台風並みの暴風雨が抜け、早春の陽光がさわやかに輝いている。
昼には鎮守府の畑の一角にブルーシートが敷かれ、ジャガイモの種イモが干されるようになった。
植え付ける前に光に当てることで芽を発生させておく、種イモの「芽出し」と呼ばれる作業。
3月や4月にはまだまだ冷えて、霜が降りることもあるこの地方。
まずはジャガイモを植えることから、1年の農業が始まる。
エンジ色のジャージに、カーキ色のヤッケを羽織った伊勢と日向がクワを振り、熱心に土を耕している。
脇が突っ張らないアクティブカットだから腕上げが楽々スムーズで、撥水加工までされたワー○マンのヤッケは、嬉しい580円(ズボンは別売りだが、わずか499円)。
ジャガイモは酸性の土壌が好きなので石灰は入れず、赤土に
霧島が農林水産省の土壌医検定2級試験に合格し「土づくりマスター」の資格を、長良と川内が同3級試験の「土づくりアドバイザー」の資格を持っているので、野菜ごとに合わせた土づくりの計画は、この3人が宮ジイと相談しながら行っている。
生ゴミ堆肥を積んだ猫車を押すローマが着ているのは、キャメルの綿カブリヤッケ、ワー○マンでお値段1954円。
綿100%で火に強く、二重袖にポケット、ペン差しなどの機能性バツグン、安くて焚き火ジャケットとして最適とアウトドアキャンパーの間で密かな人気アイテムになっている逸品だ(似たようなものをアウトドアブランドで購入すると、諭吉先生が簡単に討死する)。
そして、畑に到着した牛糞堆肥満載の大型ダンプカーから颯爽と降り立つのは、黒のナイロンヤッケツナギ(1500円)を着た、威風堂々とした武蔵。
「戦艦のお姉さんたちは格好いいな~」
「リベもいっぱい食べて、大きくなろっと」
清霜とリベッチオがジャージの上に羽織っているのは、ライム色のお洒落なレディースジャケット。
2900円するものを買ってもらっているのだが、子供たちの憧れは戦艦娘たちが着る男性用作業服に向いている。
そんな二人の横を口笛を吹きながら歩いていく、グレーの迷彩柄ヤッケを着た摩耶(田舎のヤンキーって何故か迷彩柄が好きだよね)。
清霜とリベッチオからも「あぁ、これだから巡洋艦は……」というような、白けた視線を向けられるのだった。
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鎮守府のある漁港から県道(と呼ぶには気恥ずかしい時速40km/h制限の二車線道路)に出て西に500メートル、杉林に囲まれた神社の高台の
ここを左折して川を渡れば、駅前商店街(一日平均乗降数50人ほどの民間委託駅と、個人経営の商店や飲食店が数軒ある程度だが……)に出るし、直進すればオフィス街(町役場と郵便局、公民館、診療所、農協の出張所……ええと、あとガス設備の会社がある)を抜けて、国道へと出られる。
そして、この交差点を右折して神社の裏手に出て、お寺の脇の曲がりくねった坂道を1kmほど進んだ先が宮ジイの家であり、宮ジイに譲ってもらった鎮守府の田畑が山沿いの台地に広がっている。
この町がまだ村だった昭和30年代。
この山に国道を通すので、農地を立ち退いてもらいたいと国に言われたそうだ。
「立ち退き料にはおっだまげたが……ここはトンネルさ掘り始めるんに按配がよが、こんな開げた土地は滅多にねぇ。田んぼにしとくのはいだましぃ(勿体ない)と……」
宮ジィの家族が昭和初期に移り住み、苦心して原生林を切り拓き、長年かけて険しい山の斜面をならして……ようやく出来上がった農地。
それを、まるで最初からなだらかな土地だったかのような言い草をする担当者に、ごしょっぱらげて(腹が立って)、宮ジイはその申し出を断固拒否したという。
結局、国道は大きく迂回して町外れを通ることになったが、そのことで「村の衆」に遠回りの不便をかけることには、今でも「おもさげねぇ」のだそうだ。
宮ジイの家のコタツでお茶しながら、宮ジイの昔話を聞く飛龍と蒼龍。
テレビの前では日振と大東が、ご当地ヒーロー「鉄神ガ〇ライザー」のDVDに見入り、縁側では大井と北上がタケノコを洗っている。
実のおじいちゃんの家に来たかのような、安心のくつろぎ感。
台所では割烹着姿の鳳翔さんが、春の香りがする若竹煮を作っている。
タケノコは、お寺の脇の竹林で採れたもの。
秋に竹林を間伐して日射量を増やし、切った竹をその場で砕いてチップ化し、20cmほど堆肥とともに敷き詰めた。
ふかふかの竹チップの中では菌の発酵が起こり、その発酵熱がタケノコの成育を早め、さらにチップの層がタケノコを日光から遮ってくれる。
本来この地方では4~5月の早朝に芽を出す孟宗竹のタケノコ。
タケノコは、猪などによる食害から身を守るため、土から芽を出して日光を浴びた瞬間から、糖質をエグミに換えながら固くなっていく。
タケノコは漢字で書くと「筍」で、一旬の間に立派な竹木になってしまうことから。
やわらかく美味しいタケノコの収穫できるタイミングは、朝のごくわずかな時間に限られるのだが……。
県の林業技術センターの研究員にこの竹チップ農法を教えてもらってから、3月から十分な大きさに成長したタケノコを、日中でもやわらかいまま安定的に収穫できるようになった。
「北上ちゃん。若竹煮ができたから、ご住職様にも差し上げてきて」
「ほ~い」
届け物のタッパを受け取りながら、大皿に盛られた若竹煮をつまみ食いする北上。
シャクッとした歯応えに、深い甘みを内包したタケノコ。
そこに、生ワカメのほのかな磯の香りがまとわり、まさに山海の滋養が身に染みる。
北上はその自然の恵みに感謝して手を合わせてから……。
コキコキと肩を鳴らしながら、スーパーカブへと向かう。
「さ~て、提督と和尚さんのヘボ碁、そろそろ終わってますかね~」
ここの鎮守府は今日もやっぱり平和です。