ネタバレや攻略法を見たくない方は回避して下さい。
遠くの峰々を彩っていた紅葉が白く染まり始めたと思っていた矢先……。
この鎮守府がある海辺の地域にも雪が降り始めた。
妙高と初風が、倉庫の軒先で水に浸しておいた
凍み餅は、江戸時代に大量の餓死者を出したといわれるこの地方に伝わる保存食だ。
米やアワ、キビなどの穀物を、乾燥させたゴンボッパと呼ばれるゴボウの葉に似た植物の繊維をつなぎに餅にして蒸し、軒先で冬の寒風にさらして凍らせる。
「そんなに美味しいの?」と問われれば返答に困るが、なければ淋しい鎮守府で冬から春に食べる名物おやつだ。
(ゴンボッパの綿毛のついた葉は春に採れるので、春からもう次の越冬準備を始めるのもこの地方らしい)
「……妙高姉さん?」
初風は妙高の眉がピクリと動いたを見て、声をかけたが……。
妙高が小さく微笑んだのに気づいて、黙って凍み餅を干す作業に戻る。
やがて予想通り、埠頭の方から歓声が聞こえてきた。
それは、那智、足柄、龍驤、阿武隈、霞、初霜、潮らによる、ルソン島への輸送揚陸作戦成功の喜びの声だった。
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艦娘寮の休憩室、曇りガラスの外には今日も雪がちらついていた。
まだ積もるほどではないが、この地方の長い冬が確実に近づいている。
龍鳳(大鯨)は編み物の手を止め、毛布にくるまった新入りの艦娘たち、佐渡と対馬に目を向けた。
鎮守府に慣れるため、天龍や駆逐艦娘たちの山芋掘りを手伝っていたので疲れたのだろう。
可愛い寝息を立てていた。
「チビたち、よく眠ってるねぇ」
コタツに寝そべり、『自然農薬のつくり方と使い方』(農山漁村文化協会)を読んでいた北上が声をかけてきた。
「ええ、本当に可愛いですね」
「眠ってる時だけはねぇ。駆逐艦と海防艦は……やっぱウザイ」
北上は普段から、自分より小さい艦娘たちを嫌いだと公言している。
しかし、それは実艦だった時に二度と還らぬ特攻兵器「回天」を装備させられたトラウマからくる、自分より弱い者たちに向けた優しさの裏返しだ。
だから龍鳳も特にその言葉には触れず、鎮守府で噂になっている編成について尋ねてみた。
「次は、北上さんも出撃するんですか?」
現在、鎮守府は捷一号作戦を本格発動し、その初動としてフィリピン・ルソン島沖の防空棲姫撃破を目指している。
提督に餌付けされ、鎮守府に居候して丸くなった防空棲姫。
しかも明石の工廠に艤装の一部を預けたまま出奔したので、かつて猛威を奮った2015年夏ほどの絶望感はない。
が、それでも強敵に変わりはないし、ラスボスとして君臨していた当時と違って、今回は前座で登場している彼女一人の撃破のために、どこまで戦力と資源をつぎ込んでいいのか、提督は頭を痛めていた。
今までの数回の防空棲姫との戦闘では大井が決戦役を買っていたが、艦隊戦に勝利して結界の力を弱めこそすれ、まだ防空棲姫の撃沈には一回も至っていない。
そこで最終決戦には、北上を編成に加えるという噂が出ているのだ。
とはいえ北上の予備艤装は提督の甘い見通しから、奄美群島沖ですでに使用してしまった。
予備艤装は出撃門に施された呪いによってこの海域では使用できず、本艤装をここで使えば、次の別系統の門の先にある海域には北上は出撃できなくなる。
「まだ悩んでるみたいだね。さっき執務室覗いたら、扶桑さんの胸に顔うずめて何かブツブツ言ってた」
北上という切り札をここで使い切っていいのか、いや北上に頼らなければ防空棲姫は倒せない、でも北上は……と、提督の思考は堂々巡りの負のスパイラルに陥り、まだ結論を出せていない。
「ま、どこで出るか決めるのは提督だから……出ろって言われたら、そこに行って敵に魚雷をブチ込むだけだよ。少なくとも……大井っちと一緒なら、防空ちゃん相手でも負ける気しないっしょ?」
傲慢ともいえる言葉を発する北上だが……。
そこには気負いも何もない、数々の難敵を沈めてきた自信に裏打ちされたこその涼しい顔だけがある。
頼もしく感じる一方、龍鳳もそんな北上をここで使ってしまっていいのか、提督と同じ迷いを感じた。
そこへ……。
「北上さーーーーーん!! 邪魔よ、提督っ! 北上さんはどこ!? やったわよぉ!!」
聞き間違えようのない、大井の叫び声が聞こえてきたのだった。
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拡張工事で少し広くなった艦娘寮の大宴会場。
高天井に220畳敷きという広大な空間も、鎮守府のみんなが集まると狭く感じる。
上座に座っているのは文句なしで今日のMVP、大井。
夜戦で強烈な連激を叩き込み、まだ中破でしかなかった防空棲姫を見事に沈めたのだ。
その夜の戦勝祝いは、酔った長門が佐渡と対馬を抱き寄せて頬ずりし、那智がポーラの口に一升瓶を突っ込むバカ騒ぎの宴となった。
大井は抱きついてくる提督を邪険にしつつも、振り払うまではせずに触られるがままにしている。
大根おろしとなめこの酢の物。
椎茸、しめじ、えのきのバター炒め。
山芋の磯辺揚げ。
かぼちゃと豚肉の甘辛煮。
白菜たっぷりの豆乳鍋。
晩秋の山の幸をふんだんに使いながら、ストレスで胃が弱っている提督を気遣った料理が並んでいる。
酢の利いた大根おろしにのって、つるつると口に滑り込むなめこの気持ちよい食感。
バターでコクを増した、きのこの豊かな味わい。
カリカリの衣と、とろとろの山芋がマッチした磯辺揚げ。
かぼちゃと豚肉の意外な相性が、ご飯にも酒のつまみにも合う煮物を作り出している。
そして、寒い夜に嬉しい、優しい味の温かい豆乳鍋。
「もう、子供みたいに世話がかかるんだから」
などと言いつつ、ちゃんと提督にお鍋をよそってくれる大井。
トロリと蕩けた白菜と、鶏ときのこのダシをたっぷり含んだ旨味たっぷりの豆乳スープがまろやかに口を満たし、優しく胃に落ちていく。
「次は輸送作戦か」
「阿武隈っち、チビども連れてしっかりやんだよー」
「もうっ、何ですぐに私の前髪崩すの!?」
だが、一難去ってまた一難。
次の輸送作戦中、提督は敵の猛烈な空襲に苦しめられるのだった……。
E-2まで3日では攻略したのに、その後E-3に何日いたんだろう……
完全防空……う、頭が……