ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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鎮守府のクリスマス2017

年の瀬も押し迫り、寒さも一段と厳しくなってきた今日この頃。

 

鎮守府は月末の任務消化のかたわら、クリスマスパーティーの準備で大忙しだった。

 

秋季作戦の終了後も、煤払いの事始め、冬至のゆず湯とイベントが続いた。

クリスマスの後も大掃除(近所のお寺や神社、公民館などにもお手伝いに行く)に餅つき大会、お正月の飾り付け、年越し蕎麦とおせち作り、大晦日の大宴会が待っている。

 

「メリクリっぽ~い! 海峡の夜戦も大勝利っぽい! これはもう、ステキなパーティするしかないっぽ~い♪」

「メリークリスマっしゅーー!」

 

サンタやトナカイのコスチュームに身を包んだ艦娘や深海棲艦が、鎮守府のあちこちを飾り立てている。

みんなの衣装は、鳳翔さんをはじめ軽空母勢が足踏みミシンを駆使して製作してくれた。

 

艦娘寮の大食堂の各厨房もフル回転で、料理やケーキの製作にも力が入っている。

特に今年は秋季作戦直後から風邪をひき、弱っている提督のために艦娘たちも張り切っていた。

 

普段は提督に辛辣な霞や曙でさえ目に見えて心配するほど、昨日の提督は憔悴していた。

 

ようやく風邪が治ったところに、東京の大手企業からITを活用した資源管理の営業提案があって、その熱心(強引)な売り込みを断るために精神力を猛烈に消耗したのだ。

 

イノベーション、ソリューション、コミット、アジェンダ、コンバーション、シナジー、タスク、リソース、スキーム、メソッド、プライオリティー、アサイン、ナレッジ、サマリー、アライアンス、イシュー……。

 

提督の嫌いな言葉の上位百選を次々と踏み抜きながら、ろくろを回すような手つきで自信満々にプレゼンをかます営業担当氏に、「もうやめて! 提督のライフはとっくにゼロよ!」となるまで半時もかからなかった。

 

最新機材が嫌い(興味があり過ぎて分解せずには気がすまないという説もある)な、ここの鎮守府の妖精さんたちがプレゼン用のパソコンとプロジェクターと営業担当氏の最新スマホを壊してくれ、「こんな環境じゃIT化なんて無理だよね~」と営業も無事に(?)断れたのだが……。

 

今日の提督は寝間着に袢纏姿のまま、執務室の煎餅布団で『土を喰う日々』(水上勉著)とか『農家に教わる暮らし術―買わない 捨てない 自分でつくる』(農山漁村文化協会編集)とか『あしたも、こはるびより。83歳と86歳の菜園生活。はる。なつ。あき。ふゆ。』(つばた英子,つばたしゅういち共著)とか、心のバイブルを読んで心を落ち着かせている。

 

なぜ執務室に煎餅布団が敷きっぱなしなのか、そこは深く詮索してはならない。

 

「司令官、帰ったぞ!」

「作戦完了だよ。おつかれっ!」

「おつかれさま~。司令官、なにしてるの?」

「あ、みかん発見。頂くね♪ にひひっ」

 

長距離練習航海から戻った、長月、皐月、文月、水無月が執務室に入ってくるや、脱衣棚に制服を脱ぎ散らかして部屋着に着替えたり、提督の布団に滑り込んだり、コタツのみかんを剥き始めたり、それぞれ勝手にくつろぎ始める。

 

「外は寒くなかったかい?」

「ふわっ、わっ、わぁ~!? く、くすぐったいよぉ~っ」

 

艦娘たちと触れ合って、提督の元気も少しずつ回復していった。

 

 

クリスマス一色に飾り立てられた大宴会場には様々な料理が並び、大量の酒とカラオケセットが持ち込まれて活気に満ちていた。

 

クリームチーズを塗ったクラッカーに、ミニトマトと茹でブロッコリーをのせた彩りのあるカナッペ。

 

鎮守府の畑で収穫した蕪は、ハーブソルトで揉み込み、生ハムと刻みニンニクをのせてオリーブオイルを回しかけた洋風サラダに。

 

多摩が釣り船を仕立て、大量に釣ってきたカサゴとメバルは、アサリを加えてトマトと白ワインで煮たアクアパッツォに。

骨とアサリから良いダシが出ていて、絶品のスープが出来上がっている。

 

しかし、やっぱり今日の主役は七面鳥の丸焼き。

 

2日前に下処理し、塩水と白ワインに野菜ダシ、ハーブ、スパイスを加えた液に一晩漬け込んだ丸ごとの七面鳥。

腹にバター、ハチミツをたっぷり塗り込み香味野菜を詰め込んで、オーブンで焼くこと4時間前後。

 

皮はパリパリで身はジューシー。

ハーブの香りと野菜の旨味が行き渡り、臭みの全くない、しっとりした美味しい肉に仕上がっている。

 

「司令さぁ~ん、今日は特别な日ね~。ご一緒できて、山雲、嬉しいです~。えへ♪」

「提督、一緒にケーキ食べよ。はい、どうぞ。メリークリスマス、提督」

 

あのスリガオ海峡を突破し、心に負っていた影が晴れたような顔をしている時雨。

扶桑と山城も、艦橋をツリー代わりに飾りつけられてもニコニコと笑っている。

 

一方で……。

 

「私、ぜ~ったい食べないから。いらないってば~!」

 

また今年も瑞鶴の叫び声が聞こえてきて、提督に肩を寄せていた時雨がクスリと笑う。

 

「止まない雨はない。僕は……信じていたよ。ありがとう」

 

来年は、瑞鶴のトラウマも払拭してあげられる事を神様に祈って……。

メリークリスマス。

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