色づいた木々が池の水面に写り込む、艦娘寮の庭。
初雪と深雪が、掃き集めた落ち葉の山に芋を仕込んで、落ち葉焚きの準備をしている。
木曾とまるゆは、柿の木の様子を見て回り害虫の駆除。
マエストラーレとリベッチオは、ハロウィンのためにカボチャを彫ってランタン作り。
庭の離れの茶室のコタツでは、新入り艦娘のネルソンとゴトランドが、提督の誘い(罠)に乗ってしまって惚けている。
そんな平和な秋の一日。
昭和レトロな木箱を逆さにした舞台(ジャイアンのアレ)に乗り、那珂ちゃんが歌と振り付けを練習していた。
明日、隣接市の「働く婦人の家まつり」で披露するコンサートのための予行練習だ。
『働く婦人の家』とは、勤労婦人福祉法(現在の男女雇用機会均等法)の規定に基づいて地方公共団体が設置した公共施設であり、職業相談や講習、実習等のほか、レクリエーションの場を提供することも目的の一つとしている。
そして、練習中の那珂ちゃんが、ちょっと涙目でいる理由……。
明日は、市民体育館で「産業まつり」という催しも同時開催(というより「産業まつり」がメインのイベントで「婦人の家まつり」はおまけ)されるのだが、そちらのステージイベントから今年は締め出されてしまった。
毎年、地元高校の吹奏楽部と、地元出身シンガーらのつなぎ役として好評を博し、それなりにFランクアイドルの地盤を確固なものにしていると自負していたけれど……。
今年は超S級アイドルである『ピ〇チュウ』様が来て、ステージショーが行われることになったのだ。
そりゃあね、Fランに勝ち目はありませんよ……。
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それでも腐らず、振り付けを再確認する那珂ちゃんのプロ根性。
今日は第四駆逐隊のネギ畑の収穫作業もあったので、泥のついたジャージ姿のまま頑張る那珂ちゃん。
離れの茶室のコタツから、那珂ちゃんの姿を眺めていた提督も感動し、元から細い目をさらに細めて微笑んでいた。
そんな提督も、ちょっと涙目。
夕立に最大限の改修をした12.7cm連装砲B型改二を積み、10cm連装高角砲5個と94式高射装置を廃棄して生贄に捧げる『駆逐艦主砲兵装の戦時改修【Ⅱ】』という儀式任務をこなした提督。
装備の廃棄を第一艦隊旗艦の明石に命令した後で、夕立か時雨が「旗艦」でなければならなかったことに気づいた提督。
「任務で旗艦を指定している以上、二番艦の夕立ちゃんが12.7cm連装砲B型改二を持っていても、それは達成と認められませ……っ、きゃあぁーっ!」
大淀にお目こぼしをお願いしたけど、断られてムシャクシャしたので、腹いせにスカートのスリットに手を突っ込み、メチャクチャ強制猥褻しておいた。
「よし、那珂ちゃんのために何かおやつを作ってあげよう」
提督がコタツから立ち上がる、その横には完全に融けきった表情のネルソンとゴトランドがいるのだった。
特にゴトランドは温泉上がりの浴衣姿に綿入り
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まずは、薄力粉と塩に、水を少しずつ加えながら混ぜこねて生地を作る。
中力粉と溶き卵をお湯で混ぜ、さらに生地を寝かせるとより"らしい"食感になるのだが、ここはお手軽に。
そして、那珂ちゃんが収穫した立派な長ネギを、緑の葉の部分をたっぷり多めに粗みじん切りにしたら、ピーナッツ油で弱火からじっくり熱してネギの香りを出す。
この
麺棒で薄く伸ばした生地に、
それをクルクルと渦巻き状に丸めていき、一本の棒となった生地を立てて縦方向に押しつぶし、麺棒で円盤状に広げる。
こうすることで、生地と葱油が何層にも重なり、焼き上がりに軽い食感を生み出す。
そして、コタツの上に出したホットプレート(よりお手軽にはフライパンで可)にゴマ油をひいたら、両面を弱火でこんがりきつね色になるまで焼いて完成。
台湾の屋台料理の定番、
黒酢をつけてもいけるが、今回はウスターソースに、酒、砂糖、醤油、豆板醤を混ぜて火にかけた、甘辛ソースを添えて。
最初に焼き上げた一枚はネルソンとゴトランド(提督が何を作っているのか台所が気になっていたが、ついにコタツから脱出できずに首を伸ばして覗いてくるだけだった)にあげて、那珂ちゃんを呼びに行く。
カリフワッとした軽い食感に、濃厚な葱の香りとゴマの風味。
チープなソース味がよく合うが、それだけではない奥深い味。
(そうだ、那珂ちゃんを責任者にして、鎮守府小吃祭りでも開催するかなぁ)
那珂ちゃんが望んでいるのとは若干異なる、輝くステージを夢想する提督であった。