「ヤセン、ヤセン……ウフフッ、タノシイネ……」
「あの稲妻みたいな雷撃がこんなになっちゃて……こんな見る影もないほどボロボロに……」
「これを那珂ちゃんの艤装に取り付けてみて。ヘ級の回路を参考に開発したの」
「こんな古い物を……神通ちゃん……訓練欠乏症にかかって!」
提督が旅行に行っていた一週間、艤装を封印されていて夜戦や訓練ができなかった川内と神通。
那珂ちゃんも巻き込み、あてつけがましい昭和アニメネタで禁断症状をアピールしてくる。
「分かったよ、今月の『水上反撃部隊、突入せよ』は、阿武隈の代わりに川内が行っていいよ」
「やったー! 待ちに待った夜戦だ―!」
「神通には『防空射撃演習』の監督を……今日中に10回頼めるかな?」
「どういうことでしょう……身体が、火照ってきてしまいました……」
「那珂ちゃんは『ボーキサイト輸送任務』をお願いね」
「地方巡業も大事なお仕事ですね!」
命令を下す提督だが、執務室の床に正座させられていた。
首には『私は資源を浪費した無能です』というプラカードがぶら下げられ、横から龍田が薙刀の切っ先でツンツンしている。
サラトガの予備艤装を欲しがって、旅行中に自然回復で貯まっていた資源を大型建造にブッ込んで溶かしたのだ(もちろんサラトガは出なかった)。
「秋刀魚漁の直前に何してくれてんのよ!」と永世秘書艦の叢雲様にメチャクチャ折檻された。
「司令官、今日の潜水艦隊のお風呂掃除当番、手伝ってよね」
「しれぇか~ん、駆逐のみんなでガリガリ君が食べたいぴょん。大人しくサイフを出すぴょん」
「クソ提督、今期の釣竿の購入予定書、印を押しといてね」
「提督、私はHGのザクⅡC型が欲しいんですけど、いいですか?」
「あのぉ提督、このワインも「ポーラ!!」痛っ、痛いですザラ姉様ぁ」
「あら、足が痺れたの? 夕雲が揉んであげましょうか? ふふ、仕方ない子♪」
そんなわけで、今の提督に指揮権はあっても人権はない。
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防空射撃演習から戻った第十七駆逐隊の面々、浦風、磯風、浜風、谷風が大食堂に現れた。
「神通さん、活き活きしとったねぇ」
「うむ、良い訓練だったな」
「久しぶりに動いたから、お腹すいたわね」
「今日はサバミソがあるのかい!? かぁー! これで勝つる!」
間宮の作る『鯖の味噌煮定食』。
『煮込み』や『肉じゃが』と並ぶ“正妻戦争”の決戦料理であり、大食堂の看板料理の一つだ。
第十七駆逐隊は全員がサバミソ定食を注文し、お茶やご飯、味噌汁、副菜をセルフサービスで手際よく準備する。
味噌汁は、小松菜と油揚げ、しめじが具になっている。
昆布と鰹節の基本ダシに、油揚げのコクとしめじの深みが加わったもの。
副菜の小鉢や小皿には、鎮守府の畑で採れた自家製大根の漬物に、目の前の湾で採れた昆布とひじきの炒め煮、これまた自家製の海と山のコラボであるワカメとキュウリの酢漬け。
これだけでも、ご飯一膳は軽くいけてしまう重要な資源だ。
そして、メインの『鯖の味噌煮』が運ばれてくる。
丁寧に下処理し、じっくりと水煮してアクをとったサバの切り身。
下味を付けたら、さらに冷蔵庫で一晩寝かせて、味や脂ののり、身の状態を確認して味付けしてから再度煮込む。
最終的な味の決め手は、上品な白味噌の甘さ。
柔らかく、骨の髄までホロホロと煮込まれた鯖の身に、優しい味わいの白味噌が染み込んでいる。
ともすれば、くどさのある脂ののったサバが、丸く丸く上手に削られて、ご飯にピッタリの味に研ぎ澄まされている。
少しだけ硬めに炊かれたツヤツヤご飯に鯖味噌をのせ、グイッとかっ込めば……。
「ぶち美味い!」
「もふぅ……これは凄いぞ」
「うーん、幸せな味ね」
「てやんでい、ご飯おかわりだチクショーめ!」
午後もまた、神通の監督下で2本目の防空射撃演習。
そんな厳しい訓練も、この昼食があれば乗り越えられる。
ここの鎮守府は、今日も(提督はバカだけど)メシウマで平和です。