ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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深雪とブリ照り焼き定食

鎮守府が大きな作戦を行っている最中、多くの艦娘たちは暇になる。

 

出撃や支援のために艦隊枠が埋まって普段の遠征スケジュールが機能しなくなり、他鎮守府との演習参加もキラ付けのために作戦遂行中の艦娘が優先されるからだ。

 

そんな暇な時間を活かし、艦娘たちはそれぞれに暮らしに役立つ活動を楽しく行っている。

 

毛糸を編んだり漁網を編んだり。

麦を挽いたり漁網を曳いたり。

縄を()ったり畳を縫ったり。

炭を焼いたり陶器を焼いたり。

 

間伐材で割り箸や焼き鳥用の串を作ったり。

和紙を()いて年末の(ふすま)の張り替えに備えたり。

大豆を発酵させて納豆を作ったり、牛乳を発酵させてチーズを作ったり。

米や麦やブドウを発酵させて不思議な飲み物を作ったり……。

 

一方で提督は……。

連合輸送艦隊が物資を運んでいる最中に無防備な航空隊基地が空襲を受けまくったり。

索敵値が足りずに敵主力を取り逃がして揚陸物資を破壊されたり。

やっとたどり着いた敵主力艦隊にレ級がいてニタニタ笑っていたり。

 

吹き飛んでいく資源に「あうあうあー」しか言えない状態になっていた。

 

「提督、少し休んでくださいな」

 

そんな煮詰まった提督を見かねて、鳳翔さんがお茶を淹れてくれた。

 

「あうあう……ふぁ~っ」

 

丁寧に湯を注ぎじっくりと蒸された、高価ではないが上質なお茶。

提督の荒んでいた心も、優しいお茶の温もりに少し落ち着いた。

 

「次の出撃はご飯の後にしようか」

 

焦っての出撃は取り返しのつかない失敗を起こしかねない。

とりあえず、そういう時は落ち着いてご飯がこの鎮守府のモットー。

 

提督は初心に帰り、鳳翔さんと休憩室の厨房に向かうのだった。

 

 

鎮守府の田んぼで育て、精米も杵と臼を使って自分たちで行った、ふっくらと優しい甘味のある自慢の新米。

それに3割ほどツヤと薫りの強い石川県産コシヒカリをブレンドし、丹念に研いで1時間ほど吸水させて竈で炊く。

 

その間に、おかずや味噌汁を用意。

 

球磨が市場で仕入れてきたブリを解体して、切り身を照り焼きにする。

 

関東ではワカシ、イナダ、ワラサ、ブリ、関西ではツバス、ハマチ、メジロ、ブリ、この地方ではコズクラ、フクラギ、ハナジロ、ガンド、ブリと、成長に応じて名前が変わる出世魚だ。

その脂身の多さからアブラ→ブラ→ブリと名前がついたという説があるほど、成長したブリは脂がのっている。

 

甘辛いタレにしっかりと漬け、さらにタレを塗り足しながらじっくりと焼き絡めたブリの照り焼きは、ご飯がすすむ。

 

脇を固める副菜もご飯に合うものばかり。

鳳翔さん自慢のキュウリとナスの糠漬け、自家製の梅干し、昆布と椎茸の佃煮、たっぷりの大根おろし、まろやかな芋の味噌汁。

 

ほとんどの食材が自分たちの畑や裏山で採れたもので、それを自分たちで調理する。

 

レンジにかければ2分で食べられる弁当もある時代に、スローフードもいいところだが、これこそ本当の贅沢だと提督は思う。

 

「あのさぁ……次の出撃、あたし抜けようか?」

 

味噌汁の鍋に味噌を溶かし入れながら、エプロンに三角巾姿の深雪が声をかけてくる。

 

「どうして?」

「大発を積める子が行けば、あと2回で終わるじゃん」

「深雪は出撃したくないかい?」

「出撃は……したいけどさ」

 

提督はポンポンと深雪の頭を撫でる。

 

「それなら頑張って行ってきて」

「しょうがないなあ。ドラム缶満載の深雪スペシャル見せてやるぜ」

 

時間をかけるからこそ、こういうコミュニケーションも生まれる。

効率よりも優先したいものが提督にはある。

 

 

やがて、炊き立てのご飯の香りが休憩室を満たす。

 

しっかり食べて、残りの作戦も頑張ろう。

いただきます。




E-3輸送長かったのに、レ級に遭ったのと深雪を入れて攻略したこと以外驚くほど覚えてなくてネタに困りました……。
そして一度書き上げたものを上書き保存して消してしまう痛恨のミス発生。
なので今回、内容がスカスカ気味ですがお許しください。

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