ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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梅雨入りと間宮のおもてなし

春のイベントで食材を回収しつつも田植えを済ませ、衣替えを終えたこの鎮守府。

つい先日、この地方にも梅雨入り宣言が出された。

 

まだ雨は降り出していないが、曇り空が広がっている。

 

間宮と伊良湖は今のうちとばかりに、倉庫に仕舞い込むコタツ布団をフル回転で洗濯し、干しまくっている。

 

毎年、コタツを撤去しようとする大淀・叢雲ら管理派閥と、その他の艦娘たち(主に海外艦娘たち)との攻防があるが、今年の抵抗運動は一味違った。

 

「コタツ死守闘争、断固完遂!」

 

ガングートとタシュケントの部屋の抵抗は、昨年までのコタツにしがみついて駄々をこねるだけの、ビスマルクやイタリア、南方棲戦姫の抵抗とは迫力が違った。

 

新人の大東やサミュエル・B・ロバーツ、ガンビア・ベイ(巻き込まれて涙目)、おまけに集積地棲姫と潜水新棲姫、同志ちっこいのまで引き込み、自室の前にバリケードを張って、完全に立て篭もったのだ。

 

たまりかねた長門や叢雲、アイオワ(『世界の警察』の腕章付き)、戦艦水姫らが、強行突入を主張して提督に決済を求めたが……。

 

「うーん……まだ寒い日もあるからねぇ……。ガングートの言い分も分かるし、実力行使は認めないから、みんなで説得してごらん」

 

ぬくぬくとコタツに入りながら、他人事のように言う提督。

 

「提督よ! そんなことで、艦隊の秩序が保てると思うのか!」

「アンタ…っ、酸素魚雷を食らわせるわよ!?」

「RedやTerroristの要求を聞いちゃNo! If you give a mouse a cookie, he's gonna wanna glass of milk!」

「ヤクニタタヌ…イマイマシイ……テイトクメッ!!」

 

艦娘たち(+α)に更なる不満をぶつけられても、むしろ艦娘たちの動揺を愉しむかのように、素知らぬ顔でお茶をすすっていた提督だが……誰かに強引にコタツから引っ張り出された。

 

「では、提督? ガングートさんたちに、今コタツを撤去する理由を述べて、説得すればいいんですね?」

 

その意外な人物の言葉に、一瞬で顔面蒼白になり「アッ、ハイ」と頷く提督。

 

そして……。

 

ガングートたちの部屋を訪れた間宮。

 

その背後に、ゴオオオオオッと怒りのオーラが見えて、ガングートたちも (ll゚д゚ll) な顔になった。

 

「今のうちにコタツを仕舞わないで、長雨が降ってきたらどうするんです?」

「雨が降れば寒くなる日もある! それこそコタツが必要ではないか! これはプロレタリアートの当然の権利であって……」

 

震えながらも、間宮に反論するガングート。

 

「雨の日に、洗濯物が乾くと思いますか?」

「え、いや……それは別の話……」

 

「仕舞う前の大量のコタツ布団の洗濯は誰がするんですかねえ?」

「ごめんなさい!」

 

「それから日向さん、榛名さん! いつまで表の瑞雲や飛び降り台を飾っておくんですか!? 洗濯物を干すのに、邪魔なんですけど?」

「う、うむ。すぐに撤去する」

「はひっ!」

 

流れ弾が飛んできた日向と榛名も、慌てて瑞雲祭りを終わらせに駆け出した。

 

こうして、鎮守府のコタツ(及び瑞雲)の撤去は6月13日に断固として行われ、ガングートらは牛殺し(デコピン)の刑に処されたのだった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

提督は、間宮と伊良湖の私室にお呼ばれした。

 

元温泉旅館の住み込みの従業員用の部屋なのだが、掃除が行き届いた清楚な六畳の和室とトイレだけを残し、後は全てが台所とその付帯設備に改修されている。

 

今日は食堂もお休みで、鳳翔さんの居酒屋や、艦娘たちが自発的に開く屋台などが鎮守府の胃袋を支えている。

 

とりあえず卓袱台の前の座布団に座ると、伊良湖がビールを出してくれた。

 

幻想上の生物を商標にした定番の瓶ビールと、グラスが程よく冷えている。

付き出しは手長海老の串焼きに粉山椒をふったもの。

 

香ばしく焼けた海老と粉山椒のピリッとした組み合わせが、ビールの苦味によく合う。

 

続けて、雲丹(うに)が入っているのだろう、オレンジがかった饅頭と、じゅんさいの入った椀物。

椀物に入っていた饅頭の中身はやはり雲丹で、チュルンとしたじゅんさいの爽やかさの裏で、豊かな磯の風味が口に広がる。

 

こうなると、日本酒が欲しくなる。

 

お燗を頼めば、秋田の「雪の茅舎(ぼうしゃ)」が出てきて文句のつけようがない。

 

マグロの中トロ、イサキ、イワシ、タコ、青柳(あおやぎ)のお刺身も美しく盛りつけられている。

 

青柳は正式名称を「バカ貝」と言い(もっと正確に言うと、関東で寿司ネタにする「舌」の部分だけを青柳と呼ぶのが正しいらしいが)、調理が難しくて腕の差が出やすく、クセもあって好き嫌いが分かれる貝だ。

 

青柳という名前は、江戸時代にバカ貝の集荷場だった、現在の千葉県市原市の青柳村からついたという。

そんな青柳の刺身がまた、ツルリとした食感と甘みがあって絶品だった。

 

この時期のイワシも脂がのって美味しいし、中トロも冷凍ものとはいえ、この鎮守府の仕入れの眼鏡にかなっただけあって、味がしっかりしている。

 

卓上のものを食べ尽くしかけ、ほんのりと良い心地に酔いが回ったところで……。

 

伊良湖が、続く料理を持ってきてくれた。

 

鶏と人参、椎茸、いんげんの煮物。

梅肉と大葉をキスで包み揚げた天ぷら。

 

「それでは……曙ちゃんと潮ちゃんと、屋台を回る約束をしているので。少し出てきますね」

 

エプロンを外して、伊良湖がそそくさと外出していく。

 

「はい、提督。どうぞ」

 

と、間宮がお酒の追加を持ってきて、お酌してくれる。

 

「うーん、コタツがないと、やっぱり少し寒いなぁ」

 

ちょっと恨みがましそうに言う提督に、間宮がそっと寄り添った。

 

「こうすれば……寒くないですよ?」

 

パラパラと、雨が窓を叩き始めた。

 

梅雨もいいものかもしれません。




春イベントで最後の最後で欲をかき、カタパルト3枚目入手のため寝不足の日々を過ごしましたが、駆け込みで何とかGETしました

それから挿絵用にMMDに手を出してみました
まだ使い方ほとんど飲み込めてませんが……

○お借りした素材
閑杉さま「間宮ver1.20」
KEITELさま「普通の撮影ポーズ2」
怪獣対若大将Pさま「防波堤」「雲が多い青空 Z3」

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