ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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現在(2018.09)進行中のイベントのお話です。
ネタバレや新艦娘(たいした内容ではありませんが)を見たくない方は回避して下さい。

また、今回は投稿初、具体的な食べ物が出てきません。


【特別編】初秋作戦と社会科見学のお弁当

9月9日未明。

 

東京霞が関の海軍省・軍令部地下に設けられた、海軍中央情報制御所。

通称、大本営。

 

新しい大規模作戦の開始のたび、各鎮守府の情報共有システムの更新作業により、ここは修羅場となる。

 

そもそも、妖精さんに提供された謎のテクノロジーを多用した、異世界間通信システムなどというブラックボックスな代物と、多規格の通信手段(辺境にはパルス回線の黒電話しか連絡手段がないという、ふざけた鎮守府もある)を繋ぐ調整をするのだから、常に不測の事態がつきまとう。

 

海軍大臣としてここにいる横須賀提督にもそれが分かっているから、例え作業に遅れが出て数時間待たされようと、決して不機嫌さを顔に出さないようにしているのだが……。

 

彼女がいるだけで周囲が委縮しているのが、彼女自身にもよく分かって辛い。

 

これまで、多くの政治家や官僚、公務員、政治運動家を、汚職、クーデター、スパイ、密通、テロ等の容疑で、(罪状を公開せず)、処刑、投獄、罷免、左遷、暗殺してきたせいか、どうも周囲から必要以上に恐れられている。

 

軍令部総長が持病のリウマチを悪化させて入院したのも、彼女が毒を盛ったと噂されているようだし……。

 

「問題を発生させておりました不良個所の特定と対処に成功、システムの安定化を確認し次第、【最終準備段階】に入るところであります」

 

進捗を報告しに来た技師も、額に脂汗を浮かばせ、報告書を持つ手を震わせているが……不明瞭な報告に、彼女の感情を押し殺していた端正な顔が少しひきずった。

 

「シ、システム再開放の予定時刻ですが……」

 

このままでは、ガダルカナルでドラム缶を数える仕事に回されるとでも思ったのか、蒼白な顔で技師がさらに付け足そうとした時……。

 

「天草鎮守府より緊急電! さ、最優先指定とのことです。繋ぎます!」

「ね~、作戦開始まだぁ~?(チンチン)」

「消せ」

 

ブチッ。

 

横須賀提督は衛星通信のモニターに写し出された、茶碗を箸で叩きながらニヤニヤ笑う不快な女の映像を、一瞬でシャットアウトさせた。

 

「……そ、総理官邸からも確認の通信が……」

「待たせておきなさい」

「はい」

 

疲れた表情を見せた横須賀提督のために、等身大の大きな妖精さんが、猫を持ってきてくれた。

モフモフしろ、とばかりに猫の腹を見せてくる。

 

思わず手を伸ばしかけた横須賀提督だが、部下たちの手前、寸前で思いとどまる。

 

その瞬間、周囲にホッとした空気が流れたのは……。

 

まさか、猫を殴ろうとしたとでも思われたのか?

 

コツン、コツン、と横須賀提督が不機嫌な時の癖である、指で机を叩く仕草を始めたため、周囲の者たちは一様に首をすくめるのだった。

 

 

「ヘーイ、提督ぅ~! “大人の遊園地”って何ネー!?」

「どこに行ってきたんですか? 榛名、気になります!!」

「Mon amiral! さっさと白状なさい!」

「Admiral、少し躾がいるみたいね。そこに座って」

 

同時刻、我らが北の辺境鎮守府でも修羅場が勃発していた。

 

「しっ、寝てる子たちが起きちゃうよ」

 

茨城県の大洗鎮守府、そこの女性提督から作戦開始の遅延を知らせる連絡網の電話があった。

その切り際に「次回の“大人の遊園地”も楽しみにしていてくださいね♪」という言葉があり、それを地獄耳の金剛に聞かれたのだ。

 

ここの提督は先日、横須賀での作戦会議の翌日、元高校の物理教師である科学マニアな大洗提督の案内で、同じ横須賀にあるJAMSTEC (海洋研究開発機構)を視察……。

 

という名目で物見遊山してきた。

 

同機構が誇る、深海潜水調査船支援母船「よこすか」とか、有人潜水調査船「しんかい6500」とか。

見どころがいっぱいだし、海軍省の軍需局長を兼ねている大洗提督の顔により、一般人の入れないとこまで見放題だったので、ものすごく楽しめた。

 

