ネタバレや攻略法を見たくない方は回避して下さい。
いよいよ発動された冬の大規模作戦。
案の定、パラワン水道では敵の潜水艦隊がウヨウヨと待ち伏せしていた。
前路哨戒を厳とすべく、まずは対潜部隊を投入しての潜水艦狩りだ。
「第一遊撃部隊、第一部隊、……第二水雷戦隊。出撃準備、始めてください」
予定通り、旗艦は能代。
決戦を前に鉢巻を巻いてやる気満々だ。
先制対潜の要として、この海域との因縁がなく、後で針路の固定などに影響を及ぼさないであろう、村雨(レイテ沖海戦の前年にコロンバンガラ島沖で戦没)、ヴェールヌイ(レイテ沖海戦の前に台湾沖で触雷、修理中だった)、リベッチオ。
そして、鉢巻を巻いてやる気を出していたので、勢いで浦波も艦隊に加える(浦波は志摩艦隊で別ルートに必要になりそうなので悪手)。
駆逐古鬼が率いる敵の水雷戦隊の接近も報告されているので、用心棒に戦艦も投入。
ガングートを編成に加えることにした。
と、軸になる編成が決まったのだが、先制対潜に必要な装備を海峡警備行動の遠征艦隊が持って行ってしまっていたりで、本格的な攻略が始まったのは昼を過ぎてからという、しまらないスタートとなった。
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「アナタタチ…ハ……。トオ…サナイ……カラ……」
海域の奥で敵の潜水艦群を率いていたのは、やはりというか潜水新棲姫。
複数の艦隊によって結界を張り、主力艦隊を潜み隠れさせるという、ここ最近の深海勢の定番戦術に少してこずったが、ようやく結界を解呪して居場所を見つけ出した。
もうね、対潜作戦なのに軽巡洋艦娘がいると辿り着けない地点に結界を解く鍵があるとか、盲点もいいところでしたよ。
だが、居場所さえ分かれば後は制圧するのは簡単。
とどめの艦隊を出撃させ、提督は頑張る艦娘たちのために、おやつ作りを開始した。
よくふるった強力粉に、牛乳、溶き卵、バター、塩を混ぜ、よく捏ねて冷蔵庫(外気温より温かい)で寝かせておいた弾力のある生地。
この生地に打ち粉をふって薄くのばし、円形にくり抜いて皮を作っていく。
シベリア風水餃子、ペリメニを作るのだ。
牛の挽き肉に塩こしょうし、玉ねぎのみじん切りとおろしニンニクを加え、粘りが出るまでよく混ぜ合わせて、先ほどの皮に包んでいく。
アダムスキー型UFOのような、真ん中が膨らんだ形にするとそれらしい。
艦隊が帰ってくる時間を見計らって鍋にお湯を沸かし、すぐに熱々のペリメニを出せるように準備する。
鍋には塩をひとつかみ振り、ローリエの葉を一枚放り込んでおくのが味に深みを出すコツだ。
「提督。艦隊が帰投しました! パラワン水道、制圧完了です!」
「やったー!! リベが一番だって? うひひ~♪ 提督さん、褒めてよー! うんうん!褒めてー!!」
と、お湯が沸騰しはじめたドンピシャのタイミングで、艦隊が庁舎に戻ってきた。
「すぐに温かいおやつを出してあげるから、手を洗ってきなさい」
深刻な損傷を受けている艦娘がいないのを確認し、提督が促す。
「よし、同志ちっこいのたち! 手を洗いに行くぞ!」
「Ура!」
「はいは~い」
「浦波、了解です!」
昨年の5月に鎮守府に合流したばかりのガングートだが、秋には裏山でのキノコ狩りの引率をしてくれたり、すっかり子供たちの人気者だ。
用意しておいたペリメニを、沸騰した湯の中に投入して茹で始める。
茹で上がったペリメニは浮かんでくるので、湯きりですくい上げて手早く皿に盛り、溶かしバターとサワークリームのソースをかけて、刻んだ生パセリを散らしたら完成。
「ん、ペリメニかっ! さすが、我がмилый」
手を洗い、キッチンに戻ってきたガングートに褒められる。
милыйとは、ロシア語のダーリンとかハニーみたいな意味で……はい、ガングートとも先日ケッコンして、新婚ホヤホヤです。
「いただきまーす! Grazie!」
「司令官、美味しいです」
「いい感じ、いい感じ。村雨、ちょっと感激」
熱々でプリプリモチモチの皮を噛み切ると、芳醇なバターの風味とともに、口の中にジュワッと広がる濃厚どっしりな肉の旨味。
だが、サワークリームの爽やかな酸味が重さを感じさせず、続けてチュルチュルと食べられる。
「これはいいペリメニだ」
ヴェールヌイこと、響もその味を噛みしめながら、そっと瞳を閉じる。
かつて自分に乗っていた、ソビエト軍人たちの記憶を思い起こしているのだろうか。
「貴様、特別に私が食べさせてやる。感謝しろ」
言い方はきついが、要するにガングートが「アーン」して食べさせてくれる。
はい、新婚ホヤホヤの甘々です。
「えーと……能代、浦波、こういう食べ方もあるよ」
照れ隠しに、裏ワザっぽくペリメニに酢醤油を垂らして、和風でいただく方法を披露する。
もとは餃子と起源を同じくするモンゴルあたりが発祥の料理らしいので、無理なく日本の味にもってこれる。
「これ、阿賀野姉ぇにも作ってあげ……られる自信はないんで、提督……お願いできます?」
もとは漁協の管理事務所だった、この鎮守府庁舎。
今いるここのキッチンは、目の前の湾で貝や海藻を養殖している漁師さんたちが集まり、昼食をちょいと準備して茶飲み話をしていた、共同炊事場だった。
古めかしく、かといって昭和レトロなんてプレミアもつかない、ただただボロいキッチン。
緑のビニール表皮が張られた(そして一部破れて黄色いスポンジがはみ出している)パイプ足の丸椅子とか、もう貧乏ったらしいとしか言いようがない。
それでも……。
「そういえば、冷蔵庫にスモークサーモンがあったな? 祝杯にウォッカを開けよう」
「Хорошо(ハラショー)!」
鎮守府業務の合間に、ここで家族と過ごす団欒の時間。
すごく幸福な宝物です。