ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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決戦前の激安宴会

「此れの所を(いつ)磐境(いわさか)と祝い定め祓い清めて()ぎ奉り()せ奉る」

 

艦娘寮の別館増築のための地鎮祭。

提督が祝詞(のりと)を奏上している。

 

「掛けまくも綾に畏き大地主大神、産土大神、屋船豊受姫神、屋船久々能遅大神、木匠祖手置帆負大神、彦狭知大神、石土毘古神、石巣比売神、大戸日別神、天之吹男神、大屋毘古神、風木津別之忍男神、瀬織津比売、速開都比売、気吹戸主、速佐須良比売、少彦名神、高皇産霊神、神皇産霊神、木花咲耶姫、味耜高彦根神、天穂日神、神大市姫神、事代主神、塩土老翁……」

 

普通は土地神様と建築を司る神々に呼びかける奉書を読み上げるのだが、ジュウコン提督らしく神様相手にも八方美人。

家を守る神様六柱、農業や航海の神など、やたらめったら神様達の名前を羅列し始めた。

 

「これじゃ落語の寿限無(じゅげむ)じゃない……」

「どうして提督にやらせたの?」

「神主さんがギックリ腰じゃなかったら、提督になんかやらせなかったわよ」

 

斎主が祝詞を奏上している間は一同沈黙して頭を下げ神様に敬意を表すのだが、艦娘たちの間から私語が漏れ始める。

 

「……事の由告げ奉り拝み奉る様を平らけく安らけく聞こ食して……禍事罪穢を残る隅なく祓い清め給いて……風吹き荒ぶ氷雨降るとも崩え損なうことなく……」

 

ようやく工事の無事を祈る本筋に戻ったかと思えば……。

 

「大野の原に生ふる物は甘菜、辛菜、青海の原に住む物は鰭の広き物、鰭の狭き物、奥つ藻菜、辺つ藻菜に至るまで……秋の御恵賜ふを謝び奉らんと……」

 

五穀豊穣と豊漁を感謝するものに脱線した。

 

「……強者共を神誉で給い慶み給いて……戦の弾より守護り恵み給えと……」

 

最後は秋季作戦に向けた戦勝と艦娘たちの無事祈願。

これでは神様達も誰に何を言われているのか訳が分からないだろう。

 

 

「ひどい祝詞じゃったのう」

 

長い長い欲張り祝詞が終わり、利根がボツリとつぶやく。

 

「し、しかし、司令官も決戦に挑む私たちのことを心配なさって……」

「信者乙」

 

提督を擁護しようとする朝潮を、漣がからかう。

 

 

夜は恒例の前祝いの大宴会。

 

ただ、この間アイオワが大量のステーキ肉を焼き、それに対抗した大和が神戸牛のすきやき祭りを開催したため、予算とカロリーが大変なことになっている。

 

なので今日は低予算、低カロリーを目指した献立となった。

 

まずは、白菜と茄子の漬物と、ゆず大根。

もちろん野菜は鎮守府の畑で採れたもの。

 

塩ベースのあんかけ豆腐。

豆腐は間宮の手作り、具のカニ肉は漁で獲ってきたものをほぐして少量、ほうれん草や白胡麻は自家製。

しめじだけは近所のきのこ農家から買ってきた。

 

さっぱり黒酢味でヘルシーな、鶏ささみにもやしの中華サラダ。

丸鶏ともやしは養鶏場と農家から直接大量購入しているので、いつでも激安だ。

 

そんな鶏皮を使った中華煮込みスープ。

生姜で臭みを消し、ゴマ脂と白煎りゴマの風味に、ピリッとラー油が効いている。

春雨(食べる方の)でかさましし、鶏皮から出た脂のコクもあって食べ応えもある。

 

またまた鶏の砂肝のニンニク塩炒め。

長ネギとニンニクは、もちろん自家製。

 

手羽の唐揚げは甘辛ダレで。

精肉の出荷時に余った手羽も格安で譲ってもらって大増量。

 

後日、胸肉やモモ肉はテリヤキや唐揚げに、鶏ガラはラーメンのダシに、鶏レバーはペーストにと使えるので、一皿あたりの原価はかなり安くついている。 

 

フライドポテトには畑で採れて冷凍保存していたジャガイモを使用。

 

節約しまくりのケチケチメニューだが、みんな美味しそうに食べて飲み、話に夢中になっている。

 

提督も伊勢や五十鈴とともに昔の別館を新築した時のアルバムを見ながら、思い出話に花を咲かせていた。

夕雲型の駆逐艦娘たちが提督の背中にひっついてきて、アルバムを覗き込む。

 

「この四つん這いんなってる司令の顔、最高だな!」

 

朝霜が梁木の上でガクプルしている提督の写真を見つけてケタケタ笑う。

 

「提督、下りてくるまで2時間もかかったのよ」

「四階まで登ってみたら、思ってた以上に高くて足がすくんじゃったんだよ」

 

「これは……どうして?」

「ああ、泣き顔の提督ね」

 

早霜の問いに、伊勢がニヤニヤ笑う。

 

「それは……コンクリ打っちゃった後で、排水管を勾配つけずに埋め込んでたのに気付いた時だね」

 

当然のことながら、水は高いところから低いところに流れる。

泣く泣く固まったばかりのコンクリを破砕して、再び排水管を埋め直した。

 

「ねえねえ、こっちは何で武蔵さんに怒られてるの?」

「あの時の提督の失敗はひどかった!」

「……大黒柱を立ち上げてもらったんだけど……僕のミスで上下逆さまだった」

 

簡単な失敗に聞こえるが……。

 

想像してみて欲しい。

艦娘たちが掛け声とともに総出で縄を引き、樹齢四百年を超える巨木が天高くそそり立つ。

映画のワンシーンのような感動の場面に、小声で「逆だった」と呟いた提督。

 

それ以前から売り切れていた提督の威厳だが、再入荷が絶望的となった瞬間だった。

 

「はーい、もう飲まない人たちには〆のお食事ですよ」

 

間宮が和風パスタを運んでくる。

畑で採れた野沢菜と唐辛子を具材に、埠頭で養殖した昆布のダシが香るさっぱり醤油味。

 

これもお金がかかっていない料理だが、手間と愛情はたっぷりとかかっている。

 

「提督、そろそろ腰をすえて飲もう。私が燻したスモークサーモンがあるぞ」

「ヘーイ、提督ぅ! 高速戦艦のお相手もして欲しいネー!」

 

パスタに引き寄せられた五十鈴や清霜たちと入れ替わりに、那智や金剛が寄ってくる。

 

 

決戦を前にしても、ここの鎮守府ではいつも通りに夜を越していくのだった。




さて、明日からいよいよ秋イベですね。
実は自宅PCの電源とグラボを入れ替えたら画面が映らなくなり、原因解明と正常化に3日を費やしました。
イベに間に合ってよかったです。

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