ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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まことに小さな鎮守府が、開化期を迎えようとしている。

「小さな」といえば、開設当初のこの鎮守府ほど小さな鎮守府はなかったであろう。
艦娘といえば吹雪しかなく、人材といえば3年のあいだニートであった提督しかなかった。


真冬のあったかミルフィーユ鍋

真冬のある日、提督は夢を見た。

 

真っ黒闇の中、重く生ぐさい泥道を必死に駆けている。

提督の他にも何人も何十人もが、全力で駆けている

 

その全員が汗だくで駆けながらも、足元の泥に手を突っ込んでは、埋まった砂金の粒をすくおうとする。

 

背後からは、邪悪な瞳や牙を持った数字や罫線表の怪物たちが追いかけてくる。

怪物に捕らえられれば、醜悪にゆがんだその口の中で貪り食われるのが分かっているのに、誰も砂金を拾うのを止められない。

 

断末魔の叫びを聞きながら、自分でなくてよかったと安堵し、怪物から逃げながらも、また泥の中に手を伸ばす。

 

そこに、喰われかけた者の手が伸びてきて自分の脚を引っ張り……。

数字の怪物たちが追いついてきて、圧し潰される。

 

 

という、投資信託会社で働いていた頃、頻繁にみていた悪夢。

 

目が覚めて分かったのは、自分が本当に暗闇の中で圧し潰されているということ。

 

休憩室の大部屋で、提督とお泊まり会をしていた駆逐艦娘たち。

提督が被った布団の中で、早霜が枕元で頭を包み込むようにベッタリと張り付いているし、胸の上ではト〇ロに乗っかるメイのような格好で清霜が寝ているし、脇腹には山風がガッツリとしがみついているし、背中には白露のイッチバーンな胸部装甲が当たっている。

 

そして、さっきの悪夢の一因だろうが、誰かが浴衣の足元を割りながらパンツに手を伸ばしてきて、必死に足を引っ張っているし。

「川」の字で寝ていたはずが、いつの間にか「側」の字になっていたぐらいの混沌っぷり。

 

そして最大の寝苦しさを作っているのが、周囲に過剰なまでにこんもりと盛られた布団。

布団の上にも卯月がいるようで、その上にも布団がかかっている。

 

きっと、提督にひっついて布団からはみ出している駆逐艦娘たちが寝冷えしないように、夜中に鳳翔さんがそれぞれの上にかけていってくれたのだろうが……。

 

それらの冬用羽毛布団が何重にも密集して、ぶ厚いミルフィーユのように提督を押し包んでいる。

「おかん」というのは、布団からはみ出している子供を見たら、布団をかけ直さずにいられないものなのだろうが……。

提督と駆逐艦娘たちの体温と汗で、布団の中は冬だというのに高温多湿の蒸し風呂状態。

 

提督は何とか布団から脱出しようとモゾモゾ動くが……。

提督はしばらくの間、逃がすまいとしがみつく力を強める山風と、意地になってパンツを引っ張り寄せる荒潮相手に奮闘して余計に汗をかくのだった。

 

 

朝、洗面所で駆逐艦娘たちと並んで歯磨き。

背後では、提督の足から奪い取ったパンツを死守しようとする荒潮と、それを洗濯機に持って行こうとする朝潮の争う声。

 

文明人の証たるパンツを奪われて、ちょっと足下はスースーしているが……。

毎日毎日ノルマとチャートに追われ、都心のマンションで独りで暮らしていた時とは雲泥の差の、幸せな朝。

 

ストレスで精神を衰弱して味覚障害になりかけた時、会社はきっぱり辞めた。

 

次の就職先にあてがあったわけではないし、ある日空から女の子が降ってきて大冒険が始まったり、異世界に転生してチート級の能力を得られる算段があったわけでもない。

 

まあ、面構えにティンときた社長によってアイドルのプロデューサーに抜擢されるワンチャンぐらいはあるさと、開き直って会社を辞め、引っ越した東五反田のボロアパート(怪奇現象が起こるという噂の事故物件)でお菓子を食べていたら……。

 

押し入れの中から妖精さんが現れ、お菓子をあげたら提督にしてくれました。

 

 

「何度聞いても、いい加減な着任理由よねぇ」

 

夕飯の席で鍋のアクをとりながら陸奥が笑うが、提督は眠そうにアクビ。

今日は大して提督としての執務は行わなかったが、艦娘たちと野球と縄跳びで遊んだので非常に疲れた。

 

もうね、おっさんに外野手とか、はやぶさ跳びさせるとか拷問ですよ。

 

でも、いっぱい汗をかいて、富士山のタイルが張られた銭湯風の大風呂で、艦娘たちと背中を流しあうのは楽しい時間。

 

そして、さらに大食堂での楽しい夕飯。

 

今日の夕飯のメインは、豚肉と白菜のミルフィーユ鍋。

昆布ダシの鍋の中にニンニクと生姜の欠片を放り込み、塩コショウした豚バラ肉と白菜を交互に、切り株のような円周状に並べたて煮立てる。

アクをとったら白髪ねぎと水菜をのせて、ひと煮立ち。

 

それだけの簡単鍋なのだが、これがべらぼうに美味い。

白菜の甘みを吸った豚肉と、豚肉のコクを吸った白菜の相性は、翼くんと岬くんのゴールデンコンビのように素晴らしい。

 

「教員免許も持ってたんだし、もし学校の先生を選んでたら……」

「あー、史上最悪のセクハラ教師として死刑判決が出てたね。間違いない」

 

提督の呟きに北上がつっこみ、同席していた陸奥と大鳳が笑う。

 

鍋が煮えるのを待ちながら……。

自家製の梅干しと蜂蜜で、甘酸っぱく煮つけたタコを食べながら、ビールをちびりとやる提督。

 

煮立った豚バラと白菜を器にとり、たっぷりの大根おろしと、ポン酢をかける。

ポン酢は「ゆずの村」ともよばれる、高知県の馬路(うまじ)村産。

 

トロリとした白菜に包まれた豚バラ肉。

その相性の良さは先ほど語ったとおりだし、ほのかに香るニンニクと生姜が素晴らしい引き立て役。

そこにアクセントを加える最高品質のポン酢の爽やかさ。

 

「ちあわちぇ」

 

小雪がちらつく夜。

家族と囲む、あったかい団らんの食卓。

 

本当に今は毎日が幸せです。

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