ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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夏の始めの堤防釣り

キラキラと陽光が輝き、抜けるような青空に、白い雲が大きく盛り上がっている。

沖合には、鎮守府のレストア漁船『ぷかぷか丸』が浮いていた。

 

夏です!

 

提督は鎮守府前の防波堤で、駆逐艦娘の浜波と、海防艦の福江(ふかえ)とともに釣り糸を垂れていた。

 

特に対象を選ばない、ちょい投げ釣り。

2~3m程の長さの竿を使い、虫エサをつけて近場に投げ込むだけのお手軽な釣りで、ハゼやキス、カサゴ、メゴチ、コッパ(スズキの幼魚)あたりが釣れる。

 

そんな釣りの様子を、私服や体操着姿のガンビア・ベイ、天龍、白露、択捉など数人の艦娘たちが、かき氷を食べつつボンヤリと眺めていた。

 

実は全員、入渠待ち。

 

 

いつもは珊瑚諸島沖(5-2)に棲んでいて、南西海域沖ノ島沖(2-5)の北ルート(夜戦エリア)に出張してくる重巡リ級flagship。

先日の七夕パーティーの夜に提督がキラ付けしたせいで、彼女が今月は鬼のような強さを発揮し、第五戦隊任務と水上反撃部隊任務で大破撤退を量産してくれた。

 

それから、東方海域リランカ島(4-4)に棲んでいる戦艦タ級flagship姉妹。

港湾棲姫と戦いに(4-5)行こうとすると道中で邪魔をし(時には2回も)、リランカ島の前方(5-1)で潜水艦を狩ろうとした時まで前衛部隊に混じってくる、あの一発大破が得意な仕事熱心なセーラーパンツ姉妹。

 

あの姉妹、北方AL海域(3-5)の増援(こちらも時には2回)に出向いたり、南方海域(レ級が仕切っているサーモン海域北方を除く)全域で空母や輸送艦の護衛をしたり、中部海域で駆逐棲姫を守っていたり、もう仕事熱心すぎて涙が出てくる。

 

それから、鎮守府近海を荒らしに来る潜水ヨ級flagshipと潜水カ級flagshipと、中部北海域ピーコック島沖に棲む潜水ソ級flagship。

今月はキラキラと爆雷を避けまくるので、反撃がすごく痛い。

 

それに比べたら、カレー洋の奥にデデンと鎮座するだけで、滅多に動かない戦艦ル級flagshipのキラキラなど些細な問題だろう(確実に中大破を発生させてくるワンパンマンだが、まあボス戦なので我慢……)。

 

当然、ほっぽちゃんは大はしゃぎだし、港湾さんもすごくキラキラしていた。

 

さらに白露改二の記念任務で向かったサーモン海域北方。

戦艦レ級の無双っぷりはもう諦めるとして(でも、一戦闘で3人大破させるのとか勘弁してください)、その友達の雷巡チ級flagshipが攻撃を避けまくって雷撃戦まで生き残っているのも地味にキツかった。

 

この後、同じく白露改二記念任務でKW環礁沖(6-5)……空母棲姫の所にも行かなければならないのだが……。

 

もう高速修復材(バケツ)の余裕がなく、入渠と泊地修理待ちの列は30人に達している。

 

しばらく作戦は中止して、今日は新人の子たちを相手に海釣り教室です(釣りも囲碁と将棋と同じで、艦娘たちの腕前はすぐに万年ヘッポコ釣り師の提督を追い抜いていくので、提督が得意げに教えられる相手は新人しかいない)。

 

紺のポロシャツに白の七分丈ジーンズ、足元はビーチサンダルと、提督の服装も完全にオフ仕様だ。

 

 

堤防などから20~30メートルまでの比較的近場を狙う、ちょい投げに使う竿は極端な専用竿でなければ何でもいいが、初心者や女性、子供には短いものがおすすめ。

 

提督が今日、浜波と福江に持たせているのも、シマノのホリデーパック20-240という、2m40cmの船竿だ。

 

