「おれは御城プロジェクトをお試しプレイしたと思ったら
いつのまにか一週間が過ぎていた」
な…何を言っているのか、わからねーと思うが(ry
いよいよ桜のつぼみも開き始めた、この辺境の地。
提督は執務室で段ボールをカッターで、幅5cm、長さ50cmに細長く切り、それをガムテープで格子状に組み上げて、お花見用の使い捨て座布団を製作していた。
「提督、その作業は後にしませんか?」
「提督さん、止めておいた方がいいと思いますよ。ねっ?」
座布団作りに没頭する提督に、大淀と由良が声をかける。
というのも、執務室には入渠待ちの駆逐艦娘たち、浦風、磯風、浜風、谷風、暁、山風、江風が、中大破した半裸の状態でいるのだ。
そこに、カッターとガムテープを持ち、作業着に軍手、防塵マスクをした提督……。
絵面の組み合わせが非常に悪く、通報待ったなしの事案発生中にしか見えない。
鎮守府では現在、新任務『精鋭駆逐隊、獅子奮迅!』のために、数度目のキス島撤退作戦に挑んでいる。
定期的にキスカ島撤退作戦の成功を疑似再現することで、霊的に何やかんやの効力があるらしいが……できれば二度と関わりたくない海域の最右翼が、このキス島沖。
何しろ、ここの提督には羅針盤運が全くない。
ただでさえ、駆逐艦娘しか編成に加えられない(旗艦にのみ軽巡洋艦娘も可)のに、敵には戦艦ル級が出現して大破撤退が頻発するこの海域だが、それ以上の難敵が海域全体に立ち込める、呪いを帯びた濃霧。
何とか敵の攻撃をかいくぐっても、羅針盤が安定しないことこの上なく、全く敵主力にたどり着けないでいた。
現実逃避のため、提督は段ボール座布団作りに没頭しているのだが……。
「同志提督、艦隊、戻ったよ。ふぅ! ……同志提督だよね?」
「ごめん、リ級の魚雷を避けそこね……って、何なのよ、この変質者は」
タシュケントと、大破した霞が出撃から戻ってきて……。
背後にいる大量の半裸の少女たちとの組み合わせから、悪質な性犯罪者にしか見えない提督の姿を見て顔をしかめる。
「ごめんね、お風呂(入渠)は満員だから、しばらく待ってて」
再びダンボールを補強しようと、ガムテープをビリビリする提督だが、霞に「余所でやんなさいよっ!」と蹴とばされました。
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「えー、みんなの頑張りのおかげで、今回のキス島撤退作戦……第三十二次出撃をもって成功しました。ありがとう」
ようやく作戦を終了させての夕飯の席。
疲れ切った提督の挨拶に全然熱がこもっていないのを責めるのは、可哀想というものだろう。
駆逐艦娘たちもほとんど全員が出撃に参加して疲れていたし、他の艦娘たちも本格シーズンに入った畑仕事に精を出していたので、お腹が空いている。
余計な挨拶より、早くご飯にありつきたいとみんなが思っているので、提督の味気ない挨拶にも特に不満の声は出なかった。
食堂に漂っているのは、香ばしい鯛めしの香り。
産卵期を迎え、綺麗に色づいた愛媛の桜鯛を一尾丸ごと焼き、土鍋で米とともに昆布だしで丁寧に炊き上げた、松山風の絶品「鯛めし」だ。
神功皇后が朝鮮出陣(西暦200年頃)の途上、戦勝祈願のために立ち寄った鹿島明神で、地元の漁師から献上された鯛料理が起源だという鯛めし。
桜鯛の上品な風味と優しい旨味が染み込んだ、ふっくらホクホクのご飯。
一口食べれば、自然に笑顔が浮かぶ至福の味。
めかぶの酢の物、ブロッコリーの甘酢漬け、きんぴらごぼう、こんにゃく煮、枝豆入りのさつま揚げ、そら豆とたらの芽の天ぷら、たこの竜田揚げ、車海老の塩焼き、厚焼き玉子、ふきのとう味噌。
主役の鯛めしを邪魔せず引き立てるように、薄味に調理されたおかずたち。
そんな中で、春の息吹を感じさせる、たらの芽の天ぷらや、ふきのとう味噌のほろ苦さ。
どうしても祝杯を上げたい呑兵衛たちのために、愛媛の地酒『石槌』も用意してある。
とにかく、これで一仕事完了。
安心してお花見に挑めそうです。