暦の上では、今日から
一足先に秋を感じさせる涼しい風が吹き、朝夕には肌寒ささえ感じる北の大地。
この辺境鎮守府でも、本日夜から開始される初秋作戦に向けての準備が進められていた。
収穫してから風通しの良い日陰に2週間保管し、でんぷんが糖へと変わって甘みがグッと深まった、立派なカボチャ。
「熱っ」
「皮をむくのは由良がやるから、そっちの種を取ってくれる?」
「はーい」
大食堂の厨房で、大量のカボチャの裏ごしをする由良を、
種を取り除き、茹でたら熱いうちに皮をむいて、こし器で丹念にこす。
「卵のカラザはちゃんと取らないとね」
「生クリームを泡立てるのは、これぐらいでいいかしら?」
「ビスケット叩くの面白いっぽい!」
時雨と村雨、夕立もお手伝い。
裏ごししたカボチャに、砂糖、卵、牛乳、クリームチーズ、生クリーム、薄力粉を加えてよく混ぜ、砕いたビスケットとバターを底に敷いた型に流し込んで、オーブンで焼く。
大規模作戦恒例、先行している他の鎮守府から情報を聞き出すためのオミヤゲ作りだ。
阿武隈と、暁たち第六駆逐隊は枝豆をむいて、枝豆のポタージュスープを作っている。
枝豆の香りもさわやかな、この冷製ポタージュスープ。
スラバヤやシンガポール、モルディブなどの熱い海域では人気になるはずだ。
え? 何で次の作戦海域が分かるのか?
ご存知の通り、ここの鎮守府には深海棲艦も大勢出入りしている。
こないだ深海勢がバカンス用の水着を見せびらかしに来た後、提督の執務室の地図に、意味ありげに浮き輪型のマグネットが貼り付けてあったのだ。
作戦海域の下見で買ってきたという、集積地棲姫のおみやげもマンゴーだったし……。
イタリア艦娘たちは、蜂蜜とトマトを使ってジェラートを作っている。
蜂蜜もトマトも、もちろん自家製。
雨と暑さに悩まされたが、艦娘たちの努力で鎮守府の蜂たちに大事はなく、今年もいい蜂蜜がいっぱい採れた。
夏のお日様の力をいっぱいに取り込んだトマトも完熟、濃厚で甘みたっぷりだ。
妙高と羽黒は、今夜の酒宴用のお通し作り。
畑で朝に採れたばかりのシシトウとナスを使い、豚ひき肉とともに中華風の甘辛炒めに。
長良と五十鈴が、サンマの塩焼きに添える大根おろし用に、大量の大根の皮を剥いている。
「おい、提督はどこ行ったんだ?」
酒屋から届いたビールケースを運んできた天龍が、五十鈴に尋ねると……。
「睦月型を連れてホタテ買いに行ったわよ」
鎮守府のあるこの湾では、ホタテの養殖が盛んだ。
中には味と新鮮さにこだわり、一度水揚げしたホタテを手作業で綺麗に掃除してから、カゴに入れていったん海に戻し、生かしたまま出荷待ちをしている養殖者もいる。
もちろん機械で大量に一斉に掃除して死なせてしまったものより美味しいし、市場で買ってくるより新鮮な状態で売ってもらえる。
間引いた小さなホタテ(いわゆるベビーホタテとして流通するもの)も、大量に安く売ってくれるので、天ぷらにしておつまみにできる。
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「か~ら~す~ なぜ鳴くの~ からすは山に~♪」
ホタテが入った青い発泡スチロールの箱を抱え、歌いながら歩く提督と、その後ろをカルガモの親子のような列を作って歩く、睦月型の駆逐艦娘たち。
さあ、いよいよだ。
大本営の都合で1週間延期となった作戦発動。
おかげで月末の稲刈りに支障をきたさぬよう、迅速な作戦遂行が求められることになった。
それでも今回、新たに5人の艦娘との出会いがあるという噂。
北欧生まれの5500tクラス艦娘。
異国の目を持つ、日本育ちの艦娘。
超弩級戦艦娘。
夕雲型の駆逐艦娘。
もちろん今回も全員、家族にお迎えしなければ!
「か~わい~い な~な~つの 子があるからよ~♪」
そう決心しながら、提督は楽しい我が家に向かって歩くのだった。