ちょいと投げて錘が海底に到達したら、海底の様子を探りながら仕掛けを引き寄せてくる。

砂地の起伏がある場所など、魚の溜まりそうなところで竿を止め、餌をユラユラさせていれば……。

 

浜波の持つ竿がブルブルッと震え、竿先がククッとしなった。

 

「あ……あの、これ……」

「うん、食ってるね。もう少し待って……よし、竿を立てて……」

「あっ……きゃっ!?」

 

提督がアドバイスしかけた瞬間、浜波の手が思い切り竿に引っ張られた。

 

「天龍、タモを取って!」

 

慌てて浜波の竿に手を添え、ヘルプを求める提督。

 

おそらく、浜波が釣ろうとした小魚に、何か別の大物が針ごと喰い付いたのだ。

 

タモ網、魚を取り込むための柄の付いた網を持って、天龍が駆け付けてくる。

釣り始める前に最初にタモを用意しておく習慣がないあたりが、提督のヘボさを物語っている(だってヘボにはタモが必要な大型魚なんて滅多に釣れないんだもん)。

 

「一気に寄せようとしたり、水から引き上げて浮力がなくなったら、この糸じゃ切れちゃうから。無理せず、ゆっくり岸に近づけて……タモに入れるんだよ」

 

それから、しばらく悪戦苦闘。

 

釣れたのは40cmほどのヒラメ。

 

産卵後で身が痩せていたので、急いで針を外して逃がしてあげた。

幸い針が小物用だったため、あまりダメージを受けていなかったようで、元気に逃げて行った。

 

 

みんな(外道である毒持ちのゴンズイしか釣ってない提督を除いて)、それなりの釣果をあげているし、福江は小型ながらアイナメも釣り上げた。

 

「ヘチ釣りっていって、こうやって足元の岸壁ギリギリを狙っても意外と釣れるんだよ」

 

最後に、提督が違う釣り方を紹介しようと足元に釣り糸を垂らすと、すぐに強い引きが。

 

「ほら、ねっ? あ……」

 

釣り上げたのは、外道中の外道であるクサフグ。

背後から天龍の大きなため息が聞こえた。

 

プクーッと膨らんでいるクサフグちゃんを海に帰して……。

 

 

さあ、ご飯の時間だ!

 

ゴンズイとクサフグを釣り上げただけの提督としては、ここで甲斐性を見せるしかない。

 

鎮守府庁舎の台所に戻ると、まずカサゴのウロコを取って口からアラを抜き、洗った後で塩をふり少々置く。

 

その間にアイナメ。

アイナメは煮つけると美味いが、そこまでの大きさがないので、頭やアラごとぶつ切りにして、野菜や豆腐とともに煮込んでプチ鍋に。

 

アクを小まめにとらないといけないが、アラや皮まで一緒に煮込むと、すごく濃厚な旨みで出てくる。

この汁だけでも、ご飯が一膳ペロッといけちゃうぐらいだ。

 

鍋のアクをとりながら、ハゼ、キス、メゴチを次々さばいていって天ぷらのタネにする。

 

カサゴを洗って臭みのついた塩を流したら、再度塩をして金串に刺して炭火にかける。

 

炊飯器からご飯の炊ける良い匂いが漂う中、ジュワーッと天ぷらを揚げる音が響く。

 

「浜波、天ぷら用の食器を用意してくれるかい? 福江、ご飯と味噌汁をよそっておいて」

「あ……はいっ」

「司令、了解だ!」

 

浜波と福江の信頼も、若干増したように感じる。

 

浮気者で深海棲艦も次々キラキラさせちゃうし、台所と布団の中以外ではあまり役に立たない無能提督ですが……。

 

小さな艦娘たち相手に、お父さん業も頑張っています!




投稿間隔が空いてしまいました。
活動報告にも書きましたが、先ほど避暑地に遊びに行って熱中症で救急車呼ぶという……今年の暑さは侮れませんね。
皆さまも、お気をつけください。

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