ネタバレを見たくない方は回避して下さい。
高知県の西南端に位置する宿毛湾。
湾内に浮かぶ小島の周囲に、二百を優に超える多数の艦娘たちが集まっている。
今日は全国から多くの鎮守府が参加する、合同演習会が開かれていた。
「あれ、チビの数が足りない!? 鹿島、点呼もう一回!」
「は、はいっ」
オルモックに増援部隊を送りこむ輸送作戦「多号作戦改」を成功させ、残敵と増援もことごとく撃破した、我らが鎮守府からも実に25人もの艦娘が参加しているが、引率役の北上と鹿島は大忙し。
戦艦は、リシュリュー、ガングート。
空母は、アーク・ロイヤル、大鷹(元春日丸)、新人のガンビア・ベイ。
潜水艦は、伊400、伊504(元ルイージ・トレッリ)。
補給艦は、神威。
駆逐艦は、旗風、天霧、狭霧、涼月、そして新人の3人、ジャーヴィス、浜波、タシュケント。
海防艦たちの数も多く、占守、国後、択捉、松輪、佐渡、対馬、それに新人の日振と大……。
「ああっ、いないの大東だ!」
「よーし、えと、まつ、探しにいこうぜっ!」
「佐渡ちゃんたちはじっとしてて!」
まだ雛祭りを体験していない着任1年未満の新人たちを飾り付けの準備中、合同演習に連れ出しておくように言われた北上と鹿島だが、チョロチョロ動き回るクソガキどもに振り回されっぱなしだ。
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北上が艦娘たちで大混雑する海域を走り回り、涙目で迷子になっていた大東を保護した。
「ったく、自分たちの旗は、ちゃんと覚えとかなきゃダメっしょ」
各鎮守府はそれぞれの地元の大名や武将などに由来した軍旗を、集合場所の目印として浮標の上に立てている。
ここの鎮守府の場合は「南部鶴」。
丸の中に翼を広げた
大東は、競い合うようにはためく各鎮守府の旗に見とれて見物しているうちに、帰る場所と自分たちの鎮守府の旗が分からなくなってしまったのだ。
「お、覚えてたつもりだったんだよぉ」
北上に手を引かれながら、涙声で大東が言い返す。
だが、大東が見覚えがあると思った旗の下に行ってみると、それは直江津鎮守府の「竹に二羽飛び雀」で、当然知らない艦娘たちがいた。
「
似た紋を使っている鎮守府は多いので、慣れるまで識別はやっかいだ。
丸の中に、丸と途切れて三本の極太横線が引かれた「三浦三つ引両」は、かつて三浦半島を支配した三浦氏の紋で、横須賀鎮守府。
丸の中に、丸と一体化して二本の中太横線が引かれた「丸に二つ引両」は、房総の雄・里見氏の紋で、木更津鎮守府。
黒丸の中に白で二本の線が引かれた「足利二つ引両」は、海道一の弓取りと謳われた今川義元も用いた足利氏の紋で、清水鎮守府。
北上が周りの鎮守府の旗を説明する。
「演習で目立つ、強いとことかの旗は自然と覚えるけどね。あれは瀬戸内海の村上水軍の旗「丸の内に上の字」、呉鎮守府のだよ」
その旗の下には、錬度が極限に達しているであろう、ただ佇んでいるだけで強さが溢れ出す、呉の赤城がいた。
「あっちは松浦水軍の「三つ星」。佐世保鎮守府」
その旗の下には「ゴゴゴゴゴ」と擬音が浮かび上がりそうなド迫力の佐世保の武蔵。
まだ練習航海しか体験していない錬度1の大東は、そんな赤城や武蔵の凄まじいオーラにブルッと震える。
そして、大東は頼もしい北上の手を握り直し……。
「あ、あのさ……迷子になったこと、提督には内緒だぜ?」
「はいはい。泣いてたことも内緒にしといたげるよ」
「泣いてないって!」
「何だよぉ、イタイってば……お、天草じゃん」
ポカポカと叩いてくる大東の抗議にくすぐったげに笑う北上が、今日の演習で対戦する天草鎮守府の旗を見つけた。