次回は茨城県にある、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の筑波宇宙センターを案内します、というだけの話なのだ。

 

が、“普段は絶対に見せられないトコまで、バッチリ全部お見せしますから”という頼もしい言葉が、何だか壮大な誤解を招いている。

 

「ほら、ここに連れてってもらうんだよ」

 

執務室に押し掛けてきた戦艦や空母たち大人組に、筑波宇宙センターの見学用パンフレットを見せて弁解する提督だが……。

 

H-Ⅱロケットが実機展示してあって記念撮影できるとか、国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟の実物大モデルの中に入ってみようとか、宇宙食が買えるミュージアムショップとか、一般公開されているものだけでも十分面白そうだ。

 

「酸素魚雷ほどじゃないけどロケットも素敵だと思いませんか、北上さん?」

「提督だけズルーイ! あたし達も行きたいよね、翔鶴姉!?」

「宇宙食……どんな味がするんでしょうね、加賀さん?」

 

「フフン、日本のロケット技術がどの程度のものか、このビスマルクが見てあげてもいいのよ?」

「宇宙のことなら、世界初の有人宇宙飛行を成し遂げた我々ソビエ……」

「アポロキーック!!」

 

などという盛り上がりに、執務室のソファーで眠っていた、初雪と谷風、占守まで起きてきてしまい……。

 

「ん……? ここ、行くの?」

「おぉーっ!? 何だい、こりゃー!!」

「すごいっしゅ! きっと、佐渡なんかも喜ぶっしゅ!」

 

などと騒ぎ始めた。

何というか……もう連れて行ってもらえる気でいる。

 

「提督ぅ~、みんなも連れてって欲しいデース!」

 

そして、全艦娘を代表して金剛にこう言われてしまっては、提督には断ることなどできない。

 

「バスの手配とか、色々と考えないといけないよねえ」

 

困ったような、嬉しいような。

提督が複雑な表情でそう答えると、執務室に歓声が湧き上がった。

 

というわけで、初秋作戦と稲刈りが終わったら、みんなで社会科見学に行くことになりました。

 

 

9月9日午後。

ついに始まった初秋の、少し大きめの中規模作戦。

 

抜錨! 連合艦隊、西へ!

西方作戦を発動するにあたり作戦後方兵站の安全を図る!水雷戦隊等を中核とした警戒部隊で哨戒を実施せよ!

 

まずは斬り込み隊長の那珂が、叢雲、浦風、夕雲、朝霜を連れてバリ島沖に出撃。

バカンスmodeの潜水新棲姫を倒した。

 

 

9月10日。

三隈、羽黒、鬼怒、千歳、文月、荒潮がマラッカ海峡に進出、お馴染み重巡夏姫の妨害を排除して、北スマトラ島メダンの前線へ輸送作戦を実施。

 

 

9月11日。

文月に代えて防空駆逐艦である涼月を投入した艦隊は、マレー半島の要衝ペナンを強襲。

バカンスmodeの集積地棲姫を倒し、深海前線集積地本部を粉砕した。

 

さらに、新艦娘である岸波とあっさり邂逅。

あまりの喜びに、この夜は夏の残りの花火をやりながらバーベキューをして、ビールを飲みまくった。

 

思えばこれが、慢心の始まりでした……。

 

 

9月12日~13日。

艦隊による西方打通作戦を開始!

 

金剛、榛名、古鷹、加古、利根、赤城の本隊と、祥鳳、筑摩、阿武隈(予備艤装)、霞、霰、初月の第二部隊からなる、水上打撃編成の連合艦隊が、セイロン島の港湾夏姫と、モルディブの泊地水鬼を撃破。

 

圧倒的じゃないか、我が鎮守府は!

 

さらに、蒼龍、北上(予備艤装)、木曽、初月と、戦力の逐次投入こそあったものの、モルディブに籠っていた護衛独還姫を仕留めることに成功し、欧州へと繋がる西方航路を打通し、新艦娘である神鷹を入手。

 

 

9月14日~15日午前。

艦隊は地中海へと進出し、北アフリカ・トリポリへの輸送作戦に突入。

 

他の鎮守府が敵を完全撃破した直後の弱体化している隙を狙う、高度な戦術的駆け引きの丁作戦を反復実施。

同地で邂逅できるという噂の、新たな艦娘の入手のためなら、卑怯者と罵られても構わない。

 

