「節分、か。鬼役を買って出てもいいが……何度も言うが、これは角ではないぞ!」
長門が鬼のお面を被る。
今年も騒々しい節分の日がやってきました。
「……たっ、くっ、こら、もう投げてる駆逐艦が……仕方ないな……がおー!」
季節を分ける立春の日に、炒った(=射った)豆(=魔滅)を投げて新春の幸福を祈る。
鬼を退け、穢れを祓い、災難を避ける、鎮守府にとっての大切な伝統行事だ。
「セッツブーン。いいな、異文化を楽しむのは好きだ。これをナガートにぶつければいいのだな? よろしい、任せておけ!」
「セッツ・ブーンでしょ? 聞いてる聞いてる。私もやるよ! 目標は……ガングート! いっくよぉー! たーっ!」
「セッツブー? ブーって何、ブーって? この豆セットをこう掴んで……こう、投げるっと!」
ネルソンやゴトランド、サミュエル・B・ロバーツら節分初体験の海外艦たちにも、おおむね正しい作法が伝わったようで(?)、艦娘寮の節分バトルロワイヤルは一層の激しさを増している。
「鎮守府の節分……それは隙を見せることのできない水上打撃戦のよう……ふっ、そこだーっ! ……やるなぁ、さすが長姉」
すでに達観した岸波が、長波と熱い戦いを開始する。
ちなみに、この子……あまりにも鎮守府に馴染み過ぎて、しれっと練度91に達しています。
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提督は間宮と伊良湖とともに大食堂の厨房に逃れ、恵方巻きの量産体制に入っている。
穴子、マグロ、イクラ、海老、玉子、椎茸、きゅうり、かんぴょう、桜でんぶ。
オーソドックスな具材の、何の変哲のない恵方巻きだが、それだけに逆に手間がかかる。
穴子は甘辛いタレをつけてふっくらと煮て、海老は頭と背ワタを除いて塩水でサッと茹でて殻を剥き、ふんわりした玉子焼きを焼いて、甘辛く煮た椎茸とかんぴょうを切りそろえ……。
そして、自家製の桜でんぶ。
タイとヒラメの身を茹で、血合いや汚れを取り除いてすり潰し、調味料と食紅を合わせてフライパンで丁寧に炒る。
ふわふわで風味豊かな作りたての桜でんぶは、決してただの飾りではない美味をもたらす。
提督が味見した桜でんぶの出来栄えに目を細めていると……。
「提督、新しい豆をいただけますか?」
「那珂ちゃんにも豆の補充お願いしま~す♪」
うわ、ビックリ。
気配も感じさせず、鬼のお面を被った神通と那珂が隣に立っていた。
可愛らしいお面に隠れて、2人の表情は見えないが……。
「マメ、チョウダイッ!」
「オノレ、イマイマシイ……カンムスドモメッ」
ほっぽちゃんと泊地棲姫も激おこで豆の補給にやってきた。
これは熱い激戦が予想されそうだ。
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寮のあちこちには、小っちゃい子たちの服が脱ぎ散らかされていた。
和歌山県北山村で作られた、希少なかんきつ類「じゃばら」。
花粉症の症状改善効果があるという口コミで秘かな注目を集める、この果実。
さらに、邪払、邪を払うと書くことから、最近一部の銭湯などでは節分にじゃばら湯を提供している。
艦娘寮でも今年は銭湯型の浴場に導入してみたのだが……。
一部の鬼さんたちに捕まると、悪い子は身ぐるみはがされ、じゃばら湯にブチ込まれます。
神通棲鬼と那珂棲鬼が左右から挟み撃ちにし、背後に回った夜戦棲姫がトドメをさす。
大人げない3対1の包囲戦で駆逐艦や海防艦のクソガキを狩っていく川……いや、鬼さんたち。
「松風ー、旗風ー、助けなさいよー! あっ、逃げるなーっ!」
今もまた、妹たちに見捨てられた朝風が着物をはぎ取られ、神通棲鬼に担がれて湯ぶねの方へ……。
ドボーン
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里芋、人参、大根、ごぼう、ふき、長ねぎ、しめじ、こんにゃく、油揚げ、豆腐。
直径2メートルの巨大な大鍋では、具だくさんのけんちん汁が湯気をあげている。
スキー用の曇り止めゴーグルをし、大鍋を巨大しゃもじでかき混ぜているのは、2人の戦艦棲姫。
唐辛子でピリ辛に煮た、
「コッチハ……デキタワァ」
昆布豆をコトコトと煮ていた、水母棲姫と駆逐古姫が報告に来る。
離島棲姫と飛行場姫たちに任せておいた、赤貝の佃煮、カボチャの煮付けの盛り付けも終わりそうだ。
「テイトク、エンカイジョウニ、コタツヲナラベテキタ」
宴会場のセットに向かっていた空母棲姫、泊地水鬼たちからも、完了の報告。
港湾棲姫と港湾水鬼も、大量の酒類を軽々と運び終えた。
「それじゃあ、そろそろ鬼も内。みんなで乗り込んで、まだ遊んでる子たちを全員お風呂に叩き込もうか」
お手伝いを終えた深海の姫たちに、鬼の面と豆を配っていく提督。
ひとっ風呂浴びたら、夜は楽しく宴会です。