長門主導による一月作戦も終わり、鎮守府ではのんびりした日々を……というわけにはいかなかった。
月が替わって早々、2月3日は鎮守府にとっても大切な行事、セッツブーンだ。
町内を回って豆まきをする時は「鬼は外、福は内」の掛け声だが、鎮守府内では「福は内、鬼も内」。
仲の良い深海棲艦たちに招待状を配って回り、宴会の食材調達に遠征艦隊を多数派遣し、準備に大忙しだった。
「フッフフフ!! これがセッツブゥーンか!」
「はい? セッツブゥーン? ノンノンノン!! ”せつぶん”っすよ! せ・つ・ぶ・ん!!」
「台湾では、節分はやらないんだけど……え……? セッツブーン? ますます…やらないんだけど……」
リシュリューが、海防艦娘たちに発音の誤りを指摘されている。
「フッ知っているぞ! セツブゥーン!!だろ? 既にあいつらから情報は入手済みだ!」
「これが、あの子達が言ってた、セツブゥン? 奥深さを感じる素敵な文化です。素晴らしいわ!」
英艦娘のアーク・ロイヤルに、仏艦娘のコマンダン・テスト。
独艦娘たちから伝播するうちに、様々な発音バリエーションが生まれているようだ。
「司令官、節分ですね!お任せ下さい! この朝潮、豆まきも全力でかかります! えーい! えいっ! そーれ!」
「司令官、節分です! もちろん、節分もアゲアゲです! ほら、朝潮お姉さんが、お豆全力射撃中です! 大潮も参加します! えいっ、えいっ!」
「だから! 豆を全力で投げるのやめなさいよ! 鬼役の神通さんがいつまでもっ……ほら……ほらあ……っ! わ、私知らないったらー!」
「フッ……、イタイ…イタイワ……ウッフフフフフフ……!」
「泊地水姫、キモイ……」
全力で挑んだ一月作戦の打ち上げということもあり、セッツブーンは大いに盛り上がった。
ほっぽちゃんとレ級が、長門と武蔵を豆を投げつけながら追い立てている。
駆逐艦娘たちに大量の豆を投げつけられながら、回避演習と称して猛烈な反撃に転じた鬼役の神通。
第五戦隊の面々が、沖ノ島沖から遊びに来た重巡リ級3姉妹と壮絶な豆砲撃戦を繰り広げている。
まあ、本当の節分は中大破するまで全力で豆をぶつけ合う行事ではないはずだが……多少のアレンジはご愛嬌だ。
宴会に出される料理も、節分に合ったものが多く出された。
こんにゃくの甘辛煮。
「砂下ろし」や「胃のほうき」などと呼ばれる程、体の毒素を排出して身を清めてくれる、健康食材のこんにゃく。
里芋の煮っ転がし梅肉和え。
甘めに味付けた煮汁に、爽やかな梅の香りが不思議とマッチする。
イワシの生姜煮。
甘辛く炊いて、生姜の風味をピリッと効かせた定番の味。
昔から煙は邪気(鬼)を払うとされ、脂がのっていて煙が出やすいイワシは鬼が嫌うとされている。
そこに魔除けに良いといわれる生姜を加え、さらに棘が鬼の目を刺すという柊の枝を皿に飾る。
それに、豪華な刺身の盛り合わせ。
中トロ、真鯛、カンパチ、ヒラメ、タコ、ウニ。
恵方巻きは、穴子、ズワイ蟹、海老、玉子、きゅうり、椎茸、かんぴょう。
縁を切らないために、無言で一本丸のまま食べ切らなければならないとかいう風習は無視して、普通に一口サイズにカットして提供している。
何より美味しく食べるのが一番という提督のポリシーと、「もともと恵方巻きってのはさぁ、大阪の遊郭で男のアレに見立てて遊女に食べさせたのが……」などというピンク情報を一昨年に隼鷹が流したから丸かじりは止めたのだ。
冬季の大決戦が迫る中、みんなで楽しく盛り上がった一日。
バレンタインのイベントも終われば、いよいよ捷一号作戦の後段作戦が発動される。
雪にも負けず、美味しいものを食べて健康維持に努めましょう。
節分回、遅刻しました。
先週いきなり腹痛に襲われ、ちょっと入院して盲腸を切って本日帰ってきました。
本当はもっと色々な艦娘や深海勢同士の豆ぶつけ合戦を描きたかったんですが……