令和元年五月二十一日朝。
夜半から降り始めた鬱陶しい雨の中を、凛々しく鉢巻をしめた飛龍が出撃していく。
大規模作戦前の恒例行事、鎮守府正面の敵はぐれ艦隊を撃滅しての
一番槍は、決戦支援での航空打撃の要、飛龍と決まっている。
飛龍に付き従うのは、前回の大規模作戦で鎮守府に新たに加わった、峯雲と早波。
彼女たちも練度93となり、すっかり一人前になってくれた。
備蓄はいつも通り心もとないけど、戦力は十分そろっている。
さあ、(もう5月後半だけど……)春のイベント開始です!
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中部太平洋ハワイ諸島に展開する友邦が救援を求めているそうだ。
精鋭機動部隊を同方面へ遠征、友軍艦隊の救援準備を実施するのが、今回の作戦骨子。
それに先立ち、ハワイ遠征艦隊集結及び出撃根拠地となる、南千鳥単冠湾泊地周辺海域の哨戒警備を実施せよとのこと。
「はぁーいっ! 那っ珂ちゃんだよーっ! 那珂ちゃん、デビュー六周年です! 七年目もますます可愛いっ!」
ということで艦隊の斬り込み隊長、那珂ちゃんさんが第百四戦隊を編成して北方に出撃。
津軽海峡、北海道沖、南千島沖と、ハードスケジュールな地方巡業を次々こなし、単冠湾泊地の安全を確保してくれた。
叢雲、雷、電、舞風、高波、占守、国後とローテーションで出撃した
木曾と霞、潮、響(ヴェールヌイでないのが救い)までここで投入してしまった提督。
大規模作戦特有の、一つの特別海域の門を通った艦娘の艤装では、別の特別海域の門が通れなくなる現象、通称「お札」に後で苦しめられていくのだった……。
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「提督、我が岩川基地航空隊の航空偵察により、南西諸島方面において敵艦隊の策動の報がもたらされています。同方面に救援物資を輸送、同方面防備を固める必要があります」
北方の次は南西諸島の防備拡充を行え、と提督使いの荒い大淀。
大淀の胸をワシワシしながら文句を言ってやった後、三隈、矢矧、睦月、涼風、早波、涼月で出撃。
「提督が三隈を選んでくれたから、活躍できました。お礼、申し上げますね」
戦艦棲姫が姉妹編成でいてビックリしたが、基地航空隊の援護のおかげで輸送作戦を完遂。
「戦艦大和。推して参ります」
さらに来襲した空母棲姫率いる敵の増援に対しては、迎撃のために大和を基幹とする第二艦隊主力を出撃させた。
大和、矢矧、初霜、磯風、浜風、涼月という因縁の坊ノ岬沖組に、ありったけの対空兵装を装備。
艦上戦闘機を満載した飛鷹を随伴させたこともあり、史実とは全く異なる余裕ある艦隊防空戦を展開できたのだが……。
しかし、最後に空母棲姫にトドメを刺すには、決定打に欠ける気がする。
そこで提督、艦隊の全員に鎮守府正面の敵はぐれ艦隊を撃滅させて、戦意高揚を図ろうなんて策を立てたが……。
流星改を満載して正面海域に出撃した飛鷹を、装備そのままに南西諸島沖に出撃させてしまう無能ぶり。
しかし何と!
「全機爆装! さあ、飛び立って!」
ボーキサイトは盛大に吹っ飛んだけど、飛鷹が敵主力艦隊の随伴艦を次々と吹っ飛ばし、丸裸になった空母棲姫を大和らがタコ殴りにして簡単に決着がついた。
「実はこれが狙いだったんだよ」
なんて言った提督ですが、ちゃんと鳳翔さんにお説教されました。
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南西諸島沖で出会ったハチこと海防艦の八丈をペロペロ……じゃなかった、八丈と一緒にペロペロキャンディを舐めながら、敵戦力牽制を目的とした北方作戦「第二次AL作戦」を開始。
第一艦隊にイタリア、大鳳、グラーフ・ツェッペリン、古鷹、加古、そして神威。
第二艦隊にガングート、プリンツ・オイゲン、ポーラ、ゴトランド、ヴェールヌイ、照月。
「ふっはは! 痛快だな。突撃する、我に続け! Ураааааааа!」
「よく狙って……Feuer!」
「いいですか~? 撃ちますよ~? Fuoco!」
「うにゃにゃにゃ!」
多国籍な機動部隊編成の連合艦隊が、見事にアリューシャン列島沖でほっぽちゃんの妹・北方棲妹を撃破した。
しかし「第二次ハワイ作戦」の前段作戦は、ここからが本番。
