良く晴れた青空に、涼しい風が流れていく。
鎮守府の畑を流れる小川沿いの、木々に囲まれた空き地。
たくさんのレジャーシートやござが敷かれ、クーラーボックスやビールケースが並べられた中央には、直径1メートルの大鍋が設置されている。
今日は鎮守府の芋煮会。
飲めや歌えの大宴会が繰り広げられていた。
急遽設けられた舞台では、宴会芸もやっている。
『細かすぎて伝わらない艦娘モノマネ選手権』
「リランカ島周辺での潜水艦狩りに護衛として参加するも水上艦と一切遭遇せず、手持ち無沙汰な一航せ……」
舞台袖から駆け上がってきた瑞鶴が、一気に長セリフをまくしたてるが、言い終わらないうちに舞台下へと落下していく(妖精さんの超技術により安全には十分留意しております)。
「これは見てみたかったのですが」
「絶対落とされる分かっとって、よう毎度出てくるな」
「早く次に行きましょう」
舞台の脇では、司会の霧島と解説の龍驤が笑う横で、落下ボタンを操作する加賀が澄ました表情をしている。
「重雷装艦スターシリーズ。まずは、“キャプテン”の愛称でお馴染み、鎮守府のイケメン番長、木曽」
舞台に上がった眼帯をつけた鬼怒が前口上を放ち、雷撃を行う仕草を見せた後……被っていた帽子の角度を直し、「フッ」とニヒルに笑う。
「俺はあんなことしねーし!」
「よくやってるにゃ」
「続いては“奴の前では姫も泣いて土下座する”鎮守府の切り札、北上様」
眼帯と帽子を外し、今度はおさげ髪のカツラを被って、鬼怒が雷撃ポーズをとり……その射線の先を見て不思議そうに首を傾けてから……「んっ、当たった」と一言。
一部の艦娘たちから爆笑が上がる。
「これは何でしょう?」
「あー、北上のよくやるやっちゃな。違う敵に当たったのを、さも狙ってたように誤魔化すんや」
「狙いを外しても当てるあたり、天性のスナイパーですね」
「最後は皆さんお待ちかね……うわっ!」
鬼怒が続けようとしたところを、司会席に駆け寄ってきた大井がボタンを奪って落下させる。
「おーっと、変な角度で落ちましたが大丈夫でしょうか?」
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提督も艦娘たちの宴会芸に笑いながら、今年の大鍋の芋煮をいただく。
豚肉と里芋、人参、大根、ごぼう、長ねぎ、しめじ、こんにゃく、油揚げ……と具沢山な名取の芋煮。
辛口の仙台味噌の風味と、豚肉を炒める際に加えられた生姜の香りが特徴的だ。
この畑で採れた、ほくほく柔らかい里芋や根菜類に、手でちぎった間宮製こんにゃくの食感がアクセントを加え、しめじと油揚げも深いコクを生んでいて美味しい。
500杯分を超える大調理。
使った里芋はダンボール10箱分で、豚肉は50kg。
水はポリタンクで運び、酒とみりんも一升瓶からドバドバ注ぎ、味噌や砂糖は業務用の大袋から直接投入した。
普段は気弱で大人しい名取だが、今日は必死に頑張っていた。
「名取、美味しいよ」
「あ、あの……。ありがとうございます」
手伝いながら「これ、豚汁とどこが違うんだ?」と口を滑らせた天龍を眼光一発で黙らせたり、勝手にかんぴょうを加えようとした妹の鬼怒に無言で腹パンしたりと、普段見られないワイルドな面も見せてくれた。
「提督っ、ボクのも食べてよ」
「うちのは、きりたんぽ入りで美味しいですよ」
「あ、あたしのも食べてみてっ」
もちろん、大鍋の調理権争いに敗れた艦娘たちも、ただ指をくわえて見ていただけではない。
それぞれ小さな鍋(とはいえ余裕で100杯作れる寸胴鍋)を持ってきて、それぞれのこだわりの芋煮を作っていた。
明日の夜からは、いよいよ秋刀魚漁が始まる。
大漁祈願も兼ねて、提督と艦娘たちは今日はいっぱい食べて飲んで、宴会を楽しむのだった。