ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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雛祭り翌日のコッペパン朝食

眼前に雄大な太平洋が広がる鹿島灘。

遠浅で広大な砂の海底は、太玉の外洋性ハマグリが獲れる好漁場となっていて、近年は鹿島灘ハマグリの名でブランド化がすすんでいる。

 

ハマグリが欠かせないのが、雛祭り。

だが、雛祭りの当日、あいにくの雨雲と強い風により、海面は暗く不気味に荒ぶっていた。

 

その沖合いでは、二つの艦隊が激闘を繰り広げている。

 

『三浦三つ引両』の紋は、全国最強を誇る横須賀鎮守府。

『竹の丸に二羽飛び雀』の紋は、RTA最速軍団と呼ばれる新潟の直江津鎮守府。

 

地元の大洗提督が雛祭りにちなんで、女性提督を集めた『親睦演習会』なんてものを企画したため……。

 

不倶戴天、混ぜるな危険の決勝戦が実現してしまった。

 

海軍大臣と海上護衛司令長官を兼務し、大本営を掌握する横須賀提督。

奥羽越列府同盟の発起人であり、鎮守府独立派の最先鋒である直江津提督。

イデオロギー的に相容れない二人。

 

そして何より……。

 

「兼続×政宗」と「兼続総受け」、「青火」と「火黒」、「カラチョロ」と「一カラ」【←検索注意】。

カップリングの好みが絶望的に噛み合わない二人。

 

武蔵の51cm連装砲(ご丁寧に★10)から放たれた砲弾が巨大な水柱をあげ、震電改や噴式景雲改が空を裂き、ゴーヤの熟練聴音員+後期型艦首魚雷(6門)が雷撃の機会を窺い、それをHF/DF+Type144/147 ASDICで探知する秋月。

 

親睦や資源(及び大量のネジ)を水平線のかなたに投げ捨てた、大人げないガチ勝負が展開されるのだった。

 

 

あくびを噛み殺しながら、洗面台の鏡の前に立った提督。

髪は寝ぐせでボサボサ、頬にくっきりと畳のあとがついている。

 

昨日の雛祭りの宴会は大盛り上がりだった。

 

海防艦と護衛空母たちによる艦娘雛飾りに、長門と陸奥のお内裏様(本当は最上段の男雛と女雛の2人が「お内裏様」で、その他の三人官女や五人囃子なども含めた()()()()()が「お雛様」なのだと、最近チ○ちゃんに叱られて分かった)。

 

海鮮ちらし寿司に、ハマグリのお吸い物、鯛の桜揚げ、子持ちカレイの煮付け、菜の花の茶碗蒸し、新玉ネギとブロッコリーを入れたポテトサラダ、菱餅型ケーキ、桜餅、雛あられ……。

 

華やかな料理に、美味しいお酒。

これで飲み過ぎるなというのも、無理というもの。

 

今日は月曜日だけど、午後からの始業にして正解だった。

 

「もうっ、司令官! ひどい頭してるわ! そんなんじゃダメよ!」

 

歯を磨いている提督の寝ぐせを見つけ、背伸びして直そうとしてくれる雷。

うん……頭の中身のことでなくて良かった。

 

 

ゆっくりめの朝食は、県民のソウルフード「福○パン」をリスペクトし、ふんわり、しっとり、もちもち、その最高の食感バランスの再現を目指して試行錯誤した、鎮守府特製コッペパン。

 

中に入れる具も、「福○パン」を見習って多種多様なメニューから選べるようにしてある。

 

調理系なら、タマゴ、カレー、コロッケ、メンチカツ、ごぼうサラダ、焼きそば、スパゲッティナポリタン……。

甘い系なら、ピーナツバター、ジャム、ジャムバター、シュガーマーガリン、ホイップクリーム、ずんだあん、抹茶あん、クッキー&クリーム……。

 

目の前に大量のコッペパンを積み上げている戦艦や空母たちの胃がうらやましくなるが、厳選するのもまた楽しみの一つ。

 

「コンビーフにタマゴのトッピングと、粒あんとホイップクリームのミックスで」

 

調理系と甘い系を一つずつ、カウンター当番の大鯨にお願いする。

注文してから、目の前で具を入れてくれるのを見ていると、ワクワク感がさらに増す。

 

コッペパンをトレイで受け取ったら、セルフのドリンクコーナーでコーヒーと牛乳を注いで席に向かう。

今日の出撃を予定している二航戦や妙高型姉妹に挨拶し、まずは調理系のコッペパンから……。

 

からしマヨネーズが塗られたコッペパンに、うっすら塩気の効いたコンビーフ。

茹で卵のすり潰し加減と、マヨネーズの絡まり具合が絶妙な、ふわとろのタマゴ。

朝食向けの、絶妙な組み合わせだ。

 

「飛龍たちのは、それ何?」

「野菜サラダにツナのトッピング」

「その前にハンバーグとチーズを食べたから、さっぱりしたのがいいじゃない?」

 

妙高はれんこんしめじ、那智はチキンミート、足柄はとんかつにカレーのトッピング、羽黒はスパゲティナポリタン。

 

お互いのチョイスや感想を聞きながら、楽しく会話が弾む。

 

 

さて、今日は直江津鎮守府との演習が予定に入っているのだが……。

 

直江津の艦隊は、ガチ演習の時はその決意を示す、白地に『龍』の一字を記した『懸かり乱れ龍』の旗を掲げる。

平常運転の際の、毘沙門天を表す『毘』の一字を記した『刀八毘沙門』の旗で来てくれることを祈るばかり。

 

コーヒーで口をうるおし、粒あんとホイップクリームのミックスを頬張る。

コッペパンのふかふか大地に、黄金比率の甘みが降り立ち、舌の上で手を取り合って踊り出す。

 

さらに絶妙な相性を見せるのが、朝搾りの新鮮牛乳。

酔いの気怠さはどことやら、体中の細胞が活性化するような高揚さえ覚える。

 

「よしっ……今日は、恒例の第五戦隊での沖ノ島沖戦闘哨戒と並行して……」

 

艦娘たちに指示を出し始める提督。

この鎮守府も、マイペースに頑張っています。


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