと暴れる。
これなら深海勢にも易々と負けないだろう。
「軽巡枠には子供達の引率を頼みたい……こちらから指定はないが、希望者はいるか?」
「きらりーん☆ それなら、この阿賀野が……」
「却下」
「ぴゃー、じゃあ酒匂が……」
「却下」
「よーし、この川内が……」
「却下。川内型は行動が心配なので3人とも却下だ」
「ちょ……姉さんや那珂ちゃんは分かりますが、私までですか?」
「じ、神通……?」
「神通ちゃん、ちょっと今夜は真面目に家族会議しようか?」
「俺と龍田は遠征の監督があるから行けないぜ」
「球磨型には市場の買い付けと漁の仕事があるクマ」
「長良型は鎮守府対抗バレーに向けた練習があるから無理よ」
「あ、あたしも工廠の手伝いと……深夜アニメとかあるし……」
「この大淀が何日も鎮守府を留守にするわけにはいきません」
「うふふ♪ それなら、練習巡洋艦から……」
「お前らには店番のバイトと遠洋航海の引率があるだろう」
「あうぅ」
「残るは能代と矢矧だけか」
長門が視線を向けると、露骨に顔を背ける矢矧。
先ほどの金剛のように冷や汗をかいている。
「だだだ、大統領だってぶん殴って見せるわ。でも飛行機だけは勘弁よ……」
今回の旅行は現実世界の空路で行くのだが、航空攻撃で撃沈されたトラウマのある矢矧には飛行機に乗るというのが怖いらしい。
「阿賀野姉ぇ、私がいない間ちゃんと生活できるかしら……?」
というわけで、軽巡枠は残る能代に決定した。
「駆逐艦枠と補助艦枠も悪いがこちらで決定した。まず、補助艦枠は伊良湖。帰路は駆逐艦を護衛につけるので、艤装を使って海路を通り、買い付けた食材やお土産を輸送してもらう」
「みんなのために遠路航海を頑張ります」
駆逐艦娘たちのざわめきが大きくなる。
通常、この鎮守府の至宝ともいえる給糧艦が航海するのに、護衛が駆逐艦娘1人だけというのはあり得ない……。
「みんなの心配は分かるが、駆逐枠は……こいつに頼むから安心してくれ」
長門にうながされ、みんなの前に進み出たのは……。
「駆逐艦、防空棲姫ダ」
「「「「お前のような駆逐艦がいてたまるか!!」」」」
居候を続けている防空棲姫に、大量のツッコミが注がれるのだった。
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「長門さんも神通ちゃんもひどいよ。川内ちゃんや神通ちゃんはともかく、この那珂ちゃんに心配なんてないのに」
「あたしのどこが心配なのよ!?」
「どうせ地中海で夜戦するでしょ?」
「決まってるじゃん! 夜戦しないなら、何のために行くの?」
「夜戦バカ……」
「言ったな、このアイドルバカ! どうせ向こうで街頭ゲリラコンサートとか計画してたくせに!」
「当たり前じゃん! 那珂ちゃんの魅力を世界に知ってもらうチャンスなんだよ?」
口げんかしながら、川内と那珂が大食堂の調理場で、畑から収穫してきた大量の大根を洗っている。
「あのぉ……だから、どうして私まで長門さんに心配されるのかが……」
その隣で茄子を洗う神通が口を挟む。
「神通は旅先でも朝の訓練しようとするでしょ?」
「それはもちろん、訓練は1日欠かしたら取り戻すのに3日は……」
「訓練バカ……」
「那珂ちゃん、バカなんてひどいです!」
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茄子は輪切りにし、水に漬けてアク抜きをしたら、よく水けを切る。
茄子を素揚げしたら、大根おろしをたっぷりと。
ダシ汁に砂糖、酒、みりん、醤油を合わせて軽くすだちを絞った調味料をかけて、冷ましながら味を染み込ませ、大葉とネギ、ゴマをのせる。
とろとろっと柔らかくなった茄子に、甘みと酸味を帯びた、さっぱりとした大根おろし。
薬味が程よいアクセントをつける。
材料費は安くて美味しいが、本気で丁寧に作ると手間と時間がかかり、それでも目立つことはない、揚げ茄子のおろし和え。
今日の夕飯の中でも、小鉢の一品として脇役に置かれ、決して主役に立つことはない。
それでも、様々な席で食事中の話題にふっとのぼる。
揚げ茄子のおろし和えなどというものは、軽巡洋艦と同じで、そんなぐらいが調度いい。
※おまけ
「ねえ、ちょっとぐらい……味見してもいいでしょ?」
「寄らないで、ヘンタイ!」
「いいじゃん、減るもんじゃないし」
「誰かっ! Help Me!」
この日の夜、新型の「“夜間”戦闘機F6F-3N」を受領したサラトガの寝床を、夜戦仮面なる謎の人物が襲撃したとかいう噂が……