祥鳳、鈴谷(航空母艦)、最上、ザラ、ポーラ、天龍、龍田、由良、照月、睦月、如月、皐月、白露、村雨、リベッチオ……そして二回だけ(二回とも大破撤退の原因を作った)ガンビア・ベイ。

 

交代で疲労を抜きながら、輸送と新艦娘の捜索に明け暮れ……。

 

 

9月15日午後~9月16日。

結局、丁作戦の輸送段階では、新艦娘との邂逅は絶望的に確率が低いことが判明しました。

 

提督の臨機応変かつ柔軟な采配により、艦隊は乙作戦の遂行に目的を変更。

ザラ、由良、照月、リベッチオ、ヴェールヌイ、村雨という選抜艦隊で、(輸送そっちのけで)ひたすらに敵ボスである戦艦夏姫の撃破を繰り返した。

 

そして、いよいよ最後の輸送となってしまった時……ついに新艦娘、北欧スウェーデンの軽航空巡洋艦娘ゴトランドと邂逅することができたのだった。

 

 

9月17日午前。

余勢を駆った艦隊は、ジェノヴァに立て籠もる新たな敵、船渠棲姫を撃破。

リベッチオの姉である、マエストラーレを新たな仲間に加えた。

 

さらに北大西洋へと進出した艦隊は、堂々と甲作戦を選択。

 

アークロイヤル、瑞鶴、翔鶴、大鳳、摩耶、鳥海、多摩、大井、神通、秋月、朝潮、ジャーヴィスという惜しげもない戦力を投入して、戦艦夏姫と重巡夏姫が率いる北大西洋深海通商破壊主力部隊を、圧勝のうちに打ち破った。

 

慢心ここに極まれり。

 

そして、地獄の蓋が開く……。

 

 

9月17日午後~9月19日。

ドイツのキール軍港から北海を抜け、フランスのブレストを目指す、新ライン演習作戦の本格段階になって、急に雲行きが怪しくなった。

 

例の、筑波宇宙センターへの社会科見学。

さすがに深海棲艦を国の施設には連れていけないのだが……。

 

連れて行ってもらえないと知った潜水新棲姫がすごく荒ぶった。

スカゲラク海峡を抜けて北海に出た途端、嫌がらせの雷撃(かなり痛い)を仕掛けてくる。

 

そして、お留守番をお願いした、鎮守府在住の空母ヲ級と重巡ネ級が、プチ家出して猛襲してきた。

イギリスに置いた基地航空隊も、拗ねたヲ級ちゃんの空襲で積み木崩し状態。

 

彼女らの攻撃によって大破が続出。

応急修理女神を駆使して、ようやくブレスト港に到着できても……。

 

激おこプンプン丸な港湾夏姫と飛行場姫がガードしていて、ボスである戦艦仏棲姫の完全撃破には至らない。

 

乙作戦に難易度を落としても、この鎮守府の艦隊だけをターゲットにして、空母夏姫と水母水姫が追撃を仕掛けてくる始末。

 

さらには……。

 

「フフ……ツレテッテクレナインダァ……? ヘーエ……クレナインダァ……」

「チッ…。 シカタナイナァ……」

 

鎮守府の居候、防空棲姫と深海鶴棲姫が、ついにアップを始めた。

 

このままでは、資源がマッハで溶ける。

高速修復材(バ ケ ツ)の底も見えてきたし、来週は十五夜の月見、芋の収穫、稲刈りの準備で忙しくなるし……。

 

「負けました」

 

作戦遂行中、当社比105%でわずかにキリリと見開かれていた提督の目が、いつもの眠り猫のようなものに戻った。

 

 

「お弁当は、みんなで食べたほうが美味しいもんね」

 

そういえば……。

作戦遂行に忙しすぎて、昨日何を食べたのか思い出すのも一苦労な毎日が続いていた。

包丁もしばらく握っていない。

 

これはいけない。

腹の虫の加護がなくて、うちの艦隊が真の力を発揮できるわけがない。

 

初秋作戦の最終段階は、乙でさっさとケリをつけよう。

そして、大切な稲刈りを済ませたら……。

 

横須賀提督と大洗提督には上手く言い訳して、深海のみんなも連れて社会科見学に行きましょう。

美味しいお弁当をたくさん持って。

 

さあて、どんなお弁当にしようかな。




E5甲の二本目ゲージ、ラスダン8連続失敗に心が折れました。
本日朝に乙に変更して二本目一発クリア、先ほど三本目をクリアしました。

運営ちゃん、これ……中規模ちゃう……。

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