ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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那珂と春を告げる畑の昼食

 

3月に入り、週に2、3日は最高気温が10℃を超える日が出てきた、この地方。

2月後半に降った大雪の雪解けがすすむ一方、県内各所で道路の破損が大量に報告されていた。

 

水は、凍れば体積が膨張し、融ければ体積が元に戻る。

そんな当然の自然現象が、アスファルト内に染み込んだ水分に起きることにより、アスファルトは膨張と伸縮を繰り返して劣化していく。

 

そこを車が走ると、ゆるんだアスファルトに亀裂が入り、さらに水が染み込みやすくなり……。

 

特に今冬は寒暖差が激しく、大雪と雪解けとを何度も急激に繰り返したことで、道路の破損が例年にない異常な速さですすんだ。

 

「……ドライバーの皆さんは運転に十分注意し、破損箇所を発見したら県の土木……」

 

寝間着代わりのユ○クロのスウェットの上に綿入り袢纏(はんてん)を着込み、足元を毛糸の長靴下で武装した那智が、熱い番茶をすすりながら、「フム、私も気をつけよう」などと大食堂に流れている地元テレビ局のニュース番組相手にうなずく。

 

「その葉の形が、禅宗の開祖である達磨大使の姿に似ていることから……」

「あ、ザゼンソウですね」

 

隣では、フリース裏地の冬用ジャージ(もちろん学校……もとい鎮守府指定の臙脂(えんじ)色に白ライン)姿の足柄と羽黒が、頭を寄せ合ってクロスワードパズルを解いている。

 

「那智、今夜は第七次祝勝会やるぜ~」

「ぱんぱかぱーん! 蔵元さんから戦勝のお祝いに、南部美人の大吟醸が届いたわよ~♪」

「そうか……今夜ばかりは飲ませてもらおう!」

 

冬の大決戦は終えたものの、まだまだ冬の寒さに包まれた、北の辺境鎮守府。

すっかり緊張が抜けた艦娘たちは、寮に引きこもったまま、連日連夜の祝勝会を続けていた。

 

 

第十次まで続いた祝勝会は一段落したが……。

提督は執務室を和室に改装して執務を大淀に丸投げし、寝間着姿のまま高雄に甘えて膝枕をしてもらっている。

 

要するに「ダメな大人」の姿を晒していた。

 

提督に代わって文机で執務をとる大淀も、提督のリクエストでバニーガール姿になっている。

 

他にも、翔鶴、プリンツ・オイゲン、夕雲、港湾棲姫が、膝枕の順番待ちをしながら、コタツでデコポンを食べている。

 

ちなみに、「デコポン」は熊本県果実農業協同組合連合会が商標登録している柑橘類の名称であり、頭の部分が出っ張っている品種「不知火」等のうち、連合会の定めた基準(糖度13度以上、クエン酸1%以下など)を満たす高品質のものだけが「デコポン」の名前で流通している。

 

「入るわよ……って、もう! いつまでも甘やかしてんじゃないわよ!」

 

遠征の報告に執務室に入ってきて、クズ提督にダダ甘対応をしている仲間たち+αにキレる霞だが……。

 

「霞ちゃん、提督に膝枕してあげたいなら順番制ですよ。整理券いりますか?」

「しないったら! あんたもバカな恰好してんじゃないわよ!」

 

眼鏡をクイッと持ち上げて余計なことを言うバニ淀に、さらに霞がキレる。

提督を高雄から引きはがし、「もう昼なんだから服ぐらい着がえなさいよ!」とお尻を蹴るが、提督は畳の上でグダグダしたままだ。

 

もう少し気温が上がって畑が本格稼働するまで、提督はだらけ続けていたいようだったが……この後、永世秘書艦の叢雲さんに、こっぴどく叱られました。

 

 

朝早くから、エンジ色の体操ジャージにピンクのヤッケ、足元はゴム長靴姿の那珂が、鎮守府の畑で(うね)づくりの下準備をしている。

 

朝晩は零下の冷え込みだが、ワークマンで買った高性能なヤッケとインナーウェアが、冷たい風を防ぎつつ、汗ムレのない快適な作業をさせてくれている。

 

