ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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第七駆逐隊とカワハギ料理の宴会

秋の日はつるべ落としといわれる位に早く暮れ、そぞろ寒い夜も長い。

艦娘たちは綿入りの長袖袢纏(はんてん)を着るようになり、大量のコタツムリも発生している。

 

秋刀魚漁も一段落し、鎮守府は弛緩モード。

提督も早々に執務を切り上げた後、休憩室のコタツでぬくぬくしていた。

 

太く黒々とした梁が高い天井を支える、五十畳の休憩室。

敷波が提督の隣でミカンを剥いてくれ、磯波と浦波はコタツのテーブルの上でチェッカーの対戦、コタツから顔だけ出した初雪は座布団を枕にうたた寝し、深雪は提督の背中に寄りかかってマンガを読んでいた。

 

吹雪、白雪、綾波は隣のコタツで、扶桑から伝統的な藁細工である卵苞(たまごつと)の作り方を教えてもらっていた。

 

舟型に編んだ卵を載せて、さらに藁で編み込んで卵を固定していく。

取っ手状に編んだ部分を持って歩いても卵は落ちない、プラスチックやダンボールの容器などなかった時代に、貴重だった卵を運ぶための農家の知恵の固まり。

 

ザラとポーラも一緒になって、応用編のワインボトル用の藁の編み方を習っている。

イタリアでも伝統的な”フィアスコボトル”という藁で包まれた丸底瓶があったが、藁を編む職人の減少により生産量が大幅に減っているそうだ。

 

 

台所では第七駆逐隊が、鳳翔さんの指導を受けながらのチクワ作りを終えていた。

 

今日は曙の発案で宿毛湾にカワハギ釣りに出かけ、4人で50尾以上のカワハギを釣ってきたのだ。

 

カワハギは餌盗り名人で、他の魚を狙っているときは餌を盗んで邪魔をするし、いざカワハギを本命で釣ろうとしてもアワセが難しくて釣り難い、誠に厄介な奴。

 

その秘密はカワハギの泳ぎ方と口の形にあって、カワハギは縦に泳ぎ、水中でホバリングしながら、細い口で餌をツンツンとつつきながら食べる。

横からバクンと食いつくようなサバと違って、なかなか針を飲み込んでくれない。

 

それだけに竿先や糸の動きを慎重に見極め、上手にアワセてカワハギを釣り上げた喜びはひとしお。

 

それには敏感でフィット感がある専用竿が必要なのだと散々にプレゼンし、シマノのステファーノ180という5万円超のカワハギ用の竿をクソ提督に買わせて、やる気満々で挑んだ曙ちゃん。

釣果は、第七駆逐隊の4人で最下位の9尾でした。

 

下から順に……。

3位は漣11尾、使用竿はダイワのカワハギX、お値段は1万円前後。

2位は潮18尾、使用竿はプロマリンの極仙カワハギ、お値段は5千円強。

 

そして釣果1位は、朧20尾。

使用竿は曙が以前使っていた、シマノのカワハギBB、お値段は1万円台前半。

 

「竿の性能の違いが、戦力の決定的差ではないことを教えてやる(キリッ)」

「うるさいわね! あんただって3位でしょ!?」

「しかし二桁と一桁には大きな差があるとは思いませんかねぇ、曙さん?」

 

面白がって漣が煽る煽る。

 

「今回の罰ゲームはメイド服で提督にお酌だったよね」

「ちょっと、朧! こんなトコで脱がそうとしないでよっ!」

「えへへ、これ可愛いでしょ?」

「こら、潮! 自分が着んじゃないと思って……」

 

狭霧が第七駆逐隊のやり取りをハラハラして見守っているが、いつものことなので他の綾波型姉妹はスルーだ。

 

 

強制的にメイド服に着替えさせられた曙が、提督のところにカワハギの薄造りと日本酒を持ってくる。

 

「あ……あの、高い竿買ってもらったのに……あんまり釣れなくてゴメン」

「また次回がんばればいいよ」

 

殊勝に頭を下げる曙に、提督が微笑む。

正直、曙のようにせっかちな子に敏感すぎる竿を与えても、最初は苦労するだろうと思っていた。

試行錯誤しながら、新しい竿の感触に慣れてもらうしかない。

 

というわけで、曙にお酌してもらってカワハギの薄造りをいただく。

 

緑磁の丸皿に美しく盛られた、半透明の薄造り。

紫蘇の葉に、スダチとカワハギの茹でた肝も添えられている。

 

カワハギは何といっても肝が美味い。

熱燗をチビチビやりつつ、上品な甘味のあるコリコリの身をこっくりした肝醤油でいただく。

 

「ああっ、いいもの食べてますねぇ……提督?」

「ポーラも、それちょっと味見してみたいです~」

 

すぐに明石とポーラが寄ってきた。

 

「あらっ、それカワハギ? カワハギの肝って美味しいのよね~」

「貴様、水臭いぞ。そういう珍味を食べるなら、なぜ誘ってくれん?」

 

陸奥に那智……。

運悪くというか必然というか、今日の業務を終えた艦娘たちが休憩室にやって来ては、カワハギと酒を見つけて騒ぎ始め、それぞれ勝手に酒を開け始める。

 

こうなっては仕方ない。

すぐに食堂の間宮に連絡して、今晩の夕食は大広間での宴会に変更してもらう。

 

「もう、そういうことは早く連絡してくださいね」

 

文句を言いつつも、もともとのメニューだった鮭とイクラの親子丼の他に、カツオのタタキや里芋の煮っ転がしなど、手早くつまみを用意して大広間に運んでくれる間宮。

 

鳳翔さんの方も、第七駆逐隊と作った旨味濃厚なチクワを焼きながら、カワハギの骨でダシをとって肝を溶き込んだチリ鍋などを用意してくれる。

 

「艦隊のアイドル那珂ちゃん、この前干した金目鯛を提供しちゃいま~す♪」

「朝採ってきた白菜、お塩とバターと鍋で火にかけるだけで煮物になりますよ」

 

続々と集まるつまみたち。

 

「ご主人様、あんまり調子に乗ってるとぶっ飛ばしますよ? ボノのライフはもうゼロですから、続きは戦艦や空母のお姉さんたちにしてください」

 

いつの間にか酔いが回り、曙のメイド服のスカートに手を突っ込んで堂々とセクハラしていた提督も、漣に警告されて大広間へと誘導される。

グッタリしている曙は、潮と朧が肩を貸して連れて行く。

 

特別な日ではないけれど、何となく宴会が始まる今日も平和な鎮守府です。

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