いよいよ田植えが始まった。
冷たくぬかるんだ泥に足をとられながら、元気に駆けまわる駆逐艦娘たちの笑い声。
今年は田植えと春季の大作戦の日程が重なるのではとヒヤヒヤしたが、溢れる瑞雲力のおかげで駆け込みセーフの田植えとなった。
横一列の単横陣を組み、まっすぐ規則正しく等間隔に、一本一本の苗を大切に植えていくジャージ姿の艦娘たち。
苗をバラバラに植えてしまうと、除草や収穫が大変になるし、日光や風も均等に当たらず成育にバラつきが出て収量が落ちてしまう。
手植えでは大変だけど、この整然とした田んぼこそが日本の美。
「ニッポンの田んぼは緑に囲まれてて、So cuteでしょ!?」
「Miniature garden(箱庭)みたいで、本当に綺麗で緻密よね」
などとアイオワとサラトガが、新入りのジョンストンに言っている。
うちの田んぼは平地4枚に棚田を合わせても7反(約0.7ヘクタール)しかないが、アイオワたちの故国では、一販売農家(農家といっても実質的に企業だが)当りの平均収穫面積が約182ヘクタールもあって、地平線まで見渡す限りの水田に飛行機から種を播いたりするらしい。
スケールが違い過ぎて比較のしようもないが、提督としては、やはり草木のざわめきや鳥の声を聞きながら、家族みんなで笑いながらやる田植えが好きだと思う。
例え、
苗はあらかじめ田んぼ全体に均等に配ってあるが、目分量なので田植えが進めば不足も出てくる。
そんな時、追加の苗の束を投げ入れる
台所と布団の中以外では猫の手ほども役に立たん(武蔵談)提督の、年に一度の見せ場なのだ。
「提督、こっちに苗をください」
「はいよっ!」
「ありがとうございます。上々ね」
赤城の求めに応じて、その手前に苗を投げ込んだ提督。
最初はノーコンだった提督も、苗打ち歴5年となり、かなりの精度で苗を投げられるようになった。
「提督、こっちにも一束ちょうだい!」
「はいよっ!」
飛龍の求めに応じ、颯爽と苗を投げたのだが……。
「…っ……頭に来ました」
加賀さんのサイドテールに直撃……慢心、ダメ絶対。
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労働の後は、待ちに待ったお昼タイム。
伝統にのっとった田植えの昼食(小昼から転じて「コビリ」と呼ぶ)は軽く、塩むすびと赤飯のおにぎりに、きゅうりのからし漬け、まめぶ。
それでは足りない大食艦たちのために、海外勢がピザやバーベキューを用意しているのだが……。
「頑張ったAdmiralに、あーげる♪ 」
夕立と時津風にじゃれつかれながら、塩むすびを頬張っていた提督に、イントレピッドが何かを持ってきてくれた。
両手持ちのトレイに載せられたアメリカンフットボールのような"ソレ"。
夕立と時津風が、興味津々にイントレピッドに寄っていく。
「Bacon explosionよ♪」
ベーコンという言葉は分かる。
その巨大な物体が、編み細工のように重ねられた何十枚ものベーコンで構成されていることは一目瞭然だ。
だが、エクスプロージョン(爆発)という不穏当な言葉……。
目の前に差し出された"ソレ"に、恐る恐るナイフを入れてみれば……。
「やっぱりね!」
ベーコンの中から出てきたのは、ブロックベーコンとイタリアンソーセージの具材。
肉&肉in肉……Hahaha、ベーコン大爆発! 神々しいまでに肉肉しいぜ!
イントレピッドの後ろで、ビスマルクやアクィラがドヤ顔しているところを見ると、夢の米独伊三国同盟による競作のようだ。
カロリーと栄養バランス的に明らかにヤバイ食べ物だが、この誘惑の前に食べないなんて選択肢はない。
男心をくすぐること、イントレピッドの胸のごとし。
「ん……美味しい!」
バーベキューソースをかけられカリッと焼かれた表面のベーコン。
薫香をまとったボリューミィなブロックベーコン。
肉汁ほとばしりハーブ香るイタリアンソーセージ。
三種の異なる肉の魅力を一度に味わえる幸福。
そして、それらが舌の上で混ざり合って新たな味を生み出した瞬間、何か脳内麻薬がドバドバ出てきた気がする。
脇では夕立と時津風も、野犬のように猛烈に肉にガッツいている。
だが同時に……。
「おかわりする?」
「いや、遠慮しとく……」
その圧倒的スケールの肉的幸福感の前に、満腹中枢が一皿で全面降伏。
提督はレジャーシートの上にゴロンと横になった。
夕立と時津風も横になり、ポスンと頭を提督のお腹に乗っけてくる(ウプッ)。
苗を植えたら田んぼに水を増すので、一枚の田は必ず一日のうちに植え付けを終わらせなければならない。
午後も苗打ちを頑張るために、提督はしばしまどろむのだった(胸焼けの不安に怯えながら……)。