京都東山にある八坂神社のお守りを基に図案化したという「
よく見ると紋の中に巧みに十字架が隠されている、禁教令後の小西行長の家紋だ。
大東に離れて少し待つように言うと、北上は天草鎮守府の艦隊に近づき、相手旗艦の霧島に話しかけていく。
「最初は強く当たって流れでお願いします」
「対空はなしで、爆撃するだけ爆撃させて装甲で受け止めて最終的には右に回って同航戦から弾着射撃あたりがベストだと思いますよ」
などと怪しげなヒソヒソ話が交わされる。
鎮守府の闇は深い……。
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鎮守府では雛祭りの飾り付けと、料理の準備がすすめられている。
普段は見た目より味重視で、料理の飾り気も少ないこの鎮守府だが、今日ばかりは特別。
女の子のお祭りを祝うために、華やかに、鮮やかに、そして可愛らしく。
陸奥は、新人の子達に着せる振袖の支度中。
戦艦棲鬼たちに拉致されてきた潜水新棲姫は、一足先に北方棲姫と一緒にお着替え中。
深海棲艦たちとは、ここの鎮守府だけ勝手に休戦。
先日、サマール沖東方で激戦を繰り広げたばかりの、水母棲姫、戦艦水鬼、空母水鬼も今日はお客様。
お内裏様に扮した長門と、お雛様に扮した陸奥、2人の親玉飾り(一段飾り)から始まった等身大雛人形。
お内裏様とお雛様が、それぞれ武蔵と大和に代わってからも、三段、五段、七段とエスカレートし、ついに今年は終着点の八段飾りに到達した(大宴会場の天井は、妖精さんたちが一時的に空間を歪めて高くしてくれているが、もう今年の高さが限界です)。
川内型三姉妹による三人官女。
向かって左から、川内、那珂、神通。
それぞれが、急須に似た|提子、盃を載せた島台、長い柄がつい銚子と、祝い酒を注ぐ縁起物の酒器を携えている。
ちなみに、三人官女の中央は最年長で、唯一の既婚者という設定なのだが……。
「那珂ちゃん、センターは好きでもここは嫌っ!」
「仕方ないね、それなら長女のあたしが!」
「いえ、ここは華の二水戦旗艦の私が!」
「じゃあ、那珂ちゃんが……」
「「どうぞどうぞ」」
というのが、毎年恒例のネタになっている。
五人囃子は、世代交代が見られる潜水艦娘たち。
向かって左から、太鼓のニム、
今年の
黒の
紅の闕腋の袍を纏った、若く勇ましい右近衛少将は、アイオワ。
その下の雑用係の3人、大和の日傘や15m二重測距儀、150cm探照灯を持たされた
この仕丁たちは、平安時代の律令により、50戸につき2人を中央での労働に駆り出す、力役という税によって働かされている者たちで、当然ながら一般庶民。
そのため、3人の顔はそれぞれ、怒り顔、泣き顔、笑い顔と喜怒哀楽に富んでいる。
記念撮影では、どれだけ表情を豊かに作れるかがミソ。
卯月が弥生を連れてきて、笑い顔を作らせようとしているが……どう見ても怒り顔になっている。
楽しい楽しい雛祭り。
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提督もデザート作りの仕上げを手伝い、菱餅カラーのカップケーキに、苺と生クリーム、花の形の砂糖菓子、お内裏様とお雛様が描かれたチョコレートをのせていく。
さあ、合同演習から帰ってきたら、みんなは驚いて……そして喜んでくれるかな。
提督はニヤけながら、一つ一つのケーキを丁寧にデコレーションしていくのだった。
作中のように全新艦の掘りが完了しましたので、E-7は乙にしてみます。
【2018.3.7 ちょっと加筆しました】