(余談だが、ここの鎮守府の家族はみんな、ユ○クロとともにワークマンが大好きだ。)

 

レディース用のゴム長靴の内側に、さりげなく小花の柄を入れてくれるサービス心を持ちながら、お値段1280円。

農園帽や腕カバーなど、農家の女性の定番商品にも多くのカラーを用意してくれているし、女性用軍手も1ダース426円とお買い得だ。

 

 

さて……。

 

厳冬期に掘り起こして凍結乾燥させておき、冬季作戦中に何とか時間を作って石灰をまいた畑に、先週、堆肥、腐葉土などの有機物を混ぜ込んでよく耕した。

 

そして畝を立てるのは、今年の畑の設計図に従って、決められた場所に。

 

同じ土で、同じ種類や近い種類の作物ばかりを続けて育て続けると、土の中から特定の栄養素だけが失われてバランスが崩れたり、その種に特有の病害虫が増殖したりする。

 

そうした連作障害を避けるために、毎年新しく畑の設計図を作り、作物の場所をズラしてローテーションさせている。

 

那珂たち第四水雷戦隊が今年挑戦するのは、アブラナ科のカラシナ、タカナ、ブロッコリー、チンゲンサイ、マメ科のエンドウマメ、ウリ科のズッキーニ、昨年に続いてユリ科の長ネギだ。

 

今日の準備は、アブラナ科の植物を植える区画の縄張り。

その中でも、来週にでも種まきの予定でいる、カラシナ用の畝の場所から決めていく。

 

設計図を参照し、区画の基準点の標識からメジャーで距離を測りながら、カラシナの成長に必要な栽培スペース、一列60cmずつ、列ごとに30cmの間隔を開けながら、予定の列分の縄を張る。

 

続けて、すでにポッドに種をまいて倉庫に保管してあるブロッコリー用の列、5月に種をまくチンゲンサイ用の列、初夏に種をまくタカナ用の列……と縄を張っていく。

 

この一帯、昨年は初挑戦の長ネギ栽培に使っていた思い出の場所だ。

 

そこから作業路を兼ねた60cmの間隔を開けると、神通の第二水雷戦隊が育てる同じアブラナ科のミズナの予定地に、設計図通りにぶつかることを確認し、縄張り作業は完了。

 

明日は配下の駆逐艦娘たちを何人か連れてきて、ここをもう一度耕し、畝を立てていく段取りだ。

 

 

作業が早く終わったので、川内や夕張たち第三水雷戦隊がやっている、ソラマメ用の支柱立てを手伝いに行く。

自分たちもエンドウマメ用に同じ作業をすることになるので、その勉強も兼ねてだ。

 

ソラマメは、漢字では「空豆」や「蚕豆」と書く。

(さや)が天を向いて実るから、(かいこ)が繭を作る時期に美味しくなるから、などと言われる……。

 

という夕張のウンチク話を聞きながら支柱立てを終え、お待ちかねの昼食タイム。

 

 

香ばしく、甘く焼き上がった、(さわら)の田楽味噌焼き。

 

サクフワの揚げたてで、この季節ならではの甘みが舌に嬉しい、桜えびと新玉ねぎのかきあげ。

 

よく味が染みた若竹の煮物に、菜の花のからし和え。

 

春めいたおかずの数々を受け止めるのは、ひじきの炊き込みご飯と、絹さやと玉子のお吸い物。

 

まだ目覚め始めたばかりの北の大地の匂いに包まれながら、一足早く旬の食材を頬張る贅沢さ。

 

と、那珂は昼食の準備時にはいた、提督の姿が見えないのに気がついた。

 

「あれ、提督は?」

 

と近くにいた吹雪に尋ねてみると……。

 

顔を赤らめて言いにくそうにしながら、「モンペ姿の古鷹さんを見た途端、何だか興奮してハイエースのほうに連れて行っちゃいました」との返答。

 

古鷹の昭和レトロな野良着姿が、何やら提督の琴線に触れたらしい……。

 

「うん、春だねえ」

 

この地方の長かった冬も、終わろうとしています。

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