田畑を飛んでいたトンボも姿を消し始め、いよいよ冬の訪れを感じさせる頃。
ここの鎮守府は、秋刀魚漁に向けての全力出撃中。
特に北方海域アルフォルシーノ方面への出撃が多いが、基本編成には空母2隻が必須。
必然的に休憩室には、次の出撃を待つ空母の艦娘たちがたむろしていた。
「よーし、今日こそ勝つぞ。≪草むした墓≫をショックイン、緑1マナから≪極楽鳥≫を出してエンド」
「アンタップアップキープ……≪山≫を置いて赤1マナで鳥に≪稲妻≫。エンドよ」
コタツを挟み、瑞鶴と加賀が『マジック:ザ・ギャザリング』の対戦をしている。
戦場に出した途端、加賀に呪文で焼かれる瑞鶴の≪極楽鳥≫。
世界中で数えきれないほど繰り返されてきただろう、1ターン目の定跡の攻防をしている。
「この焼き鳥製造機……」
「鳥は見たら焼け、よ」
この緑の≪極楽鳥≫というクリーチャー、カードを使うコストである“好きな色のマナ”を生み出す強力な特殊能力がある。
こいつ自体は非力だが飛行の能力もあるので、強化されてブロック不能な意外な一撃を放ってくることもあり、出てきたら即座に叩くべしという格言がある。
さらに瑞鶴が最初に出した≪草むした墓≫という土地は、出して即使うにはライフ2点を犠牲にしなければならないデメリットはあるが、緑か黒の選んだ方のマナを出せるカード。
黒のマナを必要とするカードには、ゲスな呪文や厄介なクリーチャーが溢れている。
「さーて……とりあえず、≪沼≫を置いて黒1マナ、≪思考囲い≫で加賀さんの頭の中を覗いちゃおうかなー♪」
相手の手札を公開させて1枚捨てさせるという呪文を唱えて、(加賀視点で)ゲスな笑いを浮かべる瑞鶴。
「……これだから黒は……どうぞ」
「う、グロい手札……これだからトリコは……えーと……≪瞬唱の魔導師≫を捨てて」
加賀のデッキのカード色は、青白赤のトリコロール。
妨害手段に優れたカードを連打して(瑞鶴視点で)陰険に相手の動きを封じ、盤面を制圧しながらチクチクと相手のライフを削って勝つという(瑞鶴視点で)姑息なデッキだ。
「2人とも仲が良いですねぇ」
「本当の姉妹みたいで、少し妬けちゃいます」
加賀と瑞鶴の横のコタツで、こちらも対戦しながら赤城と翔鶴がほっこりしている。
「すみません、私のエンドで止まってましたね」
「はい、では……アンタップアープキープドロー……≪平地≫を置いて、≪尖塔断の運河≫から青で計2マナ、≪光り物集めの鶴≫です」
こちらのゲームにも、要注意の鳥が出てきたが……
「あら、今は焼く手段がありません」
「≪光り物集めの鶴≫の能力でライブラリーの上から4枚を引いて……手札に加えるのは≪飛行機械の鋳造所≫。すぐに2マナで戦場に出し……通れば≪オパールモックス≫で1マナ出して≪弱者の剣≫を生贄に捧げます」
≪飛行機械の鋳造所≫は、色指定なし1マナとアーティファクト(魔法具や機械等のカード)の生贄により、『飛行機械』というパワー1/タフネス1のトークン(カード外の)クリーチャーを製造して戦場に出せ、さらにプレイヤーのライフを1点回復させる。
そして、生贄により墓地に置かれたアーティファクトである≪弱者の剣≫は、戦場にパワー1/タフネス1のクリーチャーが出ると、墓地から戦場に戻って、そのクリーチャーにノーコストで装備されて、+1/+2の修正を与える。
「うふふ、このターンはこれでエンドです」
この先、翔鶴にターンが移れば、出せるマナの数だけ『飛行機械』が増殖し、翔鶴のライフもどんどんと増えていく……。
一番の対策としては≪飛行機械の鋳造所≫を破壊することだが、赤城が使うデッキのカード色である赤は、この手の置物対策に無力だ。
「さっきの鶴は焼けませんでしたが、翔鶴さんを焼き殺せば私の勝ちですね」
物騒なことを笑顔で言う赤城だが、これこそ直接打撃できる炎のパワーこそが最強と信じる赤の思考。
盤面が『飛行機械』で埋まり、翔鶴のライフが増大しきる前に、そのライフを0以下に削ろうと決意する。
「全力で行きますよ」
「はい、望むところです」
「赤城さん、翔鶴と遊んでいると楽しそうね」
「うん、翔鶴姉も赤城さん相手だと妹気分になれて嬉しいんでしょ」
赤城と翔鶴の対戦に目をやり、ニンマリする加賀と瑞鶴。
「……で、こっちの妹鶴の方はそろそろ投了しないの?」
「いやいやいや、押してるのこっちでしょ? 無限頑強コンボは阻まれたけど、この戦場に並んだクリーチャーが目に入らないなんて、加賀さん老眼?」
「無礼な鶴ね……石鍛冶で≪梅澤の十手≫を拾ってきて殴りたいわ」
「そういう禁止カードやファッキンジャパニーズウェポンに頼るのいくない」
「そうね……でも頭に来たので≪神の怒り≫よ」
「ぎゃああああっ、あたしのクリーチャーたちがー!」
“全てのクリーチャーを破壊”して戦場をリセットする加賀に、瑞鶴が悲鳴を上げる。
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「また加賀さんと瑞鶴がイチャついてる」
「甘々だね~。それより、ご飯ご飯」
北方海域での秋刀魚漁から戻った、二航戦の飛龍と蒼龍は台所に向かう。
木の温もりがある床や壁に、タイル張りの流し台、石の竈。
懐かしい昭和レトロの台所では、割烹着を着けたサラトガが料理をしていた。
「お帰りなさい。クラムチャウダーが出来てますよ」
サラトガがかき混ぜている黄金色のアルマイト鍋からは、白い湯気と芳醇な香りが立ち登っている。
ホンビノス貝を白ワインで蒸し、バターと小麦粉で炒めた玉ネギ、セロリ、ニンジンと合わせて、貝の煮汁、牛乳、ホワイトソース、チーズとともにじっくり煮込んだ、アメリカ版お袋の味だ。
ホンビノス貝はアメリカ東海岸でよく食べられる異国の貝だが、東京湾に定着して繁殖範囲を広げている。
「うわ~、あったまるぅ」
木椀に注がれた、濃厚な貝の旨味が溶け込んだ熱々のスープを口にして、飛龍が喜びの声を上げる。
「美味しい……あ、グラーフ、Fw190T改ありがとうね。しっかり仕事してくれたよ」
蒼龍もスープの滋味に舌鼓を打ちながら、ソーセージを焼いているグラーフ・ツェッペリンに借りた艦載機のお礼を言う。
「そうか、それは良かった。焼きあがったぞ、ニュルンベルガー・ローストブラートヴルストだ」
炭火でカリッと香ばしく焼けた、小ぶりで爽やかな香辛料の風味のするニュルンベルク名物のソーセージ。
「瑞鶴、次の出撃はあなたの番でしょ!」
「あ、いっけなーい! ん……加賀さん、今晩のお月見……カボチャのお団子を作っといてくれる?」
「……言われなくても作るから、早く行ってらっしゃい」
「よーし、行ってくるぞー!」
ここの鎮守府は、今日もみんな仲良しです。