南西諸島沖で見つかるという新艦娘、石垣ちゃんを求めて出撃を始めた提督たち。
先の坊ノ岬沖組から、大和アウト、朝霜インの編成でダブルダイソン攻略に挑んだが……。
うん、勝つこと自体は何とかなるけど、
「まるゆ、がんばりま~す!」
そこで、まるゆ、ユーちゃん(来日時のお古の艤装に着替えたろーちゃん)、ルイ(同じくお古に着替えたごーちゃん)でミニミニ潜水艦隊を編成。
道中の空襲は潜水でくぐり抜け、敵の水雷戦隊は基地航空隊と先制雷撃で粉砕、石垣ちゃん捜索だけに専念し、戦艦棲姫たちが出撃してきたら急いで逃げ帰るコソコソ作戦。
そして出撃すること70回を超え……。
「隊長っ! まるゆ、まだまだ頑張れます!」
「あいあい♪ また出撃する~?」
「ユー、もっと頑張るね」
「もうム~リィ~」
完全勝利続きのまるゆたちは、潜水艦隊史上最高に
「いったん石垣ちゃんの捜索は……」
「それより提督、お腹が空いてるんじゃありませんか?」
提督の言葉を遮ったのは、疲労している艦娘がいないか見回りに来ていた間宮だった。
「疲れてお腹が減っていては、良い指揮が出来ませんよ」
やや強引に提督の手を引き、食堂へと連れて行った間宮が出してくれたのは……。
お盆をテーブルに置くとき、ドンッて音がした。
「スタミナ丼、戦艦盛です」
大量の豚バラのスライスにニラ、玉ねぎ、もやしの具が、洗面器のような大きな丼鉢に山盛りになっている迫力のビジュアル。
すり下ろしニンニクの、パンチのある香りも鼻孔を挑発してくる。
「残さず召し上がってくださいね、提督」
仕上げに肉の山頂に生卵を3個割り落としながら、間宮がニッコリ微笑む。
「い、いただきます……」
お盆に添えられているのは、箸ではなく大きめの先割れスプーン。
この肉のチョモランマを攻略するのに、箸なんかでチマチマやっていられないということだろう。
量はともかく、味は至極まっとうだ。
高級というわけではないが質の良い豚肉をニンニク醤油で漬け込み、オイスターソースとピリリとくる豆板醤を加えて、濃い目に味付けしてある。
身体の芯から元気が奮い立たせられるような味だ。
だが、発汗作用のある食材の多用で汗がドバドバと出てくる。
生姜のしっかり効いた豚肉が、ほかほか白米と出会うと新たな味覚のビックバンが起きる。
それでも、脂っぽい豚バラ肉の波状攻撃が満腹中枢を攻撃してくる。
いや、生卵のマイルドさが増すし、ニラと玉ねぎのほのかな甘みと、サッと湯がいたもやしのシャキシャキ感が、適度に怒涛の肉ラッシュの衝撃を和らげてくれている。
だが、量が多い……多過ぎる。
美味しいものをたらふく食べられる幸福感と、これだけの量を食べなければいけないという義務感の間で、精神が揺れ動く。
こんなに食べても、まだ半分しか減ってない……。
そんなネガティブな感情に囚われそうになった瞬間、提督はフッと気付いた。
違う。
もう半分も食べられたんだ。
「提督、お水っしゅ」
心配そうに汗だくの提督を見守っていた
そう、これは占守の妹である石垣を探している、新艦掘りと同じなのだ。
どんなに底なし沼に思えようと、着実に歩み続けた先に終わりがある。
間宮は、それを諭そうとしていたのだろう。
ならば、今は一時だけ石垣ちゃんのことは忘れ、この目の前の圧倒的物量の飯に全身全霊を傾け、完食するのみ!
ガツガツとスプーンを動かし、その味の全てを一心不乱に味わい、そのカロリーの全てを我が血肉とする。
おおっ! 後半は肉不足になって米ばかり食べなきゃいけないのかと思ってたら、丼の真ん中あたりに肉が敷き詰められていた。
しかも、嬉しいことに生姜醤油で漬け込んだ豚ロース肉と、味付けと肉質に変化をつけてくれているので、新鮮な感覚で食べ進めることができる。
そのうちに丼鉢は空となり、スプーンの上に最後の小さな肉片と、汁を吸った少量の米だけが残った。
その至高の最後の一口をすすり込み……。
「間宮、占守……僕はきっと……!」
しかし、決意を込めた提督の叫びは、バタバタと食堂に乱入してきたミニミニ潜水艦隊の歓声にかき消された。
「隊長ー! やりましたよー!」
「Danke、Danke!」
「工廠に石垣ちゃん来たよーっ! はにゃはにゃ」
提督が無心にスタミナ丼を食べている間に、まるゆたちが76回目の掘りで石垣ちゃんをGetしました。
今回の教訓:最大の敵は物欲センサー
●甲甲甲甲丙でクリアし、ちまちまフレッチャー掘ってます(友軍来たら本気出す)